プロローグ回はサクサクと終わらせて先に進みたいですね!
『お引き取りください』
ついにたどり着いたカルデア施設、白い扉の前で立ち尽くす横島に、無情な言葉が投げつけられる。
『美神除霊事務所のスタッフ到着予定時刻は三日前の午後3時です。今更来られてもあなたの席はありません』
どこかにあるスピーカーか、もしくは魔術的な仕掛けによるものか。定かではない方法で外へと届けられた女の声は、体表の半分を霜で覆われた横島に突き刺さらんばかりの鋭さであった。
「んなこと言ったかてしゃあないやろっ!? 美神さんがケチってオンボロ密輸船に乗せられた挙げ句、こっちの海上警察に追い回されて、やっと山についたと思ったらずっと吹雪だったし!」
悲痛な、まあ、そう表現して構わない横島の状況は、ただの一言で切り捨てられる。
『それはこちらの関知するところではありません』
「だか──」
『お引き取りください。ああ、降りるときは雪崩に気を付けるように。運が悪いと一世紀後も雪の下なので』
「……運が良かったら?」
『半世紀程度で見つかるのでは?』
ブツッ、と音が切れる。
同時に、プチッ、と横島も切れた。
「……ふ、ざ、け、ん、なああああああ!!!」
酷い旅路だった。
密輸品の名前も知らない植物や白い粉、武器弾薬エトセトラと一週間近く船に閉じ込められ、ようやく陽の目を拝んだ横島に掛けられたのは『
思わずパクっていた銃器で反撃し、ろくな準備もないまま山に入った横島にも多少の慈悲は必要だろう。
と、横島本人は思っていた。
最悪、泣いて頼めば入れてくれるだろう位に考えていた。
まず、流した涙が凍りついて半目になった。
同情を引くはずの言葉は震えてトチ狂ったイントネーションに。
そんな彼の姿は、有り体に言えば、見るもの全てを小馬鹿にしているような風体だった。
………
……
…
「良かったのかい? マリー。彼だって君が招いた人材の一人だろうに」
カルデア管制室にて、一連のやり取りを聞いていたレフ・ライノールの問い掛けに、オルガマリー・アムニスフィアは不機嫌そうに返した。
「良いのよ。まさにこれから、人類史に残る最初のレイシフトが行われようって時に、余計な不確定要素を加えたくないもの」
「ふむ……一理あるが、このまま帰したら、本当に死んでしまうんじゃないかな?」
「う……でもあの男、変顔して、声もおかしかったし……み、美神令子本人ならいざ知らず、代理なんて聞いてなかったし」
途端に狼狽え出す辺り、冷徹になりきれない部分がかいま見えるオルガマリーに、
「じゃあ取り敢えず待ってもらって、レイシフト後に中に入ってもらおうか。今後どうするかは、その時に考えればいい」
レフはまずまずの妥協案を提示した。
「そうね、そうしましょう。誰か、さっきの奴に呼び掛けて──」
「所長」
遮るような、オペレーターの声。
「先程の彼ですが……扉になんか塗ってます」
「は?」
直後、モニターに映し出された横島は、確かに、何か粘土のようなモノを扉に塗りたくっていた。
「ちょっと、あれ何やってるの? ねえ、怖いんだけど。レフ、わかる?」
「あー……もし正しければ」
モニターの中、横島は白い粘土状の物体を扉の合わせ目に沿って塗り終えたところだった。
どうするのかと見ていると、少し後退したのち懐からある物を取り出す。
「……スリングショット?」
和名、パチンコである。
100円ショップ産である。
横島はそのまま、淡く光を発する珠を弾丸として番え、発射した。
モニター越しでは誰もわからなかったが、その珠にはある文字が刻まれていた。
──【起】、と。
「あれは、プラスチック爆弾じゃないかな」
レフの予想は的を得ており、そこから先の出来事は一瞬だった。
爆弾が『起爆』し、扉は吹き飛ばされ、「ざまぁ見さらせぇー! うはははは、おじゃしまーす!」と横島が勝ちどきを挙げ、爆音により発生した雪崩に巻き込まれてカルデア内に流れ込んでいった。
静まり返る管制室にいる一人、レフ・ライノールは後にこう語る。
「お前さえいなければ」
と。
彼の名は横島忠夫。
ゴーストスイーパーがどうとか以前に、まごうことなきバカである。
ゲーム開始時、所長とマシュはダブルヒロインポジだと思ったのは僕だけじゃないはず。