おいでよ獣狩りの町 あの田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました   作:溶けない氷

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Hunt 12 大狼

「では、例の街は危険なダンジョンということで。

永久立ち入り禁止指定・・・だそうだ。

幸いあの街には強力な封印が施されており、モンスターが溢れ出てくる事はない。

残念だが、例のミスリルチームは全滅していた」

 

リ・ロベルの近くまで転移したイビルアイは事の次第を組合に報告。

街の中には強力なモンスターがひしめき合っており、極めて危険。

実際に、協力者の存在がなければアダマンタイト級の自分達ですら危なかったと念には念を入れて警告しておいた。

 

一方でそれが半ば無駄に終わることも。

(報告はすぐに知れ渡るだろう、帝国は当然偵察隊くらいは送るし

何より法国はぷれいやぁ関連だ、噂の漆黒聖典が出て来てもおかしくはないか)

だが一番の問題は王国の貴族だろう。

斜陽の貴族がお宝の匂いを嗅ぎつければ冒険者を送り込み・・・結果は見えている。

無駄死にがこれ以上出ないように手は打ったが、完璧には程遠い。

(だが、依頼内容はこなしたんだ。悪いがこれ以上は手の打ちようが無いな)

 

後はラキュースたちの帰還を宿で待つだけとなったイビルアイは他に用事もないからと

冒険者組合から宿の方へと足を進める。

 

冒険者組合に報告を終えると、イビルアイは街の門の方が騒がしくなっているのを聞きつけた。

吸血鬼としての優れた五感ならではの耳が人々の悲鳴を聞きつける

「巨大な魔物だぁ!」「衛兵!衛兵!」「緊急招集だ!」

「神よ・・神よぉ・・・お助けください!」

 

すぐさま街角から門へととって返すイビルアイ。

(くっ!こんな時に魔物だと!?難度は?ラキュースたちがいない時に・・・)

イビルアイは大抵のモンスターになら負けはしない。

長い時を生きた伝説の吸血鬼国落とし。

そのレベルは約50、この世界では正に規格外と言っていいだろう。

 

イビルアイはすかさず『フライ:飛行魔法』で飛んでいくと

城壁の上に取り付き、そこから弓を構える衛兵に尋ねる

「おい!私は冒険者チーム、蒼の薔薇のイビルアイだ

状況はどうなって・・・」

 

そこから見えたのは灰色の毛並みを持つ一見しただけで凄まじい力を持つ巨大な狼・・・・

(な!なんて奴だ、魔神以上・・・こんな化け物が・・・あれ?)

「あ、イビルアイだ。おーい」

と呑気に手をこちらに振る狩人とぐったりとした蒼の薔薇の残り4人だった。

乗った当初こそラキュースははしゃいでいたが、シフが走り出すと青い顔をして必死にしがみついていた。

本気の走りでは無かったが、やはり狼に乗るというのは慣れていないと難しいのだろうかと

アンゲリカは思った。

「な・・・・何をしとるんだぁぁぁぁ!」

思わず叫び出すイビルアイであった。

 

・・・・・・・

シフを町中に入れるに関してはすったもんだがあった。

確かにテイマーなどが使役するモンスターを冒険者組合で登録する制度はあるが

普通はどんなに高くとも精々難度30程度までを想定している。

強力なアンデッドのリッチが50程度なので30というのはかなりの戦力なのだが

難度がポンと300のシフを冒険者でも無いアンゲリカが登録できるかどうかという点では・・・

「え、シフは冒険者で登録するんでしょ」

「「「「「え?」」」」」

と蒼の薔薇一同が思わず聞き返してしまった。

「えーと、聞き間違いでなければアンジェ?この狼を冒険者に?」

ラキュースは隣に座る見上げるほど巨大な大狼を横目で見る。

街の警備兵も住民も恐れをなして遠巻きに見守っているばかりだ。

「?そうよ。騎乗用NPCならともかく傭兵NPCってそういうもんでしょ?」

一同は呆然とした表情で黙りこくってしまった。

アンゲリカにしてみれば傭兵NPC扱いのシフは形が狼で乗れるとしても

人間NPCと基本的に大差無い。

「いやいやいやいや、確かにこいつがとんでもなく強いのは認めるけどよぉ。

でも冒険者ってのは・・・なんか違う気がするぜ」

シフはわふっとガガーランの”とんでもなく強い”のくだりに喜ぶ。

かの英雄アルトリウスの友なれば、この程度は当然だという風に。

「でもシフは私と対等の友人であっても部下とか手下じゃぁ無いから

私の使役する魔獣なんて事になったら機嫌を損ねる」

シフも首を縦に振って肯定する、更にラキュース達蒼の薔薇が身につけているプレートを見つめて

「プレートに刻む名前は”灰色の大狼シフ”だそうよ」

・・・・

アンゲリカとシフのいきなりの到着と要望に冒険者組合はすったもんだの大騒ぎに包まれた。

強大極まりないモンスター(しかも狼)を冒険者に登録して欲しいという前代未聞の要望に

受付嬢だけでは当然のごとく対処できず、冒険者組合の支部長・更には市長まで巻き込んでの一大事件になった。

「もうどうにでもなあれ」

ラキュースは壊れた

「リーダーしっかり」「ここからがボスの腕の見せ所」

ガガーランは面倒な事態だとは思ったが、命の恩人でもあるアンゲリカの意向をなるべく組んで組合長と都市長に事態を説明しようとしていた。

「冒険者登録って思ったよりも大変なのね」

そんな事になっているとは露知らず、城門を通してもらったアンゲリカとシフは街の屋台で買った

くし焼肉やお菓子などといった、食品を買い食いしていた。

「はい、1G」

金貨で。

「ちょっ!待て!なんでそこで金貨を出す!?」

この件について呼び出されたラキュース達が不在の間、アンゲリカとシフが好き勝手騒ぎを起こさないようにお目付役として

「一枚でしょ?」

「銅貨一枚に決まってるだろ!」

 

するとアンゲリカは「銅貨?」と首をかしげる

「まさか・・・銅貨とか銀貨とかわかるよな?」

「いや?魔除けの銀貨とかならあるけど?でもあれって支払いに使うもんじゃないでしょ」

「いや・・・もういい」

と、イビルアイは店主に先々で支払ってくれた、やっさしー。

「ねぇ銅貨ってどこで買うの?」

「・・・・・・・・」

吸血鬼なのに何故かどっと疲れたイビルアイであった。

ところがこの後、この世界での貨幣制度について説明したら・・・

「いや、それっておかしいでしょ。金貨が銀貨100枚分で銀貨1が銅貨100で固定なんて。

金属価値は変動するのに、貨幣の交換レートが固定なんて」

と訳のわからん質問を返されてしまった。

 


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