じゃぱりれぽーと   作:華山

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オリジナルのフレンズも出していこうかと。


どうくつ

雨の音が響き渡る。

あの部屋と似た暗い洞窟で、男は倒れている。

胸が上下にゆっくりと動いている所を見ると、死んだ訳ではないと分かる。

雷が鳴り響き、雨風が木々を揺らしている。

 

「うっ……、くぅ……」

 

生命に牙を向くような激しい雨の音に、男は魘されたような声を上げると、ゆっくりと目を開いた。

 

「どこ此処……」

 

若干痛む体に違和感を覚えながら、男は体を起こした。

辺りを見回すも、この場所は男の記憶に無かった。

 

「なんで……」

 

男はぼやけた意識の中、どうしてこうなったかを思考した。

 

(たしか俺は砂浜にキャンプを……それから……ん?)

 

男は自分が何かを持っていることに気付いた。

 

「俺のカメラ」

 

男は愛機であるデジタル一眼のカメラをしっかりと握りしめていた。

男はカメラを別の手に持ち替えた。

倒れていた時もしっかりと握っていたせいか、離すと同時に男は手に痺れを感じた。

 

(何時間経った……。何があった……)

 

ぼーっとした表情のまま、男はカメラを構え、ファインダー越しにあたりを見回した。

 

「あっ、主様!」

 

突然、洞窟内に響き渡る声。

その声は、洞窟の入り口から聞こえた。

男はカメラを構えたまま、その方向を見る。

 

「!」

 

カシャーーー

 

男はファインダに写り込んだその者に向けて、とっさにシャッターを切った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そして驚いた表情のまま、カメラの構えを解く。

 

「主様!良かった……。ご無事で……」

 

ゆっくりと男に近づくのは少女だった。

少女はその目に涙を浮かべている。

 

「主様?ちょっと待て……お前誰だ?」

 

近づいてくる少女を避けるように、男は若干後ずさる。

 

「ええっ!? 主様? 分からないの……?」

「ここの人……? お前は…」

 

男のその言葉に、少女は今にも泣き出しそうに肩を震わせた。

 

「あんなに遊んでくれたのに。お散歩もいっぱい行ったのに……」

「待て待て! お前みたいな女の子と遊んだ覚えはないぞ」

「ひどいよ……」

 

少女はグスグズと鼻を啜りながらも、話を続ける。

 

「ちゃんとご飯もくれたし、いっぱい撫でてくれた……のに」

「知らん……! と言うかレグは何処だ!? まさか、お前が隠したのか!」

「うぅ……」

「レグ! 何処だ!? レグ!」

 

男は立ち上がると、大声で愛犬の名前を呼ぶ。

 

「主様」

「いや、お前じゃねぇよ! レグ! 何処だ!」

「ここに居ますよ……? 主様……」

「だからお前じゃ……へ……?」

 

一瞬冷静になった男の視線は、少女の下半身へと向いた。

そして見つけてしまった。

ゆらゆらと揺れるそれを。

人間にはある筈が無い器官を。

幻を見ているのではないかと、男は目をこすってもう一度凝視する。

 

「尻尾……? ワンコ尻尾……?」

「はい、尻尾です」

 

少女は、犬の尻尾を生やしていた。

黒と白のツートンカラーの尻尾が、嬉しそうにゆらゆらと揺れている。

男は視線を少女の顔へと戻す。

そしてまた見つけてしまった。

人間にあるはずにないものを。

 

「耳……? ワンコ耳……?」

「はい!ワンコ耳です!」

 

少女の頭には、立派な三角形の耳があった。

イヌ科の特徴に近いそれは、ピクピクと動く。

 

「……レグ」

「はい!主様!」

 

男は愛犬の名前を呼ぶ。

それに嬉しそうに反応する犬耳の少女。

男はありえないことを脳内で考え始める。

 

(確かに、耳も尻尾もレグそのもの……、いやいやいやいや……、頭でも打ったか……?)

 

覚醒した男の脳内では光速の思考が繰り広げられていた。

 

(でも名前に反応するし、マジか。メルヒェンなのか……。オカルトなのか……?)

 

男は先程と違い、笑みを浮かべ文字通り尻尾を振っている犬耳少女を見つめる。

 

「レグ……なのか?」

「主様!!」

 

その言葉を聞いて、まるで太陽のような眩しい満面の笑みを浮かべて、少女は男に飛びつき張り倒した。

 

「主様! 主様! やっぱり覚えててくれたっ!」

「うぉっ!やめろ! 嫌じゃないがそんな趣味は……!」

 

犬耳少女。いや、レグは嬉しそうに男の頬をペロペロと舐めている。

もしここに第三者がいれば、男の変態認定は確実だろう。

 

「ハッ、ハッ、ハッ! 主様!」

「やーめーろー!」

 

洞窟内に、男の悲鳴に近い声が響き渡った。

 

………

……

 

洞窟の中で向かい合わせに座り込む二人。

互いに顔を凝視して、尋常じゃない事態にまずは気持ちを落ち着かせようとしていた。

 

「レグなのは間違い無いんだよな……?」

 

男は未だに信じられないのか、かれこれ十数回はこの言葉を繰り返している。

 

「はい! 主人様!」

 

男は自己暗示のように、相手の存在を確認した。

そして、若干の精神的落ち着きを見せると、次の質問へと移る。

 

「お前って雄だったよな……?」

「んぅ? 主人様は変なこと聞くなぁ」

「お前がレグ……だとして、今の格好は人間で言うところの女。雌な訳で……」

 

男の目の前にいる者は、見た目からして少女だ。

しかし、男の愛犬であるレグは雄だった。

 

(レグが人型になったとして、なんで女?)

 

訝しげな表情を見せる男に、レグは首をかしげる。

 

「主人様? 気分悪い?」

「いや、うん、大丈夫……なはず。とりあえずお前はレグで、俺はこの洞窟にいる」

 

また自分に言い聞かせるように、男は一人ぶつぶつと呟く。

 

「で、なんで俺がこんな場所にいるんだ? 機材もカメラ以外見当たらないし……」

「主人様覚えてないの?」

「……確かテントを張って、地震。揺れを感じたから外に出て」

 

男は今までの記憶を口に出してたどる。

 

「ダメだ、そこから抜け落ちてる」

「やっぱり記憶が飛んじゃってるんだね……」

「レグは……知ってるのか?」

 

レグの口調から、何があったのか知っていると男は察した。

 

(記憶が飛ぶなんてよっぽどの事態だ……)

 

男は起きた時に、身体中の痛みを感じた。

未だにその痛みは残っており、男は外的要因によって記憶が飛んだことを理解した。

 

「地震、正確には山がどーんってなって、えっと? 噴火だっけ?」

「火山性地震だったのか。それでどうなったんだ?」

「主人様と僕はテントをでると、いきなり空から大っきいのが飛んできて」

「ちょっと待て! でかいのってなんだ?」

 

突然の展開に、男は身を乗り出すようにしてレグに質問をする。

 

「あっ、主人様! 落ちつて……!」

「っ、すまん……。でおっきいのってなんだ?」

 

その質問にレグは困った表な表情を見せた。

 

「分かんない……。あんなの見たことないよ……」

「何か映像でもあれば……」

「あっ、それなら主人様! 主人様、それを向けてたでしょ?」

 

レグは男の持ってるカメラを指差した。

 

「倒れてもずっと放さなかったし、それ主人様の『しごとどうぐ』なんだよね?」

「あぁ、いやまさかこれに……?」

 

男はカメラの内部に入っているデータを確認する。

そして一番最後に撮った写真を見ると、男は目を見開いて驚いた表情を見せた。

 

「なんだこれ……?」

「そう! これ! やっぱり主人様も分かんないんだ……」

 

レグは男の隣に来るとその写真を見て、それが『おっきいの』の正体と肯定する。

 

「翼竜? でも透明だ……。写真じゃ質感がわからんが……。テカってるしスライムっぽい」

「僕もびっくりだったよ。ご主人様がそれ、カメラ? を向けて音を鳴らしたら突然襲ってきたんだもん」

 

男はぼんやりした記憶を思い出す。

男はその『おっきいの』襲われて、そして記憶が飛ぶほどの衝撃を受けて、そして倒れたのだった。

 

 

「そっか、俺こいつに襲われて……。吹き飛ばされて……」

「木にぶつかって倒れたの……」

 

男のぼんやりとした記憶が鮮明に思い出される。

 

「その後どうなったんだ?」

「その後はね……空からいっぱいキラキラが降ってきて、それが僕に当たって……」

「キラキラ?」

 

また新しい単語の登場に、男はその言葉を聞き直すしかなかった。

 

「あの子が言うには、さんどすたー? って言うんだって」

砂の星(サンドスター)!?」

 

男は聞き覚えのある単語に、思わず絶叫に近い驚きの声をあげた。

男が巡回していたオカルトサイトに確かに書いてあった言葉。

 

「確かにサンドスターって言ったんだな? って、待て待て待て!」

「どうしたの?」

「あの子って誰だ……?」

 

レグは誰かに聞いたような口調だった。

それを危うく流すところだった男は、重大な質問をレグに見せる。

 

「名前聞くの忘れちゃったけど、僕たちをここまで逃がしてくれたんだよ!」

「他にも誰かいるってのか……? ジャパリパークは無人じゃなかったのか?」

 

無人の島、隠された島と言われていただけに、男は少し落胆の表情を見せた。

 

「他にも人がいるなんて……。」

「でもあの子がいなかったら、主人様を助けられなかったんだよ?」

「で、そいつはどこに?」

 

男が辺りを見回してもレグ以外に確認はできなかった。

 

「見回りに行ってくるって。セルリアン? は危険だから、動かないでって」

「セルリアン? セルリアン……!」

 

男はこの島に来るきっかけになった情報屋の資料を思い出していた。

その資料には確かに『OperationCeruleanStrike(群青の打撃作戦)』と書かれていたことを。

 

「あれってまさかマジで……。セルリアンってこいつなのか?」

「たぶんそう」

 

男はレグにカメラに映っていたスライム的な質感の翼竜を見せる。

レグはその画像を見て頷いた。

 

「あれって文字どおり『セルリアンを叩く(Cerulean Strike)』って意味か……?」

「あれは危険だよ……。主人様がいなくなると思って僕怖くて」

 

顔をうつむかせて、今にも泣きそうな声でシュンとしてしまうレグ。

 

「……大丈夫だ。居なくはならないからさ」

 

男もどうしていいかわからず顔を背けながら、レグの頭をポンポンと撫でる。

 

「あるじさまぁ……」

「っ……」

 

犬の頃にはよくやっていた行為ではあったが、男は少しだけ顔を赤くして照れる気持ちを隠しながらレグをなで続ける。

 

「お前本当にレグなんだな……」

「まだ信じてなかったの……?」

 

いきなり犬が少女になって、信じれる奴がいるか。そんな表情で男はレグを見て小さくため息をついた。

 

「落ち着いたみたいだな。さて、やっぱり確かめないといけないよな」

 

男はレグを撫でることをやめると、立ち上がり服についた土を払った。

 

「なにするの? 主人様……?」

「あのセルリアンとやらを探しに行くさ。あいつをしっかりカメラに収めてこの島を出なくちゃな」

「やっ、やめようよ! 今度こそ食べられちゃうって!」

 

自信満々な男の言葉を聞いて、レグは男を抑制するように前に立ち、すがるような声で止めようとした。

 

「大丈夫。今度はヘマしないって」

「だめっ! 主人様は生き急ぎすぎてる! 無理をすると死んじゃうって!」

「っ……レグ……?」

 

いつになく必死に止めるレグに、男は若干の困惑の表情を見せた。

そして思い出す。

男がいつも危険なネタを追いかける時には、決まってレグが服の裾に噛み付いて止めようとしたことを。

 

「……お前いつもこんな気持ちで」

 

今話せるからこそ、男にその感情がダイレクトに伝わる。

そして男はただの犬だった頃のレグの行為を、今のこの娘に重ねる。

男は胸に何か突き刺さるような感覚を覚えた。

 

「今日は行かせないから! 絶対行かせないから!」

「でっ、でもなレグ? 食料もキャンプにあるんだ。あの大事な記録媒体だって……」

「でもダメッ! ダメだから!」

「一週間後には沖に迎えも来る! ボートも浜にあるんだぞ!」

「いやっ!」

 

身振り手振りを使って男を止めようとして居たレグも、最終的に男に抱きつくようにしてその動きを止めようとしいる。

 

「レグ……。落ち着いてくれ。大丈夫だから」

「ぐすっ……主人様は居なくならないってさっき!」

 

言葉で張り合おうとしていた男も、その純粋な気持ちに根負けしたのか、その場に座り込んだ。

 

「まいったな……。レグがこんなに聞かん坊だったとは……」

「主人様……。僕を嫌いになった……?」

 

ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、男の腕の中にレグは収まっている。

 

「いや、嫌いになるわけないさ……。大丈夫だよ……」

「ほんと……?」

「あぁ、俺も焦りすぎたかもしれん」

 

男はなんとかレグを落ち着かせようと、優しい声色で声をかける。

 

「とりあえず雨が止むまで待とう。そしたら一緒に浜に荷物を取りに行こう」

「でも、あの子は動くなって……」

「俺たちを助けてくれた子か……」

 

レグはこくりと頷く。

 

「でもどこにいるかわからないんだろ? 帰って来る保証も」

 

その時だった。

 

「よかった……! 起きたのですね……!」

 

男の発言を遮るように、洞窟の入り口から声が聞こえてきた。

男とレグは、洞窟の入り口を凝視する。

そこには雨に濡れた白髪のレグとは少し形の違う犬耳少女が立っていた。

縞模様に近い服を着ていて、髪は少し癖のあるポニーテールにまとめられている。

ポニーテールの部分の色は黒くなっており、ヘアーエクステンションを付けているようにも見える。

 

 

「あっ! さっきの!」

「あの子が……レグの言ってた?」

 

控えめな微笑みを浮かべる少女は、ゆっくりと洞窟へと入ってきた。

 

「ダメですよ……? 自分より大きなセルリアンと戦っちゃ……」

 

犬耳の少女は二人の前に来ると、その場にしゃがみこんで男を見つめる。

 

「二人とも新しいフレンズ……みたいですね……?」

友達(フレンズ)?」

 

声量も控えめな少女は、男とレグを交互に見て、そして何か納得したように語り始めた。

 

「この子は……。私に近い感じですけど……あなたは……くんくん……」

「ちょ!やめっ……!」

 

少女はいきなり男の首筋に鼻を近づけて匂いを嗅ぐような行為を行う。

 

「不思議な匂い……耳も尻尾のないフレンズなんて……」

「なんで犬みたいなことしてるんだっ!?」

「ごっ、ごめんなさい……。名前を名乗らないとですね……」

 

少女は一旦、二人から距離を取ると姿勢を正して小さくお辞儀を見せる。

 

「私はアードウルフです……。その、よろしくおねがしますね…っ」

 

 

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ネコ目 ハイエナ科 アードウルフ属

学名:Proteles cristatus

(プロテーレス・クリスタートゥス)

アードウルフ

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「アードウルフ? 確かハイエナの……」

「主人様知ってるの?」

「あぁ、昔写真をとったこともあるんだ。えっと、南アフリカに行った時で……」

「はぁ……っ、詳しいのですね……?」

 

突然語り出した男に、アードウルフは感嘆のため息をつく。

 

(アードウルフはアフリカ大陸に生息する『ハイエナ』の一種。

体調は約50~80cm。尻尾の長さも20cm程。

食性は動物食。シロアリを主に食べるが、昆虫や鳥類なども捕食する。

全身が長く粗い上毛と、柔らかい下毛に覆われているのも特徴。

胴体に黒い縞模様がある。

また臼歯が弱く、成獣では抜け落ちることが多いのも特徴的で……)

 

男はマジマジとアードウルフを観察する。

全身を舐めるように見られて、若干後ずさりを見せるアードウルフ。

 

「確かにアードウルフの特徴は……。うん、確かにアードウルフだな」

「そっ、そんなに見つめられたら怖いですよぉ……」

「あぁ、すまん」

「ごめんね? 主人様『けものぐるい』らしいから。いてっ!?」

 

男は無言でレグの頭に手刀を食らわせた。

 

「それはさておき、お前……えっと、アードウルフ」

「アドでいいですよ。名前長いですから……」

「じゃあアド、お前が助けてくれたのか?」

 

男はまず始めに気になっている話題を切り出した。

 

「そっ、そんな……助けたってほどじゃ……。ただ囮になっただけで……」

「でも、お前のおかげで俺たちは助かったんだろ? そうだったら礼を言わないとなと思って」

「主人様変なところで律儀、いてっ!? また打ったー!」

 

レグの言葉を遮るように、男は二度目の手刀を繰り出す。

レグは涙目でうぅーっと男に唸っている。

 

「その、セルリアンだったか? どうなったんだ?」

「追っ払うことはできたんですけど……。なにぶん私はハンターとしてまだ未熟で……」

「ハンター……? まぁいいや。とにかくありがとうな」

「そっ、そんな……。困ってたフレンズが居れば私は……」

 

男は頭を下げてアドに礼の言葉を告げる。

アドは謙遜するように両手を振る仕草をして、顔が真っ赤になっていた。

 

「ところで……、その貴方達の名前……聞いてませんでした……」

「俺? 俺は」

「僕はねレグッ! 本当はレグルスって言うんだけど、レグでいいよ!」

 

今まで黙っていたレグがいきなり飛びつくようにアードウルフに近寄り、満面の笑みで自己紹介をした。

 

「こっちは主人様!『写真家』なんだ!」

「ちょ、レグッ! お前、おわっ!?」

 

男がレグの発言と取り消そうとした瞬間、レグは男の顔を尻尾で叩く。

意外な力に、男はその場に尻餅をついた。

 

「しゃしんかさん……面白い名前ですね…っ!」

「えへへ! よろしくね! アドちゃん!」

「はいっ……! レグさんと……。写真家さん……!」

「くっそ、だから俺は!」

「いーのいーの!」

「ううぐ……。はぁ、もういいよ写真家で……」

 

さっきの仕返しとばかりに、レグは満面の笑みを見せていた。

 

「写真家さん達は、一体あの浜で何を……?」

「あー、実はパークセントラルに行きたくてな。何か知ってるか……?」

「パークセントラル……」

 

アドは少し考え込むような仕草をした後、すぐに口を開いた。

 

「ごめんなさい……。私も生まれて日が浅くって……『としょかん』に行けば何か分かるかも……」

「としょかん……?」

「主人様、危ないことはダメだよ?」

 

写真家は次の行動のことを考えている時に、いきなりレグに釘を刺された。

 

「いや、だってここまで来たんだぞ! 行きたいだろ『パークセントラル』」

「でも……」

「キャンプの様子も見に行かないといけないし……。危ないことはしないって約束するから」

「うぅ……」

 

いつになく真剣な写真家の表情に、レグはそれ以上言い返すことはできなかった。

 

「キャンプって浜の……ヘンテコなやつですか……?」

「そう、大切なものがそこにあるんだ。取りに行かないと」

「……じゃあ、私もついて行きます!」

「えっ?」

 

今まで控えめだったアドとは違い、食い気味に話して来たせいで、写真家は呆気にとられる。

 

「私はこれでもハンターなんです……。お役に立ちたいんです……」

「いいのか? そりゃこっちとしては嬉しいが」

「やったね主人様! アドちゃんはなんか強そうだし、僕と合わせれば百人力だよ!」

 

レグはアドの手を握ってブンブンと上下に振り回している。

 

「ねっ! アドちゃん!」

「あっ、えっ……っ!」

 

困惑するアドをよそ目に、脳天気といった感じにレグは笑みを見せて居た。

 

「ふふっ」

 

その光景につられて、写真家まで笑みをこぼしていた。

 

「写真家さん……! 止めてくださいよぉ……!」

「いいじゃないか。友達(フレンズ)なんだろ?」

 

止めてと言っているものの、アドは困惑の表情に笑みが混ざっていた。

 

(とにかく、今はキャンプだな)

 

目標も決まり、男は視線を洞窟の外に向ける。

雨音が消え、雲の切れ目から光がさす。

雨はもう止んでいた。

その代わりに、洞窟内には楽しそうな二匹の声が響いていた。

 

 




アードウルフ可愛いよね。

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