おいでよ獣狩りの町 あの田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました 作:溶けない氷
おいでよ獣狩の夜の町
地球では普通の田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました
普通とは一体・・・いや普通だな!(啓蒙up
リ・エスティーゼ王国西部
都市リ・ロベル。
この都市の更に南東の森林地帯がある。
トブの森林ほどは広くなく、重要な交易路に面するでもないためこの森を訪れるのは開拓団の猟師程度である。
森の手前ならともかく、奥はほぼ人跡未踏であり薄暗い。
そんな鬱蒼とした陰気な森の中を5つの人影が進んでいた。
鬱蒼とした木々が陰気に見えるのは元からの環境の悪さに加えて、遠くに見える巨大な建物が落とす影がなんとなしに不気味に見えるからだろう。
美しい黄金の髪を持ち、深い闇色の大剣を背負った少女が遠くに見えながら、一向に近くならない町を見てため息をつく。
「だいぶ近づいた筈なのにまだ着かないなんて呆れた高さね」
既に未知の都市の尖塔が見えてからかなりの時間が経っている。
彼女たちが遅いわけではない、アダマンタイト級冒険者チーム”蒼の薔薇"
咄嗟の事態に備えて体力を温存できる速度で歩いているが、その速度は常人のジョギングに匹敵している。
それだけの速さにも関わらず遥か遠くに見える尖塔群が
一向に近くならないのは建築物の常軌を逸した巨大さゆえなのだろう。
「リーダー、やはり周囲にはモンスターの存在が見当たらない」
「こっちも。小型、大型を問わずそれどころか生き物の気配すら感じない」
静かすぎる森、"女忍者"のような恰好をした二人の双子の少女が周囲を警戒するが無駄に終わる。
森とは普通は大小問わず生物で溢れかえっている。
それが異常、あの都市が現れてから、この森では一切の生命の存在が感知できないかのようだ。
「だからといって、報告のあった町から何かが湧き出てくるわけじゃない。
そんなに心配することでも無いんじゃないか?
単に調査が長引いてるってだけの可能性もあるんだろ。
調査に行ってるのはミスリル級のチームだろ?
そんなに簡単にやられやしないって」
最後尾を警戒しつつ歩く筋骨隆々の女性が声を出す。
無論、自分でもこの意見がかなり希望的観測に過ぎないことはわかっているのだろう。
側を歩く少女が小柄だということを差し引いても女性の存在感は圧倒的だ。
「うむ、それもオリハルコンへの昇格試験を兼ねての中々の実力者揃いだったと聞いている」
小柄な少女が答える。
奇妙な仮面を被った少女が森の中を幼さに似つかわしくないしっかりとした足取りで進んでいくのはこの5人の中でも奇妙だ。
アダマンタイト級冒険者チーム”蒼の薔薇"
王国でも2組しかいない最高戦力
人類の切り札とでもいうべき彼女らがこの森に分け入り、謎の都市を目指しているのには訳がある。
・・・・・・・・・・・・・・・・
冒険者組合の応接間にて
「ミスリル級冒険者チームが消滅?」
冒険者組合の担当者から告げられた内容にブロンドの少女――ラキュースは目を見開いた。
「半月ほど前、リ・ロベル南東の森林地帯で発見された未知の都市。
近隣の開拓村の領主が森の奥深くに分け入った時に発見したそうです
組合も報告を受けて資料を調査しましたが、そのような都市の存在は確認できず
調査のため行政側が依頼を出したのですが・・・」
「強力なモンスターが出現したの?周辺の状況は?」
「調査の第一陣に金と銀が出動しましたが、彼らによると・・・
ええと、流石に口ではちょっと説明しづらいですのでこの写し絵を見てもらえますか?」
そう言われて持ち出されたのは彼らが遠くからの情景を魔法道具で写し取った写真のようなものだった。
「な!こんな・・・!」
ラキュースも仮面の少女も驚きを隠せない。
絵に描かれていたのは天に聳え立つ尖塔群に壮麗な寺院、広大な都市。
どう贔屓目に見ても王都はおろか帝都ですらこの壮大さには及ばないと一目でただの絵だというのにわかるほどの物だった。
「・・・・・・ご覧の通り、とてつもない大都市です。
ええ、無論全員に確認をとりましたが彼らの言は一致していました
森の奥深くに人気の無い都市があると」
常識はずれにも程がある、未開の森林のど真ん中に大都市を発見しましたなど。
「事態を重く見た行政は王都にも報告。
今度は貴族院からの要望でリ・ロベルのミスリル級冒険者に都市の調査と住人がいるのならばその状況を報告するようにとの要請が来ました
また、可能ならば都市に対して王国に帰属する意思を明確にするようにと」
「それは・・・・」
言うまでもない、王国の中にこんなどこにも所属していない都市があるなど大問題だ。
王国側に取り込み、あわよくばその利権を握ろうと・・・
今の腐った貴族政治の連中なら考えそうなことだ
「それで・・・ミスリル級チーム“剛剣”が都市の外縁部に到着し内部に入ってから既に1週間が過ぎているのですが未だに何の連絡もなく・・・
更に斥候が出されましたが、彼らまで行方不明になってしまったのです・・・」
「私たちへの依頼はその都市の調査と行方不明になったチームの安否の確認・・・・イビルアイはどう思う?」
「・・・・・あまりにも異常すぎる。これだけの規模の大都市が今まで見つからなかったなんておかしい。
いずれにしろ、何かがいるのは間違いないが
情報はこれ以外には無いのか?」
イビルアイと呼ばれた少女が仮面の奥から担当者を睨みつける。
「ミスリル級に続き、斥候も行方不明ということでこれ以上の調査は無用な損害を増やすと判断したようです。
それで、こちらの組合長が確実な任務の遂行をということでアダマンタイト級をと・・・」
連絡が途絶えて既に1週間、全滅していると考えるべきだろう。
ミスリル級が退却することすらできずに全滅・・・・
安全性を考えればアダマンタイトで今動ける蒼に回ってくるのは当然か。
「わかりました、確かにこの件を今受けられるのは私達だけのようですね」
担当が安堵したような顔をして必要書類を出して来た。
「誰も見たことがない壮麗な都市・・・ふふっ、わくわくするわね」
そばで見ていたイビルアイはまた始まったと頭が痛くなったような気がした。
・・・・・
そして猟師の見たという最終地点まで案内され都市の尖塔が見える位置まで来ていた。
それから大分歩き、ようやく日が暮れる頃になって都市の外郭にたどり着いた。
「うわぁ・・・これは・・」
「何ていうか・・・たまげたな」
彼らの目の前に現れたのはあまりにも高い城壁だった。
王都ですらこの都市の城壁の半分の高さもないだろう。
それほどまでの高さの城壁だというのに積まれた石は剃刀が入る隙間すらないほど精緻に組まれていた。
王都に居を構えるラキュースですら息を飲まれるほどの見事な城壁であったが不思議と城門には門がなく人の気配はしない。
それが却って更に不気味さを醸し出していた。
「人もモンスターも気配はしない」
「周辺に罠の類もない」
「魔法的な物も全く感じない、これは本当に廃墟なのかもしれん」
3人が城門周辺を捜索するが、見張りはおろか人の気配すらしない。
数多くの危険を乗り切って来た
未知の領域に夜踏み込むことは本来避けるべきだが、森の中で過ごすのも都市の中で過ごすのも同様に危険なのだ。
それならば都市の中、撤退可能な領域を調査し門の周辺で今晩は過ごし都市の捜索を夜明けとともに開始しようという結論にでた。
「明らかに異常だ。城壁も整い過ぎているし、中からは物音一つしない。
魔法的な反応も皆無
それだというのにここからでは中の様子が霧で全く見えん」
イビルアイは今までの自分の知識や経験にない状況に困惑し呟いたが
「確かに異常・・・でもここでこうやってても仕方ない。先に進むわ。
皆、全方位を警戒しつつ前進。少しでも異常があったら戦闘態勢に・・
霧で視界が悪いわ、物音一つ聞き逃さないで」
「了解、ボス」
「ニンジャの耳の良さが遂に生かされる時が来た可能性が?」
5人は全力で警戒を続けながら進み、城壁の霧の濃くなって来たあたりにまでやって来たところで
真鍮のプレートが道の側に打ち付けられているのを発見した。
「何か彫られてるな・・・文字か?」
「見たことないわね、わかる?イビルアイは?」
「いや・・・だがどこかで見たような・・・」
イビルアイは記憶を辿るがここのように頭の中にも霧がかかっているようで思い出せない。
「・・・・考えても仕方ないわ、進むわよ」
わからない文字を考えてもわからないので5人は進むことにした。
彼女達が日本語を読めたのなら引き返しただろうか?
それはもうわからない。
輝く真鍮のプレートにはこう彫られていた
“我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う
知らぬものよ
かねて血を恐れたまえ”