横島忠夫の人理焼却案件   作:てばさき

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クロスオーバーとしているように、横島はあくまでゴーストスイーパー側の主人公です。
では、FGO側は誰かと言う話ですね。


リポート6.幕開けは花火のように4

突如として響き渡ったその音が何なのか──それを答えることは横島にとって造作もないことだった。

何度も経験した音だ。

時に自分で起こし、時に巻き込まれ、恐らく同世代でこれ程その音と慣れ親しんでいるのは自分くらいだろうとさえ思う。

 

そして同時に、今、起こってはいけないと言うことだけは理解できる。

 

「ば、爆発か!? レイシフトって爆発のことかよ!?」

 

施設全体に響く振動に爆音。

もはや疑いようもない、それは何かがどこかで爆発した音だった。

 

「む、無茶苦茶ヤな予感がする……ここは行くべきか? ああでも! これまでの経験から絶対ろくでもない目に合う気がする! 俺は、どうすれば……」

 

頭を抱える横島だが、意外にも迷っていたのは数秒だった。

 

「……行くか。レオナルドちゃんは待ってろっつったけど、こんなん予定外なんだろうし」

 

もしかしたら誰かを、助けられるかもしれないし。

そんな想いを胸に、横島は部屋を出た。

 

「煙は……こっちからか」

 

より災害の匂いが濃い方へ、足を踏み出す。

 

「ああ、後悔すんだろうなぁ。クソー、こんなとこ来るんじゃなかった……」

 

なんとも勇気のない、情けなさの漂う有り様ではあったが、前へ。

 

………

……

 

『緊急事態発生 緊急事態発生──』

 

不穏な言葉を告げる電子音声のアナウンスが響く施設の中をどれ程進んだか。

遂に横島はその爆心へと到達した。

 

「なん、だこりゃ……ひでぇ」

 

目の前の光景に顔が歪む。

崩れ落ちる設備、立ち上る炎。

それはひとしきりの惨劇が起こり終わった、残骸の掃き溜めであった。

 

「あっ!」

 

辺りを見渡していた横島が何かに気付く。

駆け寄った先には金属製の棺桶に似た何か。

爆発に巻き込まれたそれはひしゃげ倒れており、あろうことかそこから人の手(・・・)が見えている。

 

「ま、マジかよ!?」

 

横島が僅かな隙間から覗くと、

 

「うっ……」

 

思わず目を背けたくなるような大ケガをした、自分と同世代くらいの青年が意識を失っていた。

 

「クソ、文珠でどうにか────あ?」

 

自身の霊能を使おうとした、まさにその瞬間、横島は気付いてしまった。

 

目の前の、潰れかけた棺桶。

人一人分のスペース(・・・・・・・・・)を有するそれが、一つではないことに。

 

「これ、全部そうだってのか!? 文珠はあと四つしかねーんだぞ……」

 

見渡せば、いたるところに似たような状況の棺桶が見える。

人が入っているのが、目の前のこれだけであるなどと、到底考えられなかった。

 

「ジョーダンじゃねえ、これじゃまるで爆破テロ──」

 

言い掛けて、

 

「いや、まさか、本当にそうなのか!?」

 

恐らくは事の、真相に届く。

 

「こんな辺鄙な山奥で爆破テロ? 確実に内部の犯行じゃねーか……ヤバいなんてもんじゃねえぞ!?」

 

明らかに、ここにいる助けを必要とする命の数は横島の手に余る。

だが、手を尽くさなければ一人も助からないだろう。

 

その手の数が、圧倒的に足りなかった。

 

「誰か! 誰かいねーのか!? 動ける奴いたら手ぇ貸してくれ!!」

 

立ち上がり、奥へと進む。

横島の霊能である文珠は、特定の文字をキーに効力を発揮する特徴がある。一人一個では足りないが、怪我人をまとめておけば一気に治癒出来る可能性もあった。

 

 

『レイシフト最終段階に移行します。

座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木』

 

 

「おーい! 誰かー!」

 

しかし、呼び掛けに応えるものはいない。

横島の顔に、珍しく焦燥が浮かぶ。

 

「まさか、全滅したとかじゃ……ん?」

 

その時、瓦礫の奥に橙に近い色が映り込んだ。

始め気のせいかとも思ったそれは、どうやら人の頭部らしい。

 

棺桶の外に、自分以外の人間を見つけた横島は大急ぎでその場所へ向かう。

 

「おい、あんた、大丈夫か!?」

 

近寄って声をかけると、その小柄な人物はゆっくりと頭を傾けた。

 

「え………………横島!?」

 

「お前……藤丸か!?」

 

どのような偶然か、横島はその人物を知っていた。

高校の元クラスメイトであり、少し前に海外留学すると学校から去っていった──藤丸立香という名の少女を。

何度かセクハラもしたことのある相手と、まさかの場所で遭遇した横島は、狼狽を露にする。

 

「おま、オカルト関係者だったのかよ!? いや、それより怪我はねえか? 動けるなら他の連中を助けっから、手ぇ貸してくれ!」

 

その言葉に、立香は驚きの声を挙げる。

 

「たす、ける? 助けられるの!?」

 

「わかんねえけど、なんも出来ないってことはないはずだ。とにかく怪我人を一ヶ所に集めてだな──」

 

「なら助けて!!」

 

横島の説明を遮るように、立香は叫んだ。

 

「マシュを、この子を助けて……」

 

そっと、体をずらした先に、もう一人の少女がいることに、横島は気付く。

不思議な色の髪をして、病人のように肌が白く、ただただ儚げな少女が。

 

「なんだ? その子も怪我を……って、っ!?」

 

その下半身を瓦礫の下敷きとされながら、立香と手を繋いでいた。

 

「お願い、横島……私、何にも出来なくて、知らないのに、この子は私を先輩って呼んで優しくしてくれたのよ!」

 

「……いいんです、先輩」

 

話すのも辛そうな様子で、マシュと呼ばれた少女が声を出す。

 

「そちらの……横島、さん、ですか? もしそんな力があるのなら、どうか他の皆さんをお願いします」

 

今にも消えそうな懇願の声に、横島は突き動かされたように二人へ近寄った。

 

 

『アンサモンプログラム セット。

マスターは最終調整に──』

 

 

【浮】

 

淡い光と共に、マシュに負荷を掛け続けている瓦礫が宙へ浮いた。

 

「あ、え?」

 

唐突に和らぐ痛みと、瓦礫により塞き止められていた出血により、マシュの意識がくらりと揺れる。

 

【治】

 

次いでその出血が止まり、最低限の生命力が華奢な身体に戻ってきた。

 

「悪い、流れちまった血は戻せないから、少し我慢してくれ」

 

横島はどこか困ったような笑みを浮かべつつ、マシュの手を取って、立香と協力して浮いた瓦礫の下から移動させた。

 

「ありがとう、横島、ありがとう」

 

「す、すみません。私などの為に、貴重な礼装を消費させてしまって……」

 

泣きながら感謝を告げる立香に、申し訳なさそうに謝罪を口にするマシュ。

 

「いいっていいって、どのみち……全員を助けるのは無理そうだしなぁ」

 

未だ尽きぬ炎と、崩壊の兆しをそこかしこに見せる周囲の状況は、一刻も早いこの場からの避難を急かすようだった。

こんな中で、非力そうな少女一人二人が増えたところで何が変わるというのか。

相変わらず手が足りないが、事は既に人力でどうこうできる次元を超えていた。

 

「それに、女の子に助けて、っつわれたら助けねえと、横島忠夫失格だからな!」

 

グッと親指を立てておどける横島に、横たわったマシュは真剣な面持ちを返す。

 

「横島……忠夫さんと言うのですね。私は、マシュ・キリエライトと申します。その口ぶりでは、さぞ沢山の女性を助けてこられたのでしょうか……はっ、もしやこれが、噂に聞くプレイボーイというヤツでは」

 

「ううん、マシュ。違うよ、むしろ女性の敵だよ」

 

涙を拭いつつ訂正を入れる立香。

 

「おいコラ、折角珍しくマトモな第一印象なのに水差すんじゃねえ藤丸」

 

「ありがとう、横島。本当に感謝してるよ? 私にして欲しいことがあったら何でも言ってね?」

 

「マジか!? 言っとくが俺の欲望は果てしなく遠慮しないぞ!?」

 

くわっ、と我欲まみれの表情となる横島。

 

「……ね?」

 

「はあ、なるほど……ですが、今のは些か誘導的だったような」

 

一時、まるで周囲から切り離されたようなやり取りと、笑みが交わされる。

 

 

『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました』

 

 

「あ、カルデアスが……」

 

マシュの声に視線を追うと、

 

「なんだありゃ……赤い、地球儀?」

 

そうとしか言い表し用のない代物が鎮座していた。

 

 

『シバによる近未来観測データを書き換えます』

 

『近未来百年までの地球において、人類の痕跡は 発見 できません』

 

『人類の生存は 確認 できません』

 

『人類の未来は 保証 できません』

 

 

続くアナウンスに、どうしようもない焦燥を駆り立てられる。何か、恐ろしく致命的な何かが手遅れとなってしまったかのような確信が、その場の三人を支配した。

 

「……どういう、意味?」

 

立香の呆然とした呟き。

 

「じ、人類の未来はこれからだ! 的な? 少年漫画によくある、未来は白紙だ、さあいこう的な?」

 

横島の引き笑い気味な意見。

 

「……シバは観測レンズです。それが、百年先まで人類の存在が確認できないと」

 

マシュは悔いるように、

 

「先輩、横島さん……人類は、絶滅しました」

 

その答えを口にした。

 

「いや、いやいや、そんなんおかしいやろ!? そらここだけ見てみりゃ地獄みたいだけどさ、いくらなんでも──」

 

こんなとき、曲がりなりにも霊能力があるというのは厄介だ。

己の言葉を否定する最たる根拠……霊感がある。

 

「そんなことあるわけ……」

 

 

『全工程 クリア

ファーストオーダー 実証 を 開始 します』

 

 

光が、惨状に覆われた空間に広がっていく。

 

 

「今度はなんだってんだ!?」

 

「わかんないわよ!」

 

 

 

 

「お二人に、お願いがあります」

 

 

 

 

「手を」

 

 

 

 

「握っていてはくれませんか?」

 

 

 

 

右手が少女の柔らかな手を掴んだところで、横島は自分の意識と身体がどこか遠い場所へと引っ張られていく感触を感じた。

 

斯くして、幕は上がる。

未だ何も知らぬまま、何時の間にやら重い使命を背負わされ、途方もない旅路が始まる。

 

彼の名は横島忠夫──ゴーストスイーパーである。

 




プロローグ終わり!
ちょっと真面目シリアスな横島。
難しいですね。
あとぐだ子は色々迷って横島の知り合いとしました。


たくさんのご意見ありがとうございます。とても考えさせられてためになります。

次回から、遂に特異点でのお話となります。

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