Fate/Grand Order ~ 絵本と童話作家 ~ 作:十握剣
「それで、一体何をしたいというんだ」
「冒険よ!」
「それはさっき聞いた」
長い廊下を歩きながら、青髪渋声の童話作家、アンデルセンは今現在でも納得をいかない顔で無邪気にはしゃぐ
「バカめ。目的が無ければ意味がないだろう。起承転結をしっかりしろ。そうじゃない4コマなど誰も読んでくれないだろうさ」
「世界のあらゆる冒険をしてみたいのよ!」
「……んん? それは……」
ナーサリー・ライムは絵本を読んだ子供たちが願った英雄。子供たちの英雄。この可愛らしい女の子の姿も大切なマスターを鏡写しをして
いま現在も考え込んでいたアンデルセンの頬を引っ張っていた。
「……おい、引っ叩かれたいか?」
「あははは! 歩くのが遅いからよ、さぁ、早く早く」
ナーサリーに手を引かれていくアンデルセンだったが、これもこれでアンデルセン的に執筆作業の手助けになるかもしれないものと考えると強く言えないでいた。
と、そこにさっそく困っていたアンデルセンに救いの手が見えた。
「やぁマスター! 奇遇だな!」
「う、うわぁ! 嫌な予感しかしない笑顔! け……けど、やぁアンデルセン! ニコニコ笑顔でナーサリーを全面に押し出して俺を逃がさないようにするのはズルイなぁ!」
黒い髪を揺らして、様々な英霊たちのマスターになった異例の中の異例のマスターにして、ここカルデアでの常識人である藤丸立香が微妙な微笑みを浮かばせてやってくる。そして、大抵は愉悦の対象となってしまう。
「嫌な紹介されたような気がする!」
「メタな発言は止してもらおう。それよりマスター。ちょっといいか?」
「ダメなら?」
「じゃあ話すぞ」
「なるほどね。関係ないんだね!」
藤丸はアンデルセンから話を聞くと、ナーサリーと向き合う。
「ごめんよナーサリー……。俺があまりナーサリーを編成に入れないで
「ちょっと違和感を覚える言い方だが、そうだな。ここはマスターにも協力してもらおうじゃないか」
その提案にナーサリーは笑顔が更に咲き乱れた。
「マスターも遊んでくれるのね! 嬉しいのだわ嬉しいのだわ♪ お仲間が増えたわ」
そして、アンデルセンと藤丸はナーサリーがしたい冒険が何か聞くことにする為、休憩スペースに向かおうとするも、そこに行くまでに既に何人もの世界的有名な者たちが付いてきてしまう。
「黒髭は来なくて良かったと思うんだ」
「冷静に酷いですぞマスター! グフフフしかしこればっかりは可愛い……ゲフン! おもしろ……ゲフンゲフン! 小さな女の子のお遊びに付き合わねば大海賊としての名折れ! 拙者これでも子供好き!」
「その通り!! 子供とは清純な生き物! 神に愛された子羊なのです! 穢れ無き純白なその柔肌は如何ほどのものか!」
「違うからね!!?? そっちの青髭さんはこの黒髭さんよりだいぶ真っ黒ですからな!?」
エドワード・ティーチ。黒髭の異名を持ち、世界で最も有名な海賊。海賊というイメージを決定付けた大悪党。
異名の由来となった豊かに蓄えられた髭には、ところどころに導火線が編み込まれ、爛々と光る眼はまさに地獄の女神とも悪魔の化身と恐れた。その残虐さで人類史に刻まれた彼も、サーヴァントとして現界すれば、一体どうやってそんな知識を知ったのか、気づけばオタクとなって楽しんでいる。
そして、もう片方はジル・ド・レェ。十五世紀の人物で、フランスのブルターニュ地方ナントに生まれた貴族にして軍人。かの童話『青髭』のモデルとなった人物。誰よりも神を求めた「聖なる怪物」。
しかしながら、そういった暗い過去を持つ二人であるが、ここカルデアにきてからそういった凶悪性やらはどこかに霧散したように悪行などすることなく過ごしているが、逆にかなり残念な感じになってしまっている。
「どうしてよりにもよってこの二人が付いてきた!」
「悪役にぴったりでしょ!」
「もう悪役とか配役がある設定なのか!?」
「ナーサリーとさっきある程度話してたからね!」
サムズアップする藤丸にアンデルセンは頭を抱える。なんやかんや言ってこのマスターはノリノリである。
「大丈夫! アタランテ呼んでるから」
「既にダブルヒゲオヤジ共に矢を番えて構えているあの野獣娘か?」
「ストッォプ!! ストップだよアタランテ!」
アタランテ。ギリシャ神話に登場する狩猟と純潔の女神アルテミスの加護を授かって生まれた「純潔の狩人」。子供の為なら喜んで捨石になるほどの子供好き。というわけで、実は黒髭や青髭を陰ながら殺そうと謀っていたりしていた。特にジル(術)を。
「ぐぐぐぐははは……コイツと私を引き会わせるとは中々なチョイスではないか。うむ。任せろ……無惨に殺してやろう」
「じゃあアタランテはヒーロー役ということでいいな。う~む、もっと配役が欲しいところだ」
「あれれ~!? 助ける場面じゃない、だと!? ひぃ~! 待つでござる待つでござる! 拙者、子供大好きですぞ! ほらほら~有名な大人気漫画では知らぬ者など言わぬあのゴムな船長の海賊漫画とかあるから、拙者子供の憧れの的ですぞ~! 悪魔の実だって食べちゃう!」
「柔らかい果実……なるほど、確かに子供は柔らかいですなぁ」
「コイツ! コイツが主犯! 拙者無実なりぃ!」
騒ぐ黒髭と何故か一人冷静に何かを思い出している鬼畜ジルに矢を放とうとしているアタランテたちに、また新たな人物が現れる。
「子供好きと聞いてやってきた正義のヒーロー! 坂田金時ここに参上だぜぇ!」
「またも暴走をしているのですかジル! 待っていなさい、いつもの目潰しを二割増しにしたこの指が貴方の怒りを抑え込みます! 主よ、私に力を」
やってくるやってくる英霊の巣窟カルデア。
妙にハイテンションでやってきた坂田金時に、親愛なる友にして理解者であるジルの暴走を止めるべく現れた聖女ジャンヌ・ダルク。
あれこれとアンデルセンと藤丸はカオスになっていく中、着々と配役が決まっていく。
「よし! まぁ、居る奴らで構わないか」
「まぁ、アンデルセン。なにかお話を作ってくれたの!?」
「そんなバカな、即興で創作物うを作ってみろ。結果は同じだ。最悪なものになるぞ! しかしそれが面白いものに変わるかもしれない。数年後に」
「うふふふ! とても楽しみなのだわ!」
「足りない配役は随時補充していけばいいだろう。さぁやるぞ、起承転結があるのかないのか、ぐだぐだな作り話を」
嫌な予感しかしないのは、別に藤丸だけではなかった。
※
ナーサリー・ライムは冒険の話を聞きたいと言っていたので、とりあえず冒険ものにしようと書き始めたその話は、小さな
「ふわぁあ。眠いのだわ眠いのだわお兄様」
「そうかい? 眠いのならほら、ゆっくりと眠りなさい。アリスの側には僕がいるよ」
アリス役のナーサリーはお兄様役の藤丸立香は眠そうにしているナーサリーを眠りにつかせる。きっといい夢が見れると思うから、お兄様役藤丸立香は優しくアリス役ナーサリーの頭を撫でる。
(あれ? 寝息? 本当に眠ちゃった?)
しかしこれでOK。
場面は変わり、眠りについたアリスは、とても愉快な夢を見ていた。
「すごいのだわ! お菓子の木やお菓子の地面よ! お菓子の国だわ!」
アリスが立っているのふわふわなチョコのスポンジケーキの地面、クッキーで出来た木や岩があった。まさしくそれはお菓子の国。子供が喜びそうなものばかり。しかし、大人になってしまった者たちからしたらこれだけ甘いうものばかりだと胃が痛くなる想像しかできないのが悲しい。
そんなことなど露知らず、アリスはそのお菓子の世界に魅了されていた。
そんなアリスに一つの影が近付いた。
「や、やぁそこの可愛らしい少女。ここはお菓子と夢が詰まった幸せの世界。き、君をずっと待っていたのさ!」
兎の耳を付けたアタランテがそこ居た。
そして、喋る事に赤面する彼女は生まれてからこんな演技をすることに思わなかったことだろう。
ギリシャの英雄にさせることではない。だがしかし、とうの本人は幼き子供の願いならこんなこと喜んでやるのがアタランテという英雄であった。
なぜ兎の配役なのかはアンデルセンが決めているので分からない。
(そ、そもそも既に獣耳がある私に兎の耳まで付させるなんてまったく! あのアンデルセンという奴は見た目こそ子供だが中身はダメな大人の匂いしかせん! ぐぅぅ! しかし……)
純真なアリスの瞳がタランテを見ている。
アタランテは綺麗な金髪だが無造作にされていて、それがある意味野性味溢れていて良い風格を表している。
「さ、さぁ、アリス! こちらに」
アリスに手を伸ばす白ウサギの配役であるアタランテは、しっかりと手をつかんだ。
「とてもキレイなウサギさんね。でも、白というより、金色のウサギさんだわ」
「こ、細かいことは気にするな……ゴ、ゴホン。さて、では案内しよう。このお菓子の世界を……」
ここから先は、カルデアを初めとした、童話作家アンデルセンが手掛けた楽しい創作物語。
いったいどんな
女に捕まった男の話をしよう。
男は女に言われた。あなたのお話が聞きたいのよ、と。
女に男は言った。そんなの面倒だ、と。
男は女に言い返された。ならあなたの話は聞きたくないわ、と。
女に男は言った。耳にたこができるまで聞いていけ、と。