翌日、目を覚ますと、当然というか何というか、飛龍さんが寝ていた。服は着ている。なんか深夜テンションで色々言っちゃった気がするけど、うん。この際、忘れよう。
先に起きて、飛龍さんが寝てる間に着替えた。起こすのも悪いし、さっさと出て朝飯にした。
部屋の棚にあるカップ麺を取って、お湯を沸かして注いだ。
「…………ふわぁ……」
欠伸する声が聞こえた。飛龍さんが目を覚ましたようだ。
「んっ……ていとく?おはようございます……」
「おはようございます。朝飯食べます?」
「提督が作ってくれるの?」
「いや、カップ麺ですけど」
「…………今なんて?」
「カップ麺」
「………………」
え、何その真顔。超怖いんだけど。
「もしかして、毎朝カップ麺食べてるの?」
「うん。料理は納豆ご飯卵かけご飯お茶漬けしか出来ないから。作るの面倒臭いし良いかなって」
「ダメよ!そういう身体の悪いものを食べてちゃ!ていうかそれ全部料理じゃないし!」
「酒も体に悪いけど、飛龍さん毎日飲んでるじゃないですか」
「毎日は飲んでないわよ!カップ麺なんて身体の害でしかないのよ⁉︎」
「俺の得意料理を馬鹿にするなよ!」
「料理じゃないわよ!お湯入れるだけなんて!」
くっ……この人は!意外と嫁っぽいぞ、こういう所……!
「そこまで言うからには、飛龍さんは料理できるんですよね?」
「うっ……!で、出来るわよ!」
「なら、朝食作ってもらえますか?」
「そ、それとこれとは話が別でしょ⁉︎」
「え、旦那に朝食作りたくないんですか……?」
「うぐっ………」
論点をずらしてこれ以上の口喧嘩を回避する。完璧過ぎる。と、思ったら飛龍さんはなんか大量に汗を流していた。
「お、お昼………」
「へっ?」
「お昼まで、待って!」
「お昼作ってくれるんですか?」
「う、うん……」
おお、思わぬ棚ぼた。ラッキー。
「あざーっす!……あ、3分経った」
「ちょっ、カップ麺食べちゃダメだってばだから!」
「お湯入れちゃったもんは仕方ないでしょー」
俺は蓋を剥がして麺を啜った。カップヌードルはシーフードが最高。
「あ、あのさ……」
「なんですか?」
「一応聞くけど、好きな食べ物は?」
「ラーメン」
「それ以外」
「………油そば?」
「何それ?」
「お前油そば知らないの?人生の120%損してるよ」
「100%超えてるし」
「まぁ、今度連れて行ってあげますよ」
「本当に⁉︎」
「嘘だったらぬか喜びさせてるクズじゃん俺」
「やったね!………って、違う!それ以外の好物!」
「それ以外、ねぇ………」
なんだろうな……。ラーメンと油そばがこの世の最強だから考えたこともないわ。
「あ、強いて言うならエビ天かなぁ」
「………エビ天……分かった」
「あと野菜の天ぷらとか?」
「意外とベジタリアンなんだ」
「健康第一だからな」
「でも、分かりました。お昼、首を洗って待っててよね!」
「決闘?」
飛龍さんは元気に部屋から出て行った。おい、お前秘書艦の仕事は?
++++
午前中に仕事を終えるという、我ながら驚異的なことを成し遂げた。何故、驚異的かというと、午後の演習のレポートも終わらせたからである。仕方ないね。
で、昼休み。俺は少しワクワクしながら飛龍さんのお昼を待った。多分、好物を聞いて来た辺り、天ぷらが来るんだろう。………腹減った。
すると、コンコンとノックの音が聞こえた。
「はい」
「て、提督………」
飛龍さんが今にも泣き出しそうな顔で入って来た。
「ああ、飛龍さん?」
「提督ぅ………」
「えっ、どうかしました?」
「………ごめん、提督……」
飛龍さんの手元に乗せられた天ぷらは、爆心地みたいになっていた。なんでそうなったんだよ……。
「うぇ……うええっ……」
「ちょっ、泣かないでくださいよ!……あーえっと、コーヒー飲みます?」
「……グスッ………頭ナデナデがいい………」
「はいはい……」
飛龍さんの前にしゃがんで頭を撫でた。すると、飛龍さんは俺の胸に頭を置いて、なんとか息を整え始めた。
「…………大丈夫ですか?」
「もっと撫でて」
「………………」
ほんと可愛いなこの子。っと、いかんな。飛龍さんは泣いてるんだし、ほっこりしてる場合じゃないぞ。
「ごめん……提督。ほんとは、余り料理は得意じゃないの……タコワサしか作れないの」
それはそれですごいな………。
「だけど、見え張っちゃって……蒼龍が教えてくれたんだけど、焦がしちゃって………蒼龍は、このまま持ってけって言ったんですけど………」
「……………」
食べるべき、なんだろうな。俺は皿と箸を受け取ると、深呼吸した。正直、食べるのは怖いけど、食べないで飛龍さんを傷つける方が怖い。
俺は天ぷらを箸で摘んだ。
「た、食べるの?」
「食材は無駄にできないでしょ。いただきます」
一口食べた。口の中に柔らかいのか硬いのかわからない、けど確かな炭の味が広がった。
「………うん、なんていうか、食べる前に遺書書けば、心置き無く食べられる感じ」
「コメントが微妙過ぎるよ!普通に不味いって言われた方がよっぽどマシだよ!」
そ、そうか。少し気を使い過ぎた?でも、美味いって嘘つくよりマシだと思ったんだけど。
「ご、ごめんね……。変なもの食べさせて」
「食え、とは言われてませんから。俺が勝手に食べただけですよ」
「………前々から思ってたけど、提督って意外と優しいよね。普通に気が回るっていうか……」
「うるさいです。それより、ちょっと良いですか?」
「?何?」
「や、ついて来て」
俺は飛龍さんを連れて自室に入った。布団を干して、ちゃぶ台を出して、冷蔵庫からコーラを出すと、コップに注いで飛龍さんの前に置いた。
「? 何?何なの?」
「ちょっと待ってて」
冷蔵庫から海老やレンコンとかを取り出した。久し振りの料理タイムだ。
完成し、タウンワークの上に揚げ物を置いて、そのまま皿に乗せた。それを飛龍さんの前に置いた。
「んっ」
「えっ……これ、提督が作ったの?」
「今、俺が台所で何してたと」
「お、美味しそう……っていうか料理できるじゃん!」
「………面倒臭いから朝飯作らないなんて知られたら怒られると思って」
「その件は後でお説教だから」
しかも、料理にハマった理由が食戟のソーマなんだなぁ。
「い、いただきます……」
飛龍さんは手を合わせると、箸を取って天ぷらを摘んだ。一口かじると、すごく幸せそうな表情を浮かべた。
「んっ……美味ぁ………!」
「知ってる」
「…………これだけできるのにカップ麺とか死ねば良いのに……」
「お前今なんつった?」
「美味ぁ」
「いや、美味ぁ、じゃなくて」
こいつ………。まぁいっか。幸せそうだし。俺は冷蔵庫からアイスを取り出して、頬張った。
最初は美味そうに天ぷらを食べてた飛龍さんだったが、なんか段々と元気が無くなっていった。
「………どうかしました?」
「…………いや、旦那より料理のできない私ってなんなのかなって思って……」
「まぁ、人生経験が違うから仕方ないですよ」
いや年齢は向こうのが上だけど、俺のが人としてはたくさん生きてるからね。っと、そんな話はいいんだよ。
「で、飛龍さん」
「な、何?」
「飛龍さんがやりたいなら、良いですよ」
「! 教えてくれ……」
「はい。教えてくれるように間宮さんに頼んでみます」
「………は?」
「いやー、俺も前から自分で料理してましたけど、美味い料理を作れるようになったのって間宮さんに教わったからなんですよね。だから、飛龍さんと間宮さんに」
「提督、なんで料理できるのに毎朝インスタント食品食べてるの?」
「え?いや、なんでその話急に……説教は後でするって言っ」
「バカには説教しないと何もわからないみたいだから」
「すごい言い様ですね!」
「良いから。覚悟して」
なんか知らないけど、飛龍さんにマジで怒られた。