無/霊タイプの厨ポケが現れたようです   作:テテフてふてふ

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ポッ拳のシャンデラ可愛い


11:噛み合わぬ歯車たち

ククイ博士との色々と酷いバトルを終えた後日、メレメレ島のリリィタウンに呼び出された。

 

カプ神にポケモン勝負を捧げる『ゼンリョク祭り』という奇祭が行われるらしい。リーリエ、ハウ、ミヅキが揃っていて都合が良いという事で、改めて俺の紹介をしたいとのククイ博士の意向だ。メレメレ島の島キングである『ハラ』との顔合わせも兼ねているので、それなりにちゃんとした格好で来た。紳士は身嗜みも整えるものである。

 

「アローラ、マキナくん!!グッドタイミングだ。これからゼンリョク祭りが始まるところだぜ!!」

 

興奮気味なククイ博士が指差す先には、祭壇のような物が設えられており、壇上には赤いニット帽を被った女の子と、黒々と日焼けした男の子が立っている。

 

「あの二人が、マキナくんと一緒に島巡りをするミヅキとハウだ。どうだ…君の目から見て、彼女たちにトレーナーの資質はあると思うかい?」

 

「…二人とも、とても良い目をしてますね。特に女の子の方……ミヅキは、私以上に強くなる気がします」

 

主人公やしな、あいつ。

 

「ククイ博士に勝ったマキナさんにそんな事を言わせるなんて、ミヅキさんはすごいですね」

 

おお……大天使リーリエよ。音もなく現れないでください。驚愕と狂喜のあまり昇天するところでしたよ。

 

「アローラ、リーリエ」

 

「アロ……こんばんは、マキナさん」

 

うむ、殻を破れないリーリエも佳き。いとをかし。

 

「ま、お互いの自己紹介はハウたちも交えてにしようか。そろそろゼンリョク祭りが始まる。ちゃんと二人の戦いを見届けないとな!!」

 

ククイ博士が祭壇へと視線を促すので、そちらを見やると、島キングのハラが行司でも務めるかのようにして、ミヅキとハウの間に立っている。

 

「カプ・コケコに捧げる、ポケモン勝負を始めます」

 

ハラが開戦の音頭を取ると、ミヅキとハウがモンスターボールを取り出す。ククイ博士がジュナイパーを使ってきた事を考えると、ミヅキはアシマリ、ハウはニャビーとなっているのだろう。

 

 

みずでっぽう連打ゲーですね。わかります。

 

 

両者、同時にモンスターボールを投げる。

 

 

ハウの先発はお馴染みのピチュー。

 

 

対するミヅキの先発はアゴジムシ……アゴジムシぃ!?

 

 

チョイスが渋いなオイ。無難にピチューを捕まえた俺とは大違いだ。この子、絶対大物になるわ。なんかもう分かるもん。

 

種族値的にはピチューの方に素早さの軍配は上がるのだが、どちらが先手を取るのだろうか。

 

「ピチュー、でんきショック!!」

 

ハウが元気一杯に指示を出すが、ミヅキのアゴジムシがピチューより先に『むしくい』を繰り出した。

 

 

おい待てい。

 

 

『むしくい』は確かLv13かそこらで覚えるはずだぞ?ミヅキちゃん短期間でどんなレベリングしてんねん。鼻水出そうになったわ。

 

考えるまでもなく、Lv13アゴジムシの『むしくい』は、ハウのLv6ピチューを確定で落とせる。レベルの暴力で上から叩かれたピチューは、何をする事も出来ず、一瞬で落とされてしまった。これは酷い。

 

ハウが後続として繰り出したニャビーも、ミヅキのアシマリによる『みずでっぽう』で、普通に倒されてしまった。

 

 

なお、ここまでミヅキは一貫して真顔である。

 

 

あかん……ミヅキちゃんが想像以上に主人公してる。

 

 

「……とても気迫溢れるゼンリョクの戦いだったな!!」

 

ククイ博士がぎこちない笑顔で二人の戦いを讃える。大人の優しさって、時には残酷なんやなぁって。

 

「うむ、実に見事なゼンリョク祭りでした。カプ・コケコもさぞ喜んでおられるでしょうな!!」

 

ハラが満面の笑みで、ククイ博士の世辞に乗っかる。今の戦い観て喜んでたらコケコ相当性格悪いだろ……

 

「お疲れ様です、ハラさん。こちらが以前にお話したマキナくんです」

 

ククイ博士が隙を見て、俺の事をハラに紹介する。

 

「アローラ。噂はかねがね聞いておりますぞ、マキナ殿。いつか、わしとも手合わせを願いたいですな」

 

「アローラ、ハラさん。あなたとは近い内に戦う事になるでしょう。その時はよろしくお願いします」

 

俺たちが軽く挨拶を交わすと、ククイ博士がひっそりと俺に耳打ちをしてくる。

 

「アローラリーグの四天王は各島の猛者に任せようと思っていてね…ハラさんにも声をかけているんだ。任せてくれと、心強い返事を頂いているから、ハラさんにはほぼ確実に四天王の一人を務めてもらうつもりだ」

 

ハラか……どうしてもマヒナペーアに、ムンフォで5タテを決められる未来しか見えない。ほしぐもちゃんがルナアーラかソルガレオのどちらに進化するかはまだ分からないが。

 

「ねー博士ー。この人誰?」

 

いつの間にやら祭壇から降りていたハウが、俺を指差してククイ博士に疑問を差し挟む。

 

「この人は今活躍中のトレーナー、マキナくんだぜ」

 

「えー!?マキナって、あのシンオウチャンピオンを倒した人だよねー?すげー、本物なのかー!!」

 

そんな売れっ子芸能人みたいに持ち上げてくれるな。天狗になっちゃうだろ。

 

「……マキナさんは、実はすごいトレーナーなんですか?」

 

ハウの大袈裟な反応を見て、リーリエが戸惑ったような表情で俺を見てくる。

 

「…少なくとも、シンオウチャンピオンほど立派なトレーナーではないな」

 

俺のような小物が大物だと、リーリエに誤解させてしまうのは、磔にされて石を投げられてもおかしくない大罪なのでキチンと否定しておく。

 

「でも、めちゃくちゃ強いんでしょー?一回勝負してみたいなー」

 

「……ハウはまず、ミヅキに勝つ事を目標にした方が良い」

 

俺がさりげなく矛先をミヅキへと逸らすと、ミヅキは俺の事をジッと見つめてくる。

 

 

「……………」

 

 

いや、何か喋れや。

 

 

 

 

ゼンリョク祭りの後、ククイ博士の研究所でハウやミヅキたちと自己紹介を交わした。ククイ博士からは島巡りの事と、リーリエの事について説明をされた。また、ミヅキとハウはすでにハラからZリングを受け取っていたが、俺はまだだったのでククイ博士から改めて受け取った。形から入るタイプではないが、Zリングがあるだけで一端のアローラトレーナーになれた感じがする。

 

また、『しまめぐりのあかし』も同時に受け取った。他の地方で言うジムバッヂにあたる大切な物だ。

 

「最初の試練は一週間後くらいになると思う。ミヅキたちと一緒にハウオリシティのポケモンスクールに行ってくるから、マキナくんは試練の日まで待っていて欲しいんだ」

 

今後の予定をククイ博士が伝えてくれたので、俺はそれに従う事にする。

 

フリー対戦に湧き出る伝説キッズたちに、現実を教え込むならまだしも、子供ばっかの所に乗り込んで無双しても仕方ないしな。小学生をスマブラでボコボコにするのと同じぐらい大人気ない。

 

それに、俺は公式戦も両立して行わなくてはいけないし、()()()()()()()があるので、一度リーリエたちから離れなくてはならない。

 

 

 

ふと、ここまで口数の少なかったリーリエが、ミヅキに何やら話しかけているようだ。

 

「ミヅキさん、さっきの戦いでミヅキさんのアシマリさんが傷ついてます。私、きずぐすりは沢山持っているので、これを使ってください」

 

傷ついたミヅキのアシマリが見ていられないといった様子で、リーリエはスポーツバッグから、きずぐすりを取り出す。

 

真顔で頷いたミヅキは、リーリエからきずぐすりを受け取り、アシマリの傷に吹きかける。あれ結構しみるんですよ。

 

「元気になりましたね。これからもミヅキさんのポケモンさんは、いっぱい戦う事になると思います。ポケモンさんが傷ついたら、いつでも私に言ってください」

 

リーリエの言葉を真摯に受け止めたミヅキが頷くと、リーリエは穏やかな笑みを浮かべる。どこかよそよそしく感じる二人の距離感が、心なしか縮まったようにも見える。

 

 

 

 

うん。やっぱリーリエと結婚していいのはミヅキちゃんだけやね。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

ミヅキたちとの顔合わせを終え、ポケリゾートに帰ってきた俺は考え事をしていた。その内容はリーリエの母……ルザミーネさんの事だ。

 

 

率直に言って、ルザミーネさんは俺の中で『養われたい女性No.1』に輝く、属性的にぶっちぎりで大好きなポケモンのキャラクターである。あんな特殊な層を狙い撃ちしているかのような美魔女を全年齢対象ゲームに出すゲーフリはイカれている。良い意味で。

 

ゲームにおいて、ルザミーネさんはウツロイドの魅力に囚われてしまった冷酷なる貴婦人(某FOEの事ではない)として、リーリエや主人公たちに立ちはだかる壁となる。

 

しかし、ルザミーネさんが家族であるリーリエたちに冷たくなってしまったのは、ウツロイドの毒に冒されてしまっているからだ。

 

そんな背景を抱えているルザミーネさんの事は嫌いになれない。でも、ウツロイドも可愛いので嫌いになれない。この行き場のない感情はどうすればいいんですか?

 

原作の流れを歪めてでも、ルザミーネさんは救いたい。というか、原作通りになっちゃうと、またしても『リーリエショック』を受けるハメになる。そうなると、俺が二つの意味で廃人になってしまう。ヒモ無しバンジーENDとかシャレにならない。

 

原作でできなかった事が、今の俺にはできるはずだ。サンムーンには出てこなかった人物と関わる事ができるし、他の地方に行く事もできる。

 

幸い、ポケモンについて詳しいオーキド博士やシロナさんとは、知らない仲ではない。著名人とのパイプは最大限に利用するべきだ。

 

 

今度、シロナさんにもそれとなく協力を求めてみようか……そう考えていたら、その本人から電話がかかってきた。

 

シロナさんからは毎夜のように電話がかかってくるのだが、昼にかかってくるのは珍しい。なんかもう嫌な予感しかしない。

 

厄介な事は後回しにしたくないタチなので、素直に応答アイコンをタップする。

 

「………はい」

 

『お休みのところごめんなさい、マキナ。今大丈夫?』

 

……なんか雑音が凄いな。今どこにいるんだシロナさんは。

 

「……ええ。いかがなさいましたか?」

 

『あたし今、マキナの家に向かっているの。……マキナの家に行ってもいいかしら?』

 

 

 

 

シロナさん、順序がおかしいです。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

当然、断れるわけもなくシロナさんを迎え入れた。あんなん反則技やろ。

 

 

現にシロナさんは、俺の目の前でロズレイティーを飲んでいる。シロナさんは美人なので、紅茶を飲むという何気ない動作のひとつひとつがとても絵になる。スマホの壁紙にしたい。

 

「……紅茶………何か大事な事を忘れている気がするわ………」

 

シロナさんはロズレイティーをしげしげと見つめながら、何かを呟いている。…変な薬は盛ってませんよ?

 

「……で、急にどうしたんですか?暇だったとか、そんな理由ではないはずだと思いますが」

 

「え、ええ……そうね。マキナに話があるの」

 

そこまで言うと、シロナさんは不自然に言葉を切り、ぎこちなく俺から目を逸らしてしまう。

 

 

そう、先ほどからシロナさんの様子がおかしいのだ。

 

 

なかなか俺と目を合わせようとしないし、何か言いかけては止めてしまうのを、何度も繰り返している。明らかに挙動不審だ。

 

「一体どうしたんですか?シロナさんらしくもない。私は貴女に何を言われても、腹を立てたりはしませんよ」

 

煮え切らない様子のシロナさんに痺れを切らした俺は、続きを催促する。中指突き立てながらファッキン童貞クソ野郎とか急に罵倒されたら流石に怒るけど。

 

一度、静かに目を伏せた後、シロナさんが意を決したように口を開いた。

 

 

「………マキナ。あなた、悩んでる事があるんじゃないかしら?」

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

「教えて欲しい……あなたが抱えている事を、あたしにも教えて欲しいの」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

シロナの元に一通の手紙が届いた。差し出し人はアローラでポケモンの技を研究しているという、ククイ博士からだった。

 

 

『アローラ、シロナくん!!ぼくはククイという、アローラ地方でポケモンの技を研究している者だ。ぼくがアローラと言った時点で、シロナくんとはもう友達だ!!』

 

 

同じアローラ地方の人間だと言うのに、マキナとの温度差が凄いわね……と、シロナはククイのフランクさに戸惑いを隠せなかった。

 

『いきなりの手紙で申し訳ないが、シロナくんに訊きたい事があってね……マキナくんの事だ』

 

 

マキナ。

 

 

その三文字を目にしただけで、シロナの手紙を持つ手に、力が入るのが如実に感じられた。

 

『つい先日に、マキナくんとポケモンバトルをしたんだけどね……いやはや、恐ろしい程に強かったよ彼は。まるで手も足も出なかった。ぼくの手持ちは全て一撃でやられてしまった。あれではマキナくんの実力を認めざるを得ない!!』

 

(あたしが知らない間に、マキナが他の人とバトルしてる……)

 

……自らの頬が僅かに膨らんでいる事を、全く自覚していないシロナは、更に手紙を読み進める。

 

『これはオフレコでお願いしたいんだけど、近々アローラにもリーグを発足させるつもりなんだ。その時、初代のリーグチャンピオンをマキナくんに任せたいと考えているんだ。…彼にはその気があまりないようだけどね。もし、本当にマキナくんがチャンピオンになったら、ベテランチャンピオンのシロナくんから色々アドバイスをしてやって欲しい』

 

マキナが、リーグチャンピオン。

 

シロナは、驚くほどこの一文がしっくり来たし、彼以外に誰がチャンピオンを務めるのだ……とさえ思ってしまった。

 

また、世間からの評価が芳しくないはずの彼に白羽の矢が立った事が、シロナは何故だか自分の事のように嬉しく感じたし、マキナの本質を理解しているククイに、親近感を覚えた。

 

 

『それでもね……今のマキナくんにチャンピオンを任せるのは、彼にとって負担が大きすぎると思うんだ』

 

 

シロナは静かに続きを読む。

 

 

『彼と親しいシロナくんならば、既に知っているかもしれないが……マキナくんは大切な家族を失っているそうなんだ』

 

 

シロナは、呼吸を止めた。

 

 

『彼はね、妹を亡くしているんだ』

 

 

「……嘘………そんな………」

 

 

シロナはハッとなる。今思えば、あれだけマキナは有名になったと言うのに、彼の家族については一切の情報が無いのだ。そして、彼の口から身内の話が出た事など、一度もないのだ。

 

 

『今でもハッキリと覚えている。彼はぼくとバトルしている時にこんな事を呟いていたんだ。「彼女の笑顔が、私をここまで強くした。だから、私とこのポケモンたちが、彼女の笑顔を取り戻さなくてはならないのです」

 ……ってね。ぼくの目には、失った二度と戻る事のないモノを、何かで埋め合わせようと、必死にもがいているようにも見えたんだ』

 

 

小刻みに震えるシロナの手から、ハラリと手紙が滑り落ちる。

 

 

「あたしは………勘違いをしていた……」

 

 

彼はポケモンを愛し、強さを求めた果てに、孤独となったわけではない。

 

 

孤独を押し殺す為に、ポケモンを愛し、ポケモンバトルに埋没していたのだ。

 

 

ーーー知って欲しかったんですよ、自分の事を。

 

 

あの日のマキナの言葉が鮮明に蘇る。

 

 

あれは、マキナのSOSだったのだ。

 

 

どうしてあれが、シロナ自身の事を示唆したものだと勘違いしてしまったのだろうか。マキナは声にできぬ悲鳴を、シロナに聞かせようともがき、足掻いていたのだ。

 

 

マキナは、自分の事を知らないと言っていた。知る術が無いと言っていた。

 

 

肉親を失い、揺蕩うように強さを求め続けた彼は、自らを見失ってしまっているのだ。

 

 

ーーーシロナさんがこの世界で一番強いと思ったからです。

 

 

マキナは救って欲しかったのだ。押しつぶされるような孤独に耐えながらも、終わりの見えぬ放浪を続けるのを、シロナの手によって終わらせ欲しかったのだ。

 

 

だが、シロナは彼に勝つ事ができなかった。無限に続く暗闇へと這いずっていく彼を、止める事ができなかったのだ。

 

 

本当の事を、確かめなくてはならない。

 

 

気づいたら、シロナはボーマンダに跨っていた。

 

 

しかし、リゾートを訪れる際は連絡を寄越せと、マキナに言われた事をシロナは道中で思い出し、電話をかけた。

 

マキナはいきなりの電話にかなり戸惑っていたが、一応許可は貰えた。シロナはボーマンダにもっとスピードを上げるよう指示した。

 

リゾートに着いたシロナは、マキナの家へと一直線に向かう。突然のシロナの来訪に、昼寝をしていたサザンドラが驚いたように飛び起きる。サザンドラは物凄い剣幕でシロナを威嚇したが、シロナがトゲキッスを投げるとサザンドラは逃げていった。

 

呼び鈴を押すと、マキナが迎え入れてくれる。彼の顔をみると、堪え切れぬ感情が溢れそうになるが、不思議な事に言葉にしようと思っても、自分の口が思うように動いてくれない。

 

いつかの時と同じように、マキナは飲み物を淹れてくると言って、キッチンへと向かっていった。

 

いつ来ても綺麗な部屋だ…と、シロナは感心をしながら部屋を見渡す。綺麗にされているが故に、片付いていない部分もよく目立つ。

 

部屋隅に置かれた段ボールがカポエラーのサンドバッグにされており、中に入っていたものが僅かに散乱してしまっている。

 

「あれは写真かしら?」

 

写真とは思い出を形にしたものだ。破れたり汚れたりしたとあっては大変だ。そう思ったシロナはダンボールへと近づいた。

 

 

そして、見てしまった。

 

 

「これは…………」

 

 

写真に写っていたのは、マキナと同じ黒髪の幼い少女だった。

 

ダンボールから飛び出た物だけではない。ダンボールの中も、全てその女の子の写真で埋め尽くされているのだ。それも、何十枚やそこらではない。

 

 

「なに……これ………」

 

 

顔はマキナとそこまで似てはいない。だが、()()()()()()()()()()()に抱きつき、満面の笑みを浮かべている姿は、いつかのナットレイに向けたマキナの笑顔を想起してしまう。

 

シロナは散乱した写真を静かにダンボールに戻し、ダンボールを蹴るなとカポエラーを諭す。

 

マキナに気付かれる前にテーブルについたシロナの両手が、微かに震えている。

 

 

ククイ博士が言っていた事は、真実だったのだ。

 

 

「お待たせしました。紅茶は飲めますか?」

 

いつもの無表情でマキナがティーカップを差し出す。

 

この無表情の裏側にある素顔は、あの子だけに向けられていたのかもしれない。

 

「………ええ。ありがとう」

 

胸が締め付けられるようだ。マキナの顔を見ていられない……シロナは、マキナの顔を直視できなかった。

 

シロナは紅茶を口にした時、何か大事な事を忘れているような気がしたが、今は目の前の男の事で頭がいっぱいだった。

 

「……で、急にどうしたんですか?暇だったとか、そんな理由ではないはずだと思いますが」

 

シロナに追い討ちをかけるように、マキナが問う。

 

「え、ええ……そうね。マキナに話があるの」

 

シロナは考えていた。自分はなぜ、居ても立ってもいられなかったのだ。自分はなぜ、マキナの元へと飛んできたのだ。

 

自分はマキナをどうしたいのだ。

 

「一体どうしたんですか?シロナさんらしくもない。私は貴女に何を言われても、腹を立てたりはしませんよ」

 

当然、彼にとって妹の事は踏み込んで欲しくない領域だろう。それでもマキナが感情的になる事は無いと、シロナも思っている。それが、感情を殺そうと生きてきた、マキナというトレーナーだから……

 

 

 

マキナを、救いたい。

 

 

 

誰よりも優しい心を持つ彼女には、一つしかなかった。

 

 

 

「………マキナ。あなた、悩んでる事があるんじゃないかしら?」

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

「教えて欲しい……あなたが抱えている事を、あたしにも教えて欲しいの」

 

 

 

 

 

 

 




おいどうすんだよコレ……(震え声)

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