機動戦士ガンダムSEED~逆行のキラ~   作:試行錯誤

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長くなっちゃったので分けます。
バランス悪いけど……てゆうか中編1ってなんだよ。


ヘリオポリス脱出 中編1 出撃用意

 

 キラは静かに考える。

 

 まずは考えねばらなかった。クルーゼを止めるにはどうすればいいか。

 話をするべきだろうか……と、そんな想いが微かにある。

 

 だが、話して止まるような相手ではないと思えるのも確か。

 既に、《そこ》を踏み越えてしまっている人間だと思えるのだ。

 

 自分が言えた義理ではないが、彼は、もう全てを受け入れているのではないかと感じる。

 受け入れた上で、世界を敵として戦っているのではないか、と。

 

 止まってくれるのであれば、できるのならば、止まってほしいと願う感情はあるが、不可能であれば、やはり結論は一つしかない。

 

 もう一度戦い、そして勝つ。勝って止めるしかない。……勝てるだろうか?

 

 一度は勝った相手だが、さすがは、と言うべきだろう。記憶にあるより動きが鋭かった気がする。

 

 キラはヤキン・ドゥーエを思い出した。

 

 愛機フリーダムと、クルーゼの操るプロヴィデンスとの勝負は、際どい所での辛勝だった。

 しかもこちらにはミーティアという、広域攻撃ユニットの装備があって、だ。

 

 強敵だ。生半可な相手ではない。

 やはりさっき撃つべきだったと、悔やんでも悔やみきれない。

 

 違う、とキラは思い直した。

 そうじゃない。そういうのではダメだ。

 

 さっきのは確かに失態だ、しかし考えるのはこれまでではない。今これからだ。一つ一つ解決していくしかない。

 そのために、まずは。

 

「あの、マリューさ……ラミアス艦長に話があるんですが」

 

 キラは目の前に向かって話しかける。

 そこには銃を構える者達……キラに対してかなりの警戒を見せる保安部の人間がいた。

 

 何度か会話をした記憶がある顔だ。

 一応、未来では顔見知りくらいにはなった仲だが、今は。

 

「黙ってろ……!」

 

「コーディネーターめ」

 

 彼らの顔には、怯えと怒りと警戒があった。

 

 ここはアークエンジェルの拘禁区画。キラは独房に入れられていた。

 スパイの疑いが、かかっていた。

 

 

 

 アークエンジェルは一時的にヘリオポリスの地表に降りていた。

 二度、ザフトを撃退した事で少しの猶予ができたとの判断である。

 今後に備えての物資搬入や機材のチェック。クルーの配置、迎撃態勢の構築。

 艦の行動方針の決定まで含めて、やらねばならない事は山ほどあった。

 

 モルゲンレーテ区画とアークエンジェルの間は近かった事が幸いした。

 整備班と保安部の大半がピストン輸送で物資搬入を行っており、悪くはない状況だった。

 艦内では整備班の残りと部署未配属の者が、搭載兵器の修理、艦の気密チェック、緊急時のダメージコントロール方法の確認等に走り回っていた。

 こちらは、お世辞にも良い、とは言い難い状況で未確認の項目が積み上がっていた。

 

 人気がなくなったヘリオポリスの中で、アークエンジェル近辺だけが喧騒に包まれていた。

 

 

 ブリッジ及び戦闘指揮所(以後、CIC)では、担当部署を割り振られた下士官達がシステム周りのチェックや、艦の能力の把握に努めていた。

 その片隅では3人の将校が、頭を悩ませている。

 

「友軍へ通信は? どこか通じるかしら」

 

 マリューの問いに、オペレーターのチャンドラが答える。

 

「電波撹乱が止みません、通信は困難です」

 

 電波撹乱が緩まないという事はつまり、ザフトはまだここで仕掛けてくるつもりだと見てとれた。

 マリューを思わず弱気が襲う。

 

「では、アークエンジェル単艦で脱出をしなければいけない訳、か。……バジルール少尉。戦闘から逃走、一応、降伏までを視野に入れて結構よ。どうしたらいいかしら?」

 

 マリューの明け透けな言葉に、若い女性士官は一瞬ムッとした。指揮官が使う言葉ではないし、大尉が少尉に聞く事ではない。

 技術将校とはいえ、今は艦長席に座る人間が。

 

「こ……失礼しました。降伏は論外です、この艦とストライクは連合の財産です。

 戦闘は最小限に、ヘリオポリスからの脱出を進言いたします」

 

 ナタル・バジルールは地球連合軍の少尉だった。

 新鋭艦アークエンジェルのクルーに選ばれて、ヘリオポリスにやって来ていた。

 ザフトの襲撃により、アークエンジェルの艦長以下主だったクルーの大半が戦死してしまい、残った中では最上級に当たる将校だった。

 

 マリュー達と合流するまでの短い間、指揮をとっていたのも彼女だ。

 ただ、いくらなんでも少尉が艦長では無理があるため、元々副長として任命されるはずだったマリューが、臨時で艦長職についていた。

 

「そうよね……だけど具体的には?」

 

「ローエングリン…… 特装砲でヘリオポリスの外壁を撃ち抜いて、脱出路を確保します。

 穴を開ける場所はフラガ大尉のメビウス・ゼロに偵察を行ってもらい、敵の警戒網の薄い部分を算定した上で」

 

「ちょっと待って少尉……! 貴女、コロニーの中から特装砲を撃つ気なの? あれは」

 

「既に一度は撃っています。

 それに威力はもちろん加減をするつもりです。

 宙港ドックは敵の警戒が厚いと予想されます、そこでミラー部分のどこかを破壊して高速で離脱を……」

 

 特装砲……陽電子破城砲ローエングリン。

 名前に破城とつく通りで威力に優れる、アークエンジェル最強の装備である。

 

 確かに宙港ドックから素直に出ていくのは危険だろう。 コロニー内部の、破壊可能な箇所を選んで脱出路を開けるのは現実的と言える。

 

 しかしナタルの作戦案には問題が三つあった。

 一つは、ローエングリンは放射能を発生させる事、これは環境に対する汚染を避けられない武装だ。

 二つ目は範囲の問題。

 威力は高いが効果範囲も広い武装だ。もし万が一にも、シェルターが集中している部分に被害が及べば大惨事である。

 

 三つめは、一つ目と二つ目に絡む問題だった。

 それを説明するのに言葉に迷うマリューを残りの一人、フラガ大尉が代わって問題を指摘した。

 

「あー、少尉。止めた方がいいな、外にいるのはクルーゼ隊だって言ったろ? あいつはグリマルディで戦った時もそうだが、人が嫌がる事をやるのが上手いんだ。

 コロニーにド派手に穴なんて開けたら、ザフトから映像が出回りかねないぞ。

 地球連合の新鋭艦、コロニーを破壊! これが連合のやり方だ! ……なんてな」

 

 フラガの言葉は柔らかいが目は笑っていなかった。

 コロニー内部で放射能を撒く、という事の意味を分かっているのか? と、言いたげだった。

 

 地球連合の強硬派が開戦初期にやった……やってしまった大暴挙、コロニー《ユニウスセブン》への核攻撃は記憶に新しい。

 民間人20万以上が亡くなった大惨事だった。

 それを、ここで下手をすれば連合の敵はプラントだけではなくなる。宇宙にだってナチュラルはいるのだ。

 

 そして地球にもコーディネーターは多い。

 

 内壁を破るのに一度やってしまったからこそ、もうできなかった。

 身動きとれずにやむなく瓦礫を破砕しました、と、逃げるためにコロニーに穴を開けましたでは、外聞は違いすぎる。

 フラガは無意識にだが、まだ若い少尉を見下した。この女、まさか過激派のブルーコスモスじゃないだろうな、と。

 

「それに俺のゼロは万全じゃない、整備中だ。出るのは可能だろうが、一機での偵察は勘弁してほしいな」

 

「では、如何されますか。まさか正面から堂々と出るとでも?」

 

「それしか無いんじゃない? 少なくとも、コロニー内でばかすか撃つのは止めときましょっ、てな」

 

「……撃たねばやられてしまいます」

 

「やられるにしてもよ、格好つけなきゃならん時があるのよ。困ったもんだ」

 

 フラガの返答にナタルが考えこむ、今度はマリューが口を開いた。

 

「……ストライクの力も、必要になりますわね」

 

「いずれにせよ戦闘だな。あの坊主は?」

 

 アークエンジェルの将校達を悩ませる最大の問題がそれだった、というか、全クルーの悩みと警戒の元と言っていい。

 

 キラ・ヤマトはザフトのスパイなのでは? と彼らは感じていたのだ。

 その噂はあっという間に艦内へ広がっていた。

 

 発端はアークエンジェルと、マリューそしてキラのストライクが合流した時の事だった。

 身元の誰何の流れから、フラガが一言訪ねたのだ。

 通信で俺の名前を呼んだよな? どこで俺を? と。

 

 いつの間にか繋がっていた通信と、キラが思わず発した警告……それが合わさった結果の疑念だった。

 

 キラはそれにうまく答えられなかった。

 一応の答えは返したのだが、彼らの納得のいくものではなかった事が、クルーに疑いをもたらしている。

 

 ヘリオポリスは中立のコロニーで、戦争中の今でもコーディネーター、ナチュラルの両方が住んでいた。

 コーディネーターである事は不自然ではないが、他の不自然な……不自然を通り越して不審な点をキラは説明できなかったのだ。

 

 不審と警戒の空気が強く生まれすぎて、マリューもかばいきれず。

 フラガはキラから漂う戦士の匂いに態度を緩めなかったために、ナタルの提案によって、今は独房に《自主的に》入ってもらっていた。

 一応の身柄拘束、という形だ。

 

 独房にキラが向かう際にトールが強烈に怒ったが、これもキラがなだめて今に至っている。

 

 マリューはこんな仕打ちをするのは不本意だったが、少なくない、いや、大半のクルーが不安を覚えているのであれば、一旦そうせざるを得なかった。

 アークエンジェルは今さっき、ザフトの攻撃で正規クルーの大半を失っている。

 殺気だっていたのだ。

 

「やっぱスパイ……かな? 俺の名前を通信で呼んだんだよな、ムウってよ。

 一応有名人のつもりだが、機体を見ただけで特定するのは、ただの民間人とは言えないな」

 

 フラガの機体には、いわゆるパーソナルマークはついていない。

 メビウス・ゼロを使うのはわずか数名だが、エースが戦死をした場合に備えて、ごまかすために個人を特定するものをペイントするのは禁止されている。

 見分けるのは簡単ではないはずだ。

 

 フラガの話を聞きながら、マリューはふと思い出して気が付く。

 その通りだ。そういえば、自分が名乗る前からキラはマリューというファーストネームを呼んでいた……まったく迂闊だったが、自分は名前を出したか? と。

 

 そういった二人の反応を見るナタルが、当然とばかりにキラへの対応の妥当性を主張する。

 

「コーディネーターで、不審な点が多々あり、モビルスーツの操縦に優れていて、アークエンジェルを知っている節がある……疑うな、という方が無理でしょう」

 

「まあ、そうなんだが……」

 

 自分でキラを疑っておいて、フラガの態度は煮え切らなかった。

 

「フラガ大尉は、納得されておられないので?」

 

 ナタルの確認にフラガは、納得していない訳ではないと答えた。

 

「戦闘中は、もしかすると生きてた新米の誰かだと思ってたからな、ひよっこにしちゃよく動いてくれるって。

 だけどあいつがコーディネーターなら話は違ってくる。 アークエンジェルに送り込む為に、ザフトが芝居をやったのかと思えなくもない」

 

「シグーの動きは、本気でストライクを破壊する気に見えましたが……?」とはマリューだ。

 

「途中まではな。だけど俺が割って入った後からいきなりクルーゼの野郎が下がっていっただろ? タイミングが分かりやすすぎるんだよ」

 

 フラガの感じた物に、技術将校と新米将校は同意できる感覚を持たなかった。

 アーマー乗りでも屈指のエースの直感についていける訳もない。

 

 ただ、フラガの言い様は少し疑いすぎの面もあった。

 実際の所は、クルーゼはキラの技量に脅威を覚えていたし、後退するときも余裕はそれ程にはなかったと言える。

 

 キラの方は未来のトラウマから、精神的に不安定な面が出てしまい、討ち損なったに過ぎない。

 

 さらに言い訳としては、外まで追撃をかけていった結果、もうすぐ出撃態勢が整うであろうアスラン達のGが、アークエンジェルを襲ってきた時の無防備さを警戒したところもある。

 キラにとっては、アークエンジェルが沈んだら負けだ。

 

 要はキラとクルーゼは兵としてではなく、個人として先を見たのだ。

 その判断が互いに決着をつけさせなかった。

 

 フラガから見れば、それが、互いに遠慮しあった芝居、何かの擬装工作に見えなくもなかった……という話になってしまうのだが。

 言うほど甘い駆け引きでなかったのも感じてはいる。

 

 メビウス・ゼロに飛んできた機銃弾は、援護してもらえなければ本当に死ぬかと思ったし、それこそ自分は死んでいた方が、キラ・ヤマトはアークエンジェル唯一の機動兵器パイロットとして、やりたい放題だったはずだ。

 

 フラガはそれらを根拠として三人の中で始めに疑ったが、しかし、スパイだとは思えない……という矛盾する感情があったのも事実だ。

 

 勘がそう言っている。あの少年はスパイではないと。

 しかし、そうでもなければ不自然すぎるのだ。

 

 二人には言っていないが、キラ・ヤマトには人を殺し慣れている人間の雰囲気を感じるのだ。ひょっとすると3桁か、それ以上に。

 だいたい、どこの世界に機動兵器同士の空中戦の最中……発射された弾丸を、横から弾き飛ばしてのける民間人がいるのか。

 弾丸で弾丸を叩き落としたのである。

 

 シグーが驚愕から一瞬、固まったのをフラガは見てとったが、一番固まったのは多分、自分だと思っている。

 目前で神業を見たのだ、当たり前だろう。

 

 さりとてスパイにしては……。

 

 どうにも判断に迷うところだった。

 こちらを混乱させる為の捨てゴマ、という可能性も浮かんだが、あんな能力の高いパイロットをか? という疑問が湧いてくる。

 

「坊やの連れの学生達は?」

 

 フラガの問いにマリューは控えめに答える。

 

「居住区です、さすがに独房入りは……キラ君も彼らを独房に入れるなら抵抗すると言っていたので」

 

「そりゃ怖い、仕方がないわな」

 

 マリューの声には遠慮があった。

 そこまで追及を始めると、面倒な問題が発生してしまうとの感情が働いたのだ。

 ただ、ナタルはそこから目を背ける事はしなかった。

 

「彼らにもスパイの協力者としての疑いがありますが?」

 

「だとしても、あっちはただの学生だろうな。知らない内にってやつだ。彼らはナチュラルなんだろ?」

 

 3人がキラとその周囲への対応を悩んでいると、オペレーターのロメロ・パルからマリューに艦内電話が来ていると声が上がった。

 

 物資搬入を続けていた整備班、それに協力していた保安部の者かららしい。

 民間人数十名と、幾人かの友軍歩兵が避難して来たと報告が上がってきたのだ。

 

 さらに、それとは別の民間人の集団が保護を求めに来ていて、そちらには怪我人まで混じっているという話。

 

 指揮官達は顔を見合せた。

 話が見えないマリューだが、とりあえず艦内電話を手に取る。

 

「避難したのではなかったの?」

 

《はあ……それが……》

 

 マリューは報告を受けながら、ついさっき、コロニーを管理するコロニー公社の担当者から、避難状況の詳細を受け取っていた事を思い出す。

 

 避難は、ほぼ、終了したとの事だった。

 ただし、避難中の混乱で結構な数の死傷者が出てしまっている、行方不明も0ではない、と、担当者からの連絡には恨みがこもっていた。

 コロニー内、及び周辺での戦闘は禁止されているはずだからだ。

 

 マリューは将校として簡単に謝罪をする立場になかったが、素直に詫びていた。

 

 担当の者は、警戒レベルを9に引き上げると伝えてきた後、戦闘になるなら、せめてコロニーから出て戦ってほしいと頼んできた。

 努力する、としかマリューは言えなかった。

 

 

――その行方不明の人間や、シェルターに溢れてしまった人達だろうと、マリューはあたりをつけ話の先を促した。

 

《……モルゲンレーテの技術者とその家族と、付き添っていた歩兵小隊と言っています、歩兵小隊は戦闘で指揮官を失ったそうです。

 話によるとシェルターにあぶれて……戦闘があったからよそへ移動もできなかったと。

 怪我人は、その……シェルターが破壊されて出てくるしかなかった方々らしく……動かせない人がまだ何名かいて。救助も要請しています》

 

 頭を押さえるマリュー。

 多分、いや、原因の半分はアークエンジェルだ。

 シェルターは艦艇の砲撃や、ミサイルに耐えられるような構造ではないのだ。

 その横で聞いていたフラガがうなずく。

 

「乗せるべきだな、艦長」

 

「ええ。それしかありません。……いいわ、全員乗せてちょうだい。身元の確認は最低限で。

 物資の搬入は現時点で中止。すぐに終了させて、荷物の固定を厳重に。

 余った人員で破損したシェルターの場所を聞いたらすぐに救助を向かわせて、使えそうな車両の使用を許可します。時間がないわよ、急いで」

 

 マリューとフラガの判断に、ナタルが抗議する。

 民間人の保護は軍人の義務だ。それは当然だ。……ましてや、緊急時とは言え自分達が行った戦闘の巻き添えになったのである。

 

 しかし誰が乗ってくるか分からないではないか。と言うのが彼女の主張だった。

 そこまでやって何とか、ザフトを撃退したのに。

 ノーチェックで誰彼構わず乗せては、と。

 

 せめて身元の確認は時間をかけるべきです、と、ナタルは慎重論を唱えたが、マリューは時間がないと言い切った。

 

「もし私たちが見捨てて、ザフトが彼らを保護したらどうするの。宇宙で私たちに協力してくれる人はいなくなるわ」

 

 ヘリオポリスの警戒レベルは9だ。もう全てのシェルターはロックが掛かっている、破損や空気流出は応急修理では対応できないレベルだった。

 シェルターは避難場所ではなくコロニー脱出ポットに役割を変える段階……ここで彼らを置いていくという事は、死んでも構わない、と突き放すのと一緒だ。

 

「それは分かっています、ではせめて艦内での移動制限を……」

 

 ナタルの意見を遮るように、次は整備班長のマードックから報告が上がってきた。

 全く忙しい……マリューはナタルを制して、今度は何だと艦内電話を取ると、訳の分からない話を聞かされる事になった。

 

 搬入した物資の中にモビルスーツがあるというのだ。

 

 首を傾げながら、ストライクのパーツでもあったのかと聞くと、そうではなくて、ほぼ完成している状態のモビルスーツが、コンテナに入っているのが見つかったというのだ。

 サイ達が、勘違いから持ってきた大型コンテナだった。

 

「メビウス・ゼロのガンバレルを装備したストライクと、フレームが灰色の機体? 武装一式? ストライクによく似た? ……何でそんなものが?」

 

 こっちが聞きたい、という叫びを聞き流して型式番号を読み上げてもらうと、

 AQM/EーX04と、MBFーP05(※)と言うらしい。

 

【※ストライクバリエーションのガンバレルストライカー、及びアストレイシリーズのグレーフレーム、両機とも既にほぼ組みあがっている物とします】

 

 番号を聞いてもマリューには心当たりもない。

 

 一応は技術大尉だ。Xナンバー、つまり《G》についてはかなりの情報はもらっていたが、それだけだ。それ以上の事は分からない。

 例えばXナンバー以外のプロジェクトは聞いてなくても不思議ではないし、特殊兵装用の実験機体も知らされないなら知らない位置だ。

 

 いずれにせよ、これは勝手に回収していい物ではない、と、マリューが困っているとフラガが艦内電話に口を出してきた。

 

「整備班長、そのモビルスーツ、使えそうかどうか調べといてくれ。それだけだ、忙しいから切るぞ……とにかくそっちでよろしく。

 ああ、あと俺のメビウスは……まだ駄目? 了解だ、急いでくれよ」

 

「フラガ大尉?」

 

「持ってっちまおうぜ、どうせ置いといても取られるか壊されるかだろ? こっちで使っちまおう。

 ガンバレルといやあ俺の出番だ。もしかすると元々俺の乗る代物かも、だろ?

 もう一機は臨機応変な判断ってやつだ。ストライクに似てるならあっても困らないさ」

 

「そんな強引な」

 

 フラガは乗り気だ、宝物を手に入れた子供のようにはしゃいでいる。ガンバレル装備と聞いて完全に乗る気でいた。

 ナタルもそれを歓迎する。

 

「フラガ大尉がモビルスーツに乗って頂けるなら。逃げる分には十分かと」

 

 ナタルがフラガに続くと、マリューは複雑な顔をした、それを見てフラガも神妙な表情になる。

 

「……OSがおそらくは、いえ。まず未完成でしょうね」

 

「あー、まあ、な。どうすっかな……」

 

「? どうされたのですか? 調整なら今から……何ならストライクの方にフラガ大尉が乗られますか?」

 

「いや、少尉。あの坊やの弄ったっていうストライクのOS、君は見てないのか?」

 

「見ておりませんが、報告は受けております。勝手に変更を加えたと。

 フラガ大尉が動かすのには不具合があるのですか?」

 

「不具合つーかなんつーか。まあ実際、あのくらいじゃねえと使い物にならないんだろうな……」

 

 ナタルはフラガから、ストライクのOSは極めて性能を発揮できる代物になっていると説明された。

 ただし、限界性能を発揮するために、信じられない程シビアなレベルでの反応速度、操縦技術を要求される厄介な代物でもあると。

 

 一部だがオート制御を切って、マニュアル制御での操作を組み込んであるOSを見たフラガは、スパイかどうかはともかくキラはアホだと思った。ありゃ人間じゃない。

 

 ナタルはそれを聞いてムッとする。

 

「では、ストライクからOSをコピーして、それを元に修正を加えていくというのはダメなのですか?」

 

「いや、だからさ! 修正どころの話じゃなくて。あれはあのキラって奴が自分に合わせちまったOSなんだよ。

 俺じゃ使えねえよ、つーかあんなの、まともな人間が動かせるレベルじゃないんだよ」

 

「では! 元に戻してそれを、とにかくあんなコーディネーターの子供なんかに」

 

「そんで性能落として、のろくさ出ていって的になれっての?」

 

 困ったように苦笑いするフラガに、ナタルは押し黙った。

 彼女は基本的に理知的な人間だ。できる事とできない事を区別する分別がある。

 だから自分が馬鹿な事を言ってしまったと分かったのだ。フラガの言う事が正しいと。

 

 そもそも、その未完成のOSですら組み上げるのに、連合はどれだけの時間を費やしたか。今は弄っている余裕はない。

 しかし、それではキラ・ヤマトに、コーディネーターに負けを認める事に……。

 

 ナタルは地球連合の士官らしく、コーディネーターへの対抗意識を少なからず持っている。

 しかし、今はそれを出してはいけないと、押し黙った。

 

 

「艦長! 電波撹乱のレベルが上昇していきます!」

 

 オペレーターのトノムラから報告。警告がきた。

 時間切れだ、敵が来る。

 ザフトの攻撃が始まる。こちらはもう少し時間が欲しかったところだが……。

 

 またもやマリューに呼び出しがかかる。今度はキラを監視している保安部からの連絡だった。

 マリューは少しの間だけ彼らとやり取りを交わす。

 悩んだように黙っていたが、次にキラを格納庫へ連れていくように指示した。

 ナタルとフラガが何かを言う前に、口を開く。

 

「……キラ君が協力を申し出てきました。次のジンは要塞攻略装備で来るだろうと。

 加えて、奪われた《G》が投入される可能性が高い……そう、言っているそうです。

 彼をストライクへ乗せようと思います」

 

 なんと言うタイミングか。

 笑ってしまうほど露骨だった。

 どこの世界にこれから闘う相手の情報をもたらすスパイがいるのか、敵か味方か、惑わす作戦ならば大したものだと三人は思った。

 

 キラは単に記憶に基づいて話していたのを、やっとの事で取り次いでもらったにすぎないのだが。

 タイミングが悪かった。

 

「……ま、しょーがねえわな、どうせこのままでもやられちまうし。俺は今回CICに入るよ。ラミアス艦長、俺はそれで良いよな?

 それと、いつでも狙いをつけられる砲を一つ、自由にさせてくれ」

 

「……お願いします。バジルール少尉、CICの指揮を任せます、ストライクの動きに注意しておいてちょうだい」

 

「分かりました。……ラミアス艦長。キラ・ヤマトですが、ノーマルスーツの着用を、不許可、として頂けますか?」

 

 ナタルの提案にフラガは、この新米将校はえげつない手を考えると、さすがにキラに同情した。

 

 これから戦闘……流れによってはそのまま宇宙に脱出していくというのに、ノーマルスーツを着せないと言ったのだ。

 それは、どこかの艦には必ず帰らねばならない事を意味する。

 ノーマルスーツは対G耐性や怪我の防止にも一役あり、しかもコックピットから空気流出でもあれば、最後の砦でもある命綱だ。

 

 キラが不審な動きをすれば撃つ、スパイであればせめて行動に制限を付けておくという確認と方法だった。

 

 マリューは沈鬱な表情を一瞬だけ浮かべると、渋々とだが了解を出した。続いて、全艦に戦闘配置を通達。

 操舵手のノイマンに発進準備を開始させた。

 

 民間人の救助をギリギリまで待つつもりだが、微妙なところだった。

 下手をすると止まったまま戦わねばならない。

 

 マリューはキラとゆっくり話をしたかったが、やることが多すぎてしまっていた。

 まず、どこから出るかを考えねばならないのだ。無事に出られる保証もない。……キラが本当にスパイであれば、この艦は終わりだと悩んだ。

 

 

 







 2018*3月現在 
※ローエングリンの放射能について。
 放射能ではなく、放射《線》ではないかとのご指摘が複数寄せられているのですが、Wikipediaに記載されております通りに使っています。
 合ってるのか違うのか、私にも不明です。
 SF的な突っ込みは勘弁してくださいませ。すみません、この通り。



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