姫と守護者の物語   作:寅祐

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更新遅れてしまって申し訳ありません一応プロローグを入れたら第二話になります。感想、お気に入り登録ありがとうございます。作者の励みになります。本当にありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


第1話

  魔族特区絃神島は太平洋上に浮かぶ小さな島である。雪菜がその地に足を踏み入れたのは雪菜の護衛の任務を受けたという謎の男、冬坂優という男と出会ってから次の日であった。彼は雪菜から見てとてもおかしな人であった。護衛だというのになぜか頼りなく見えそしてなぜか自分のことを優と呼ばせたいらしく雪菜が冬坂さんと呼ぶとなぜかとても悲しい顔になる。そして雪菜の質問には守秘義務と言って何も答えてくれない、そんなこんなで冬坂優という人のことがよく分からないまま絃神島に到着していた。

 

 「冬坂さん、これから第四真祖と接触を試みます。二手で第四真祖を探しましょう。もし見つけたら私のところにすぐ来て下さい、お願いします」

 

 

 そう言うと雪菜は颯爽と街の方に走り去ってしまった。

 

 

 「えーと雪菜ちゃんは見つけたら俺には教えて……もういなくなってるし全く信用されてないねこれはどうも、さあ俺はどこを探しに行こうかな?それよりも冬坂さんか……何とも言えない気分だね」

 

 

 優はため息をつきながら雪菜とは逆の方に向かって歩き出した。しかしその歩いている姿は三聖が厄介な人物と言う強者の背中にはとても見えなかった。

 

 

 

 

 

 「熱い……焼ける。焦げる。灰になる……」

  

 

 午後のファミレス。窓際の席で雪菜が探している第四真祖、暁古城が弱々しくうめいていた。古城はテーブルに置かれている問題集を睨みつける。

 

 

 「今、何時だ?」

 

 

 古城の唇から漏れたのは、独り言のようなつぶやきだった。正面の席に座っていた友人の一人が笑いを含んだ口調で返事をする。

 

 

 「あと三分二十二秒で4時よ。」

 

 

 「もうそんな時間なのかよ。明日の追試って朝九時からだっけか」

 

 

 「今夜一睡もしなけりゃ、まだあと十七時間と三分あるぜ。間に合うか?」

 

 

 同じテーブルに座っていたもう一人が他人事のような気楽な声で訊いてきた。古城は沈黙し積み上げられた教科書を無表情にしばらく眺める。

 

 

 「こないだから薄々気になってたんだが」

 

 

 「ん?」  

 

 

 「この追試の出題範囲ってこれ、広すぎだろ。おまけに夏休みなのに週七日補習ってどういうことだ。うちの教師たちは俺になんか恨みでもあるんじゃないか!」

 

 

 「いや……そりゃ、あるわな。恨み」

 

 

 シャーペンを回しながら答えたのは、短髪をツンツンに逆立てて、ヘッドフォンを首にかけた男子生徒、矢瀬基樹というのが彼の名前である。  

 

 

 「あれだけ毎日毎日、平然と授業サボられたらねぇ。なめられてると思うわよね、フツー」

 

 

 優雅に爪の手入れなどしながら、藍羽浅葱が笑顔で言ってくる。

 

 

 「……だからそれには色々事情があるんだよ。だいたい今の俺の体質に朝イチからのテストは辛いんだって」

 

 

 「体質って何よ?古城って花粉症かなんかだっけ?」

 

 

 「ああ、いや。夜型っていうか、朝起きるのが苦手っていうか」

 

 

 「それって体質の問題?吸血鬼でもあるまいし」

 

 

 「だよな……はは」

 

 

 引きつった笑顔で言葉を濁す古城。そんなやりとりをしているうちに浅葱の前に積み上げられてある料理の皿が空になっていた。勉強を見てやるからメシをおごれ、と彼女に言われた時に、浅葱が非常識なぐらい大喰らいなのを忘れていたのを本当に悔やんでいた。

 

 

 「あーもうこんな時間? んじゃ、あたし行くね。バイトだわ」

 

 

 携帯を眺めていた浅葱が、残っていたジュースを一息で飲み干し立ち去っていった。

  

 

 「そういや、浅葱が他人に勉強を教えるなんて意外だったな。あいつ、そういうの嫌いだから」

 

 

 「嫌いって何で?」

 

 

 「頭がいいとかガリ勉とか思われるのが嫌なんじゃね。ああ見えて、ガキの頃にはけっこう苦労してんだ、あいつも」

 

 

 「あいつ、俺には文句言わずに教えてくれるけどな。今回は宿題もだいぶ写させてもらったし」

 

 

 「ほほう。そいつは不思議だなあ、なんで古城だけ特別なんだろうなあ」

 

 

 大げさに首を傾げながら、わざとらしく呟く矢瀬。しかし古城は、いやべつに、と首を振り、

 

 

 「だってあいつ、きっちり見返り要求してんじゃん。メシおごらされたり、日直やら掃除当番やらされたり、こっちだって苦労視点だからな」

 

 

 「こりゃあだめだ」

 

 

 矢瀬が明らかに落胆したかのように肩を落とした。

 

 

 「どうかしたか?」

 

 

 「いや、なんでもねえ。じゃあ、そろそろ俺も帰るわ」

 

 

 「あ?』

 

 

 「いやいや宿題も写し終わったし、浅葱がいなければもうここにいる意味もないしな」

 

 

 じゃあな、と荷物をまとめて立ち上がる友人を、古城がポカンと間の抜けた顔で見上げる。

 

 

 「はあ……俺も帰るか、凪沙のやつが、メシの支度を忘れてないといいんだが」

 

 

 古城はそう呟くと、教科書と問題集をカバンに放り込み、伝票を掴んで立ち上がった。レジで精算を済ませると、元から残念な財布のなかは、わずかな小銭しか残っていなかった。このままでは明日からの昼食代もままならないと思いファミレスを出て歩いて帰路についているのだがどうも後ろからギターケースを背負った制服姿の女子生徒があとをつけていた。

 

 

 「これ……つけられてるんだよなぁ?」

 

 

 古城から十五メートルほど離れた後方を、一人の少女が歩いている。彼女がきているのは古城と同じ彩海学園の女子の制服だ。襟元がネクタイではなくリボンになっているということは中等部の生徒なのだろう。古城が後ろを見ると電柱などに隠れたりしているが声をかけられるでもなく明らかに尾行されている。

 

 

 「凪沙の知り合いか? けどそれじゃあ声をかけないのはおかしいか? しょうがない様子みてみるか」

 

 

 そういうと古城はたまたま目についたゲームセンターへと入っていった。そうすると少女は尾行していることすら忘れてゲームセンターの前で途方に暮れていた。夕暮れ時、ゲームセンターの前で一人立ち尽くす少女の姿を見て古城は罪悪感に襲われた。しょうがないので自分から声をかけようと思い外に出ようとした瞬間。少女も決意をきめゲームセンターの中に入ろうとしていたらしくゲームセンターの入り口で鉢合わせしてしまった。お互いに無言で見つめ合っていたが先に反応したのは少女の方だった。

 

 

 「だ……第四真祖!」

 

 

 少女はそう叫ぶと身構えた。少女が古城を尾行していた理由は今の一言でわかった。どうにかこの状況を切り抜けようか考えていた時

 

 

 「雪菜ちゃん、やっと見つけたよ。せめて探す場所くらい教えてよ。そうしないと第四真祖見つけても雪菜ちゃんに連絡できないじゃん」

 

 

 気がついたら雪菜ちゃんと呼ばれている少女の横に立っていた青年は真夏なのに長袖がとても仲間意識を覚える格好だがその青年も第四真祖といっていたため多分古城にとっては面倒な相手なのだろう。

 

 

 「冬坂さん、すみません、けれど第四真祖には接触できました」

 

 

 

 「あー君が第四真祖なのかな?えーっと俺の名前は冬坂優です。よろしくね、第四真祖」

 

 

 冬坂と呼ばれた人物が古城に握手を求めて手を差し出してきた。もう隠すのは無理だと判断し古城が警戒心をあらわに少女と青年を睨みつける。

 

 

 「誰だ、お前ら」

 

 

 少女は、生真面目そうな瞳で古城を見返し、少し大人びた固い声で答えた。

 

 

 「私は獅子王機関の剣巫です。獅子王機関三聖の命により、第四真祖であるあなたの監視のために派遣されてきました。彼は、私の監視の任務をサポートしてくださる方です」

 

 

 は、と古城は、気の抜けた顔で少女の言葉を聞いた。彼女が何をいっているのかさっぱり分からない。しかし厄介事の予感だけはひしひしと伝わってくる。結局古城は今までのことを聞かなかったことにしようと思った。

 

 

 「あー……悪ぃ。人違いだわ。他を当たってくれ」

 

 

 「え? 人違い? え、え……?」

 

 

 少女は困惑したように視線を彷徨わせた。人違いという古城のでまかせを本気で信じている。案外、素直な性格なのかもしれない。その隙に立ち去ろうと背中を向けた瞬間、冬坂と名乗った青年が古城に近づいてきた。

 

 

 「ここはどうにかしといてやるから早く消えろ」

 

 

 そう古城の耳元で言った青年はとてもさっきのような穏やかな目ではなく、今にでもお前を殺せると視線で古城を脅迫していた。その視線は古城が今まで味わったことのない殺意そのものだった。

 

 

 「お前、あの娘の仲間じゃないのか?」

 

 

 「仲間さ、だからこそ君を彼女に接触させたくない、だから早くこの場を去れ」

 

 

 そう言うと青年は少女の方に戻っていった。それを見て古城は立ち去ろうとすると少女は慌てて呼び止める。

 

 

 「ま、待ってください!本当は人違いなんかじゃないんですよね?」

 

 

 「いや、監視とか間に合ってるから。じゃあ、俺は急いでるんで」

 

 

 「そうだよ、本人もそういってるんだしやっぱり人違いじゃない?」

 

 

 古城がその場から急ぎ足で離れていくなか、青年が古城を庇って少女と話をしていた。少女は呆然としていたが青年を振り切り古城の方に走ってきた。しかし少女のいく手を遮るように青年とはまた別に見知らぬ男二人に囲まれていた。

 

 

 「ねえねえ、そこの彼女どうしたの? 逆ナン失敗?」

 

 

 「退屈なら俺たちと一緒に遊ぼうぜ』

 

 

 古城と離れた少女をナンパしようてしているらしい、少女は冷ややかな態度で男たちを追い払おうとしているが、そのせいか、少々険悪な雰囲気になっていた。それなのにさっきの青年はその現状を他人事のように見ていた。

 

 

 「……いい歳こいて、中学生に手ェ出してんじゃねえよ。……おっさんたち」

 

 

 古城はほっとくべきかとも思ったが男たちが手首につけている金属製の腕輪である。その腕輪は魔族登録証、それを持っているのは普通の人間ではない。人外、魔族だ。もしあの魔族たちが問題を起こし特区警備隊が押し寄せあの少女と青年がもし第四真祖の正体をもらせば今までの平穏な暮らしが終わってしまう。そうなる前になんとかこの場を収めなくてはならない。古城は深々と嘆息し、少女たちの方に戻ろうとした。しかし彼女のスカートがめくれ上がったのは、その直後だった。お高くとまってるんじゃねえ、というような暴言を吐いて、男たちのどちらかが少女のスカートをめくったのだ。

 

 

 「若雷っー!」

 

 

 少女が呪文を叫び、次の瞬間、彼女のスカートに手をかけていた男がものすごい勢いで吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 優は他人事のように今の現状を眺めていた。第四真祖を庇うために雪菜に意見を言ったのだが、私のことは放っておいてくださいと言われ、護衛主に言われた通りに放っていたらこの有様である。それに早く消えろと言った第四真祖がなぜか戻ってきているし、全く思い通りにいかないと優はため息をつきながら今の状況を見守っていた。

 

 

 雪菜に吹き飛ばされた男は獣人種だったのだろう。雪菜の掌底で壁に叩きつけられ完全にのびている。

 

 

 「このガキ、攻魔士か!」

 

 

 呆気にとられていたナンパ男の片割れが、ようやく我に帰って怒鳴った。男は恐怖と怒りに表情に顔を歪ませ、魔族としての姿があらわになる。真紅の瞳。そして牙。D種と呼ばれる一般的にイメージする吸血鬼である。

 

 

 「灼蹄! その女をやっちまえ!」

 

 

 そう言うとその吸血鬼の隣に出てきた黒い炎がやがて歪な馬の形に変わった。これが吸血鬼が魔族の王と呼ばれるゆえんである眷獣である。

 

 

 「こんな街中で眷獣を使うなんて!」

 

 

 雪菜が怒りの表情で叫んだ。吸血鬼がはめた腕輪が、けたたましい警告を発している。

 

 

 眷獣が雪菜に半ば暴走状態で突っ込んできた。すると雪菜は背負ってきたギターケースから何かを抜き放つ。

 

 

 「雪霞狼ー!」

 

 

 雪霞狼と呼ばれた冷たく輝く銀色の槍で吸血鬼の眷獣を一突きで消しとばしてしまった。それを見ていた優は憎たらしげに雪霞狼と呼ばれた槍を睨みつけていた。

 

 

 「あの槍、まだ存在していたのか、本当に憎たらしい武器だ」

 

 

 誰にも聞こえないよう小声で呟くと吸血鬼に止めを刺そうとしている雪菜を止めるため優は動き出した。

 

 

 

 

 

 雪菜は怒りのこもった瞳で男を睨みつけ、槍を構えて、硬直して動けない男へと突進する。そして槍が、男の心臓を貫こうとしたそのとき

 

 

 「ちょっと待ったァ!」

 

 

 その槍の先端が、突然、跳ねあげられて軌道を変えた。冷ややかに猛き狂っていた雪菜の目が、驚いたように見開かれた。そこに立っていたのは第四真祖、暁古城であった。驚いた雪菜は、突然現れた第四真祖を警戒し近くにあったワゴン車の屋根に着地する。

 

 

 「おい、あんた、仲間を連れて逃げろ、これに懲りたら中学生にナンパするのも、眷獣を使うのはもうやめろよ」

 

 「あ、ああ……すまん……恩にきるぜ」

 

 

 そう言うと男は気絶した仲間を連れて去っていくそれを見た雪菜は彼らの後ろ姿を、攻撃的な目つきで睨みつけていた。第四真祖はやれやれと息を吐く、雪菜は第四真祖に槍を構えたまま、避難がましい口調で言った。

 

 

 「どうして邪魔をするんですか?」

 

 

 しかしその質問に答えたのは第四真祖ではなかった。

 

 

 「まあ、あの状況だったら彼じゃなくても手を出すって』

 

 

 いつのまにか雪菜の後ろにいた冬坂優が子供をあやすように雪菜に語りかけた。しかし雪菜の怒りは治らなかった。

 

 

 「公共の場での魔族化、しかも街中での眷獣を使うなんて明確な聖域条約違反です。彼は殺されても文句は言えないはずです」

 

 

 「まあ、それを言うなら、先に手を出した雪菜ちゃんにも多少、非があるからね」

 

 

 「そんなことは」

 

 

 冷静に反論したが、雪菜は黙り込んだ。確かに冬坂さんの言うとおりである。すると雪菜の頭を冬坂さんが子供をあやすようになではじめた。恥ずかしくなった雪菜は冬坂さんの手を弾いた。  

  

 

 「やめてください、子供扱いしないでくだい」

 

 

 その時、冬坂さんの顔が一瞬、悲しみにくれていたように見えたが、気づいたら普段の冬坂さんの笑顔に戻っていた。

 

 

 「いやーごめん、ごめん子供扱いなんかやだよね、ごめんね」

 

 

 優がワゴン車の屋根から降りたその瞬間、まるでタイミングを見計らっていたかのように、離島特有の強風が吹き付けてきた。ワゴン車の屋根に乗っていた雪菜のスカートが、ふわりと無防備に舞い上がる。車の下にいた二人は無意識に視線が吸いつけられていた。息苦しい静寂が訪れる。

 

 

 「何で見てるんですか」

 

 

 両手で槍を構えたまま雪菜は訊いた。

 

 

 唖然としていた古城と優はようやく我に返って

 

 

 「いや、待て。今のは悪くないだろ。お前がそんな所に立ってるから」

 

 

 「いやー本当にごめん、見ちゃった。けど可愛らしかったよ」

 

 

 「もういいです。いやらしい」

 

 

 雪菜は構えを解くと槍を背中のギターケースに戻し雪菜は二人を一瞥してそう言い捨てると背中を向け走り去って行った。

 

 

 「はあ、困ったお姫様だ。じゃあ第四真祖君またもし会えたら二人でゆっくりお茶でもしよう」

 

 

 そう言うと優は雪菜が行った方向に向かった。古城もこんな所に長居はできないと立ち去ろうとしたが、ふと、道路に落ちていた何かに気づき眉をひそめた。それは二つ折りのシンプルな財布だった。その中に入っていた学生証にはぎこちなく笑うさっき出会った少女の顔写真と姫柊雪菜という名前が刷りこまれていた。

 

 

 

 




お読み頂きありがとうございます。少し進みが遅いですかね?次話から少しテンポアップできるように頑張りたいと思います。引き続き感想などもお待ちしてます。姫と守護者をこれからも見て頂けたら嬉しいです。お読み頂き本当にありがとうございました。

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