ジンキ・エクステンドSins   作:オンドゥル大使

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♯236 罪の雷

 渡良瀬は悔恨を噛み締めていた。帰投した《イクシオンベータ》からのデータ抽出に時間がかかっている事、撃墜されたシェムハザの次機の補填など課題が数多い。その最中、お歴々のご機嫌うかがいまでしなければならないとは。

 

『イクシオンフレーム……、あんなものを戦果と呼べるとでも?』

 

『正直、苦味が勝りましたな。現状のトウジャの一強を廃止してまで進めるべきではないかと』

 

『拍子抜け、というのが正しいでしょう。思ったほどではなかった。渡良瀬主任、あなたがどこまで推し進めたくても結果が伴わないのでは』

 

 お歴々は相も変わらず勝手気ままだ。このコンペディションに参加したいと言い出したのは向こうのはず。だというのに、使えない人機の品評会など時間の無駄だったとでも言いたげであった。

 

「イクシオンフレームは必ず次世代機を勝ち取ります! なので今一度、チャンスを……!」

 

『チャンスと言っても君……、もう片方は墜とされたんだろう? あまり整備班を酷使すべきではないと感じるが』

 

『モリビトとブルブラッドキャリアに対抗するのに余計な予算の食い潰しは避けるべきだよ。《スロウストウジャ弐式》の全部隊への配置。そちらのほうがよっぽど有意義に思えるが』

 

 それでは自分がここまで登り詰めた意味がない。渡良瀬は食い下がっていた。

 

「しかし! イクシオンフレームの持ち帰ったデータはかなり有意義で……!」

 

『有意義かどうかはこれからの戦場が決める。その点に関して言えば、無価値だよ。初陣で撃墜される人機など』

 

 説得は無意味なのか。奥歯を噛み締めた渡良瀬に通信域の一人の老人が言いやる。

 

『まぁ、お待ちください、皆様方。何もすぐに結果を求めずともよろしいでしょう。トウジャの今日の配備とて、すぐに出た結果ではありますまい。長い目で見る事こそが人機開発において必要不可欠な目線だと思いますが』

 

 タチバナの一家言だけでお歴々は態度を百八十度変えた。

 

『……ドクトルが仰るのならば』

 

『タチバナ博士の意見となれば見過ごせませんな。渡良瀬主任、首の皮一枚で繋がったな』

 

 まさかここに来て自分がこの老躯に助けられたなど、渡良瀬からしてみれば一番の屈辱であった。

 

 次々と通信を打ち切るお歴々の中、最後にタチバナが居残る。

 

「……何のつもりですか。わたしを嗤いたくって残ったんですか」

 

『いや……かつての右腕だ。邪険にするつもりはない』

 

「戻りませんよ! 時間も、立場も、何もかも! わたしは絶対に、あなたの下の……ただの役所仕事になんて戻るつもりはない!」

 

 言い捨てた言葉にタチバナは何もいきり立つ事もない。ただ冷静に事の次第を見つめていた。

 

『それならばそれでよし。自分でやれるところまでやってみせろ』

 

 その言葉を潮にして通信が切られた。まだ自分はタチバナの重圧から逃れられていない。

 

 所詮はタチバナに意見出来るだけのポジションにいたから、というだけの結果論だ。それでイクシオンフレームの話が通ったに過ぎない。その現実に端末を叩きつけようとして、不意に着信が鳴り響いた。

 

 シェムハザからである。彼はアンヘルの撤退軍の中にいたはずだ。

 

「……何だ」

 

『ちょっと参照してもらいたいデータがあるんです。送ってもよろしいでしょうか』

 

「今でなければ駄目なのか?」

 

『ええ、出来るだけ早いほうが。……どうなさいました?』

 

 こちらの対応を胡乱そうに返され、渡良瀬は憤りをぶつける。

 

「何でもない! 貴様はわたしの造り上げた天使だ! どうして負けた!」

 

 その言葉に彼は淡々と返す。

 

『……ですからその原因を、今からお送りします。大丈夫ですか?』

 

「ああ、分かっている。分かっているとも」

 

 シェムハザだけのせいではない。自分がイクシオンフレームに夢想し過ぎていたのか、あるいは別の要因が働いたのかを見極めなければならないのだ。

 

 送信されてきた戦闘データに渡良瀬は目を見開いていた。

 

 機体各部が追加武装を施されたモリビトを確実に「撃墜」した、と認識している。だというのに、その瞬間、《イクシオンアルファ》は完全に静止していた。

 

 操主からのレポートでも撃墜を確認したとある。思わぬ食い違いに渡良瀬は顎に手を添えた。

 

 幾分か冷静になった頭で事態を分析する。

 

「これは……機体が誤認している?」

 

『こちらでもそう考えたのですが、あの時、確実に撃墜した感触がありました。あそこまで生々しい感覚があったのにも関わらず……敵機は撃墜出来ていなかった』

 

「事実情報の食い違いだけで見るのならば、あのモリビト……こちらの計器をジャミングしたのか?」

 

『いえ、不可能のはずです。アンチブルブラッド兵装でもイクシオンフレームの干渉度は五十パーセント以下。現行の人機では遅れを取る部門で先を行けるイクシオンフレームが、ただの計器の誤認など』

 

 さらに付け加えるのならばシェムハザが見誤ったのも考え辛い。彼らは自分の造り上げた優秀な天使のはずだ。だというのにそう容易く敗れるはずもない。

 

「……このモリビト、厳重注意だな。次に会敵した際には」

 

『ええ。真っ先に取りにいきましょう』

 

 前回はこちらも読みが浅かった。イクシオンフレームの真価を試す品評会紛いだった、というのもあるはずだ。

 

 今度こそ、確実にモリビトを墜とす。そうすれば自ずと見えてくるはずだ。こちらの有用性も。

 

「見ていろよ、モリビト。それにブルブラッドキャリア。勝者はこの渡良瀬だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 付けられてはいないだろうな、と真っ先にシステムが警戒した。水無瀬は両手を上げる。

 

 全身を観測する光線に、十秒ほど当てられただろうか。すぐさま確認の報告が届いた。

 

「結構な場所だな。人形屋敷とやらは」

 

 招かれたのは初めてとなる。水無瀬はそこいらに位置する培養液の入ったカプセルや、吊られている義体人形などを目にしていた。

 

 どうにも人間の精神的な介入を拒むように造られている様子だ。

 

 脳内リンクを張ろうとしたが、その前に重々しい声が空間に響く。

 

『その方か。水無瀬、と言ったな』

 

「ええ。まさかお招きいただけるとは歓迎ですよ。現状の支配特権層になんて」

 

 こちらの物言いに円筒型の義体に入った人々は口々に言いやった。

 

『ガエル・シーザーの』

 

「友人ですよ。諜報に顔が利く」

 

『参照した』

 

 今の一瞬で地上の情報網を閲覧したのだろう。恐れ入る、と水無瀬は感じていた。彼らの有するバベルをもってすれば自分など羽虫に等しいはず。さらに今日のネットワーク網を用いればその羽虫を完全に社会的にも「なかった事」にするなど児戯にも等しい。

 

 水無瀬はここに召喚された意味を問い質していた。

 

「わたしはガエルの友人ですよ。ただの、ね。何をまさか、こんな場所まで呼ばれるいわれがあるなんて」

 

『ガエル・シーザーは我が方の作り上げた英雄。彼の元の稼業は』

 

「戦争屋でしょう? それくらい、友人ならば知っていますとも」

 

 だが、それは彼らからしてみれば地上から消し去ったはずの情報。それを持っているだけで警戒に値すると思われても仕方はない。

 

『……友人、というからには、君は我々の事も嗅ぎ回っているようだな』

 

「彼のやりたいようにやらせるためにはそれなりには。ですがここに呼ばれるいわれが分かりません。何か仕出かしましたか?」

 

 ――さて、ぼろを先の出すのはどちらだ? 

 

 試す眼差しを注いだ水無瀬に義体に収まった者達は納得した様子であった。

 

『胆力もある。それなりの知識も』

 

「……どうも」

 

『だが世界を回すのは、我々レギオンだ。それを忘れないでもらいたいな。先刻の行き過ぎた諜報活動、見過ごしていないとも思ったか』

 

 やはり、相手の狙いはそれか。水無瀬はとぼけてみせる。

 

「さぁ? 諜報部はどの部門もそれなりに機密が厳しいもので」

 

『分からないとは言わせないとも。ガエル・シーザーの《モリビトサマエル》を介して情報収集が出来るのは我が方だけの特権のはず。それに《モリビトサマエル》の存在自体が極秘中の極秘。何故、踏み台の仕方を知っている?』

 

 そこまで悟られているのならば話は早い。水無瀬は肩を竦めてみせる。

 

「わたしは賛同してるんですよ。思想自体には」

 

『現状の、アンヘルの支配に満足している、というわけか』

 

「ええ、そうですとも。だから今の支配構造を崩したいだとか、彼を利用してどうにか成し上がりたいだとか、そういう野心は一切ないんです。本当に、彼とは馬が会うだけの話」

 

 何なら思考を明け透けに見られても構わない。脳内を透視しても自分とガエルにやましいところは一つもなかった。

 

 自分達は単純に利益が合致しているだけ。それ以上の旨味は感じていない。だからこそ、ここでは強く出られる。レギオンの上層部連中が危惧しているのは、現状の支配域の崩壊。

 

 亀裂を入れる可能性があるとすれば、それは自分ではない。

 

『君の経歴を調べてもいい』

 

「どうぞ、ご自由に。どれほどわたしの経歴を丸裸にしても、やましいところなんて全くと言っていいほど」

 

 そう、ないのだ。自分がたとえブルブラッドキャリアの人間型端末であったと割れたところで、最早裏切られた身。この身分に頓着しているわけではない。

 

 むしろ、逆であった。

 

 生まれ持った能力は最大限に活かすべきだ。それこそ、自分の輝ける場所で。ブルブラッドキャリア、組織に使い潰されるくらいならばとガエルと組んだ以上、もう何も怖いものなどありはしない。

 

 相手はこの沈黙をどう感じたのか、再び重々しく声が響き渡る。

 

『査問の必要はなさそうだな』

 

「疑わしければ罰する、という思考回路ではないだけでも」

 

『当然だとも。我々は旧態然とした支配からの脱却を願っていたのだ。彼らと同じでどうする』

 

 その割には義体の着心地は随分とよさそうではあるが。

 

 皮肉を飲み込んで水無瀬は問いかけていた。せっかく人形屋敷に招かれたのだ。詰問するのは何も相手だけの特権ではない。

 

「何を求めていらっしゃるんです? 《モリビトサマエル》を使って。彼は表の肩書きではアンヘルの上等構成員ですよ? あまり掃除ばかりさせるものでもない」

 

『君の意見を聞くまでもない事だ。彼は納得づくでやっている』

 

 口を挟むな、か。しかしそれにしては自分というイレギュラーをここに迎えた時点で何かを期待しているのが窺えた。

 

「そうですか。ですが、宇宙ではそうもいかないのでは?」

 

 その言葉振りに義体から注がれる視線が強くなった気がした。やはり、というべきか、相手の関心はブルブラッドキャリア。そのモリビトの運用と昨日よりニュースを騒がせる天体に関してだろう。

 

『……月の存在は極秘裏であった』

 

「ですが、知っていたんですよね? あそこにブルブラッドキャリアの拠点があると」

 

『知っていても、仕掛けられない局面というのは存在する。宇宙の何もない場所に爆撃を浴びせたところで誰一人として納得はし得ないはずだ』

 

 そう、昨日未明まで、謎の衛星は地上から観測不可能であった。アンヘルの地上部隊はそれこそ上へ下へと大騒ぎである。

 

 ブルブラッドキャリアの最新型天体兵器、という見方が上層部を一色に染めていた。

 

 つまり宇宙を押さえられたも同義。この条件下でどう動くかはアンヘル上層部――ひいてはレギオンの一挙手一投足にかかっていると言っても過言ではない。

 

 ――さて惑星をどう回す? 

 

 水無瀬の試す眼差しに相手は応じていた。

 

『楽しそうだな。まるでガエル・シーザー、彼と同じ目線のようだ』

 

「いえ、楽しいわけでは。決して。ですが、ここでどう動くかによってブルブラッドキャリアとの決戦は別の展開を迎えるでしょう。それが気にならないほど無頓着にもなれませんもので」

 

『あまりに関心が多ければ要らぬ横腹まで突く事になる』

 

「控えましょう。しかし、それでも、です。どう対応するのかは世界が見ている」

 

 自分が目にせずとも世界が固唾を呑んで見守っているに違いない。ブルブラッドキャリアの拠点と思しき衛星を墜とすのか、墜とさないのか。そのさじ加減一つでアンヘルのこれからも左右されるだろう。

 

 世界を支配せしめるのに彼らは有効なのか、否か。その審議が今、問われていた。

 

 ここいらでぼろを出すのが正直のところ、水無瀬の考えだ。レギオンも頭打ちに達するのではないか、と。

 

 だが、彼らは高圧的な物言いを正す事はない。

 

『我々がこの程度で遅れを取るなど、あってはならない』

 

「ですが情況は転がりつつあります。天体兵器……大いに結構でしょう。どうせリバウンドフィールドの守りがある、と民衆には情報統制をかけられる。ですが、実際に星が落ちてくるのは全くの別の話。市民の納得と、星の命運は別種なのです」

 

『お喋りだな』

 

「それが仕事なもので」

 

 本当にブルブラッドキャリアの天体兵器ならばここいらでオガワラ博士の声明があってもいいはず。それを揉み消しているのか、あるいはまだ存在しないのか。それを確かめる手段は今の自分にはない。

 

 だがレギオンの次手でそれを読む事は可能だ。どのような隠し玉があるのか、せいぜい見させてもらうとしよう。

 

 なにせ、ここは地上で最も安全な場所。地下都市、ソドム。名を変え、今は人形屋敷とあだ名されているが、それでも本来の機能は備えているはず。

 

 かつての支配特権層――元老院の作り上げた最大の功罪。星が滅びても生き延びられる算段があると言われている無敵のシェルター施設は有効のはずだ。

 

 さぁ、どう出る、と沈黙を読み解いていると、不意に別の回線が接続された。

 

『……そう、か。なるほど、水無瀬と言ったな。準備が整ったようだ』

 

「何のです? まさか、衛星を破壊する術でも?」

 

『その通りだとも』

 

 冗談交じりに問いかけたはずの言葉は意外な返答に覆された。絶句する水無瀬を他所に彼らは投射画面を構築する。

 

 それはどこともしれない辺境コミューンであった。

 

『これは反政府運動を掲げているコミューン施設だ。もう十サイクル以上前の情報を用いている』

 

「それは、骨董品ですね」

 

『そう、骨董品……つまりはゴミのようなものだ。ゴミは掃除せねばならない。分かるな?』

 

「《モリビトサマエル》を出して虐殺ショーですか?」

 

 その程度を自分に見せて何とする。もう随分と見慣れた光景だ。

 

 しかし、相手方はそれを否定する。

 

『それとは違う、もっと鮮烈なものを見せてあげよう。見た事を後悔するであろう、地獄を』

 

 衛星軌道上へとカメラが切り替わった。衛星軌道を周回するのは一機のバーゴイルである。

 

 そのバーゴイルの腹部が異常に膨れ上がっていた。楕円の形状の腹部構造にはスマートさを備えるバーゴイルらしくない措置が施されている。

 

「……血塊炉、ですか?」

 

『純粋血塊炉を培養し、繁殖させ、その命の総量を遥かに倍増させた。あれこそが、新たなる星の功罪。人類へと突きつけられる鉄槌そのものだ』

 

 何を、と思っている傍にも、そのバーゴイルは星の守りを突破した。施されているのはスカーレット装甲である。

 

 リバウンドフィールドを突破し、ほとんど機体を焼け焦げさせたバーゴイルがコミューン上空へと迫る。

 

 刹那、青い煌きが瞬いた。

 

 直後にはコミューン上空で炸裂したバーゴイルより青白い炎が放射され、地表を焼き払っていた。

 

 同心円状に広がった高熱の瀑布がコミューン外壁を打ち破り、その内部にまで到達する。

 

 三秒と待たず、コミューンはこの地上より消滅していた。濃紺の爆風が周囲を焼け焦がし、大地から粉塵を巻き上げる。

 

 遥か上空へと舞い上げられた砂礫が一気に何倍にも増幅した重力で押し潰された形となった。

 

 コミューンの跡地をさらうのは異常な数値を観測する反重力と濃紺の火炎であった。

 

 ブルブラッド大気濃度が一気に上昇し、地図上に新たな汚染領域を刻む。

 

 まさか、と水無瀬は言葉を失っていた。

 

 これが、ガエルの口にしていた例の……。

 

『どうだね? ブルブラッド重量子爆弾――ゴルゴダの威力は』

 

 予想以上であった。どのように運用するのか一切明かされていなかった爆弾がまさかたった一機の人機の犠牲だけで成り立つなど。

 

 しかも型落ちのスカーレット機で任務は遂行された。こちらにかかるコストはほとんどないに等しい。

 

「これが……新時代の掃除、というわけですか」

 

『その通りだ。ガエル・シーザー。彼に赴いてもらってもいいのだがいささか目立つ。無論、目立つ事も彼の存在意義の一つなのだが、隠密に、なおかつ確実に処理したい場合はこれを使用する事を、アンヘル上層部には強く薦めよう。既に世界各国の首脳がこれを目にしている』

 

 それは同時に、このブルブラッド重量子爆弾――ゴルゴダの脅威と危険度を見せ付けると共に競売のスタートでもあった。

 

 ゴルゴダを手にした国家が覇権を握ると言っても過言ではない。否、これまで以上にアンヘルの締め付けが強くなる事だろう。

 

 地獄の到来を自分はまざまざと見せつけられたわけだ。

 

 世界一安全なこの場所で。

 

 水無瀬は額に浮いた汗を拭っていた。あのようなものが頭上に落ちればそれこそ天体兵器など生易しいほどである。

 

「……しかし、条約でコミューンへの直接的な爆撃は禁止されています」

 

『まるでマニュアルのような事を言うのだな。条約を作るのは強国の役目だ。ルールを制定し、その規範に沿った国家を編成するのも』

 

 つまり、今まで三国を縛り付けていた古めかしい条約は、この青い爆薬の下には無意味だと言いたいのだろう。

 

 しかもこの爆弾は法の抜け道をしっかりと作っている。あれは爆弾ではない。厳密に言えば異常発達した血塊炉を有するだけの人機。

 

 人機がコミューン上空を飛ぶくらいなんて事はない。日常の光景だ。

 

 これから先、その日常が地獄への始まりだとは誰も思わないだろう。

 

 新型爆弾ではない。あくまで人機の装備、と言い張れる。

 

 やられた、と水無瀬はよろめいていた。レギオンは天体兵器を恐れてアンヘルの軍縮でも行うつもりかと思っていたがまるで逆。

 

 天体兵器程度、恐れるまでもない。こちらにはゴルゴダ――罪の爆薬がある。

 

 ある意味ではブルブラッドキャリアへの過剰とも言える挑発行為。しかし情報統制が敷かれた今、それを知るのは真にブルブラッドキャリアとアンヘルの一部だけ。

 

「……やられましたな。あなた方は、戦争をやりたいんですか?」

 

『何を言っている? これは平和への第一歩だよ。ブルブラッドキャリア、月面で何を講じても彼らに道はあるまい。この新型兵器は宇宙でも使える』

 

 血塊炉さえあればゴルゴダは容易に量産が出来る。それだけではない。人機の活動範囲ならばどこにだってこれを用いられる。

 

 ある意味では突きつけたのはこちら側だ。

 

 ゴルゴダというカードを前にブルブラッドキャリアはどう判断するか。

 

 この場で心を掻き乱されているのは自分だけだろう。

 

 義体の群れに囲まれ、水無瀬はただの肉体でしかない己の無力さを噛み締めていた。

 

 


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