おいでよ獣狩りの町 あの田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました   作:溶けない氷

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Hunt 13 冒険者

一方でリ・ロベルの冒険者組合はアンゲリカが街を見て回る間に大騒ぎになっていた。

ただの期待の新人であれば、組合長や幹部自らがその冒険者のプロフィールに目を通す事も時々とはいえある。

しかしながら今回現れたのは蒼の薔薇の推薦で登場した超強力な魔獣を従える新人。

しかもその魔獣が一騒動を起こしたとあれば、

実際にはシフを見て町の警備兵が勝手に大騒ぎしただけなのだが。

召喚したアンジェから見れば、シフは確かに強力な傭兵NPCだが実際にステージボスとして戦った事のある経験から言えば召喚できる今では普通でしかない。

ボス敵として登場すると強いけど、味方になると普通という事態はよくある。

というか、ゲームバランス上の仕様なので仕方ないが。

だがここはユグドラシルではない、難度300というのはここでは伝説の神々の領域の存在だということをラキュースはよーく説明した。

「わかった、気をつける」

わかってないな、この子と思ったが注意してもどうしようもないため

とりあえずパーティーの中で最もお母さん力が高いイビルアイをお目付役にして

今は冒険者組合長と彼女と狼の冒険者登録を済ませることにした。

「ですから、いくらなんでも魔獣を冒険者というのは無理なんですよ」

「ええ、でもあの狼の希望でして・・」

 

当然のごとく断られてしまったので

「では・・・あの狼の責任者として彼女を登録し

その証明として擬似的に魔獣プレートを発行していただけませんか?」

 

「あの狼の首輪がわりですか?ええ、それなら・・・」

 

・・・・さすがに狼が冒険者というのは無理だったが、プレートを発行すること自体は問題なかった。

問題はアンゲリカの冒険者登録だった。

 

・・・・・・・

 

「ねぇ、まだ終わらないの?」

街をちょっと見て組合に戻って来たアンゲリカは

手持ち無沙汰に杖を変形させ戻すを繰り返している。

だいぶ時間が経っているが、急かすイビルアイがいなければ夜まで遊んでいたろう。

 

ここで重大な問題が発覚した、アンゲリカは自分の名前がかけない。

言葉は通じるのに、文字の読み書きはできないので代筆を頼むことにしたのだが

問題は彼女とシフのランクだった。

普通なら銅から始めるところだが、彼女にしてもシフにしても明らかに銅の冒険者ではありえない実力者だということは蒼の薔薇の一同も認めるところだった。

加えて、シフ自身が冒険者になるというのも前例がなかった。

シフのプレートは実質ただのお飾りなので別に素材が何でもいいらしいが。

 

「?冒険者って誰でもなれるんじゃないの?」

 

「いや、確かに誰でもなろうと思えばなれるが

あくまでも人間が基本だな、亜人のエルフやドワーフならともかく魔獣が冒険者というのは聞いたことがないな」

 

イビルアイが常識を説明するが、アンゲリカからすればユグドラシルでは冒険者というのは別に登録するものでも種族に制限がかかるものでもない。

”ぷれいやぁ”=冒険者だし、銅や金といったランク制もない。

異形だろうと、冒険者であるのは当然だし、傭兵NPCも冒険者として設定しているものが殆ど。

イベントクリアで仲間にできたり、文字どおり雇ったり、リアル課金して雇える。

シフが冒険者だというのはユグドラシルでは誰にとっても当たり前すぎる認識だろう。

 

「ふぅん、その割には、エルフやドワーフ種の冒険者って見ないね」

「まぁな、ぷれいやぁの世界には奴隷制度は無かったんだろう。

人間種が幅を利かせてるところでは亜人は肩身が狭いからな」

 

帝国でも法国でも亜人は奴隷とされている。

王国ではそもそも出会う事自体が稀だろう。

 

「でも、エルフやドワーフのプレイヤーって結構メジャーだったのに不思議ね」

「亜人種のぷれいやぁはそんなにいたのか?」

イビルアイは周りの耳を気にするが、幸いにも通された待合室に他の耳はない。

 

「いたよー。異形の肉体は使いにくいからって、少ないけど

エルフやドワーフ系統は種族ボーナスがあるから特化したビルド作りたい人ならそっちを選ぶことも多かったよ」

 

また訳のわからない単語がポンポン出てきたが、要するに人間より優れた部分もあるので入る肉体として選ぶぷれいやぁも多かったと言うことらしい。

 

「改めてとんでもない世界だったんだな、自分の入る肉体の顔立ちや体つき、性別はおろか種族までもを選べるとは・・・」

 

イビルアイは感心しているが、ゲームの世界と現実は違う。

「いや、そうでもないよ。実際のところは、

自分たちの世界すらうまくコントロールできなくて環境汚染はもう手のつけようがなくなってた。

アーコロジーにしても誰も認めたがらなかったけど、

千年保証の筈が五十年も経ってないのに、手抜き工事がやっと発覚して

あちこちガタが来てもやっつけ仕事で誤魔化してたし」

 

イビルアイには想像もつかない単語の羅列だが。

その事についてはこれ以上は語らないでおこう、とアンゲリカはその時点でやめてしまった。

言いたくないこともあるのだな、と饒舌なアンゲリカの別の面を見た気になったイビルアイは特に質問しなかった。

 

「お待たせしました、ブリューティヒ様。

冒険者登録の件ですが・・・」

受付嬢がなぜか待合室のこちらの方にまで足を運んで来た。

 

「今回は蒼の薔薇の皆様直々の推薦ということでミスリル級への飛び級昇進ということなのですが・・・」

 

 

「いや、私は別に何でもいいけど」

「いや、アンジェ。実際のところアダマンタイトに不釣り合いな銅が入っているというのでは色々と不都合があるんだ」

 

イビルアイ曰く、あまりにも大きく格の違う冒険者同士が入っていると・・・

まぁアンジェの実力は皆が知っているが、この世界では実力はプレートによって示されるので

明らかに実力不足の銅ではアンジェの実力自体疑われる、いちいち証明するのは時間もかかるので王都以外ではミスリルプレートを取得するのが一番だと言った。

前にも貴族のボンボンが箔づけのため、金を出してオリハルコン級に実力不相応に入った

いわば寄生冒険者という悪い例があるため、こういう事はきっちりしていなければいけないのだ。

「ああ、要するにプラチナ身分証明書みたいなものね」

反社会的思想を持たず、身内からも”思想犯”が出ていない裕福で”綺麗”な体制派の身分だということを証明する例のあれと同じ。

俗称だが公然の秘密として存在し、病院・入学・就職で明らかな特権が得られる。

プラチナとなると、かなりの便宜が図られるが実質的特権階級でなければ取得は不可能だった。

 

「それに関して、組合長と市長が面談を要請されておられるのです。

こちらもプレートの準備にミスリルとなると時間がかかりますので。

さすがに今日すぐにとは参りませんので、明日昼頃によろしければ」

 

ミスリル級ともなると昇進しそうな人物が現れてから実際に昇進するまで時間があり、

その間にあらかじめプレートを用意しておくものだが今回は如何せん時間がなさすぎた。

冒険者、中でも銅や鉄くらいならいざ知らず白金以上ともなれば冒険者にもそのランクにふさわしい人格の持ち主であることが求められる。

何しろ、国家権力に介入しないさせずの武力組織の重要な一員なのだ。

当然、実力は無論のこと誰からも信頼される人格者であることも必要とされる。

 

「面談?面倒だなぁ・・・」

 

冒険者の存在が当たり前のユグドラシルではカルマ +500だろうがマイナス500だろうが冒険者は冒険者だ。

 

不味い!とイビルアイは仮面の上からでもわかるぐらいに動揺した。

イビルアイの長い人生?経験からアンジェが正直でまっすぐな子だというのはわかる。

正直でまっすぐで、深窓のお姫様よりも常識がない伝説のドラゴンがどんな面談をするのか?

脳内でシュミレートしてみる。

 

組合長 得意な事は?

アンジェ 敵の内臓引っこ抜く事です!

ええ・・・・・

 

ご出身は?

ゆぐどらしるです!六大神や八欲王と同郷です!

ええと・・・・

 

王国で冒険者をしようとした理由は?

世の中を見て回りたいからです

 

ダメだ!最後はともかく、いや確かに合ってはいるが、それじゃダメなんだ!

「ああああアァー!ちょ、ちょっと思い出した!アンジェ、ちょっといいか!?」

「うん?トイレ?それなら一緒に・・・」

「違うわー!」

 

隙あらばセクハラしてくるアンジェを連れ出し、ヤーナムの一件とアンゲリカ・シフについて報告を終えたラキュース達と宿屋へと戻るイビルアイであった。

シフは冒険者組合の外で待っていたが、あまりの威圧感に組合に誰も表から入ってこれなかった。

アンゲリカがシフに跨り、街中を歩くと誰もが畏敬と称賛、憧憬の視線で彼女を見上げる。

曰くあの麗人は何処のご令嬢か。

あの威風堂々たる獣はいかなる獣の王なのか。

あれほどの魔獣を従えるなど、とてつもない魔獣使いだ。

人々が彼女を見上げる視線は正に英雄を見るそれだ。

あれが蒼の薔薇の期待の新人だと、それならあの大狼も納得だ。

なぜかラキュースはぐったりと疲れた顔をしている、さすがにヤーナムから帰って来たせいだろう。シフにまた乗る?と聞くと遠慮していた。

 

シフには宿へと戻る際には、厩舎に入ってもらうことにしたが明らかに窮屈そうだ。

 

 

 


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