Fate/Grand Order ~ 絵本と童話作家 ~ 作:十握剣
それはとても簡単にして簡潔な言葉だった。
「つまらないのだわ」
純真にしてまっすぐな瞳が、メガネを掛けて忙しそうに執筆している青髪の小さな少年に向けながらそんなことを言ってきた。
少年の張りある白い肌で、もしそこにショタコンらしき性癖持ちがいたら間違いなくお持ち帰りされてもおかしくない美少年が、なんとも少年とは思えない仕事を終えた中年オヤジが疲労で倒れそうな顔に変質し、その純粋を超えた煩わしい問いに反応する。
「問い、ともなんとも言えない発言だなどうも。活字の使い過ぎでお前の言葉から字ばかり連想させられる。オイ今すぐやめろ。大人しく本棚にでも入っていろ」
「ひどいのだわ、ひどいのだわ! だったらまた『人魚姫』について言いたいことがたっっっくさんあるのだけれど、言ってもいいのかしら?」
なんとも渋すぎる声で返ってきたというのに、純真な少女はそれを特に気にすることも無く話を続ける。
「……シェイクスピアを呼ぶぞ?」
「やめてほしいのだわ! あの難しいお話しか書かないおじさん呼ばないでほしいのだわ! もう歯医者にはいかない様に歯磨きしてるもん! ……もう、どうしてアンデルセンはあのおじさんと仲良しなのか分からないわ」
「仲が良いだと? ハッ! お前の目は見た目通りのものだな。鏡みたいに何も見えていない。あれはそうだな。同じ苦しみを噛み締めた同業者か? いや、俺の方が苦しんだ、俺の方が凄い」
「もう、あたしに分かるように言ってもらいたいわ」
「要するに、ここは執筆する場所だと言っているガキが。早くここから出ていけ」
アンデルセン。
少女の言葉から何気に出されたその名は、世界で知らぬものなど居ないと言われるほど有名な『世界三大童話作家』の作者の一人の名だった。
「この前、ぱそこん? っていう機械があったじゃない? あれでアンデルセンって名前を検索したらあなたが出てきたのよ! すごいのだわすごいのだわ! あなたとてもかっこいいおじさまだったのね♪」
「誰だ、一緒に検索したのは? プライバシー侵害だ訴えている。……チッ、今の時代に法律などないか、人類衰退ゆえの無法世帯とは泣けるな」
「え~と? 1805年4月2日生まれなのね、あなた」
「現在進行形でズカズカと侵害しているな貴様。おい、俺のタブレット返せ!」
「いやなのだわ」
「アリス!」
アリス。ことらも聞いたことのある名であるが、見当するもなど沢山あり過ぎるのだが、アリスと呼ばれた少女は無垢な少女のようにニコニコと輝くように笑い、黒い可愛らしいドレスを揺らして、疲労気味のアンデルセンから華麗に避けていった。
「なんだかとても遅いわ、アンデルセン」
「ぐぐぐ……長時間椅子に座り、物書きに集中し過ぎで腰が……」
「あはははは! まるでおじいちゃんみたい♪」
真っ白な髪を揺らして、コロコロと笑う少女に、大抵の男なら和むというのに、このアンデルセンは違った。
「プカプカ浮かぶ本がなにを言うか」
「デンマーク語発言じゃあ、あなたはハンス・クレステャン・アナスンだったのね」
「だから読むな。読むなら本人の目の前じゃないところでやれ」
「………」
「黙読もするな! ええい! ほっ! よし取った!」
「あ~ん!」
浮かぶ少女から最新機具であろうタブレットを返してもらったアンデルセンは深いため息と共にアリスを見た。
「そんなに暇ならあの切り裂き小娘や、年中サンタ服姿のお仲間になった愉快な聖女小娘と遊んでいればいいだろう。俺は暇ではないのだよ」
「ジャックはライオンおじさまと何かお手伝いしていたわ。ジャンヌなら大きな白と黒のジャンヌと何か騒いでいたわ」
「そうか、それで友達が少ないお前は俺の所にきたのか」
「む、むぅ! そ、そんなことないかしら?」
「ほおぅ~? そうか。しかしそれでは随分と寂しそうにして俺にかまってきたな」
「そこでね、なにか面白いものを探しにいきたいから、あたしの冒険にあなたもついてくることを許してあげたのよ」
「なんだ、話が通じなくなったかこのガキ」
アンデルセンは無視を決め込む為に、ヘッドフォンを装着する。最新のヘッドフォンはよく出来ている。外の音がまったく聞こえなくなるのだから。
しかし、アリスも負けてなどいなかった。
ヒョッイっとアンデルセンがつけたヘッドフォンをずらし、彼の耳元に口を近づけさせた。このアクションにアンデルセンはすぐに子供特有の情け容赦ない大声が襲いかかってくることを安易に予測でき、覚悟を決めて待っていると、やってきたのは大声なんかではなく。
「ふぅ~」
「おっふぉ……」
この文章にも表現しにくい現象がアンデルセンに襲いかかり、意識を刈り取られそうになる。幼女に耳ふぅ~をやられて項垂れてしまった世界三大作家の一人、アンデルセン。見た目が子供なのでイケナイ遊びに見えなかったが、これは本人が一番きついだろう。
しかし、
「なんだこれは癖になるな! もう一回ふぅ~やってくれ!!」
「さぁ、行きましょう! 楽しい冒険の始まりなのだわ!」
か弱いアリスだというのに、アンデルセンは腕を引かれて連れて行かれる。
かつて感じたことない感覚にインスピレーションを刺激されたアンデルセンは、手に持ったお手軽ノートに何かを書き込みながら、ついていくのだった。
実在の人物を英霊としたものではなく、絵本のジャンルの『
子供たちに深く愛され、多くの子供たちの夢を受け止めていったこのジャンルは、一つの概念として成立、「子供たちの英雄」としてサーヴァントとなったアリス。
そんなアリスと共に、童話作家アンデルセンがついていき、架空の遊びをしていくお話し。