ジンキ・エクステンドSins   作:オンドゥル大使

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♯284 志は退かず

「質量兵器を完全破壊! 《モリビトシンス》、やりました!」

 

 ブリッジにもたらされた報告に一喜一憂するよりも先に、《スロウストウジャ弐式》編隊がプレッシャーライフルを掃射する。ラヴァーズ艦――《ビッグナナツー》が前に出てそれを応戦する形ではあったが、型落ち機ばかりでは押さえ切れるはずもなく、数機が《ゴフェル》へと抜けてくる。

 

「応戦! 機銃掃射!」

 

 今は、鉄菜の武勲を褒め称えるだけの余裕もない。銃座から《スロウストウジャ弐式》を引き剥がす火線が咲く中、茉莉花がコンソールを操りつつ歯噛みした。

 

「なんて事! 《モリビトシンス》の現状ステータスではすぐに帰投は出来ないわ。《ナインライヴス》は!」

 

「ラヴァーズ艦の艦首で応戦していますが……、先ほど《ラーストウジャイザナミ》と交戦! 損耗率……八割……」

 

 絶望的な数値にニナイは言葉を振る。

 

「《イドラオルガノン》で相手の大隊を突っ切る。状況を!」

 

「《イドラオルガノンカーディガン》! 敵大隊と交戦中! しかし……《ナインライヴス》の支援までは回れませんよ!」

 

 桃には地力で生き残れと言うしかない。酷な現実に、ニナイは奥歯を噛み締める。

 

「どうするの……ニナイ。このままじゃ、ジリ貧よ?」

 

「分かっている。でも、これ以上どうしろって……」

 

「《カエルムロンド》! ブルーガーデン跡地へと潜入したのを確認しました! 敵の指揮艦が後退していきます!」

 

「やはりブルーガーデン跡地には、掘り返されたくない何かがありそうね」

 

 茉莉花の言葉に《ゴフェル》を激震が見舞う。《スロウストウジャ弐式》の部隊がプレッシャーライフルを引き絞っていた。

 

「ラヴァーズ側に応援要請!」

 

「伝令していますが……応答なし! 《ビッグナナツー》も限界ですよ!」

 

「……ジリ貧なのはお互い様……か。持ち堪えさせて! 茉莉花! 鉄菜が帰投するのに必要な時間を概算!」

 

「やっているけれど! 《モリビトシンス》は《クリオネルディバイダー》を損傷している! こんな状態じゃ帰ってきたところで……」

 

 すぐには出せない。その事実に悔恨を噛み締める。

 

「他の機体もない……。現状、敵の大部隊との戦闘を終わらせる決定的な何かが欠けている……」

 

「敵のスタミナはこれまでと段違い。だって言うのに、こっちは損耗するばかりじゃ割に合わないわね」

 

「レールガンで武装を射出! 《ナインライヴス》に武器を預けて! ありったけの火器を持たせるのよ!」

 

「片腕ですよ! 無理なオペレーションじゃ……」

 

「……無理は百も承知よ。桃! 聞こえている?」

 

『こっちは……っ! 《ビッグナナツー》に群がってくる相手を掃討するのに必死だってのに!』

 

「武器を射出するわ。Rランチャーと予備のエネルギーパックを!」

 

『助かる……。でも、こいつらを追っ払うのには足りないかも……』

 

「弱気にならないで。今が正念場よ」

 

『……了解』

 

「レールガンに乗せ、《ナインライヴス》の武装を! タキザワ技術主任は?」

 

『お呼びかな。悪いけれど、こっちもまずい。……さっきの《スロウストウジャ弐式》のプレッシャーライフルが風穴を空けた。隔壁を閉じないと引火する。格納庫でも怪我人が出ているんだ……。最大限度のオペレーションは……』

 

「難しくてもやって。そうじゃないと、何のために……」

 

『仰せのままに! 《ナインライヴス》の武装をレールガンに乗せて射出! 行けるかい?』

 

 整備班の声が相乗し、ニナイはブリッジから望める戦闘状況を視野に入れていた。

 

 ラヴァーズと《ゴフェル》の艦載能力をもってしても、アンヘルの大部隊を相手取るのにはまだ足りていない。

 

 加えて相手も混乱があるはずだ。

 

 バベルの使えない今、機体同士のリンクも儘ならないはず。攻め込むとすれば今しかない。双方にとってもこれは好機。

 

 相手を下したほうが、これから先の優位性を得る。

 

「艦砲射撃! 目標、敵巡洋艦!」

 

「艦主砲、照準! 地軸、重力誤差、レイコンマ五に抑え! 行けます!」

 

「発射!」

 

 発射の復誦が返り、《ゴフェル》の主砲レールガンが火を噴いた。前に出ていた敵の巡洋艦を灼熱が焼き尽くし、火の手が上がる。

 

 この海域はもう地獄絵図だ。それでもお互いに下がる気配がないのは、ここで退けば状況が一変するのだと理解しているためだろう。

 

「奴さん、下がりませんよ……。ラヴァーズ艦の応戦を!」

 

「もうもらっている! これ以上の無理は言えないわ!」

 

「ですが……敵は来ますよ! 直上に熱源あり! 《スロウストウジャ弐式》です!」

 

 息を呑んだブリッジのクルー達が重武装の《スロウストウジャ弐式》を投射画面に映し出す。

 

 プレッシャーバズーカの砲口がこちらを照準した。

 

 ぐっと奥歯を噛み締めた直後、ラヴァーズ艦から一機の人機が跳躍する。黄金の機体色を持つその人機が錫杖で《スロウストウジャ弐式》を叩き落した。

 

 最新鋭の機体をもつれ合いながら、錫杖を相手の頭部へと打ち込む。

 

 制御を失った《スロウストウジャ弐式》を蹴ってその人機が《ゴフェル》の甲板へと降り立った。

 

「《ダグラーガ》……」

 

 呆然と声にしたニナイに《ダグラーガ》より通信が繋がる。

 

『ここでの撤退はあり得ないと、判断した。拙僧も出よう』

 

「ですが……《ダグラーガ》が出ればこれからの情勢が……!」

 

『もう転がり出した石だ。なに、この人機が少し損耗すれば未来を掴めるというのならば安いもの。《ダグラーガ》、出るぞ!』

 

 再び跳躍した《ダグラーガ》が機体追従性では遥かに勝るはずの《スロウストウジャ弐式》へと取り付き、錫杖一つで敵の頭部コックピットを打ち砕く。さらに相手を足がかりにして連撃を見舞うその姿にクルーが魅了されていた。

 

「すごい……あれがこの星最後の……中立」

 

 その中立の立ち位置を歪めさせたのは自分達。ニナイは声を振り絞る。

 

「今ならば状況をマシに出来る! 《ナインライヴス》に通達! 敵機を薙ぎ払って! 《ゴフェル》も前に出るわ!」

 

「正気? 今の《ゴフェル》が出たところで……」

 

 茉莉花の論調に、ニナイは頭を振る。

 

「報いたいのよ。少しでもね」

 

 してもらっているばかりでは申し訳が立たない。今は、どれほどの微力でも立ち向かう姿を見せるべきであろう。

 

 舵を取るクルーが腹腔より声にした。

 

「《ゴフェル》、全速前進!」

 

 リバウンド力場で浮遊する《ゴフェル》がラヴァーズ艦と肩を並べる。艦首で必死に敵へと応戦の火線を張っている《ナインライヴス》が視野に入った。

 

『ニナイ……、敵は撃っても撃っても……まるで底知れない数で……』

 

「分かっている。《ゴフェル》の艦砲射撃と艦主砲をもって、敵陣へと突き進む。このまま押し込むのよ」

 

「……ああ、もうっ! これじゃジリ貧どころじゃない! 無鉄砲もいいところよ! 《ゴフェル》の推進装置へとエネルギーを集約。今は、数ミリでもいい! 進んでモリビト二機を援護する」

 

 茉莉花が艦のコンソールを操作し、最適な状況を作り出そうとしてくれる。

 

「……すまないわね」

 

「本当よ。……でも、ここまで来たんだからね。無駄骨なんて許さないんだから」

 

 彼女なりの気遣いだろう。ニナイは首肯して声を張り上げた。

 

「艦を進め、アンヘル防衛網を打ち崩す!」

 

 


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