ジンキ・エクステンドSins   作:オンドゥル大使

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第五章 罪の楽園
♯87 天罰の記録


 ブルブラッドの安定供給のために稼動しているプラントは、一つではなない。

 

 プラント内部に発生する反重力磁場のお陰で作業工程を行う作業員は皆、六分の一まで軽減した重力の中で作業する。

 

 なかなかにこれは奇妙なものだ。重力の檻の中に囚われた惑星で、血塊炉を産出し、製造する場所のみがまるで聖域のように他と異なっている。

 

 男は地面を蹴りつけデッキを渡っていった。血塊炉が組み込まれつつある新型人機が製造ラインに乗り、今もまた一つ、また一つと命を吹き込まれていく。

 

「どうだ? 建造時間は?」

 

 端末を手にした同期が人機のカタログスペックを呼び出した。

 

「悪くない速度だ。このまま行けば、この機体だけでも百機近く量産の軌道に乗る」

 

 手渡されたデータに男は眉根を寄せる。

 

「モリビトばっかり造ったところで仕方ないけれどな」

 

「今はこいつが一番安定性において高いんだ、仕方ないだろ」

 

 水準の高い人機は優先して建造に回される。男はステータスを呼び出し、建造基準の改定法が政府を通過したニュースを目に留めていた。

 

「安価で製造出来る人機も尻を叩かれている勢いだ。トウジャだったか」

 

「トウジャタイプは器用な分、様々なバリエーションに富む。使い勝手がいいんだろうさ」

 

「それは建造している人間の本音か?」

 

 尋ねると同期は嘆息を漏らす。

 

「……正直、血塊炉の産出率を決める悪法に関して言えば、現場からは公正な取り決めが必要としか言えないな。どの国家も必死なのは分かるんだが、俺達の業務は造る事であってその先までは保証出来ない」

 

 今もまた外骨格を組み込まれていく人機を横目に入れ、同期は飲料水を飲み干した。血塊炉の発する特殊磁場のせいで人は異様に汗を掻く。そのためか、水分補給の重要さが説かれる始末であった。

 

「どの人機も、どうせ戦場に送られるんだよな。そりゃ嫌にもなる」

 

「似たような人機を月に百機近く製造する。俺達はそのラインに異常が発生しないか見張るだけの簡単なお仕事……。ルーティンワークだよ」

 

「どうせ半自動的な機械がやってくれるんだろ? そっちはまだ楽さ。こっちなんて人機の製造数をどこまで減らせるか、一機の人機にかけられるコストと毎回、睨めっこ。高コストの機体は出来るだけ切り捨てろ、って上役の判断だ」

 

 自嘲気味に発した言葉に同期は失笑する。

 

「どの部署も同じだな。人機製造に踊らされている」

 

「俺は、ここは好きだけれどな。重力に縛られていなくっていい」

 

「月面と、数値上は同じ重力だからな。地上にいながらさながら宇宙旅行だ」

 

「月の裏側にプラントを建てるって計画、頓挫したんだって?」

 

 目新しいニュースを仕入れると同期は肩を竦める。

 

「人間様が宇宙まで人機を持ち込むのは間違っているって言う、自然主義に負けたのさ」

 

「宇宙で建造したら、じゃあ六分の一Gはどうなるんだ?」

 

「さらに六分の一だろ。無重力なのにな」

 

 お互いに現状への不満を発しつつも、製造ラインの人機のデータからは一秒たりとも目を離さない。

 

 とはいえは半自動化している建造作業に人の手が入る事はほとんどなく、入るとすればそれはエラーが生じた時である。

 

「人機をこんなに増やして、そのうち天罰でも下るんじゃないか?」

 

「誰が罰を落とすんだよ。神様か?」

 

「その神様も信じられないよなぁ。血塊炉なんていう、星の叡智を俺達なんかに任せるんだもんな」

 

 血塊炉の基は降り積もった惑星の命の欠片だという説が提唱されていた。その説を支持する人間達の論調は似たり寄ったりである。

 

 ――惑星の揺り籠に育てられた人類は、その揺り籠から解き放たれたという傲慢な考えの下、母なる大地から命の糧を搾り取っている。

 

 人は血塊炉に手を出すべきではない、とする発言がどの地域でも取り沙汰されていた。しかし、これほど安全な資源もないのだ。

 

 手を出さないほうがどうかしている。

 

「核、化石燃料、その他諸々……人間は時代に合わせて色んな資源を採掘してきたが、血塊炉ほど人類に見合った資源もない。ブルブラッドは人間の味方だ。それも絶対的な、最高の相棒だよ」

 

「核燃料ほどの危険性は存在せず、化石燃料のような枯渇の危険性もない。理想的な資源だ、っていうのは大国の方便だったか」

 

「理想的なのは血塊炉の利点だが、結局は兵器として送り出される。俺にはこいつらが売られる子牛のように思えてくる」

 

「じゃあ、歌ってみるか?」

 

 冗談めかした言葉に同期は微笑んだ。

 

「売られる子牛のために俺達がどれほど歌っても、世界にとっては変わらないのかもな。人機開発は日進月歩だ。すぐにこの量産計画もお古になる。今は、モリビトの開発案が勝っているからこいつに尽力しているが、そのうちもっと容易い人機が出来上がるだろう。いや、その時にはもう人機じゃないのかもな」

 

 人機に替わる兵器の開発。あり得なくもない話だ。

 

「人型兵器なんて夢のまた夢、って言っていた先人達には申し訳ない事をしている。その気はある」

 

「足なんて要らないって言っていた連中か。ところが、ユーザビリティの観点から鑑みて、四肢は必要不可欠なんだ。血続の感覚、って奴を聞いた事はあるか?」

 

 血続の話が挙がるのは何も珍しくない。人機を操るのに長けた者達は自分達とは見ている世界が違うのだという。

 

「ああ、手足みたいに動かせるって」

 

「だから手足は要るんだよ。人間である限りは、な」

 

「捨てたその時には、もう人間じゃないって事か」

 

 どうにも皮肉めいている。人型兵器など必要ないと思われていた時代もあったが結局落ち着くのは人型であるのは。

 

「血続の操主を見た事があるが……あれは違うな」

 

 違う、としか言いようがない。自分達とは価値観、あるいはこの世界への迎合のされ方が全くの別種なのだ。

 

 血塊炉、ブルブラッド鉱石が命の降り積もった欠片だという説が正しいのならば、彼らは命の根源にアクセスする事が許された高次存在である。

 

 それだけで、人間の限界を超えている。

 

「血続が前線に出ているって話は何度か聞いたが、実際の戦闘は見た事がない。恐ろしく強いんだろうが」

 

「人機を使わせれば右に出るものはいないってな。血続同士の戦闘になった場合、どうなるのかまでは知らないが」

 

「製造職だろ。知る必要性もない」

 

 所詮、人機を造る側と使う側では意識が違うのだ。製造仕事の人間が戦場に呼ばれる事がないように、血続もまたここに呼ばれる事はないだろう。

 

「人機を造り続けて何になるんだろうな。そりゃ、尽きない資源ってのは理想的だろともうが」

 

「何だ、人機開発に懐疑的だな」

 

「楽だとは思う。人機って言う理想的な兵器を手に入れられて、人間は多分、幸福だとも。ただ、このままこんな日々が続くのか、たまに分からなくなるんだ」

 

「さっき言っていた罰って奴か」

 

 人機は強力な兵器だ。反重力の根源であるリバウンド効果を生み出す血塊炉。人の域を容易く超えるその能力。

 

 どれを取っても今までの兵器の枠を超越している。

 

 だから、これを生み出せた人類は正しい道を歩んでいるのだろう。

 

「具体的には分からないが、人機開発に携わっていると、時々、妙な胸騒ぎがする。このまま続けていると、何かがありそうで……」

 

 同期の不安は分からなくもないが、兵器を造っている人間が悪人というわけでは決してないだろう。

 

「銃を作れば犯罪者か、って話だろ、そりゃ。人間って言うのはそういう側面を切り離して考えられるから強い」

 

 星の王者にもなれた。人機が選んだのは人類であったのだ。それだけで充分だろう。その言い草に、同期は掌に視線を落とす。

 

「この手が、悪魔を生み落としているんじゃないかって、たまに思ってしまう。俺は、変なのか?」

 

「セラピーを一度受ければいい。それか、血塊炉のクスリでもやれば」

 

 ブルブラッドから生み出されるのは何も人機だけではない。精神安定剤や、戦意昂揚剤などの薬理関係の道にも通じている。

 

 ブルブラッドの夜明けは人類に恒久的な平和をもたらしたのだ。夢のような資源は人間を根底から幸せに導く。

 

「俺はあのクスリ、あまり好きにはなれなくってな。無理やりに精神を歪められている感じがする」

 

「ブルブラッドの煙草くらいは合法だろ。酒か煙草か女に逃げるか、だ」

 

「どれもあまり褒められたものじゃないがな」

 

 製造ラインの人機が組み上がっていく。何もしなくとも、人機は今日も明日も製造され、滞りなく戦場へと送り込まれてスクラップになるだろう。

 

 男は眼前に位置するアイサイトを三つ持つ機体の頭部を視野に入れていた。鋭い眼窩がこちらを見据えている。

 

「これがモリビトか」

 

「まだ開発段階の試作型だが、モリビトタイプは優秀だ。ただ、トウジャほど融通は利かない」

 

「じゃあ戦場を闊歩するのはトウジャか?」

 

「どうだかな。人機開発において一歩抜きん出る可能性があるのはどちらも同じだ。要は使い方次第だよ」

 

 人間がどのように使うかだけで、同じ血塊炉から生じた代物でも大きく変わってくる。モリビトもトウジャも、それぞれ人のために尽くす事だろう。

 

 男は端末の末尾に添えられている廃棄データを呼び起こした。コスト面で切り捨てられた量産計画を目に留める。

 

「この人機だけ、ワンオフなのか」

 

「あまりにコストが見合わなかったのと、どうにもシステム面で不明な点が多くてな。上の御機嫌を損ねた」

 

「そりゃ災難で。えっと、機体認証コードは……」

 

 三次元マップの中に寸胴な機体が呼び出される。人機の規格の中でもかなりの大型の上、ラジエーターを多数積載する特殊な機体だ。比してコックピットは小さいが、モリビト、トウジャとの比較率を目にすると十倍近くの機体出力の差がある。

 

「こんなの、よく実現したな」

 

「実現はしていない。一機限りの機体だ。それも、造ったはいいが、誰も使いたがらない。よく分からない、ってのが大きいな。その人機、いい噂は聞かない」

 

 開発職の同期にしては珍しいほどの苦言である。彼は人機ならばどれも愛しているのだと思い込んでいたが。

 

「でもモリビト十機を製造するよりこいつを拠点制圧に回せば……」

 

「物事はそんなに簡単じゃないって事だ。軍内部の取り決めでな。その人機はお取り潰しになる。実戦にも回されないまま、開発計画は頓挫。なかった事にされる人機だ」

 

「……さっきから辛辣だな。親の仇みたいな言い草だぞ」

 

 言ってやると同期は渋い顔をする。

 

「俺にもよく分からんが……気味が悪いってのが総意だな。みんな言うんだよ、その人機は得体が知れないって。得体が知れないも何も、ヒトが造ったものだって言えばそうなんだが、制御出来ないというか、イメージが掴めない」

 

「件の血続でも、か?」

 

「血続のエース操主でもあんまり好ましくないって評価だ。やっぱり何かあるんだろうさ」

 

「呪われた機体、か。その名前は――」

 

 その時、けたたましいアラートが鳴り響いた。プラント内が赤色光に塗り固められ、製造ラインが一斉停止する。

 

「何があった?」

 

 周囲に視線を巡らせる同期に男は通信を受け取っていた。

 

「どうした?」

 

『室長! 例の廃棄予定の人機が区画で暴走を始めて……、総員で当たっていますが止められません!』

 

 悲鳴のような声に自分の役職を思い出し、適切なマニュアル指示を送る。

 

「コードを送れ。停止信号を発布。プラント内の全人機を停止させる」

 

『ですがそれをすれば、対処可能な他の人機も……』

 

「やるんだ。一機だと言ったな? その人機は」

 

 そこまで口にしたところで激震が見舞った。よろけた男は端末に表示される外の景色を目にしていた。

 

 血塊炉の産出地点。最も深いポイントゼロで青い煙が棚引いている。噴出したブルブラッドのマグマに男は瞠目していた。

 

「何だこれは……。ブルブラッドがこんな、固形物になるなんて……」

 

『件の廃棄予定の人機がポイントゼロに向かっています! このままでは!』

 

「落ち着け。作業工程をスキップし、コードを打ち込めば人機は停止する。落ち着いて、危険信号時における対処法を叩き込めば……」

 

「――天罰だ」

 

 不意に同期の発した言葉に男は硬直する。彼は許しを乞うように傅き、天に祈りを捧げた。

 

「こんな事になるくらいならば、人機なんて開発しなければよかった」

 

「なに弱気になってるんだ! 今は落ち着いて対処すれば……それに所詮人機の暴走くらい、血塊炉を強制的に止めればなんて事……」

 

 ない、と言いかけて噴出したブルブラッドのマグマが螺旋を描いたのを彼は視界に入れていた。ブルブラッドが渦を巻き、直後、プラント内を突き抜けたのは轟音である。

 

 破壊と怒号に塗れたプラントの中で、一機の人機が絶対者のように佇んでいた。

 

 その名前を、男は口にする。

 

「……キリビト、お前は何を」

 

 そこから先はブロックノイズに途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閲覧権限を引き上げた形となったが、疑似体験の中に己を送り込んで戻ってくるのに難航している者もいた。

 

 共有記憶を強制停止させ、「現実」に戻ってこさせる。ようやく全員が記憶の大海から呼び戻された。

 

『閲覧レベル5のメモリーだ。ブルブラッド大気汚染の大元……百五十年前の記憶である』

 

 その中心軸であるテーブルダストポイントゼロにおける事故の全容、という事になっている。実際にはまだモニターされていない事象もあるのだが現在の閲覧権限ではこの個人記憶領域への潜行が僅かながらも手がかりとなるはずであった。

 

 現時点でのモリビトへの対抗策。それを見出すために、元老院は一つの議決を取ろうとしていたが納得出来ていない個体がいるのを発見し、ならばと閲覧権限を引き上げた形となる。

 

 全員の納得は必要だ。殊に情報同期で瞬時にお互いの思惑が知れるこの機械の身となれば。

 

『了承した。しかし、これだけではないはずだ』

 

『当然である。これは個人記憶のみ。全体像に乏しい』

 

 瞬時に全員の脳内に呼び起こされたのは最大望遠で捉えられたテーブルダストの噴火である。

 

 青い噴煙が棚引き、汚染が瞬く間に広がっていく。

 

『惑星全土を覆いつくすのに十年もかからなかったと聞く』

 

 その僅かな十年の間に人類はコミューンという檻を手に入れた。ブルブラッドが安全な兵器の礎だと信じられていた時代であったが危機感はあったのだろう。

 

 もしもの時の備えを用意していたのは他ならぬ自分達である。

 

『さらに三十年、か。Rフィールドの天蓋、プラネットシェルの完成には』

 

『未だ完成ではない。だが民衆にはあれで完成だと思わせておく必要があった』

 

 プラネットシェルが完全ではないと知るのはごく僅かな人間のみ。その人間もいずれは全身義体の自分達の脳として使用される運命にある。

 

 外部記憶領域に頼るのは得策とは言えないからだ。

 

『汚染原因はキリビト、という事なのか』

 

『否、汚染に至った理由は血塊炉の共鳴作用である』

 

『共鳴作用? ……把握した』

 

 即座に情報が同期される。

 

『共鳴作用、一機の異常な血塊炉を所有する人機の暴走が千基近くの血塊炉へと飛び火し、血塊炉の炉心暴走、それによる命の河へのアクセス。一度に千もの情報をさばき切る事は惑星の許容量をもってしても不可能であった。命の河は氾濫し、結果としてブルブラッド大気が惑星を覆った』

 

 今日の汚染は全て、あまりに製造量が過多であった人機開発によるものだ。当時の人間達は血塊炉と人機が完全に安定性のある兵器だと思い込んでいた。

 

 その結果が汚染と人機開発の遅れ。三大禁忌の発生である。

 

『トウジャをスケールダウンし、《バーゴイル》、ロンドが生み出された。モリビトの設計思想を低くして、《ナナツー》が量産化された。人々にはそれが適切なのだと思い込ませる必要があった。もう汚染を生み出してはならないのだと。忌むべき百五十年前の怨念は消え去ったかに思われたが……』

 

 彼らの脳裏に呼び起こされたのは一つの事柄である。

 

 ブルブラッドキャリア。原罪の人々。惑星圏外に放逐したはずの連中による報復攻撃などまるで想定していなかった。その所有人機がまさかモリビトなど。

 

『モリビトが降り立ったその時より、人々は原罪を思い知る事となった。それが、《プライドトウジャ》の目覚めという計画外の事であったとしても』

 

『そして、トウジャは一機ではない』

 

 投射映像の中に異様に長い四肢を持つトウジャが映し出された。あまりに現行の人機を超えている機動力に全員が息を呑む。

 

『ブルーガーデン……我々の関知を超えてこのような機体を完成させるなど』

 

『機体照合データにかからない。これはまったくの別個体だ。トウジャタイプの中でも最新鋭の機体……、つまりあの国はトウジャを持ちながら常に最新の装備へと換装を続けてきた』

 

 元老院の目を掻い潜る罪悪。それだけでも断罪の対象であったが、ブルーガーデンに無闇に仕掛けるのは得策ではない。

 

 それは誰もが分かっている。あの閉鎖国家に仕掛ければ手痛いしっぺ返しが待っているに違いないのだ。

 

『して、どうするか。制裁措置を取ろうにもC連合、ゾル国共にあの国家には強気に出られない』

 

『利用出来る駒を用意しておくべきだったな。ブルーガーデンには誰も』

 

 いないのか、という意味の問いかけに沈黙が降り立つ。

 

『……元首による独裁という特殊な形式を成り立たせたのは血塊炉の産出を我々がコントロールするためだ。そうしなければ人は繰り返す。同じ過ちを』

 

 千基の血塊炉による共鳴作用は言い過ぎでも、血塊炉が共鳴すれば同じような現象が起こる可能性はあるのだ。ゆえに、ブルブラッドの容量は常に均一にする必要があった。

 

『ならば、我々は動く必要はない』

 

 一人の提言に全員が尋ねるまでもなくその真意を読み取る。

 

『ブルブラッドキャリアが……? それは真実か?』

 

『現状、最も客観的にブルーガーデンに仕掛けられるのはブルブラッドキャリアのみ。なに、まだ利用価値はある。潰すのはその後でいい』

 

『ブルブラッドキャリアのモリビトを破壊するだけならばまだ容易だ。問題なのは、モリビトでさえも尖兵に過ぎないという事実』

 

 組織そのものはまだこちらにその全容を窺いさえもさせてくれない。どのような手持ちが来ても不自然ではない。

 

『モリビトを結果的に利用する事で、ブルーガーデンへの鉄槌とするか。既に準備は』

 

『整いつつある。あとは待つだけだ』

 

『しかし、血塊炉の産出国家だ。ただ単に傾かせるのは惜しい』

 

『無論、その後の処理も含めて、我々の計画には入っている。支配するのはどちらの国家でも構わないだろう』

 

 ゾル国、C連合のどちらの手柄にしても元老院には何の不利益もない。計算済みの事柄に全員の承認が取れた。

 

『では、モリビトによる介入を期待するしかない』

 

『手は打ってある。ブルブラッドキャリアの好きにはさせん』

 

 元老院の義体集団が情報を同期し、惑星を見張る衛星画像にアクセスする。

 

 全員の視覚映像に呼び出されたのはブルーガーデンの衛星映像である。濃霧に覆われた国家は窺い知る事の出来ない闇をはらんでいるように思われた。

 

『あの霧の向こうに、何があるのか、我々でさえも関知していない』

 

『いずれにせよ、泥を被るのはブルブラッドキャリアだ。今は静観していればいい』

 

『ブルブラッドキャリア、我らが母なる惑星を踏み荒らしたそのツケは払ってもらう』

 

 


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