俺は飛龍さんに甘えられたい。   作:LinoKa

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プロローグ
第1話 急にどうした


気弱、という言葉がある。

文字通り、気が弱い人の事だ。俺は、自分が気弱である自覚がある。いや、気弱というより臆病な自覚があった。

何故なら、勝敗はどうあれ人と殴り合いの喧嘩はできないし、エロ本は買えないし、お化け屋敷にも入れない。俺の肝っ玉はおそらくミクロ単位以下だろう。

そんな俺だから、一部の艦娘からはチキン野郎とか思われたりもしているが、まぁ、別にそんな事は俺は気にしない。

さて、上司から怒られるのと、徹夜の作業になるのは怖いから、さっさと仕事終わらせるか。キーボードをマッハで叩きながら、報告書を作成してると、コンコンとノックの音が聞こえた。

 

「はーい?」

 

返事をすると、入って来たのは朝潮、大潮、満潮、荒潮の四人だった。遠征から帰って来たようだ。

 

「司令官!遠征、完了しました!」

 

朝潮がピシィッて音がしそうな程の見事な敬礼をした。俺は立ち上がって出迎えた。

 

「そ、そんな畏まらなくて良いって。お疲れ」

「こちら、ボーキサイトです」

 

防空射撃演習だったか。

 

「ああ、それ資材の備蓄庫に置いといて。そしたら、休んで良いから」

「司令かーん!大潮、頑張りました!撫でてください!」

「ん、良いよ」

 

俺は大潮の帽子を取ると、頭を撫でてやった。すると、隣の朝潮がチラッチラッと大潮を見ていたので、反対側の手で朝潮も撫でた。

 

「し、司令官⁉︎あ、朝潮は別に……!」

「いやいや、朝潮も頑張ってくれたし。遠慮するなよ」

「で、では……お言葉に甘えさせていただきます……」

 

顔を赤くながらも、嬉しそうな顔をする朝潮はすごく可愛かった。なんか小動物みたいで。

 

「ふんっ。私と同型艦のトップ2がそんなのに喜ぶなんて、信じられないわ!」

 

不愉快そうな声で、満潮が呟いた。

 

「ね?荒潮」

「あら、じゃあ私も撫でてもらおうかしら」

「あっ、荒潮ぉ⁉︎」

 

荒潮がこっちに来たので、大潮の手を止めて、頭を撫でてやった。その様子を見て、満潮は顔を真っ赤にして俺の脛を蹴った。

 

「痛い⁉︎」

「ち、ちょっと!不公平なんじゃないの⁉︎」

「だったら、満潮も素直に言えば良いと思います!」

 

大潮に言われて、満潮は顔をさらに赤く染めた。

 

「な、何がよ⁉︎」

「撫でて欲しいならです!ですよね、朝潮お姉ちゃん?」

「はふぅ〜」

「ほら!」

「いや、全然返事になってなかったじゃない!」

 

気持ち良さそうな声を上げる朝潮に、満潮は大声を出しながらも心は揺らいでるようだった。しばらく葛藤した後、朝潮の隣に来た。

 

「し、仕方なくなんだからね!」

「はいはい……」

「返事は一回でいいのよ!」

「わかったから脛を蹴るな」

 

そのまま、四人をループして撫でてやってると、満足したのかようやく執務室を出て行った。ボーキサイトを置いて。

俺はため息をついた。まぁ、遠征で頑張ったんだし、資材運ぶくらいは俺がやるか。

ボーキサイトを持って、執務室を出ると、ドアの前で飛龍さんが待っていた。飛龍さんには、艦載機の開発をお願いしていた。

 

「ん、おお。飛龍さん」

「あ、提督。ちょうど、艦載機の開発が終わったところです」

「お疲れ様です」

「見てください!烈風二つに流星改一つですよ⁉︎すごくないですか」

「はい。あの、ポーキサイト置きに行かないといけないので後で………」

「……………」

 

俺は早足で飛龍さんの横を通り過ぎようとした。子供ならともかく、高校生以上に見えて、元気な女の子は少し苦手だ。

だが、俺の前に飛龍さんは立ち塞がった。

 

「提督、随分と駆逐艦には甘いんですね?」

「は?」

「空母とか戦艦が頑張っても、頭なんて撫でてくれたことない癖に」

 

………何を言い出すんだこの人は。明らかに成人してる女性の頭なんて撫でれるわけないじゃん。

 

「あの、すいません。通してくれませんか?」

「嫌」

「え、なんで」

「……………ふんっ」

 

…………なんか、よく分からないけど、頭撫でれば満足するのかな。いや、でもこれで違ったらセクハラ憲兵直行コースだし………一応、聞いてみるか。

 

「…………撫でて欲しいんですか?」

「んなっ………⁉︎ち、違うわよ!」

 

えー……じゃあどうしろと……。と、思ったら、飛龍さんは顔を赤らめて、そっぽを向いて言った。

 

「で、でもっ……たまには、駆逐艦以外を撫でても、良いと思いますけど……」

「………飛龍さんは、撫でられても良いんですか?」

 

一応、そこを確認した。さっきのは聞き方が悪かった。

すると、飛龍さんは恥ずかしそうにコクッと小さく頷いた。俺はボーキサイトを床に置くと、飛龍さんの頭の上に手を置いた。

 

「いつも、お疲れ様です」

「ッ」

 

そのまま手を動かした直後、俺の中に電流が走った。今までは駆逐艦を撫でてあげていたが、それとは、なんか、こう……駆逐艦では満たされない違う何かが走った。

自分より少し低いくらいの高さの頭、成人してる女性を子供のように扱う仕草、それを受けて恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにする女性………いやいやいや、落ち着け、俺。こんな事を毎回していたら、憲兵にしょっ引かれるぞ。それだけは勘弁したい。

そう思って、「もう良いですか?」と確認を取ろうと飛龍さんを見ると、驚くほど気持ち良さそうな顔をしていた。

え?誰これ?ってなるレベル。

 

「………あ、あのっ、飛龍さん?」

 

声を掛けると、ハッとする飛龍さん。それに合わせて、おれは手を退かした。

 

「もう、良いですか?」

 

聞くと、飛龍さんはふるふる震えて出した。

なんか悪いことしたかな、と思ったら、飛龍さんは俺を睨んでいた。

 

「な、なんですか…これは………!」

「へっ?」

「て、提督はこんな事を毎回駆逐艦にしていたんですか⁉︎」

「え?なんかダメだった?」

「逆よ!気持ち良すぎるのよ‼︎」

 

あー……ちょっと言ってる意味が分からない。

 

「や、普通に撫でてるだけなんだけど」

 

昔からよくペットを飼ってたから、それを撫でる感じで撫でてただけなんだが……。そしたら、新たな道を開きそうになっ………いかんいかんいかん!憲兵にしょっ引かれるわ!

 

「こ、これからはナデナデ禁止だから!」

「ナデナデ?」

「頭を撫でること!駆逐艦の子達ならまだしも、それ以外はダメ!良い⁉︎」

 

あ、それはありがたい。次に誰か成人女性を撫でたら、俺は多分、新たな道から抜け出せなくなる。

 

「分かりました。じゃ、そろそろボーキサイト置きに行かないといけないんで」

「約束ですからね。………あ、艦載機どこに置けば良いですか?」

「空母で自由に使ってください」

 

それだけ言って、俺は備蓄庫に向かった。

 

 

ちなみに、結論から言うと、禁止するのは遅過ぎた。俺が一度でも飛龍さんを撫でてしまった時点で?お互いに止まらなくなっていた。

 

 


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