おいでよ獣狩りの町 あの田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました   作:溶けない氷

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Hunt 27 夜の狩り

王城から見送られて出ると、時間はすっかり日暮れだった。

実に慌ただしい1日だったが、なかなかに有意義であったとも言える。

何しろ、正義の味方の証拠を提出し受付嬢も感激のあまり啓蒙が上がり

王族にも二人会い、王国戦士長にもあった。

この王国でめぼしい人物にはあらかたもう出会えるとは、流石はラノベ主人公ばりの王道展開ルート。

これも日頃の自分の行いの良さと勤労が認められたためだろうと満足すると、

自らの感知範囲に気配を消したつもりになって入ってきた人間を見つけた。

(1人、2人、3人・・・バカねぇ、バレバレなのに)

一応言っておくと彼らは8本指でも最高のシーフであり、直接戦闘能力こそ前衛に劣るが冒険者で言えばミスリルか中にはオリハルコン級すらいる。

だが、アンゲリカにとってすれば纏めて狩る群衆以下のモブにすぎない。

(とりあえずはらわた引っこ抜くか?・・・

いやいやいや、それはラキュに止められてるんだっけまた怒られちゃう)

街中で人体解体ショーを始めることより愛人に怒られることを恐れるべきなのだ。

狩人とはそういう人種だし、さらに言えばヤーナムでは普通だ。

ごくごく日常的に街角が地下死体溜まりみたいになっていても誰も気にしないくらいの心のおおらかさが異世界の住民にも求められる時代になってしまった。

君達も異世界転移するならフロム世界がいいと思うよ、いろんな意味で自由だし。

話がずれた。

後ろから追尾してきてくる尾行者に対する対応としてはいろいろ考えられるが

 

『頭ねじ切って玩具にしてやる!』

『テメェのはらわたで縄跳びしてやる!』

『お前のはらわたで首くくらせてやる!』

『生皮引っぺがしてランプ傘に仕立ててやる!』

 

などいろいろ考えられるが・・・・何か違う気もするが・・・まぁいいや。

とりあえずは如何にバレないように殺すかにかかっている、死体はワンちゃんに食わせればいいとして・・・

(いやいやいや、なんで殺すこと前提に考えちゃうの!?

うーんでも殺しとけば襲ってこないしなぁ)

尾行してくる連中がどこの誰かは知らない、もしかしたら王宮の連中かもしれないが・・・・

だがコソコソ付いてくる連中が怪しくないはずがなく、怪しいやつは殺されても文句言えないのが世間の常識だ。

 

そこから少し離れた王都の路地の暗がりから更に奥まった家の中で、

ゼロは4人にまで減らされた六腕改め四腕の面々を見渡してしかめっ面をする。

「いい感じじゃないかデイバーノック、お前が言ったのとは違ったな。

上の連中はカンカンだぞ」

ローブの奥に暗い顔を隠したまま、肩をすくめるのはデイバーノック。

エルダーリッチは決めたのはゼロで、勧誘のヘマをしたのはペシュリアンの失態だろと返した

「俺のせいではあるまい、だが言い出しとしては責任を取らんわけにもいかんだろうな」

 

マルムヴィスト、エドストレームも既に武器を用意している。

「もうこれ以上あの女をのさばらせておくわけにもいかん。

今夜、確実に奴を殺す。俺たち4人がかりででもな」

ゼロが目に殺意を込めると暗黒街最強と言われる男の殺気に残りの3人も同じく目に殺気を宿す。彼らは皆一流の殺し屋、狙われたものは生きていない。

 

「問題はどこでやるかだが・・・ここがいいだろう、あの女が通る道で既に人払いも済ませてある」

「ほう、ここは・・・確かに。だが幾ら人通りも少ない場所とは言え、王都でここを人払いさせるのは骨だったろう」

マルムヴィストがゼロが地図上で示した襲撃地点を見て感嘆する。

如何に人通りが少ないとは言え、まさか王都の路地で襲撃するとは大胆極まりない。

 

「私が上に掛け合って、更にここの馬鹿貴族供に鼻薬を嗅がせたのさ。

ゼロ、感謝してほしいね。正直安かなかったよ、

組織が貸してたあいつらの借金をチャラにしなきゃならないのは結構痛いんだよ」

 

地図上の襲撃地点は貴族街の通りで、両端を貴族の王都での屋敷が占めている区画だった。

ここなら屋敷の者さえ目をつむれば、確かに最小限の一目しかつかないだろう。

 

「ふん、そいつらとて俺たちの流す麻薬の上がりがなければ毎日馬鹿騒ぎして暮らせん輩だろう。だがよくやってくれた、あの女と蒼の薔薇が離れ離れでかつ使い魔の狼がいない今が最大のチャンスだ」

 

ゼロは3人を見渡し、決意に満ちた目で続ける。

「いいか、相手を所詮一人でミスリル級だと舐めてかかったのが二人の結果だ。

俺たちは違う、あいつの戦力を過小評価せずに全力で叩き潰す。

たとえ相手が一人だろうとな・・・」

 

・・・・・・

一方でアンゲリカは自分を付かず離れず尾行してくる連中の行動にパターンがあることを見抜いていた。

(私に向かわせたい場所があるみたいね・・・・いや、向かわせるというより・・寄り道しないように見学してるだけか・・・)

こちらが寄り道してほしくないというのなら、別に今のところは同行するつもりはない。

連中は本当に監視役であって、実力の差はわきまえているようだ。

教科書に載るような待ち伏せという奴だろう、やっぱ殺しておこうか。

だが、スタスタと無頓着に王城から少し離れたところにある貴族の屋敷のある通りまでやってくると空気が変わり。

監視の連中が離れていった。

(壁の裏、屋根の上、藪の中、街角の死角・・・・主力が4人に取り巻きが20人ね)

「隠れてないで出てきたら?そんな殺気を撒き散らしてたらバレバレよ」

 

アンゲリカが姿なき刺客に声を出すと途端に街角から強化された火球が飛んできた。

(スピード、威力、効果範囲、精度、お話にならない)

ひょいと体をかがめ最小限の動きで攻撃を回避する。

続けて空中から曲刀が幾筋も闇に紛れて飛んでくるわ、毒塗りのメスっぽいのが飛んできただけだ

いずれも上体と足を

踊るように捻り最小限の動きでスルー。

アンゲリカの騎士装束

騎士の中でも幾たびもの死合いを生き延びた熟練者は紙一重で攻撃を避ける

ゆえにいかなる攻撃もそのレースをかすかに綻ばせるのみである。

奇襲が軽々と躱されたことに驚きを隠せない押し殺した声が夜の町並みに微かに聞こえた気がした。

「退いていろ、どうやら奇襲で片がつくと思い込んでいたのはまだ間違いだったとはな・・・・」

 

暗がりから巨漢が姿を現した、ゼロだ。

その全身の刺青が輝き、既に全力の戦闘体制にあることを示している。

ゼロとしてはここで注意を引きつけ、たとえ卑怯でも確実に殺すつもりだった。

会話をしようと悠然と進み出てきたのも未だに自分が強者だという余裕の表れでもある。

が、そんな馬鹿げた茶番に付き合うほど暇ではない。

(目標順位:1魔法使い 2:毒ナイフ 3:曲芸師 4:モンク

所用撃破時間 推定0.8秒)

ゼロが余裕たっぷりに注意を引くつもりだった次の瞬間には後方へと跳躍

第一目標のエルダーリッチに向かって30mを一瞬で飛んだ。

デイバーノックが反応する時間すら与えずに左手の銃弾を5mの至近距離から発射、一撃で頭から上が消し飛び偽りの生を持った死者は本当の死を迎えた。

咄嗟に攻撃魔法で応戦しようとしたが、既に手遅れだった。

 

次に返す刀で銃弾を装填しつつマルムヴィストに毒メスを投擲

さすがは超一流の暗殺者というべきか、飛んできたメスを手に持つナイフで弾き返そうとする。

だが、メスはナイフの方をやすやすと紙のように切り裂き、マルムヴィストの頭蓋に直撃。

脳髄をぶちまけて毒使いが毒メスで殺された。

別に毒メスである必要はなかった気がするが。

メスを投げて銃弾の装填を終えると、ようやくここでエドストレームが反応を見せ浮遊している曲刀がアンゲリカの方に再び向かってきた、しかしながら彼女が1秒でも長く生き延びたいのならその曲芸で目をくらませつつ逃げの一手を取るべきだった。

持っている杖でその飛んできたシミターをかたっぱしから払うと、それだけで全て粉微塵になった。

一瞬で間に飛んで入ると、銃口を顎に突きつけて発射。

王都に再び轟音が響いた時、そこには妖艶な体を持った美女の無残な首無し死体が転がっているだけになった。

咄嗟に両腕で体をかばうゼロ。『武技:不落要塞!』

この一瞬で杖の一撃を防御したのは流石だと言える。

「うおぉぉぉぉ!」

ただの杖にしか見えないのに、その一撃は剛力のハンマーのように重く名刀のように鋭い。

あまりにも鋭い一撃の前にゼロの武技によって鋼鉄に匹敵する強度まで強化された肉体もボロボロと崩れ去っていく。

両腕は簡単にひしゃげ、衝撃を受け止めた足は膝をついた。

内臓に衝撃が走り、肋骨も5、6本はおれて肺に刺さったのかヒューヒューと風が抜けるような音が息をするたびに鳴る。

全ては1秒以内に起こった出来事、周りを見ていた手下も何が起こったのか全く理解できなかった。

「あら、まだ生きてた」

実にあっさりと、美しい声がなんでもないことのように上から告げる。

「決めたわ、誰か知らないけど・・・あんたの遺志は私のもんよ」

世にも悍ましい笑顔で絶世の美女がそっとゼロの血塗れの胸に触る

(なんだ?これは・・・俺は・・・悪い夢でも見てんのか・・)

「大丈夫、何があっても・・・全部悪い夢のようなものよ」

そっと触れた手はまるで抵抗がないようにゼロの中へと沈んでいく。

ゼロの全身に激痛が走り、叫び出しそうになるが既に肺が潰されているため声も出ない。

メリ・グチャ

という音とともに・・・アンゲリカが手を引き抜くとゼロの中身が勢いよく道端に散らばった。

ゼロだったものもその時にどこかへ行ってしまい、いなくなってしまったのだろう。

 

『う・・うわぁぁぁぁ!!』

遠巻きに人を遠ざけ、アンゲリカの逃亡を阻止するために配置された部下もそれを見てようやく理解した。

六腕が全滅した、まるで道端の石ころでも蹴っ飛ばすようにあっさりと。

「駄目よ、ここの血は私の物。

勝手に持って帰っちゃ駄目」

だが血に酔った狩人は彼らを逃さない、折角の血を無駄に流すことはない

せいぜい有効活用させてもらおう。

王都の深夜、人気のない道に男たちの悲鳴が響き渡る。

悲鳴と、血と、死臭。

何一つヤーナムと変わらない日常だ。

 


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