・クロスオーバー先のネタバレ注意。
・主人公×マシュ
【主人公】
・高校時代、親の都合で1年間留学していた。
・趣味は古書店巡りと読書。
・小説で新人賞を受賞。
・友人と文通している。
友人からの手紙、友人への手紙
藤丸立夏さまへ
拝啓
貴方の故郷では、紫陽花が美しく咲き誇る季節となっている頃でしょう。お加減は如何でしょうか?
セント・イヴァリースにも初夏の爽やかな風が吹き込んでおります。貴方の名前と同じ季節が近づいてくると、貴方がやって来たように思えてとても嬉しく感じます。
僕も、日本語形式の手紙を書くことに慣れてきました。立夏さんの英語も上達しているようで、負けていられないなと思っています。
あの田舎町が剣と魔法の世界に変わった事件から、もう1年が経過しているのですね。
なんだか酷く夢心地ですが、あの世界のことは今でも鮮明に覚えています。あの世界は本当に居心地が良くて、何もかもが思い通りにいって、とっても楽しかった。
相変わらずイヴァリースは田舎町だけれども、沢山変わったことがありました。
自分の名前を堂々と言い返せるようになったマーシュ、髪を染めるのをやめたリッツ、病院で友人に囲まれているドネッド、真面目に働くようになったパパ……。
立夏さんの言葉通りでした。あの世界で手にした宝物は、きちんと僕らの心の中に残っています。貴方との絆も、途切れることなく現在まで続いています。
古本屋で同じ本を手に取ったことが、僕と貴方の出会いでしたね。それからは暫く、古本屋で顔を合わせる度に挨拶をする仲だった。
本格的に話すようになったのは、河原で泣いていた僕に立夏さんが声をかけてくれたのがきっかけでしたね。
いじめっ子にぬいぐるみを壊されて泣いていた僕を励まして、壊れたぬいぐるみを縫い直してくれたこと、とても嬉しかったです。
僕では、立夏さんのように綺麗に縫うことはできなかったです。あのときは本当にありがとうございました。
僕らの友人関係がここから始まったと考えると、なかなかに感慨深いものですね。
貴方がイヴァリースを去ると聞いたとき、僕は目の前が真っ暗になるかと思いました。
泣いていた僕を助けてくれて、辛いときはいつも傍にいてくれた立夏さんがいなくなってしまうことが怖かったのです。
だから、もうひとつのイヴァリースを創り出したとき、僕は貴方を《王宮の客員魔導士》という役職に置いて、現実の記憶を根こそぎ奪いました。
《身分と年齢を超えた仲の良い友達》という記憶を植え付ければ、貴方と僕はずっと友達でいられると信じていました。別離を拒絶し、逃避するために。
でも、立夏さんがバブズと仲良くなったのにはちょっと驚きました。世界を変えたのは確かに僕だけれど、貴方とバブズの関係については一切介入していなかったためです。
貴方の悪口を言う連中に対し、バブズは強い怒りをあらわにしていましたね。「私とミュート様の恩人を愚弄するな」と激高していた姿は忘れられません。
しかも、バブズは立夏さんのことを「命の恩人」だと言って、深く感謝しているみたいでした。
僕が《世界の創造主》と言っても過言ではないけれども、思い返せば、僕の我儘が完璧に叶ってはいなかったように思います。
もし完全だったら、立夏さんを馬鹿にする奴らはイヴァリースに1人も存在するはずがなかったのですから。
でも実際、立夏さんに対してやっかみを抱く人たちはとっても多かった。貴方はそんな影口や悪口など気にすることなく、僕の友達でいてくれましたね。
僕はとても嬉しかったけれど、焦燥感と罪悪感がひたひたとついて回って来る感覚が怖かったです。大事な友達に嘘をついていたのですから。
もしかしたら、僕は分かっていたのかもしれません。何でも思い通りになるなんてことは、絶対にありえないんだって。
あの頃の僕は、どうにもならないことばかりに目を取られていたように思います。必要以上に悲観的になっていたのかもしれません。
確かに世界は優しくありませんが、冷たいばかりではないのだと。案外、僕の周囲には、僕が想定した以上の幸せがあったのだと。
立夏さんやマーシュのおかげで、僕は信じることができました。貴方たちと出会えたことが、僕にとって一番の幸運でした。本当にありがとうございます。
立夏さんは今年の4月から大学生になったんですよね。日本の大学生活は楽しいと聞いていますが、実際はどんな感じなんでしょうか? サークル活動や文化祭に興味があります。
そういえば、立夏さんはこの夏に長期アルバイトをする予定なんですよね? 雪山に登ると仰っていたので気になりました。山は危険なので、下準備は万全にしてくださいね。
……いいや、立夏さんには釈迦に説法かもしれません。もう1つのイヴァリースにいた頃の貴方は、バブズと一緒に色々な場所を駆け回って、大活躍していたんですから。
あの世界で貴方を慕っていた部下たちのことも考えると、尚更そう思います。人々を惹き付ける魅力と的確な指示を出す判断力は、立夏さんの素晴らしい才能ですからね。
たとえ当時のような身体能力が失われてしまったとしても、知識と心の在り方は残っています。立夏さんなら、件のバイト先でもそれを活かすことができるでしょう。
僕らが作り出し、僕らが元に戻したイヴァリース。今、バブズはどこで何をしているんでしょう。
リッツは美化委員の女の子と仲良くしているようで、その子の名前はシャアラでした。マーシュが所属しているクラブの先輩の名前もモンブランです。
懐かしい名前と面影を持つ面々を見つけますが、バブズは見かけません。どこかで元気にしていてくれたらいいのですが。
でも、「立夏さんに助けられた」というバブズの過去が、現実世界にいるバブズの要素から出てきたのだとするならば、立夏さんは確実に、どこかでバブズと会っているはず……。
立夏さんを責めている訳ではないのですが、思い出したら大至急連絡ください。
そういえば、立夏さんの部下だったマシュとは会えましたか? 彼女も元気でいてくれたらいいですね。
当時は恋愛というものがピンと来なかった僕ですが、今思えば、立夏さんとマシュはお似合いでしたよ。
今、僕には気になる女の子がいます。パパにはまだ言っていません。ママを口説き落とした手練手管を5時間ぶっ続けで聞かされるのはこりごりなので。
僕らに出来ることは、「あのイヴァリースがどこかに存在していて、みんなが元気でいてくれるように」と願うことだけです。
だから、僕は生きている限り、バブズたちのことを願い続けることができたらいいです。彼のことを、僕は忘れたくありません。
バブズたちと別れた後、「僕がバブズのことを忘れてしまうのではないか」と不安に思っていました。僕のことを心配して、案じてくれた彼のことを。
でも、立夏さんが書いた小説が新人賞を受賞し、近々日本で発売されると聞いて、とても安心しています。
あのイヴァリースが僕らだけの秘密でなくなったことは少しだけ残念ですが、この物語がある限り、僕たちはあの日々を忘れることがないのですから。
………
……
…
長くなりましたが、これで。
お体にお気をつけてください。では。
敬具
ミュート・ランデルより
追伸
先日撮った僕らの写真を同封します。この前、みんなでキャンプに行きました。ぬいぐるみとはいつも一緒です。
日本には「物を大切に使うと、それに魂が宿る」という話があるそうですね。なら、このぬいぐるみはどんな性格なんでしょうか?
何となくだけど、バブズとよく似た性格なのかなと思っています。実際に話ができたら嬉しいのですがね。
◆◆◆
ミュート・ランデルさま
この手紙が届く頃、世界は「知らず知らずのうちに2016年が終わりそうだ」ということで、大騒ぎになっているかもしれません。
どんなに騒ぎが起こってもいいのです。この手紙を出して、この手紙をミュートが受け取ってくれるならば、俺はそれだけで構いません。
夏休みのバイトを何の気なしに引き受けた俺は、とんでもない目にあいました。本来なら守秘義務や秘匿云々で、部外者には何一つ伝えることは許されていなかったりします。
今回のバイトでは、たくさんの人たちと出会いました。たくさんの人たちと別れました。職場の人や同僚、後輩、友人……数えるだけでもキリがありません。
どの人たちも、俺にとってはとても大切な出会いでした。とても大切な別れでした。
誰も知らない2016年。誰にも知られることのない2016年。俺たちだけが知っている2016年。
この2016年は、確かに存在していました。みんなが知らないだけで、俺や、俺の職場の関係者しか知らない2016年がありました。
セント・イヴァリースをグリモアで作り替えたミュートだからこそ。
あの世界を知っている、数少ない“ヒミツの共有者”であるキミだからこそ。
俺はどうしても、キミに伝えたいことがあります。知ってほしいことがあります。
――実は俺、“もう1つのイヴァリース”を駆け抜けた頃の力を使えるようになりました。
強化と敵への状態異常をばら撒き、サーベルを振り回し、戦場では小隊規模の軍を率いて戦っていた頃の俺――《宮廷客員青魔導士》リツカ・フジマル。
あの世界から帰って来て以降、二度と振るうことのない力でした。触れることはできないと思っていました。
臭い息をばら撒いて敵を状態異常だらけにしたり、ドラゴントゥースを使って身体強化した後闘技を使って敵を薙ぎ倒したり、現場責任者として指示を出したり……。
2016年の俺は、あの頃のように充実した日々を過ごしました。秘匿云々の関係上、全部話すことができないのが辛いところです。
もし、そちらに足を運ぶ機会がありましたら、イヴァリースに立ち寄るかもしれません。
キミだけではなく、マーシュやリッツ、ドネッドたちとも話したいことが沢山あります。
バイト先で出会った面々も連れて行きますので、そのときはよろしくお願いします。
では、また。
お体にお気を付けください。
リツカ・フジマルより。
追記
仕事場のみんなと撮った写真を同封します。癖は強いですが、とても頼れる人たちです。
あと、マシュに会えました。当たり前のことですが、彼女はイヴァリースのことを一切知りません。
でも、初めて会ったのにも関わらず、俺を「先輩」と呼んでくれたり「懐かしい」と言ったりしてくれました。
今回のバイトでも一緒に仕事をしました。俺はこれからも、このバイト先で、彼女と頑張ろうと思っています。
バブズにも会いました。元気です。相変わらず、魔導探究者という肩書が似合わない程の腕力を有していました。魔法の腕もキレッキレです。
この前は大量に沸いた商売敵を、般若のような顔で次々と消し飛ばしていました。イクスプロドの威力は職場の同僚も舌を巻くほどです。流石は俺の元同僚、現相棒です。
あと、バブズにも友人ができました。友人というより、「一方的につるまれたのを真面目に応対していたら、腐れ縁になってしまった」と言った方が正しいのかもしれません。
友人とは無縁そうだった彼にも友達ができたことを嬉しく思います。
クロスオーバー先:『FINALFANTASY タクティクスアドバンス』(GBA)
リツカ
ジョブ:青魔導士
A1:青魔法
A2:闘技
S:消費MP半減
R:見切り
キャスター
真名:バブズ・スウェイン
友人:ナーサリーライム、巌窟王エドモン・ダンテス、アンデルセン、シェイクスピア
現実での彼:ミュートが大事にしているクマのぬいぐるみ