ジンキ・エクステンドSins   作:オンドゥル大使

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♯356 眼光決死

 

 砲塔で殴りつけたその時、《イクシオンガンマ》がハッと硬直する。

 

『渡良瀬が……死んだ?』

 

 爆風の向こう側にあの巨大人機が消え去ったのを、桃は目にしていた。この動乱の戦局も移り変わろうとしている。桃は《ナインライヴスリレイズ》で《イクシオンガンマ》の追撃を引き剥がす。

 

「Rハイメガランチャー! 発射!」

 

 放たれた光軸を近接戦用の《イクシオンガンマ》は雷撃のファントムで逃れる。舌打ちを滲ませ、桃は鉄菜の《モリビトシンス》へと真っ直ぐに向かう白亜の機体の熱源を関知する。

 

「《トガビトコア》……。《ゴフェル》を狙えるのに、身を翻した……?」

 

 その理由を判ずる前に《イクシオンガンマ》の棍棒が《ナインライヴス》を打ち据える。

 

「こんの!」

 

 負けじと砲身を払い、ウイングバインダーに仕込んだRピストルの銃撃網を浴びせる。敵人機が上方に逃れ、腕に仕込んだリバウンドのガトリングを浴びせかけていた。

 

 桃は奥歯を噛み締め、重力過負荷を感じながら機体を制動用推進剤で移動させ、Rハイメガランチャーの照準をかける。

 

「沈めぇーッ!」

 

 放たれた砲撃を《イクシオンガンマ》は紙一重で回避し、加速して《ナインライヴス》へと一撃で殴りつけていた。

 

 そのまま月面まで押し飛ばされた人機を、桃は持ち直させる。

 

 砂礫を舞い上がらせ、《ナインライヴス》が四枚羽根を稼働し、敵人機を睨んだ。

 

「そっちに負けている場合じゃないのよ! モモだって!」

 

 ウイングバインダーに搭載された血塊炉が火を噴き、Rランチャーと同威力の破壊性能が《イクシオンガンマ》を狙い澄ます。

 

《イクシオンガンマ》は棍棒を一本投げ捨てていた。そちら側がデコイとなり、砲撃の照準を逸らす。

 

 爆発の光に抱かれた武装を尻目に、《イクシオンガンマ》は《ナインライヴス》へと棍棒を振るい落とす。

 

《ナインライヴス》は後退し様にRピストルを放っていたが、敵はその程度では止まらない。

 

 間断のない攻撃に桃は問い返していた。

 

「何のために! もう、あんたらのボスは死んだんでしょうに!」

 

『……渡良瀬ぇ……っ。もう、痛いままなの? 痛いままなら……みんな! 死んじゃえばいいぃ……っ! 壊れて、爛れて、傷ついて! そして引き裂けてしまえ!』

 

 横合いから殴り上げた《イクシオンガンマ》の暴力に、《ナインライヴス》がたたらを踏む。

 

「……結局のところ、自分かわいさに戦っているってわけ。そんなもんで、モモ達がぁっ!」

 

 砲身を突き上げ、Rハイメガランチャーを至近距離で放とうとして、《イクシオンガンマ》の浴びせ蹴りが血塊炉を震わせていた。

 

 よろめいた《ナインライヴス》を《イクシオンガンマ》が殴りつける。

 

 加速し、その勢いを殺さずに敵機は《ナインライヴス》を押し飛ばしていた。

 

 急加速に桃は奥歯を噛み締める。

 

「あんた、は……」

 

『何で……? 天使だって言うのに、痛いままなんて……ぇ。そんなの、おかしいじゃない! 何もかも、おかしいってのに!』

 

 振るい上げた棍棒に赤いリバウンドの輝きが宿る。渾身の一振りであろう。

 

 桃は息を詰め、打ち下ろされるその一撃より視線を逸らさなかった。

 

 その一瞬。

 

《ナインライヴス》のバランサーをわざと崩し、姿勢制御の外れた機体が予測不可能な挙動をする。

 

 それを相手も読めなかったらしい。《ナインライヴス》の頭部すれすれを、相手の棍棒の一撃が行き過ぎる。

 

 棍棒が地面へと深々と突き刺さっていた。

 

「……悪いわね。死ぬ気で、って言うんなら、モモはとっくに! その覚悟は出来ているってのよ!」

 

 狙ったのはゼロ距離での砲撃。避けようのない至近でRハイメガランチャーが敵の腹腔へと突きつけられている。

 

《イクシオンガンマ》が赤い眼光を照り輝かせた。

 

『殺してやる!』

 

「うるさいわね! モモ達は、諦めを踏み越えてでも!」

 

 Rハイメガランチャーの太い光軸が《イクシオンガンマ》を打ち砕いていた。敵の怨嗟も含めて光の向こうへと追いやっていく。

 

 桃は呼吸を荒立たせ、言葉を結んでいた。

 

「……これが、ブルブラッドキャリアの……執行者よ……。そうよね、アヤ姉……」

 

 砲身を杖のように保持し、《ナインライヴス》に息づく桃は降り注ぐ敵の装甲の中で息をついていた。

 

 バラバラに砕けた敵機の血潮がピンク色の装甲を青く汚す。《ナインライヴス》は歩み始めていた。

 

 まだ、終わっていない。

 

 その眼光は睨み合いを続ける白亜の人機と、鉄菜の《モリビトシンス》に向けられていた。

 

 


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