おいでよ獣狩りの町 あの田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました   作:溶けない氷

10 / 43
Hunt 10 夜明け前の夜明け

「さてと、これでユグドラシルのことについては大体説明したかな。

それで、君達はどうする?

輸血を受けて私と同じ悪夢の囚われ人になってクリアを目指してみる?

ヤーナムの輸血とは獣の血を体内に入れることによって肉体と魂を悪夢に繋げる事

悪夢に囚われそれでも終わらない獣狩りの夜を駆け抜ける

獣の血を受け入れたものは、この原因となるものを消さない限り夜明けを迎えられない」

 

 

「悪夢の囚われ人・・・アンジェが永久不滅の理由か?

自らの肉体に獣の血を入れることによって永久不滅となる。

話を聞く限りではまるで・・・まるで吸血鬼の逆だな」

吸血鬼として、他人を吸血鬼にする能力を持っているイビルアイとしては思うこともあった。

気分を害しないかとラキュースが止めようとする

「ちょっと!イビルアイ!」

 

「いいんだよ、確かに私も吸血鬼に似た能力だとはわかってる。

それどころか回復に至っては吸血鬼よりドギヅイ方法だしね」

 

「回復能力?私のこの疼きも癒して欲しい」

ティアが空気を読まずにセクハラ発言を連発するがスルーして

「血を浴びるのさ、獲物の新鮮な血を全身に浴びることによって回復できる

ああ、心配しなくても普通にポーションや薬草とかでも回復できるよ」

「・・・・なんていうか、確かにそりゃ吸血鬼より絵柄的にエグイな」

 

「そして、悪夢の囚われ人は常に危険に晒されている

獣人化と発狂、危険な病。

君達も見たろう、あの獣人達を。

あれが獣の血の常習者が暴走した結果

啓蒙の低いものは理性を無くし獣となり周りを傷つける

啓蒙高ければ悪夢に近づき過ぎたために発狂し、周りを傷つけて死ぬ

私が狩ってるのはそういう連中なんだ」

 

「それって・・・恐ろしく危険ね

一歩間違えれば強力なモンスターが作られるってこと」

ラキュースは王都がこんなことになってしまった未来を想像して手を握った。

「ああ、王国でも帝国でもアンデッドになってでも不老不死を願う連中には事欠かない

ましてや、なりそこないでもあんな強力なモンスターを作れるんだ

貴族連中が耳にしたら間違いなく分をわきまえず利用しようとするだろうな

兵器として」

王国でも帝国でも人間の欲望の際限の無さを知るイビルアイは血の医療を恐ろしく危険な邪法同然だと判断し・・・実際にそうなのだろう。

 

「それって戦争の事?

人間同士の戦争に獣の血を利用しようなんて正気の沙汰じゃないね

それに一度獣の血を受け入れれば悪夢から目覚めなければ外には出られない

要するに戦ってこのダンジョンの主を倒さなけりゃフィールドには出られないってこと」

 

「悪夢の原因ってあの獣じゃないの?」

 

「あれは単なるチュートリアルボスの一つ・・・

ああ、言って見れば門番の一人に過ぎない。

この街の最深部の魔物は文字どおり桁違い。

たとえプレイヤーが24人かかっても力押しじゃ絶対に勝てないよ」

 

「そんな!それじゃアンジェは永久にこのまま・・・」

ラキュースはそんな化け物に勝てるわけないと思った。

獣ですら絶対的な魔神だったというのに

 

「いや、普通に出られるよ」

 

「へ?」

 

「だって、幾ら何でもクリアしなきゃ出れないなんて無いし。

まぁクリアはしたけど・・・・

はは、何千、何万回死んだかもう数えるのもバカバカしいくらい死んでようやくだったけどね」

 

アンゲリカは遠い目をしながらギルドの受付カウンターを眺める。

一日に100回以上死ぬことだって別に珍しいことではなかったのだ。

ちなみにクエストを出してくるのは使者たちである。

 

「せっかくの提案だけど、私たちは断るわ」

 

「・・・・そう。そうだね、その方がきっといい。

不老不死なんてきっと八欲王の事もあるし、ロクなもんじゃないだろうからね」

 

「ねぇ、アンジェはなんでこんなに話してくれるの?

だって、獣化や発狂・・・不老不死のことなんて他人に知られたくない事でしょ

ユグドラシル・・・神々の世界のことだって本来なら法国あたりの最高機密に関わることよ」

「ああ、こんな重大な事を知ったとなったら法国が我々を抹殺しに来てもおかしくはないな」

イビルアイもラキュースの意見には賛成だ。

アンゲリカの言ったのは特に機密情報の塊といってもいい。

ただのゲームのルールでも重大事件。

 

 

「さぁて・・・君たちがどこか嘗ての仲間に似ていたからかな」

アンゲリカは自分にも嘗ては攻略仲間がいたことを話し始めた

 

「いつも突っ込んでは殺される怒りっぽい半竜の剣士、なんでもできるが器用貧乏なエルフの弓剣士にスケルトンのレンジャー・・・・

ソロでの活動が長くても、狩場が同じなら自然と仲間になる機会はある」

 

懐かしそうに仲間の事を思い出すと

「スケルトン!?スケルトンのぷれいやぁなんて聞いた事ないわ!」

 

「いや・・・・確か法国の死の神、スルシャーナというぷれいやぁはスケルトンの姿をし強大な魔法を振るっていたと聞いている」

 

 

「スケルトンの魔法詠唱者ねぇ・・・・昔、ここにやって来た攻略チームのギルド長がそんなんだったけど。

名前は違うけど・・・偽名なのかな?

どっちにしろそんな昔じゃ本人かどうかもうわからないね」

 

昔、まだヤーナム攻略がトレンドだった頃。

異形種のみのギルドがここに攻略にやって来たことがあるとアンゲリカは話した。

「い、異形種のみのギルド!?」

「うん、昔は異形種狩り・・・人間種が異形種だという理由だけでぷれいやぁ同士が殺しあう事があったんだ

そういう迫害されたぷれいやぁが集まってできたギルドもあったと聞いている」

 

「そんな嫌なとこまで、アタシらの世界と同じなんてな。

何だか神様も随分と人間らしい連中だったんだな。

って、中身が人間ならそんなもんか」

 

「重要なのは中身だよ。人間だって悪人もいれば善人もいる。

異形種だからって悪事を働いていない者まで殺そうとするのはいただけないね」

 

 

「そうか・・・・・そこまで話してくれたのなら、私もまた信頼を示さなければなるまい」

そう言ってイビルアイは仮面を外そうとする

「おいチビさん!まだ!」

「いいんだ、どの道知っておいてもらわなければこの先不自然に思われるだろう。

それなら、自分から言ったほうがいい」

イビルアイが仮面を外すと、そこには実に美しい少女の顔立ちがあった。

だが、その唇から覗く可愛らしい牙、そして赤い瞳は・・・

 

「・・・・ふぅん、吸血鬼だったのか」

「ああ、私はこれでも三百年以上生きている。

伝説の吸血鬼”国堕とし”とも呼ばれている・・もっとも君の前では赤子同様だろうが・・・」

「あの!イビルアイは吸血鬼でも良い吸血鬼で!」

「わかってるよ、私を信頼して明かしてくれたんでしょ。

その代わり、私が永久不滅だってのも秘密ね。

それにアンデッドの仲間だって確かに珍しいけどいないわけじゃない。

とても紳士でこんな所でもタキシードにシルクハットのスケルトン剣士と共闘した事だってあるよ」

防御力がほぼこのレベル帯では無い。

更に打撃耐性が低いスケルトン種族。

どんな攻撃でも喰らえば一撃即死は間違い無いという構成で

”当たらなければどうということはない!”を地でいくプレイヤーの事を思い出した。

(いや、下手に防御を上げても無駄だから合理的なのかな?)

 

「・・・・なんていうかチビさんが普通に見えてくる仲間の構成だな」

 

「それはそうと、獣の血を受け入れないのなら・・・

君たちは死んでも簡単には蘇れないんだろ」

 

「ええ、私は神官だから蘇生魔法が使える。

けど蘇生時の弱体化・・貴女のいう”れべるだうん”は避けられないし

蘇生そのものにも媒体が必要」

 

「鬼リーダー、実は全然大した事ない?」

「鬼ボスのポンコツ疑惑、ボスの座危うし」

と余計なツッコミを入れたティアとティナの頭をどついて黙らせる。

 

「そうだね・・・そこらへんの獣人を狩ってレベルアップ・・・

魂を喰らって補う方法もあるけど、現状じゃどの程度補えるかわからない

それに簡単に死んだり蘇ったりなんて、この私が言うとおかしいけど

本来はあっていい事じゃないよ」

 

「だが・・・外への出入り口はどこにあるんだ?

あの入口は入った途端に閉まってしまったぞ」

イビルアイがこの街に入って来た時のことを思い出す。

 

「あれは街に入るための一方通行の入り口。

出入りするための門なら、ほらあそこにある銀盆がそうだよ」

とギルド内部にある巨大な銀の水盆に手をかざすと、そこが輝き出す。

直径が2m近くあるそれは見事な銀細工が施され、一見しただけで極めて高価な物だと伺える。

「やっぱり・・・これはユグドラシルでは街の外から転移するための物

転移魔法が使えないヤーナムへの出入り口さ」

 

ラキュースが顔をパッと輝かせて

「じゃぁ!これを使えば出られるのね!」

一同はホッとした顔を見せた。

「うん、そうだね。

じゃぁみんなこの盆の上に立って、出口までは一瞬だから」

そう言われて銀盆の上に蒼の薔薇の一同が立つが・・・

「ええと・・・・何も起こらないわよ」

「あるぇ?ちょ!ちょっと待って考えるから・・・」

 

なぜか起動しない銀盆のゲートの何が悪いのか考える

(ひょっとして・・・・”プレイヤー”にしか反応しない?

いや、でもそれなら傭兵NPCも使えたよね

どういうこと?)

 

(もしかして・・・プレイヤーとパーティーを組んだ傭兵NPCなら使用可能なの?

やってみるしか無いな)

 

「わかった、みんな。

私を貴女達のチームに入れて」

 

「えっ!?どういうこと?」

 

「もしかしたらだけど・・・この水盆はプレイヤーだけに反応する。

貴女達はNPCだと思われてるんだと思う。

それならプレイヤーとNPCがパーテイーを組んでると認識させられたのなら使える可能性がある」

 

「ええ、でも・・・いいの」

「あ、いや。君たちが嫌なら外に出たらすぐに解消すればいいだけだし」

「あ!そうじゃ無いの!私たちの強さは貴女に比べれば全く大したことないのに貴女は嫌じゃないかってこと」

「前にも言ったろ、私たちだって最初から強かったわけじゃない。

それに正直、君たちの事を羨ましいとすら思って来たんだ」

 

「羨ましい?俺たちを?冗談だろ。

だってアンタくらい強けりゃ何も悩むことなんて無いだろうに」

 

「それがあるんだよね・・・

やっぱり単独で冒険なんて限界があるんだよ、それにこの街も長い間過ごして来て飽きたんだ

不安だけど・・・ちょうど外の世界を見て回ろうと思ってたんだ

別れたのなら、私もそのまま外の世界を冒険するつもり」

 

「それなら・・・・そうだわ!蒼の薔薇に入ってそのまま一緒に冒険しない?」

 

「おい!ラキュース!」

 

「いいのよ!それに”ゆぐどらしる”の事ももっと聞いてみたいし

幾ら強くたって外の事を何も知らないんじゃ不便だってあるから

見て回るのなら知った人がいた方がいいでしょ!」

 

「・・・・確かに・・・それに貴女の強さは言ってはなんだが

この世界ではあまりにも強すぎる。

そして貴女も知っての通り、強いということは面倒事に巻き込まれる可能性が高い。

正直に言おう、王国の恥を晒すようだが貴女に無礼を働く貴族が・・・

ハァ・・・正直に言って王国の貴族は貴族と付くだけで馬鹿者の男が多い。

貴女の美しさに懸想した馬鹿が殺されるだけならいいが

その巻き添えで大勢の人間が死ぬだろう。

だが、名の知れた冒険者の一員という事なら貴女の身分の保証も敬意を得る事もできる」

 

(それに獣化や狂化のような明らかに厄介そうな事態も

知っている者が側にいれば対処しやすいしな)

 

「私も賛成、そのまま私と結婚して、グエェ」

「子供は何人?ショタが生まれたら紹介して、グエェ」

相変わらず空気を読まないお馬鹿な発言をしてはラキュースに絞められる二人であった。

 

「ま、私はいいぜ。強いのは確かだし、強い奴から戦い方を盗みたいってのもあるしな」

ガガーランは賛成のようだ。

 

「・・・・・わかった!じゃぁ改めまして

私、アンゲリカ・ブリューティヒ・ド・カインハーストは冒険者チーム

”蒼の薔薇”に加入します。これでどうかな?」

するとアイコンの右上のパーティーメンバーに

五人の名前が表示されたのが感じられた。

「おっ、いけたみたい!

それじゃ外に出ますか」

 

と、アンゲリカも銀盆の上に立つと銀盆は激しく輝き始め・・・・

 

次の瞬間には全員が高い壁を望む固く閉じられた城門の前にいた・・・・

既に夜は明けており、東からは赤く輝く太陽が昇る時間だった。

「夜明け・・・・これが夜明けなんだ」

 

地球は汚染され、太陽は濃い毒の濃霧に覆われ朝も昼も夕刻もヤーナムの赤い夜のように暗かった。

地球もヤーナムも、もはや存在しない夜明けに囚われている。

だからこれは彼女が見た初めての夜明けだった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。