横島忠夫の人理焼却案件   作:てばさき

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ゲーム開始時、ロマンとレフは、女主人公の攻略対象かな、と思ったのは僕だけでいい。
みんなは先に行くんだ!


リポート3.幕開けは花火のように1

「所長、レイシフト開始まで一時間となりますが……取り止めますか?」

 

オペレーターの言葉に、オルガマリーはハッと思考を取り戻し、

 

「え、ああそうね、ラー油は忘れないで持ったの?」

 

たように見えただけのポンコツ具合を遺憾無く発揮した。

 

「失礼しました。レイシフト予定のマスターは各自ラー油を装着の上コフィンルームへ向かってください」

 

そしてまた、オペレーターも同レベルの混乱具合でそれに答えた。

周囲のスタッフ達も、ああラー油か、あれは大事だよねとしたり顔で頷いている。

 

「落ち着くんだ君達」

 

そこへ、ただ一人冷静なレフが呆れ声で介入した。

 

「イレギュラーこそあったが、この中枢に実質的な影響は無い。落ち着いて、各々与えられた役割をこなすんだ」

 

「ええ、そうねレフ。ごめんなさい、ラー油は後で送れば良いものね」

 

「違うよマリー、そもそもラー油は必要ないんだ」

 

「でも……ラー油よ?」

 

何もかもがどうでもよくなりそうな顔で、レフは辛抱強く言葉を続ける。

 

「マリー、ラー油は、必要、ないんだ」

 

肩を若干強く掴まれて、オルガマリーもようやく自身を取り戻したようだ。

今までの流れなど記憶に無いというようなキリッとした顔付きに戻る。

 

「…………レフ、どうしたの? ラー油なんて必要なはず無いじゃない。何言ってるのよ貴方」

 

どうやら、本当に記憶に無いらしい。

ビキビキビキ、レフの笑顔から異音が鳴った瞬間である。

 

「……君が正気を取り戻してくれたようで嬉しいよ」

 

「おかしなレフね」

 

「所長……」

 

申し訳なさそうに、オペレーターが言葉を発した。

 

「今日のために、毎日遅くまでシバの調整をされていたんです……教授もお疲れなんですね」

 

それを聞き、何かの間違いかと思い反芻し、最終的にレフは穏やかな笑みを浮かべるに至った。

 

「ハッハッハッ」

 

笑い声まで溢れるほどだった。

 

「そう……レフ、いつもありがとう。これが終わったら、ゆっくりと休んでちょうだいね」

 

オルガマリーの言葉に、周囲のスタッフ達もまた、こいつムチャしやがって、みたいな雰囲気を流し始めた。

もはや皆の心は一つだった。

先程までの混沌とした空気は微塵もない。

 

「ハッハッハッ」

 

レフは笑った。

 

「「ハッハッハッ」」

 

周りも吊られて笑った。

 

そんな笑い声に溢れた職場において、誰にも聞こえないような声でレフは呟いた。

 

「……ビチグソ共め」

 

無理もない反応であった。

 

なお、強行侵入を果たした横島への対応が議論されるのは、この10分後のこととなる。

 

………

……

 

さて横島である。

密輸品からパクってきたプラスチック爆弾で、扉をこじ開けたまでは良かったが、直後の雪崩で方向もわからぬまま押し流された。

 

カルデアは魔術と科学の融合をもって建築された設備だ。

場所柄、自然災害への備えも当然されている。

幾重にも及ぶ災害用シャッターに分断され、徐々に勢いを弱めた雪崩は、その先端を居住区に掛けたところで完全に停止した。

 

その先端部分、それでも相当量の雪が積もる場所が、モコリと持ち上がる。

 

「あー、死ぬかと思った」

 

当然のごとく、横島であった。

 

「全く、下山中にこんなんに巻き込まれたら俺でも死ぬっつうの」

 

室内ということもあり、防寒着を脱ぎいつものジーパンとジージャン姿になった横島は、ぼやきながら居住区を進んだ。

 

「取り敢えず、責任者っつう人に会って土下座だな。こっちも命の危機だったわけだし、情状酌量の余地はあんだろ」

 

「いや、流石にないと思うよ?」

 

唐突に、横合いから聞こえた声に振り返ると、

 

「全く、雪崩の終息地点に先回りしてみれば、まさか無傷で出てくるとはね。私も驚きだ。ワオッてなもんさ」

 

そこには──

 

「出逢った時から愛してましたーっ!!!」

 

絶世と言うに相応しい美女がにこやかな笑みを浮かべて立っていたので、横島はその胸目掛けてダイブした。

 

この間、僅か一秒足らずである。

 

「おっと」

 

美女は持っていた杖を軽く降り下ろす。

 

「ぶっ!?」

 

ベシャリと床に叩きつけられた横島が疑問に思う間もなく、

 

「いきなり愛の告白かい? まあ、気持ちはわからんでもないがね。私も、彼女に出逢った時はそんな気持ちだった」

 

美女はあっけらかんとした様子のまま、さして力を込めたようにも思えない所作で杖を横島の後頭部に添えた。

 

「いっ!?」

 

それだけで、横島の身動きの一切が封じられる。

 

(な、なんだこれ……動けねえ!)

 

「色々と言いたいことはあるけど、まずはようこそ、と言わせてもらおう」

 

横島には見えないのに、輝きすら放たれるような笑みを浮かべたまま、

 

「最後のマスター候補生にして、若くして悪魔アシュタロスにさえ警戒を抱かせた屈指のゴーストスイーパーよ」

 

そうする権利が当然のようにある、とばかりに用件を言い切った。

 

「さっき君が使ったアレ、私に見せて貰えるかい?」

 

フッと身体の自由が戻り、横島が顔を挙げると、目の前に、しゃがんでこちらを見下ろす美女がいた。

 

「なんなら幾つか都合して貰えたら、マリーには弁護してあげなくもない」

 

元より、こうしたシチュエーションでの横島の回答は決まっている。

 

「何なりとお申し付けくださいお姉様!!」

 

「そう言ってくれると思っていたよ」

 

極上の笑みに彩られた美貌は、見るものを惹き付けて止まない魅力を発していた。

既に、横島には彼女のお願いを断るという選択肢はない。

 

「それじゃ、人が来る前に行こうか。大丈夫、どのみち君は、最初のレイシフトには間に合わない」

 

立ち上がると、彼女は先導して歩き始めた。

 

「ああ、そうそう、当面私のことは、レオナルドちゃんとでも呼ぶように」

 

振り返った彼女は、いたずらっ子のような瞳で言った。





ギャグ時空ではまともな奴が一番の被害を被る。
これ豆な。

そして登場する、美女美女言われ過ぎの美女。
一体何ンチちゃんなんだ……

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