・クロスオーバー先が狂気に満ちている。故に、クロスオーバー先がFate要素を蹂躙する可能性高。
・オリキャラが複数登場。『ぼくの考えた最強のサーヴァント』的な存在がいる。
・SAN値に注意。
【主人公】
・ブルネット(黒髪)青目の白人であるが、日本生まれの日本育ち。
・本名は
・愛読書はH.P.ラヴクラフト著の『ラヴクラフト全集』。他に、クトゥルフ神話TRPG関連の本も愛読している模様。
【主人公関係者】
・黒服スーツに身を包んだ青年。神出鬼没である。
・名前のみ登場。部下がいる。
・シスター服に身を包んだ男の娘。死を愚弄する連中が嫌い。
2016年、狂気の年
"That is not dead which can eternal lie,And with strange aeons even death may die."
『そは永久に横たわる死者にあらねど測り知れざる永劫のもとに死を超ゆるもの』(大瀧啓裕訳)
『永遠の憩いにやすらぐを見て、死せるものと呼ぶなかれ果て知らぬ時ののちには、死もまた死ぬる定めなれば』(宇野利泰訳)
――H.P.ラヴクラフト 『クトゥルフの呼び声』(初出は『無名都市』)より。
***
「カルデアにいる人間たちって、死に急いでる感が凄いと思うなあ」
パンフレットに書かれている内容を頭の中で反濁しながら、
「時間跳躍を成し遂げなくては世界が滅ぶ、でしたっけ? 人理の守り手を自称していますが、ティンダロスの猟犬に対する対策なしで時間跳躍を行う自殺志願者どもの集まりですよ」
隣から響いてきた声につられて視線を動かせば、そこには1人の青年が立っていた。病的なまでに真っ白な肌に、黒洞々の闇を思わせるような黒髪黒目。
黒いスーツを身に纏い、黒曜石のループタイを身に着けた青年は、面白そうに笑いながらパンフレットを覗き込んでくる。
「でも、ナイアは『カルデアに
逸人の言葉を聞いて、青年――
「くく、くくく。言うようになりましたね、我らが愛し子は。……その分、他の面々からも膨大な加護を貰ったようですが」
「『人間は脆弱だから』と言っても、あれは過保護すぎるよ。おかげで、
逸人は深々とため息をつく。『自分にぶつかって来たトラックの運転手が即死する』という結果を目の当たりにしたこちらの正気度を考えてほしい。普通逆なのだから。
それが原因でカルデアスタッフからしつこい勧誘を受ける羽目になったと考えると、加護が対象者の幸運に繋がっている訳ではないと言うのがありありと体感できる。
ナイアは相変らずの笑みを浮かべ、懐から端末を取り出した。液晶画面に映し出されるのは、目的地である雪山の天気だ。大雪、吹雪を示すマークで埋まっている。
「吹雪く雪山を登るのは大変だなあ。でも、いっちゃんたちの世話になるのはちょっと困るし」
「ああ、問題ありませんよ。
「……やっぱり過保護じゃないか」
蓮田たちのことだ。逸人が目的地――人理保証機関フィニス・カルデアに辿り着くまで、良い天気を保ってくれることだろう。
元々「天候を変える」魔術は十数人単位で協力することを前提として作られている。そのため、膨大なMPを持っている一柱でも、単独でホイホイ使えない。
おまけに、蓮田たちにも「やらなければいけないこと」があるのだ。そちらにつぎ込む分のMPもきちんと残しておきたい。やりくりは大変なのだ。
「そういえば、キミが以前助けたティンダロスくんですが、近々結婚するらしいですよ。キミに仲人になってほしいそうで」
「そっか。あの子、ついに結婚するんだ。……懐かしいなあ。初めて会ったときは自力で瞬間移動もできない幼生体だったのに……」
「キミに懐いてましたからねえ。婚約者共々、何かあったらキミに協力すると言っていました」
「協力要請は近いうちに出しそうだけどね」
「……成程。今回の一件、その状況によりますか」
逸人とナイアは密やかな声で、自分たちにしか分からない会話を繰り広げる。楽しそうに、楽しそうに、――楽しそうに。
◆◆◆
ふとした違和感を感じ取って、レフ・ライノールは足を止めた。振り返った先にいたのは2人の人影だ。
片や黒いスーツに身を包んだ青年、片や修道服に身を包んだ少女。……はて、カルデアのスタッフに、こんな人物はいただろうか?
前者は愉快そうにニコニコ笑って、後者は忌々しいものを見つめるかのような絶対零度の眼差しを向けている。
「……ええと、キミたちは――」
「くく、くくく」
2人は何も答えない。その表情を崩さない。不気味なほどに完璧な微笑は、一切揺らぎを見せなかった。
不意に、自分の真横に気配を感じた。視界の端に、黒スーツを身に纏った青年が映る。
それは一瞬のことだった。レフが声を発するよりも先に、青年の口元が弧を描く方が早かった。
「――調子に乗るなよ。出来損ないの
声の下方向に顔を向ける。そこにはもう誰もいない。スタッフの多くは管制室にいるのだから、当然と言えよう。
レフは再び、元の場所へ――青年と連れ立っていた少女がいた場所へと視線を戻す。……そこにも、誰もいない。
(……何だったんだ……?)
白昼夢を見ていたような気分だ。内容は自分たちの計画を頓挫させかねない極めて危険なものだが、辺りを見回しても、カルデアのスタッフ名簿を確認しても、該当者らしき姿はない。……やはり、白昼夢だったのだろう。レフは自身にそう言い聞かせながら、成すべきことを成すために動き始めた。
***
2016年の人理焼却担当者――それが、レフ・ライノール・フラウロスの役目である。自分の仕事は滞りなく果たされ、2016年以降の人理は焼却された。魔神王ゲーティアを始めとした72柱の魔神柱たちの計画は動き出したのである。
残された人類は、カルデアの僅かな職員。そして、爆心地から離れた場所にいた48番目の補欠候補。完璧な計画を理想とするフラウロスにしてみれば腹立たしい限りだが、大したミスにはならないだろう。
脆弱で脆い人間たちに、人理焼却を覆す力などありはしない。愕然とこちらを見上げるオルガマリーは“無力な人間どもの権化”と言えよう。最期の慈悲を持って、フラウロスはオルガマリーをカルデアスへと放り込もうとして――
「くくく、くくくくく……!」
どこからともなく響いてきた笑い声によって、フラウロスは行動の一切を中断させられた。その笑い声は、つい数時間前に見た白昼夢で聞いたものと同一だったためだ。
フラウロスの危機感は間違っていなかった。自分の眼前に立っていた男こそ、白昼夢で邂逅した黒スーツだ。奴はオルガマリーを庇うようにしてフラウロスと対峙する。
「貴様……」
「傑作だ。傑作だよ、レフ・ライノール・フラウロス! 人間によって作り出され、人間を見守ることを目的とする脆弱な
何が楽しいのか、男は笑い狂っている。脆弱な人間の囀りを聞いている暇はない。フラウロスは躊躇うことなく魔術を使い、男を惨たらしく貫く。
数多の血飛沫を散らしても尚、男は笑い狂っていた。楽しそうに、楽しそうに――フラウロスという命を嘲笑う。それが、酷く癪に障った。
笑うことすら出来なくなる程貫かねば、惨たらしく死を彩ってやらねば、フラウロスの気が収まらない――!!
処刑に等しい光景を目の当たりにしたマシュやオルガマリーが戦慄する中で、唯一、48番目のマスターだけ反応が違う。
彼はどこか不安そうな眼差しを向けていた。串刺しにされている黒スーツの男ではなく、男に惨たらしい所業を働くレフ・ライノール・フラウロスへ。
例えるならそれは、“宝箱の中に入っているモノが金銀財宝ではなく、侵入者を殺すための罠”だと察したが故に、何も知らず喜ぶ相手を憂うような――
「――調子に乗るなよ。出来損ないの
ばきばきと鈍い音がした。音の出どころは、フラウロスが磔刑に処した黒スーツの男。人間としての骨格を突き破り、形容できぬ“黒”が、地獄と化した冬木へと顕現する。
無定形の身体から触腕と鍵爪を生やし、見せつけるようにしてフラウロスの足元へと狙いを定めて振り下ろす。触腕と鍵爪は伸縮自在らしく、
咆哮する顔のない円錐形の頭部はのっぺりとしていて、表情らしきものは一切感じない。だというのに、今、こいつはフラウロスを嘲笑っているのがありありと理解できた。同時に、目の前にいる異形は、フラウロスたちを嗤う立場にある存在なのだと理解する。
理解してはいけなかった。認識してはいけなかった。認めてはいけなかった。こんなものが、こんなものが存在しているだなんて。こんなものが今、フラウロスの眼前に降臨しているだなんて。神性とは程遠い狂気を孕んだ異形が嗤う。楽しそうに楽しそうに楽しそうに!!
「おまえ……人間じゃ、ないだと……!?」
「くく、くくくくく! はは、あははははははははっ!」
異形はひとしきり笑うと、高らかに名乗りを上げた。
「――我が名はナイアルラトテップ。
<おまけ>
【クトゥルフ式採集章】
「――む?」
「どうした?」
「……何やら、奇妙な臭いがする」
「……言われて見れば、その通りだな」
「刺激の強い悪臭だな」
「こんな悪臭の原因になりそうなものなど、この神殿には――」
魔神柱の一柱がそう呟いた刹那、床の角から【ソレ】は飛び出した。
時間跳躍を行う者を、あるいは過去と未来を見通す者を獲物と定め、永遠に追い続ける不死の生き物。
彼らの間の手から生き残った者たちは、獲物を執拗に追い続ける在り方を引き合いに出して、こう呼んだ。
――ティンダロスの猟犬、と。
***
【死の権化「激おこぷんぷん丸」】
「――貴様、死を愚弄したな」
シスター服に身を包んだ少女――その声は、少女と形容するには些か低い。どうやらこの人物は少年のようだ――否、少年、
「死が無意味だと? 死が無価値だと? ――よくも、そのような世迷言を、
享司の姿が崩れ、この場一帯に闇が広がる。ありとあらゆる灯りを吹き消し、周囲の熱すら奪い取りながら。けれどその闇は、闇と言うにしては異常な明るさを持っていた。
それによって淵どられた闇は、顔のない異形を形作る。自分の眼前に降り立ったのは、文字通りの『死の権化』だ。人理焼却術式は愕然とそれを見上げる。
自分たちが何よりも嫌った無残な死が、ひたひたと近付いてきている。それを否定するために立ち上がった魔神王と相対峙するのは、魔神王が否定したすべてだった。
「愚かな
足が動かない。手が動かない。体全体が地面に縫い付けられてしまったかのようだ。
口から洩れるのは、意味をなさぬ言葉の羅列。唸るような声を、掠れた吐息を零すので手一杯だ。
ひたり、ひたり、ひたり。闇が、死が、魔神王へと歩み寄って来る。その摂理から逃れようとした愚行に対し、罰を下すために!!
「――我が名はモルディギアン。納骨堂を司る
クロスオーバー先『クトゥルフ神話』、『クトゥルフ神話TRPG』
名前の由来:
・宇宙的恐怖たちに愛されている『クトゥルフ神話における魔術師』。しかし、型月的な魔術教養は一切ない。
・逸人に加護を与える「この世界における」宇宙的恐怖一同=英霊および魔神柱と似たような存在。逸人と『ラヴクラフト全集』を媒介にして現界・顕現し、現実世界に介入する。
・邪神どもの本体は別次元に存在しており、逸人と『ラヴクラフト全集』によって現界・顕現した邪神たちは分霊のような存在である。比較的人間寄りの連中で構成されている。
・主に「馬鹿な狂信者によって厄介事に巻き込まれた神話生物たちの救出・救助」を行っている。
・宇宙的恐怖曰く「人間性はまとも。普遍的な善性の持ち主。ただ、持っているブツ(=力を貸している自分たち)がまずいだけ」。加護のおかげでSANチェック免除。
・ナイアルラトテップ/月に吼えるもの
・ハスター
いっちゃん
・イタクァ
・モルディギアン
【参考および参照】
『Wikipedia』より『H.P.ラブクラフト』
<あとがき>
現時点ではFFTA、マジバケ、クトゥルフ神話等と絡めて『48番目の逸般人』を執筆しましたが、件の面々が型月的にはどんな扱いを受けるのか気になります。
彼/彼女の存在を察知した魔術師がどう動いてくるかにも興味があります。何分、型月世界は勉強中の身でして、書き手個人の見解だけだと納得できないんですよね……。
何かありましたら、4/12の活動報告にご意見いただけると嬉しいです。『48番目の逸般人』ネタは他にもいくつか投稿する予定です。