無/霊タイプの厨ポケが現れたようです   作:テテフてふてふ

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活動報告を書きました。お時間のございます方は、気が向いたらでいいので目を通してくださると嬉しく存じます。


10:えんかくローキック

「……くしゅんっ!!」

 

「ん?風邪でもひいているのかい?」

 

「……いえ、どこかで誰かが私の噂をしているのでしょう」

 

「そうか……じゃあ、早速始めるとしよう。悪いが、そんな簡単に倒されるほど、ぼくは甘くないぜ?」

 

「そのセリフ、そのままお返ししましょう」

 

 

俺が、罪なきコスモッグ(ほしぐもちゃん)をエーテル財団の魔手から保護せんとこの地に降り立った、慈愛と救済を司る大天使・リーリエの側に立つ事が許される人間か否かを見定める戦いが、始まった。

 

ルールは六対六、アイテムの使用以外なら何をしても許される『なんでもアリ』の変則マッチだ。ククイ博士曰く、島巡りをしている間は公式戦のような形式ばったバトルではなく、臨機応変な戦い方を求められるから……との事だったが、『ぬしポケモン』のような野生ポケモンを相手にしなくてはならない事を考えると頷ける。

 

お互いのポケモンは既に見せ合っている。ククイ博士の手持ちは、

 

ルガルガン(昼)@きあいのたすき

ウォーグル@不明

カビゴン@不明

ジバコイル@ふうせん

ヤレユータン@不明

ジュナイパー@不明

 

となっていた。ほとんどのポケモンの持ち物が分からなかったが、そもそも持たせていない可能性が高い。

 

カビゴンはボスゴドラ、ジバコイルはロトム、ヤレユータンはアロフォーネで見ればいいだろう。ロトムが過労死しないために、ジュナイパーはアロフォーネ乃至(ないし)カイリューで見れば完璧だ。

 

「よし!!じゃあ、イワンコに『いわおとし』を撃ってもらって、それが地面に落ちた瞬間からバトル開始だ。イワンコ、いわおとし!!」

 

「いわん、わん!!」

 

イワンコから放物線を描くようにして岩石が放たれる。すぐに投げられるよう、アロフォーネの入ったゴージャスボールを構える。

 

この戦いはルール無用の『なんでもアリ』だ。考え方を一新してより柔軟に、より速やかに指示を出さなくては、いくら俺のポケモンに性能面で軍配が上がっても、勝負に勝てない可能性は十分にある。

 

『ますた。ふだんのわたしなら、じゅくすいしているじかんたいです。たたかいがおわったら、たくさんぽけりふれしてくださいね。そしてにじまめよこせ』

 

はいはい分かってるって。というか最後に本音が出てたぞ、今。

 

先発は襷ルガルガンと思われるので、なんとか先手を取って『ステルスロック』を阻止したいところだ。アロフォーネの素早さなら可能だとは思いたいが。

 

『まかせてください、ますた。わたしが、いぬちくしょうごときに、まけるわけがありません』

 

頼もしいね。でも犬畜生はさすがに言い過ぎだと思うよ。

 

イワンコが放った『いわおとし』が、ようやく海岸の砂浜に突き刺さる。俺とククイ博士は、すかさず先発のポケモンを投げる。

 

ほぼ同時に、お互いのポケモンが姿を露わにする。やはり相手の先発はルガルガンだった。

 

「よしルガルガン、作戦通りにステルスロックを撒くんだ!!」

 

「……させると思いますか?アロフォーネ、()()きあいだま」

 

刹那、アロフォーネから小さなエネルギー弾が無数に放たれ、ステロを展開しようとしてるルガルガンに叩きこまれる。まっくのうち!!まっくのうち!!

 

当然、『つららばり』のような素で連射性のある技以外を連射するのは、公式戦ではご法度だ。しかし、今はルール無用の変則マッチなので、そんなものは一切関係ない。法は死んだ。

 

ほぼ全ての弾がルガルガンに命中し、砂塵が舞い上がる。完全に某惑星の王子のグミ撃ちです。本当にありがとうございました。

 

『やったか…?』

 

おい馬鹿やめろ。変なフラグを立てるな。

 

手数が増えた代わりに、威力が落ちているとは言え、ルガルガンは紙耐久のポケモンだ。いわタイプの弱点であるかくとう技を、アロフォーネの高い特攻実数値から叩きこまれたルガルガンは、サイバイマンの自爆を食らったヤムチャの如く横たわっていた。

 

「きあいだまでそんな事もできるのか……!!技を研究しているぼくですら思いつかなかったよ。流石はシンオウチャンピオンを倒したマキナくんだぜ!!」

 

やっぱドラゴンボールって神漫画なんやなぁって。

 

『ますた、やりました。ほめてください。ごほうびをください。にじまめはやくしろよ』

 

お前もう取り繕う気ゼロだな。いちいちドヤ顔しなくていいから前見ろよ。もう次のポケモン出てるから。

 

「バトル中によそ見は厳禁だぜ?ウォーグル、ふきとばし!!」

 

アロフォーネが調子に乗っている隙をつくかのように、ククイ博士が新たに繰り出したウォーグルが、凄まじい風圧をアロフォーネに叩きつける。

 

『んみゃっ!?』

 

無防備な状態でウォーグルの『ふきとばし』を食らったアロフォーネは、遠くまで吹っ飛ばされてしまう。んみゃっ!?じゃねぇよ。なに自分より遥かに遅い相手に、先手取られてるんだよ。これはニジマメお預け案件ですね。

 

遠くまで吹き飛ばされてしまったアロフォーネはしばらく戻ってこれないので、次のポケモンを出さざるを得なくなってしまった。まあ襷を潰されるよりかはマシだったと思っておこう。ウォーグルはアロフォーネの役割対処じゃないし、むしろ無償降臨をさせて貰ってありがたいくらいだ。

 

とりあえず俺は、ボスゴドラの入ったヘビーボールを投げる。ロトムでも良いが、ロトムは役割が多すぎる上に、耐久が心許ない。ボスゴドラならば、攻撃種族値の高いウォーグルのブレイブバードも余裕で受けられる。

 

さらに、あえてメガシンカをしない事で、ひこうタイプの技を1/4のダメージに抑えられる。それに加え、メガシンカ前の特性『いしあたま』を活かして、無反動かつタイプ一致で『もろはのずつき』が撃てるという、ひこうタイプ絶対殺すマンと化す。ブレイククローなどで防御を下げられたとしても、ウォーグルが重戦車仕様のボスゴドラに打点を持つ事は不可能だろう。

 

唯一の不安要素は『ばかぢから』くらいだな。不一致とはいえ、四倍弱点を突かれると流石に厳しい。

 

「ウォーグル、おいかぜ!!」

 

俺の憂慮していた事が現実となる事はなく、ククイ博士は『おいかぜ』を指示する。もともと、俺の手持ちは鈍足ポケモンばかりなので、大した影響はない。この一生おいかぜマン!!風ばっか吹いとけ!!

 

あとはボスゴドラが『もろはのずつき』を決めれば…

 

「いいぞ…!!その追い風に乗って、ブレイブバードだ!!」

 

ファッ!?二回行動!?

 

『おいかぜ』を発生させたウォーグルが、間髪入れずにボスゴドラへ捨て身のブレバを叩き込む。おいおい、変化技と攻撃技を同時に使ってくるとか無駄がなさすぎるだろ。

 

俺も真似したいところだが、生憎とこちらの手持ちは、アロフォーネを除いた全てのポケモンが攻撃技だけ(フルアタ)で構成されているので、致し方ない。

 

だが、いわ/はがねタイプのボスゴドラにひこう技を撃ってくるとはな……タイプ相性をご存知でない?

 

ボスゴドラの硬質なボディに突っ込み、ウォーグルは脳震盪でも起こしたかのようにフラフラとしている。これなら鈍足のボスゴドラでも攻撃は当てられるだろう。自分のトレーナーを恨むんやで。

 

「ボスゴドラ、もろはのずつき」

 

すかさず俺が指示を出せば、ボスゴドラの石頭がウォーグルに叩きこまれる。火力指数40,050の岩技をまともに食らったウォーグルは、一撃で沈んでしまう。

 

「さすがだね、気づけばすでに二匹もぼくのポケモンを倒されている……マキナくんの実力を、リーリエにも見せてあげたいところだね」

 

「…ククイ博士、笑えない冗談はあまり好きではありません。私たちの戦いは、そんな下らない事のために行われているものではないはずだ」

 

万物を慈しまれるリーリエは、ポケモンが傷つく事を厭わられていらっしゃる。

 

無意味に彼女の目の前でポケモンバトルを行うのは、彼女に対する冒涜であり、世界に対する冒涜である。

 

リーリエが存在しているだけで、世から戦争は姿を消し、我々の心には平和の花が咲き乱れる。

 

無論、その中心でひときわ慎ましく、ひときわ美しく、ひときわ清廉に咲き誇るのは、リーリエである。

 

我々はなぜ争うのか?我々はなぜ平和をかき乱してしまうのか?

 

 

 

言うまでもなく、我々がリーリエを失ってしまったからだ。

 

 

 

我々は皆、リーリエの笑顔をもう一度拝みたかっただけなのだ。

 

殿堂入りを果たした我々は有頂天になっていたのだ。リーリエからほしぐもちゃんを託され、四天王とククイ博士を突破し、初代アローラチャンピオンの名を欲しいがままにし、カプ四種を捕まえられると、我々は調子こいていたのだ。大天使の苦しみを露ほども知らなかった我々は、調子こいていたのだ。

 

 

大天使リーリエは、聖母ルザミーネさんに光を取り戻さんと、カントー地方へと召された。

 

 

これが、己のサクセスストーリーに浅ましくも酔いしれていた我々を、奈落の底へと突き落とした『リーリエショック』またの名を『リーリエロス』である。戦士たちの終末……ラグナロクそのものだ。

 

 

我々は発狂した。筆舌に尽くしがたい喪失感を抱えた我々は、茫然自失としながらも厳選作業を開始した。

 

その果てに、身も心も廃れきった我々は、行き場のなかった悲壮と激情を、ヴァルハラ(レート戦)にて吐き出し続けた。

 

 

ーーーほしぐもちゃんが鳴く度にびっくりしてしまうリーリエ、可愛くて仕方がなかった。

 

 

Zさいみんじゅつで敵を眠らせ、ほたるびを積んだデンジュモクが、怒りの10万ボルトを放つ。

 

 

ーーーいっしょに雨宿りした時のリーリエ、レポートを書いておかなかった自分が恨めしくて仕方がなかった。

 

 

りゅうのまいを積んだメガボーマンダが、嘆きのすてみタックルを放つ。

 

 

ーーー『ふとリーリエのことを思い出したロト。がんばリーリエしてるロトかな』

 

 

我々は3DSを閉じた。

 

 

「彼女の笑顔が、私をここまで強くした。だから、私とこのポケモンたちが、彼女の笑顔を取り戻さなくてはならないのです」

 

 

エインヘリャル(レート民)の遺志は俺に託された。故にククイ博士……あなたは俺に倒される運命にある。

 

 

「……マキナくんの過去に何があったかは訊かない。それでも、ぼくは全力で君と戦うつもりだ。それがリーリエたちのためでもあり、君のためでもあるからね」

 

純白に輝く八重歯を見せながら、ククイ博士はアローラ御三家の一匹……ジュナイパーを繰り出す。

 

「当然です。あなたに手を抜かれるほど、私は弱くはない」

 

俺はようやく戻ってきたアロフォーネを戦闘に繰り出す。吹き飛ばされて海に落ちたのか、アロフォーネはずぶ濡れになっている。

 

『ますた。うみのなかに、おおきなしんじゅがおちてました。これをうりはらえば、おいしいものがたべられますね。わたしは、きんのぽろっくがたべたいです』

 

戦闘中に油売ってんじゃねぇぞ。銭ゲバかお前は。

 

「…アロフォーネ、ポルターガイスト」

 

「悪いね、マキナくん。すでにジュナイパーにさせる事は決めているのさ。先手はこちらがいただくぜ!!」

 

アロフォーネが周囲に浮遊している家具や楽器から歪な音を奏で始めると同時に、ジュナイパーは上空へと退避してしまう。あれ、ジュナイパーって『そらをとぶ』を覚えられたか?

 

しかし、現にジュナイパーは安全圏にいるので、こちらの攻撃を当てる事は敵わない。いつジュナイパーが降りてきても良いように、アロフォーネには専用技のポルターガイストを継続させる。

 

『ますた。せっかくなので、いつもとちがう、きょくにしてみました』

 

うん、サンバはお前のイメージに合わないと思うよ。ゴーストタイプっぽさが激減してるから。何が「せっかく」なのか教えてくれ。

 

技の威力に影響がないか心配ではあるが、一応アロフォーネは攻撃を続けている。しかし、ククイ博士のジュナイパーは一向に空から降りてこない。どうしたと言うのだろうか?

 

「ふふ……マキナくん。この『そらをとぶ』と言う技は、技が完了するまで相手の攻撃を食らわないんだ」

 

そんな事は廃人じゃなくても知ってますが。

 

 

 

「つまり……ずっと空を飛んでいれば、攻撃は当たらない!!」

 

 

 

ゲーフリ仕事しろ。

 

 

 

「さらに、ぼくのジュナイパーは遠くからでも近接攻撃を当てられる『えんかく』という特性を持っている。上空から一方的に相手のポケモンを攻撃できる、無敵の戦術だ!!」

 

ククイ博士がキメ顔でそんな事を宣ったかと思えば、ジュナイパーが上空から攻撃を叩き込んでくる。おそらく『かげぬい』と『ローキック』だろう。

 

まさかの夢特性持ちかよ…遠隔でローキックぶち込んでくるとか、それなんてスタンド?つーか『えんかく』ってそういう特性じゃねぇから。

 

だが、『かげぬい』はゴースト技だし『ローキック』はかくとう技なので、どちらもアロフォーネには全く効果のない技だ。不毛すぎる時間だけが過ぎていく。

 

「むっ……そうか、君のアロフォーネはノーマルタイプとゴーストタイプを持っているんだったな……これは厄介だ。ジュナイパー、フェザーダンスだ!!」

 

ジュナイパーは攻撃を中断し、バサバサと羽を撒き散らし始めた。草技ひとつも持ってないのかよ……

 

『ひっ……ますたっ!!けがらわしいはねがっ!!かみのけにっ!!てったいめいれいをっ!!』

 

…海に落とされたり、羽塗れになったり、つくづくツイてない奴だなぁ。鳥系のポケモンたちは、アロフォーネに何か恨みでもあるのだろうか?

 

フェザーダンスは攻撃ランクを2段階下げる技だ。特殊アタッカーのアロフォーネにはまるで意味のない技だが、これ以上アロフォーネが羽塗れになるところを鑑賞していても仕方がないので、俺はアロフォーネを引っ込める。アロフォーネはずぶ濡れの羽塗れになっているので、戦闘後のポケリフレが超絶面倒臭そうだ。泣きそう。

 

俺は新たにカイリューを繰り出す。なぜカイリューなのか、察しの良い人ならばすぐに分かるだろう。

 

「やっとでポケモンを変えたな……今が好機だ!!」

 

ククイ博士が、Zリングにはめ込まれた『ジュナイパーZ』を輝かせ、ゴーストZの()()()()()を取る。

 

「ジュナイパー、シャドーアローズストライク!!」

 

Zパワーを纏ったジュナイパーが、ボールから出てきたばかりのカイリューに、全力のかげぬい…『シャドーアローズストライク』を叩きこむ。威力180を誇る、強力なゴースト技だ。

 

まるで攻撃に備えていないカイリューに、無数の影の矢が突き刺さるが……カイリューはかなりの余力を残して、ジュナイパーの全力攻撃を耐えてみせた。

 

「なに………ジュナイパーのZ技が耐えられたのか!?」

 

俺のカイリューは特性に『マルチスケイル』を持っている。この特性は体力が満タンの時に、受けるダメージを半分にするという素晴らしい特性だ。今のような強力なZ技でも、楽勝で耐えられる。ただしレイジングジオフリーズ、テメーは駄目だ。

 

「手強いポケモンだぜ……だが、ぼくのジュナイパーに攻撃が当てられない以上は、いくら攻撃を耐えたところで突破できない……そうだろう?」

 

「……ククイ博士。ポケモンの技というものは、もっと奥が深いですよ」

 

「へぇ……ポケモンの技を研究し続けている、このぼくが編み出した戦術に、穴があると言う事かい?」

 

「ポケモンバトルにおいて、穴がない戦術なんて存在しませんよ。カイリュー、()()()()

 

ぼうふう。

 

威力110命中70のひこう特殊技。30%の確率で相手のポケモンを混乱状態にする。雨が降っていれば必ず命中し、日差しが強い快晴の時は命中率が50%になる。

 

そして、この技は相手のポケモンが『そらをとぶ』『とびはねる』『フリーフォール』を使って、()()()()()()()()()()()()()命中するのだ。

 

カイリューはドラゴン/ひこうタイプのため『ぼうふう』には1.5倍のタイプ一致ボーナスが付く上、俺のカイリューは『ひかえめ』な性格で特攻努力値252振りだ。極め付けに、特攻を1.5倍にするこだわりメガネをかけている。

 

上空で盆踊りを踊っていたジュナイパーは、自分が苦手とする超火力のひこう技をモロに食らい、一瞬で瀕死状態となる。もう草タイプのアローラ御三家はダダリンで良いと思います。

 

「なっ……上空にいたジュナイパーに攻撃を当てられた……!?そんな事があるのか!?」

 

これに懲りたらあんな害悪戦法はやめてくださいね。マジで。

 

後続のジバコイルはロトムの『オーバーヒート』で焼き、カビゴンはメガシンカしたボスゴドラの『ばかぢから』で殴り倒し、ヤレユータンはアロフォーネの『ほたるびばくおんぱ』でゴリ押しした。

 

ジバコイルの強力な磁場でロトムを故障させようとしてきたり、カビゴンののしかかりでボスゴドラの身動きが取れないようにしてきたり、トリックルームで素早さの逆転したヤレユータンが逃げ回ったりと、あまりにも酷いバトル内容だった。いばみがクレッフィとか無限グライオンとかが可愛く見えるくらいである。台パンどころか3DSを逆パカしててもおかしくないレベルだ。

 

「見事だったよ、マキナくん。結局ぼくは君のポケモンを一匹も倒す事ができなかった……完敗だぜ。カントー地方のジムに挑んだ時とは比較にもならない。君がシンオウチャンピオンを圧倒したというのも、今なら納得できる」

 

……今のシロナさんを圧倒できるかどうかは、かなり怪しい所なんですけどね。あのお姉さんは一体、どこに向かっているのでしょうか。

 

「そして、君のバトルには、何か強い意志のような物と、ぼくには見えない非常に大きな積み重ねのような物を感じる。君になら、リーリエやハウたちの事も任せられる……と、ぼくが言うのも烏滸がましいくらいだ!!」

 

一度、ククイ博士がカラカラと笑うが、すぐにその整った顔を引き締める。

 

「今から言う事は他言無用だ。リーリエはエーテル財団会長……ルザミーネの実娘だ」

 

「なん……だと……?」

 

真面目なシーンでふざけてごめんなさい……

 

「彼女は『ほしぐもちゃん』という不思議なポケモンを連れていてね……エーテル財団はウルトラホールを発生させる為に、このポケモンにストレスを与えていたんだ。見かねたリーリエが、ほしぐもちゃんを連れ出し、エーテルパラダイスを抜け出してきたのさ」

 

「ウルトラホール?」

 

「ああ。ウルトラホールとは……」

 

 

既に知っている事を懇々と説明されるのって、こんなにも辛いのか……壊れるなぁ。

 

 

「……まあ、そんなこんなで彼女は珍しいポケモンを連れているが故に、良くない連中から狙われている。加えて、リーリエはトレーナーじゃないから、ほしぐもちゃんをボールに入れる事ができないし、バトルをさせる事もできない。彼女を一人にさせるのは、あまりにも危険なんだ」

 

まあ、急に姿を消した珍ポケモンと会長の実子を捜索しているエーテル財団が、良くない連中だとは一概に言い難いと思うが……ククイ博士が好青年じゃなかったら、逆に拉致監禁扱いされてたくらいだと思います。

 

「…ククイ博士。私の島巡りのサポートをしていただく以上、あなたの要望にはできる範囲でお力添えをしたいと思っていますし、新設するアローラリーグの話に関しても、私なりに考えておきたいと思います。ただ、島巡りやその他諸々の主役は、私ではないはずです。私はここでポケリフレをしているので、彼女たちにククイ博士の方から、しっかりと説明をなさってきてください」

 

「ははっ、それもそうだね。ちょっと、リーリエやミヅキたちにも、君について説明してくるから、少し待っていて欲しい」

 

またしても朗らかな表情に戻ったククイ博士は、踵を返してイワンコと共に研究所へと向かっていく。

 

ああ、この時間が勿体無い。早く帰って厳選作業の続きをしたいなぁ……

 

 

廃人仕様に染まりきってしまった思考を切り替え、俺はアロフォーネが入ったゴージャスボールを取り出すのだった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

ククイは、未だ冷めぬ興奮を抑えながらも、マキナに背を向け、研究所へと歩みを進めていた。

 

 

強い。強すぎる。

 

 

もはやククイの経験、知識、実力では、マキナというトレーナーの力量を正当に評価することができず、賞賛の言葉を与える事すらできない。

 

全てだ。全てのポケモンが『一撃で』やられてしまったのだ。こんな事が今までにあっただろうか?

 

マキナのポケモンが使ってくる技は、どれも威力の高い技だ。だが、その分『オーバーヒート』や『ばかぢから』などといった、使い勝手の難しい技ばかりだ。あまつさえ、カイリューは『こだわりメガネ』という、同じ技しか出せなくなるアイテムを持っていた。

 

一方でククイは、六匹いる内の三匹のポケモンにしかアイテムを持たせていなかった。ポケモンは愚か、アイテムの扱いですら彼に劣っているのだ。

 

このアローラでは、彼に優るトレーナーなど存在しないだろう。…いや、他の地方にすらいるかどうか怪しいほどだ。

 

 

しかし、同時にククイはマキナというトレーナーに一抹の不安を抱いていた。

 

 

『彼女の笑顔が、私をここまで強くした。だから、私とこのポケモンたちが、彼女の笑顔を取り戻さなくてはならないのです』

 

 

彼が戦闘中に残したこの言葉。恐らくは、在りし日の妹の姿を、リーリエに強く投影しているのだろう。

 

あんなにも強いトレーナーが、少し小突いただけで瓦解してしまいそうなほど、マキナと言うトレーナーが弱々しく見えたのだ。

 

きっと、彼はかけがえの無い存在を失い、己の支えとなるものを求めているのだ。

 

そんな自分の弱さに飲み込まれぬよう、ただひたすらにポケモンと共に研鑽を繰り返しているのだ。

 

 

「機械仕掛けの新種使い……か」

 

 

機械のように無機質に見えた無表情は、きっと孤独を押し殺す為の物なのだろう。

 

「ぼくになにか、できる事はないだろうか」

 

そんなマキナを支えてやりたいとククイは思ったのだが、何しろククイはマキナの事など何も知らない。

 

「……シンオウチャンピオンは、よくマキナくんの事を話していると専らの噂だ。彼女なら、彼の事を人よりも知っているかもしれないし、彼の支えとなり得る人物かもしれない。今度、彼女に手紙を出してみるか……」

 

 

マキナは知らない。

 

 

ノリとテンションで放たれた軽率な発言が、至る所でフラグを乱立させているという事実を………

 

 

「イワンコ、ぼくたちも負けたままでいられないな。ボスゴドラの『もろはのずつき』は、実に熱い一撃だった…!!」

 

「いわん!!」

 

「イワンコも逞しい岩技を覚えるためにも、もっと特訓しないとだな!!」

 

「わん!!」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

俺はオレンジ色に染まる海を眺めながら、アロフォーネにドライヤーをかけていた。おねむの時間だと言うのにも関わらず戦闘に駆り出されたアロフォーネは、満身創痍といった様子で眠りこけている。ダメージを一切食らっていないとは言え、アロフォーネが一番疲れている事だろう。

 

水平線に沈みつつある夕日を見送りつつ、俺は黄昏るようにしてため息をつく。

 

 

「…随分と遠くまで来てしまったものだな」

 

 

この世界に来たきっかけなど、何もなかった。びっくりするほど、何もなかった。

 

 

別にポケモンをプレイしていた訳でもないし、神様的なヤツが異空間に俺を連れ去った訳でもない。

 

久々に有給が取れて、エッチなDVDでも借りようかなと、鼻歌まじりに外を歩いていたら、ウラウラ島のホクラニ岳の草むらを歩いていたのだ。そりゃあもう、ポルナレフ状態だった。

 

 

急に景色が変わり、パニクっていた俺の前に、追い打ちをかけるようにして紫色の物体……メタモンが現れたのだ。

 

ピィーポン…と、なんとも可愛いらしい鳴き声と共に姿を現したメタモンこそが、俺が初めて生で見たポケモンと言えるだろう。

 

戦闘能力を有していないであろうそれを見ても、少々気が動転していた俺が恐怖を抱く事はなかった。むしろ、その愛らしい姿に微笑ましさを覚えた。

 

エアームドとかオニドリルとかが出ていたら、風穴の一つや二つは空いていたと考えると、初のエンカがメタモンだったのは僥倖と言う他ないだろう。

 

 

そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 

その時の俺は当然、ポケモンを所持していないので、『へんしん』しか技を持たないメタモンは攻撃手段を有しておらず、人畜無害な平和ポケモンだと高を括っていた。そんな楽観的な俺の慮りを覆すかのようにして、メタモンはその姿を変えて見せた。

 

数秒後、対面には俺によく似た……いや、俺そのものと言うべき男が立っていた。

 

ドッペルゲンガーに会うと死ぬ。そんな話をどこかで小耳に挟んだが、死の恐怖というよりも、凄まじい不快感と、それに伴う憎悪にも似た殺意がふつふつと沸き上がってくるのだ。

 

不思議なものである。スマホのインカメラで見ると「なんだこの不細工は」ってなるし、鏡を見ると「あれ、俺って意外とイケるんちゃう?」ってなるし、実物をその目にすると「あ、こいつ殺さなきゃ」ってなるのは、色々とおかしい気がする。それ全部俺なんですよ。

 

まあそこから始まるのは俺vs俺の殴り合いになるわけで、非常に地味な絵面と、非常に気持ちの悪い光景が繰り広げられる事となる。初めて殴った顔が自分の顔とか、多分俺以外に誰も体験してないと思うし、体験してはいけないと思う。

 

決して少なくない傷を負いながらも、俺に擬態したメタモンを辛うじて瀕死間近に追い込むことができた。

 

人外との生存競争を繰り広げたのにも関わらず、自らの拳で活路を見出したのである。

 

某黄色いネズミの10まんボルトを受けてピンピンしている某赤い帽子さんとは、比較する事すら烏滸がましいが、自分には秘められたポテンシャルが眠っているのだと、根拠のない確信を俺は得た。座右の銘を眠れる獅子にしようとも思った。

 

その数秒後には、いかに自分が暗愚であるかを認識させられるハメになる。

 

ゲームにおいて、瀕死間近に追い込まれたメタモンが脱兎のごとく敗走する事はなかった。

 

 

そう、窮地に立たされたメタモンは、つぎつぎと仲間を呼び始めるのだ。

 

 

俺はその事実を完全に失念していた。

 

 

いくばかもしない間に、物言わぬ(メタモン)が無数にひしめきあっていた。キモい以外の言葉が出てこなかった。

 

無尽蔵に湧き出るメタモンを前に、死を確信した俺ではあったが、一方的に蹂躙される事はなかった。

 

擬態したメタモンたち自身が、どれが本物の俺かわからなくなってしまったようで、メタモンたちによる大乱闘が勃発したのだ。

 

大量の(メタモン)が、無表情で大量の(メタモン)を殴り続ける光景など、二度と見たくないものである。気分を害するとか、ちょっとそういう次元超えちゃってた。

 

俺は足元に落ちていたスピードボールで、一匹のメタモンを捕まえた後に、命からがらホクラニ岳を下山した。近隣住民が不審者を見るかのような目つきで俺を見ていたが、そんな事を気にしている余裕なんてなかった。

 

 

今思えば、転移したての頃は、とても順風満帆とは言えないような逆境の中だった。

 

 

トレーナー資格を持っていない俺は、ポケモンセンターすら利用できず、落ちているアイテムを売っ払って食い繋ぐという、乞食みたいな生活をしていた。ポケモンの捕獲も、落ちているボールだけで行わなくてはならず、まともに戦えるポケモンがいない状態での捕獲は、常に危険との隣合わせだった。

 

アロフォーネを捕まえ、一気に事が進展するまでは、泥水を啜り続けたようなものだ。いつか爆破してやるといい続けていた前の世界の会社が、超ホワイト企業に見えたくらいだ。唯一の幸運といったら、あの時捕まえたメタモンが6Vだった事くらいか……

 

あかん、涙出てきたわ。

 

 

『むにゃむにゃ……ますた……あまりむりしないでください……むにゃむにゃ……』

 

 

「……今は何も、辛い事なんて無い。お前らは、絶対に()()()()()からな」

 

 

廃人と呼ばれる俺たちが、なぜ膨大な時間を厳選作業に注ぐのか……

 

 

 

ポケモンは裏切らないからだ。

 

 

 

数字は決して、裏切らないのだ。

 

 

 

だからこそ俺たち廃人は、数字に固執するのだ。

 

本来ならば先制をとれる対面なのに、厳選を妥協したばかりに後攻に回ってしまった日には、対戦相手は喜ぶどころか『お前個体値くらい粘れよ……』と呆れられるくらいだ。

 

 

理想の数字に近づける為に、アロフォーネたちにも並々ならぬ苦行を強いる事になる。だから、俺も彼女たちポケモンを裏切ってはいけない。ロトムに地震を撃たせたりとか、そう言うあり得ない指示をしてはいけないのだ。

 

 

より少ないダメージに抑え、より大きなダメージを与えていく。それがレート戦での俺のバトルスタイルだ。

 

エースポケモンで上から高火力を叩き込み、全抜きを狙うスタイルも嫌いではないが、得手不得手をもったポケモンたちを、適材適所で使っていくのが、俺にとって一番しっくりくる戦い方だ。

 

先のククイ博士との戦いのように、まるで予想だにしていない戦いになる事もあるだろう。俺の戦い方がどこまで通用するか分からない。

 

それでも、誰の仕業かは分からないが、ポケモン廃人をこのポケモンの世界に連れてきたのだ。このボーナスステージを俺が棒に振っては、共に競い合った廃人たちは怒り狂う事間違いないだろう。

 

 

 

俺は、この世界で一番の勝ち組になるのだ。

 

 

 

そして、俺のポケモンたちを、この世界で一番の勝ち組にするのだ。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

その美しい金髪を静かに揺らしながら、リーリエはマキナというトレーナーを、静かに見つめていた。

 

ククイ博士曰く、世界で最もポケモンバトルが強いトレーナーらしい。ともすれば、ポケモンたちがバトルで傷つく事を何とも思わないような人なのか……

 

リーリエは、マキナと言うトレーナーを、知りたがった。

 

海岸沿いに腰を下ろした彼は、その黒髪を潮風に揺らしてしている。彼の手元には、ベタベタに濡れ、ジュナイパーの羽に塗れたフランス人形……アロフォーネがいる。

 

マキナは丁寧な手つきでアロフォーネの髪から羽を取り除き、櫛を通しながらドライヤーをかけている。

 

 

「………お前らは、絶対に裏切らないからな」

 

 

その声は、涙でわずかに濡れていたような気がした。

 

 

私が見ていいものじゃない。そう感じたリーリエは、静かに踵を返す。

 

 

「……とてもポケモンを大事にされている方でしたね」

 

「ピュイ!!」

 

 

リーリエがそっと呟くと、彼女のスポーツバックの中から元気な鳴き声が聞こえる。

 

 

「私もほしぐもちゃんの事を、とても大切に思っていますが、あの人はもっと凄い気がします。私よりもっと昔から、私よりもっと多くのポケモンに、私よりたくさんの愛情を注いでいるんだと思います。ミヅキさんやハウさんも、いつかマキナさんのようなトレーナーになるんでしょうかね?」

 

「ピュイ?」

 

「いえ……ダメですね。私もほしぐもちゃんを支えられるようにならないと、ダメです。これからもよろしくお願いします、ほしぐもちゃん」

 

 

 

「ピュイッ!!」

 

 

 




東方新作、チルノ自機参入ってこマ?

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