おいでよ獣狩りの町 あの田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました   作:溶けない氷

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Hunt 26 The old Blood

それにしても開幕初日から・・・いや?転移してきてから3日か?三年か?三百年ということはないだろう・・・多分な

美少女チームを助け、しかも貴族のご令嬢がいてベッドで愛し合う中になり

今もまた悪党どもを倒して王族と知り合いになるとはまるでラノベの主人公のようだ。

ラノベ主人公が人間を串刺しにしたり、腑を街中でぶちまけたり、皮を剥いだ奴の内蔵で縄跳びして遊んだりするのは・・・どうもイマイチ普通すぎてつまらん。

 

「あの!宜しいでしょうか?」

大金を受け取り、やっと宿に帰ろうかという先に例の案内の兵士のクライムが呼びかけてきた。

「うん?何かな?」

 

「我が主、ラナー姫様が是非とも王国戦士長と見事な立ち回りを演じ

また、かねてより親交の深いラキュース様とも親しいとの事でブリューティヒ嬢と是非とも一度会ってお話ししたいとの事です」

 

クライムがさらさらと伝える。

要するにお姫様の暇つぶしに付き合えということか?

「ええ、是非とも・・・・」

ラキュースの知り合い、なら私がこの世ならざる者であることも知っている筈。

なぜ?わざわざ私に会いたいなどと言い出したのか?

ただの好奇心か?ふむん・・・あれがこうなってああなって、

ほんにゃらほにゃらか一期一会のトゥルットゥー!(啓蒙up

会ってみよう,楽しんでくれるといいが・・・いや!私が楽しむのだ!

「あら、でもこの格好で大丈夫かしら?

芳しき姫君に謁見賜るに、我が血と死臭に彩られたこの装束は不吉の誹りを免れぬ」

ひらひらとしたレースで飾り付けられた騎士装束は実際のところ、冒険者が纏うにしてはあまりにも贅沢だ。

男装の華人、今のアンゲリカの格好はまさにそれだった。

「いえ、その服装であれば姫様の前でも見劣りはしないと存じます」

男装とはいえ、その華美ながら凛々しさを感じさせる格好はむしろ彼女の美貌を際立たせるもの。カインハーストの穢れた血族を特徴付ける銀の髪こそないが

その美貌は間違いなく王族の血を引くものだと言われれば誰もが納得するだろう。

「あら、お上手ね。王族付きの護衛ともなれば口の上手さも選抜基準になるのかしら?

はは、いいのよ。今のは冗談、それに私の事もそんなにお堅く話さなくていいわ。

私もご大層な名前がついていても平民だしね」

クライムは驚いたような顔をしていたが、やはりそこは生来の生真面目さが勝ったのか

結局硬い態度を崩すことはなかった。

 

「ではこちらの方へ、私がご案内致します」

王城の渡り廊下を抜けて、豪奢な鎧に身を包んだ近衛兵のいる大きな扉の前までやってきた。

「姫様への来賓のブリューティヒ嬢をお連れいたしました」

 

誰であろうと、ここより先の宮中に立ち入るには殿中ゆえ白刃を持ち込むこと許されず。

アンゲリカは騎士に武器となりうる杖を渡した。

もっとも、彼女の装備欄には月光の大剣が収納されているので本気を出せばこの程度の小城

5、6秒で消し飛んでしまうだろうが。

 

女性騎士によるボディチェックを受けるとついムラムラしてベッドに引き摺り込んでギシギシアンアン言わせたくなるが我慢した。

この世界は顔面偏差値が非常に高い、現に目の前で待っているクライムですら普通の顔立ちらしいがリアル世界ではかなりのイケメンだ。

これで黄金とまで称されるラナー姫だったらどうなってしまうのだろうか。

期待に胸が弾む。

女性騎士の検査を受けて、宮中に足を踏み入れると豪奢な扉の前に控えていた侍女が

「ブリューティヒ様、どうぞお入りください」

 

と入室を許可する。

実に込み入った手続きが連続するが、入った途端に戦闘が始まり必殺のソウルの矢が飛んでくるわけでもないので安心した。

 

部屋に入ると何とも餌付く芳しい乙女の香りがした、これが正真正銘のお姫様の香りかと内心ドキドキするアンゲリカ。

一方で月の香りのする狩人を自らの居室に迎え入れたラナーは奇妙な感覚を覚えていた・・・

そう、何かあるいは誰かが自らの頭の中に囁きかけてくるような。

ラナー 啓蒙1up

 

「お初にお目にかかりまわ、ブリューティヒ様、私の事はラナーとお気軽にお呼びください。

ラキュースも二人の時はそうお呼びになるんですのよ。

ふふっ、その代わり私もあなたのことをアンジェとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

唐突に美女から親しい間柄になりたいと言われて喜ばないガチレズはいない。

「ええ、無論よ。ラナー・・ラナー・・ふふっいい響きね」

あわよくばもっとお近づきになりたいのが正直なところだ。

ラナーが鈴をチリチリと鳴らすとメイドが銀のカートに香り立つ紅茶と茶菓子を持ってきた。

乙女が二人揃えば話にも華が咲く。

たとえ狂人と狂神であっても外見だけは美女二人だ。

話すことは多々ある、共通の友人とも言えるラキュースの事を軸にした話だが・・・

 

メイドを下がらせ、ラナーの瞳に好奇心が宿る。

「ねぇ、アンジェは四大神と同じって聞いたわ。

正直信じられなかった、でも今なら信じられる。

だってこんなに綺麗なのに、あの怖い六腕を二人もやっつけられたんですもの!」

 

ラナーはアンジェをとことん持ち上げます、その真意がどうであれ・・・・

そしてしゅんと瞳から光を乏しくしてラナーは続けました。

「ああ、私も貴女やラキュースの様にふるまえたらと常々憧れているんですのよ

こんな籠の鳥じゃなくて・・・・

あら、ごめんなさい愚痴を聞かせるなんて嫌な女ね。

ねぇ、貴女の冒険譚やかつての仲間についてもっとお話ししてくださりますか?

貴女の冒険譚を貴女自身の口から是非聞かせていただきたいのです」

 

ラナーの猛烈なアプローチが功を奏したのか、アンゲリカは気を良くして話を始める

 

____

「ええ?それでは貴女たちは最初から強かったわけではないと?」

「ええ、初めは誰もがLv1だった、モンスターを大量に殺して経験値を得て・・・」

経験値・・・なるほど、彼らの強さの根源はそれかとラナーが思考を巡らせ・・・

 

「まぁ、それでは異業種といっても姿形だけで中身は人間だと?」

「うん、魂は紛れもなく人間よ。まぁ信じられないけど・・・」

中身は人間、知能も・・・ならば相手がどれだけ強大でも付け入る隙は十分にある、今の様に・・・

 

 

「大変素晴らしいお話でしたわ、アンジェ。あらまぁ、もうこんな時間なんて。

ふふっ、こんな私の愚痴話に付き合ってくれてありがとう」

 

といってラナー姫はまた鈴を鳴らし、お付きのメイドにアンゲリカを城の外まで見送らせる。

 

(そう、本当に・・・本当にありがとう、アンジェ。

プレイヤー、レベル、ユグドラシル、種族・・・・

本当に知らない世界を知るって素晴らしいわ

アンジェ、でも貴女は強すぎて自由すぎるわ・・・だから今はまだ3番目に良い駒ね)

1番はレエヴン公爵、2番はラキュースらしい

ラナー姫が瞳から光を消して考えるのは何か、今の時点ではまだ誰も知らない。

とはいえ、その目的はペットのクライムと悠々と過ごすことにあるのであって

手段は問わない、たとえそれが斜陽の王国を地獄の業火に投げ込むことになっても。

バルコニーから眼下の美しい庭を散策しながら外に出るところのアンゲリカの後ろ姿をニコニコと眺める。

が、瞬時彼女の脳に再び囁く声が聞こえ・・・

アンゲリカはチラと振り返った、唇が動き聞こえないはずの声

知らないはずの言葉が囁き始める

『L'abîme est là.

Craint l'ancien sang!』

 

「つっ!」

ラナー姫は鋭く、そして鈍い頭痛に美しい顔をしかめ部屋のベッドに倒れこむ。

ラナーの啓蒙が上がった!

 

 


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