おいでよ獣狩りの町 あの田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました   作:溶けない氷

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Hunt 9 ユグドラシル

古都ヤーナム

遥か東、人里離れた山間にある忘れられたこの街は、

呪われた街として知られ、

古くから、奇妙な風土病「獣の病」が蔓延っている。

 

「獣の病」の罹患者は、その名の通り獣憑きとなり

人としての理性を失い夜な夜な「狩人」たちが

そうした

もはや人ではない獣を狩っている。

 

だが、呪われた街はまた、古い医療の街でもあり隠された財宝の街でもある

数多くの、救われぬ病み人たちが、この怪しげな医療行為を求め

そしてまた、多くの冒険者達が財宝を求め

長旅の末ヤーナムを訪れる。

 

私もまた

そうした病み人の一人であった・・・

 

「と言うのがこの話の始まり、私はこの街で血を啜り

狩人となり、そして永劫に終わらぬ悪夢の世界に囚われたと言うわけ」

 

「なんと言うか、とんでもない話だな。

待ってく・・ださい、カインハースト殿。それじゃぁあの襲ってきた連中は・・・に、人間なんですか」

イビルアイが慣れない尊敬語で話しかけるが

「うん、そんなに縮こまらなくっていいよ。

私も気にしないし。

アンジェって呼んでくれると嬉しいな」

 

「アンジェ、ガチ惚れした。

好き、結婚して」

ティアは早速呼び捨てて、抱きついていた。

「うん、ティアはもうちょっと縮こまろうね」

とラキュースはティアの首根っこを引っ掴んで放り投げた。

 

「いやん、鬼リーダーのいけずぅ」

「・・・・・ふふっ、楽しい仲間だね。

ああ、彼らは人間だったが、もう気にする事はないよ。

言っただろ、ここは繰り返す悪夢の世界。

時間と空間、意識すら断絶されているから彼らを殺したとしても

それは彼らの悪夢の終わり。

彼らもまた、私同様に終わらない悪夢に囚われ続けた囚人」

 

「それは!!!ええぇと、つまり・・・・イビルアイ、今のわかった?」

「いや、全く想像がつかん」

 

「 ・・・・殺しても時間が経ったら復活するって事さ

君達の話では八欲王のギルド拠点、天空城のモンスターリポップをイメージしてくれればいいよ」

 

「そんな!?じゃぁ連中も不死身って事?」

「うん、でもそんな気にしなくていいと思うよ。

彼らはこの悪夢の街から出られない、悪夢の中でしか存在できないんだ」

この街から出られないと聞いてラキュースは少しホッとした

あんな化け物がぽんぽん外に出られたら王国どころか人類滅亡もあっという間だ。

「だから・・・気の毒だけど、あの冒険者達に関しては全滅という報告をするしかないね。

それと、この街も責任を取れる人間以外は立ち入り禁止にしたほうがいいよ

ここの推奨レベルは最低でも100からという数字だからね

以前は多くのプレーヤーが訪れては屍を晒したものだけど・・」

そう言って少し寂しそうな顔をする

「アンジェ、レベルって何なんだ?」

ガガーランが聞くと

「うん?レベルはレベルだよ、プレーヤーの最高値は100限界だけど

ワールドエネミー級なら200くらいはあるよ」

「いえ、そのレベルというそのものがわからないんですけど」

「ああ、要するに強さの目安って事

といっても同じレベル帯でも戦い方や相性、装備でも大きく変わってくるからまぁこれくらいって大まかに考えていいよ」

 

「冒険者難度みたいなものね。

冒険者難度というのはモンスターの脅威度をおおよそ数値化したものでして

アンデッドのようにムラの少ないものから、バジリスクみたいに成長具合によってバラツキのあるものもいます」

 

「その、難度がわかるモンスターっている?おおよその数字でいいけど」

 

「アンデッドで言えばスケリトル・ドラゴンでおよそ50、スケルトンウォリアーで程度です。

他にはゴブリンで5、オーガで15くらい。

後、イビルアイが言うにはあの獣人達は100程度だったそうです」

 

スケリトル・ドラゴン

「うん、ユグドラシルでの1レベルが3難度程度に相当するのか・・・

このヤーナムは難度300のプレイヤーが多数殺された場所。

24人のアライアンス攻略チームが30分と持たずに全滅した事すらしょっちゅうさ」

 

「な!?難度300ぅ!?」

あまりに桁違いの数値にラキュースの声も裏返る。

「嘘だろ・・・そりゃ神様だーって崇められもするはずだ。

しかもそんなトンデモねぇ連中が24人もいて30分で全滅なんてどんな地獄だよ」

ガガーランも驚きを通り越して呆れ気味だ。

「でも・・・君たちの方だってそれくらいの奴はそこら中にいるだろ?

それに難度300までは結構時間がかかるけどLv80・・・240くらいまで

なら素人でも1週間もあれば到達できるでしょ」

 

「いやいやいやいや!難度300の冒険者がダース単位でいるってどんな世界なんですか!

そんな簡単に英雄の領域も飛び超えて神々の領域に1週間でなれるなんて絶対におかしいですよ!」

ラキュースはもう涙目だ。

「アンジェ、我々の間では大体難度90もあれば英雄級なんだ。

我々の難度がそれくらいで80から90といったところだろう。

我々は王国では最高のアダマンタイト級冒険者チームなんだ

尤も、君の前では霞んでしまうだろうが・・・」

イビルアイはそしてアダマンタイト級とは数百万人に一人の逸材だとも説明した。

それを個人で越えるとなると王国戦士長くらいしか今の所は思いつかない。

 

「えー、でも私それくらいでなったよ。

私達は皆最初からレベ・・難度300だったわけじゃない。

誰もが最初は1から始めたの」

アンゲリカはレベル1からレベル100までのレベルアップの過程を説明する

「プレイヤーは冒険を繰り返して、最初は弱いゴブリンやスライムとか倒して冒険者ギルドからの依頼も薬草採取や荷物の配達といった簡単なものから受けていくの」

「何と・・・神々の世界だと思っていたが、普通の冒険者とそうは変わらないな・・・いや、プレイヤーは皆冒険者なのか?

だがそれだとそれ以外の仕事、鍛冶屋や店番はどうなっているんだ?」

 

イビルアイはぷれいやぁもそういう泥臭い仕事から始めたことに驚いた。

尤も、確かに十三英雄のリーダーも最初はそんなものだったと思い返しもしたが。

 

「うん、そういうプレイヤーがやらない仕事をやるのがNPC

退屈だったり刺激の少ない仕事をやるのが殆どね

NPCの難度は固定されていて成長しないんだ」

 

イビルアイは嘗て戦った魔神が店番やカフェのウェイター、鍛冶屋をやっている様を想像して吹き出してしまった。

 

「無論、そういうNPCは大抵は人型をしてる。

まぁ中にはバモスの親父さんみたいにスケルトンでNPCの鍛治職人もいるけど.

生産職プレイヤー・・・鍛治職人や錬金術師といったアイテムを作るプレイヤーはやっぱり少ないから人気だったな

だからプレイヤーが冒険者だってのは間違ってないよ」

 

「アンデッドの魔神が鍛冶屋をやってるって、今更だけど凄い世界だな」

ガガーランの脳内ではアンデッドがハンマーをとてカンカンと振るって

剣や槍を仕立て上げていく工房が想像して見てしまった。

まるっきり魔王の城の武器屋である。

 

「・・・・そうね・・・言われて見ると確かに変なNPCもいたね。

で、プレイヤーが集まって集団になったのがギルド。

話を聞いた限りでは六大神や八欲王、ってのはどっかのギルドだと思う。

十三英雄の戦ったNPCはその八欲王が産み出した拠点防衛用のNPCだと思う。

城の近衛騎士みたいなもんだね。

規模にもよるけどギルド拠点はある程度の強さの雑魚モンスターを湧き出させる、こっちが一般的な衛兵みたいなもんかな」

 

「成る程、ギルドというのは貴族連合のようなもので

拠点というのは強力な彼らの城のようなものか」

 

「大型ギルドは罠や強力なNPCで武装してるから侵入は単独では難しいって聞いてるから確かに城だね。

そのギルド間でも色々な理由で抗争があって、

レアアイテムや、希少な鉱石が取れる鉱山、貴重な素材のモンスターの狩場を巡ってのギルド間戦争ってのもあったらしいわ」

 

「神様の世界だからもっと華やかだと思ってたけど

私達の世界とやってることは変わらないのね・・・」

 

「そっかぁ、貴方達の世界にもあるのね戦争って。

私はそんな戦争に巻き込まれるのを嫌ってここを中心に活動してたの

ここならモンスターが強力だから無駄に死ぬのを嫌って戦争をしようというやつもいないから」

 

「ギルドは拠点を持って、そこの魔力を供給する大元のギルド武器を破壊すれば拠点は崩壊する。

数だけを頼みにした烏合の衆もいれば、質を求めたのもある。

残念だけど私はどこのギルドにも所属してないわ、面倒なだけだし。

狩りの時には外から来た狩人と組むこともあるけど。

最大級のギルドは最盛期には5000人ものプレイヤーを抱えてたって聞くわ」

「ご!5000にんぅ!」

イビルアイの声が裏返って動揺しているのがバレバレだ。

「そこまでいくと玉石混淆で連携も碌に取れないし、

気ままなギルドだから自由にしてたみたい

でも昔、40人くらいのギルドに多数のギルドから参加した1500人のプレイヤーが攻め込んで全滅したってギルド戦争もあったと聞いてるから

質がやっぱり重要なのは確かね」

 

「あー、王国に属する冒険者としては耳が痛い話だな」

王国が毎年帳尻合わせに農民を兵隊として徴用しては使い捨てる。

その度に国力を減ずる様を見ているガガーランとしては思うところもあった。

 

 


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