ジンキ・エクステンドSins   作:オンドゥル大使

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♯24 調停

 ――青い花が咲く場所には幸運がある。

 

 誰かがそう言っていた。その誰かは花を見た事がないのだという。

 

 彼女は何度も何度も、青い花というのはどのようなものなのか尋ねていた。靄がかかったように思い出せない誰かは微笑みつつ、花というのは素晴らしいのだと口にする。

 

「だって、この世界のどこにでも、花咲く季節は訪れる。その季節が平等に降り注ぐ時、人は幸福になれるの」

 

 幸福とは何なのか、彼女には今一つ理解出来ない。自分が生まれ落ちてから幸福というものを教え込まれた事はなく、何が善で何が悪なのかだけであった。

 

「そうね……あなたの場合は、《シルヴァリンク》がいるから」

 

 振り仰いだ誰かの視線の先に、まだ建造途中であった《シルヴァリンク》が映る。上半身のみが製造されており、下半身と封印武装は未だに接続されていなかった。

 

 剥き出しになった血のように鮮やかな青い塊――血塊炉に電線が無数に巻きついている。

 

「《シルヴァリンク》が教えてくれるわ。あなたに、青い花の在り処を。その時になれば」

 

 じゃあ、その時、あなたはどこにいるの?

 

 幼い彼女の問いかけに、誰かは困惑したように小首を傾げた。

 

「さぁね。でも、あなたは生きていける。この世界で、生きていけるようになっているの。だから、忘れないで。あなたは決して――」

 

 そこから先の言葉は白い闇の向こう側へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アラームのけたたましい音に叩き起こされ、鉄菜は瞼を上げる。

 

 まさかセットしていた時間まで眠りこけるとは思わなかった。慌てて制御系に目を走らせる。

 

《シルヴァリンク》の駆動系は平常通りであり、どこにも異常はない。

 

 だが、今の夢は、と鉄菜は夢の端を掴もうとして、滑り落ちていくのを自覚した。

 

 どこかで見たような誰かが微笑みかけてくれていた。柔らかな安息の時はかつての記憶なのか、あるいは夢の巻き起こした一瞬の幻想か。

 

『鉄菜、《インペルベイン》はもう出たマジよ』

 

 ジロウの報告に鉄菜は目を見開いた。

 

「出た? どうして、第二フェイズの作戦実行中じゃ……」

 

『それが《インペルベイン》じゃないと出来ない事とやらをやる、という事で先に出撃したマジ。まったく、統率が取れていないマジねぇ』

 

 呆れ返っている場合ではない。《インペルベイン》の独断専行を許したとなれば自分の落ち度になる。

 

「すぐに追撃する。位置情報を」

 

『追撃、って……そんな遠くじゃないマジよ? それにどちらにせよ、《インペルベイン》が先行しないと作戦にはならないマジ』

 

「いいから早くしろ。今は、一号機に先んじさせるわけにはいかない」

 

『……どうしたマジ? 鉄菜。別に彩芽とルイが裏切るわけじゃないと思うマジよ』

 

 それはその通りだろう。あの二人が裏切るとは思えない。だが、自分も腹に一物抱えた身、裏側で何が起こっていても不思議ではない。

 

「追わせろ。作戦実効に支障が出ればそれこそ」

 

『分かった、分かったマジよ。位置情報を送信するマジ』

 

 地図上にポインタされた位置は確かにさほど遠くはない。だが、《シルヴァリンク》に鉄菜は追わせる事を選択させる。

 

「《モリビトシルヴァリンク》、《インペルベイン》を追うぞ」

 

《シルヴァリンク》の緑色の眼窩が輝き、その機体が駆動する。推進剤を焚いてバード形態に移行し、《インペルベイン》の位置を追いすがろうとする。

 

 ――どうしてこうも落ち着かないのだろう。

 

 平時ならば相手には相手の都合があるのだ、と割り切るのだが、今はどうしても一人になれなかった。

 

 先ほど見た夢の続きのように、誰一人として自分の理解者がいなくなってしまう不安が胸を占めている気がしていた。

 

「青い花……見たけれどあれは、幸福なんかとは縁遠かった」

 

 呟いた言葉にジロウが怪訝そうにする。

 

『どうしたマジ?』

 

「いや、何でもない」

 

 頭を振ってジロウの追及を退ける。青い花の記憶は自分の心の奥深くに刻み込まれている。誰かに教え込まれたのは分かっているが、その誰かが決定的に欠けていた。

 

 ――誰だ? 誰に、自分は教わった? 誰に、この世界には救いがあるのだと、聞かされて来たのだ?

 

 決定的な事実を欠いたまま、脳内で先ほどの夢をすくい取ろうとする自分と、捨て去って現実に生きようとする自分がいる。

 

 その狭間でもがき苦しみ、一号機を追う事で少しでも紛らわせようとしている。

 

 ――もし、《インペルベイン》が裏切っていれば。

 

「その時は、私が撃つ」

 

 告げた鉄菜の双眸に迷いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桃の駆る《ノエルカルテット》の広域関知網を震わせたのは、照準警報であった。

 

 だが、《ノエルカルテット》は超高空を飛翔している。撃ち落とせる火器などこの世に存在するまいと警告を無視しようとした瞬間、反応した特殊OS「バベル」がロプロスの権限にアクセスし、敵に向けてロプロスの有する砲門を照準させた。

 

「グランマ? 《ノエルカルテット》を落とせる敵なんて」

 

『いや、これはモリビトの反応だ』

 

 その声音に震撼する前にR兵装のピンク色の光軸が地上の敵へと照射された。

 

 対応する火線が開き、《ノエルカルテット》が空中機動する。

 

「何者なの?」

 

『恐らくは一号機……。しかし、このタイミングで何故?』

 

「分からないけれど、仕掛けてきたのは事実でしょ? 《ノエルカルテット》! 迎撃行動に移る!」

 

 視界の下に武器腕を有するモリビトの姿が映し出された。《シルヴァリンク》ではない。間違いなく、C連合を襲った一号機そのものであった。

 

「……面白いじゃない。探す手間が、省けたわっ!」

 

《ノエルカルテット》の高出力火器が一号機へと照準する。外しようがないR兵装のビームを一号機は姿勢を沈め、機体を軋ませた。

 

 途端、一号機の軌跡に黄金の輝きが宿る。刹那、一号機の姿が掻き消えていた。光条は何もない空を引き裂いただけである。

 

「何が……今のは!」

 

『該当データ参照。高速移動戦術、失われた技術の一つではあるが、条件さえ揃えば現行の人機でも可能な超高速加速術でもある。あれが――ファントムだ』

 

「ファントム? あれが? 腕利きの操主でしか可能じゃないって言われている伝説の動き?」

 

 それが今、目の前で展開された事実が認識の範疇外であった。こちらを翻弄するかのように一号機は照準から逃れ続ける。

 

 代わりに相手の火線が咲くも、《ノエルカルテット》の弾道予測で実弾の発射範囲などすぐさま特定出来た。

 

 回避し様に《ノエルカルテット》は相手の行動を予測する。

 

「どう見る? グランマ。相手はファントムを会得している。つまり、それなりの操主と言う事になるわ。悔しいけれど、モモやクロじゃ太刀打ち出来るかどうか怪しい。でも、疑問もある。どうして、相手はこちらの位置が分かったのか」

 

『《シルヴァリンク》の操主が伝えた……にしては、迂闊が過ぎる。こちらとの協定関係を結んだばかりだ。それを反故にするほど非合理的な操主でもない』

 

「となると……相手は地力でこっちの動きを掴んだ事になるんだけれど、認めたくないわよね。《ノエルカルテット》の動きを一号機風情に掴まされるなんて!」

 

 応戦の重火器がこちらを捉える。肩口より突き出たガトリング砲と両腕の武器腕、さらに腹部に装備された予備の火器までもが全て、《ノエルカルテット》を狙いに据えた。

 

『アルベリッヒレイン!』

 

 通信網を震わせたのは女性の声だ。放たれた声と共に洗礼のような弾薬の雨が《ノエルカルテット》へと直進する。

 

 あまりの速度と重圧に《ノエルカルテット》が武装の一部を防御形態に移行させた。

 

「リバウンドフォールを展開! 相手の武装を徹さないで!」

 

『相手の火力予測……これは、あまりに高威力だ。なおかつ、これは攻撃の布石に過ぎない。相手の真の目的は……!』

 

 グランマの弾き出した攻撃予測に桃は目を戦慄かせる。相手の目的は弾幕による《ノエルカルテット》の無効化ではない。

 

 リバウンドフォールで全ての実体弾を跳ね返すも、その先で展開されたのは武器腕が裏返った溶断クローであった。灼熱の鉤爪が《ノエルカルテット》に迫る。

 

「プレッシャーカノンを!」

 

 ロプロスの有する高精度のR兵装が一号機に浴びせかけられるも、溶断クローはその一撃さえも弾き返した。

 

 桃はその現実に《ノエルカルテット》を下がらせる。しかし追いすがる一号機の熱量は相当なものだ。推進剤を焚き、一号機の爪が《ノエルカルテット》にかかろうとしたところで、こちらの全武装が一号機のコックピットを狙い澄ます。

 

 ここまで、だというのはお互いに分かったようだ。

 

 溶断クローが眼前で止まる。こちらの火器も相手への命中寸前で止まった。

 

 お互いに空中で睨み合いが続く。十秒ほど相手を見据えていただろうか。通信チャンネルが開き、桃は全天候周モニターの一角を突く。

 

「よくやるわ。ここまで《ノエルカルテット》を追い詰めるなんて。その狡猾さも含めて、見習いたいくらいよ」

 

『それはお互い様、という事じゃない?』

 

 通信の先にいたのは茶髪の女性であった。あれが、一号機の操主、と桃は睨む。

 

「クロを利用したのね?」

 

『利用だなんて人聞きの悪い。あの子が眠っている間に、ちょっとばかしうちのシステムが粗相をしたのよ』

 

 浮かび上がったのは少女型のアバターであった。なるほど、と桃は唇を舐める。いずれは合見える予定だったのが早まっただけのようだ。

 

「一号機、でいいのよね?」

 

『そちらも三号機、なのよね? モリビト三号機。《ノエルカルテット》、だったかしら?』

 

「随分とお喋りなシステムだこと」

 

『言っておくけれど、本当に鉄菜は何も言っていないわ。あの子は誓いを守り通した。ただ、あまりにも不自然が過ぎたから、ちょっとだけわたくしのルイで干渉を試みたのよ。そしたら、出てきたわけ。貴女のデータが』

 

 ちょっとした干渉でぼろを出すはずがない。このシステムは《シルヴァリンク》の深層に潜ったのだ。

 

「探り合いが趣味だなんて、ちょっとばかし無節操が過ぎるんじゃない?」

 

『それもお互い様。鉄菜には貴女が言い聞かせたんでしょう? 自分と組まないか、って』

 

 それも織り込み済みか。桃は《ノエルカルテット》を制御しているグランマに尋ねる。

 

「クロは、来ないと思う?」

 

『恐らく、気づいたらすぐに現れると思われる。交渉ならば早めのほうがいい』

 

「交渉、か。モモを相手に交渉だなんて、随分と出来た代物じゃない」

 

 だが、一号機がこれほどまでの能力だとは思いもしない。伝説の加速術――ファントムに全火力を放出しその熱量で相手へと即時の接近を可能とするなど。

 

《シルヴァリンク》を操っていた鉄菜がまだ生易しいと思えるほどの能力だ。もっとも、相手がその本懐を発揮しているとも思えないが。

 

『まぁ、優しい言い方をするのね。交渉、だなんて』

 

 この状況下ではどちらかが言い出さない限りは殺し合いの様相を呈してもおかしくはない。

 

 モリビトの能力は互いに秘中の秘。それでも、ここまで出し切ったとなれば相手の戦い振りに敬意を表するのも操主としては当然の感情だ。

 

「三号機のコードは《ノエルカルテット》。複合合体人機。それ以上は言えない」

 

『いいわよ、こっちも言わないし。一号機のコードは《インペルベイン》。中距離を得意とする武装人機。それ以上は言えない』

 

 わざとその言い草を真似しているのだろう。桃は舌打ち混じりに言い放った。

 

「手ぬるいかと思っていたわ。クロを矢面に立たせて、自分は傍観決め込むような人間だって」

 

『そちらこそ、《シルヴァリンク》には勝てる自信があったのかもしれないけれど、わたくしにはなかったようね』

 

 ここで舌鋒鋭く言い合いをしていても仕方あるまい。どちらかが大人にならなければ。

 

「……話し合いを進めさせてもらうわ。ここに単身で来たって事は、クロを、《シルヴァリンク》の操主を裏切るの?」

 

 その言葉に《インペルベイン》が溶断クローを引っ込めた。

 

『裏切るなんてとんでもない。鉄菜はとても真っ直ぐないい子よ? それを切ったりするもんですか。むしろ、ここで聞きたいのは貴女が、この期に及んで第三フェイズへの移行を渋っている理由ね』

 

 やはりその帰結か。桃は自分の考えをある程度は話さなければここではまともな話し合いすら生まれないのだと感じ取る。

 

「……《ノエルカルテット》は一号機や二号機とは根本が違うのよ。はっきり言って、一番強いモリビト」

 

『随分と強気に出たわね』

 

「強気とかじゃなく、これは歴然とした事実なんだけれどよしとしましょう。その一番強いモリビトに単騎で挑んできたんですから。で、あんたに言いたい事があるとすれば、《ノエルカルテット》の存在は伏せていたほうが都合いいのよ。無論、クロやあんたに関して言ってもね」

 

『どういう事なのか、説明願えるかしら?』

 

「あまり時間はかけられないんでしょ? クロがすぐに追ってくる」

 

『その時、わたくしと貴女が銃を突きつけ合っているのでは都合が悪い。最悪な想定は……』

 

「《シルヴァリンク》が敵になる事。分かっているわよ。モリビト同士の戦闘なんて旨みもないし、まだ第三フェイズ手前よ? そんな時に仲間割れしている場合でもないって事は」

 

『物分りはいいみたいね』

 

「そう思ってくれているのなら、どちらかが銃を下げるべきね」

 

 自分から下げる気はないが、と言外に付け加えた桃に《インペルベイン》と操主は素直に引いた。溶断クローが射程から外れる。

 

「よし……。じゃあ言うべき事を簡潔に。モモは、クロと協力し、第三フェイズへの移行を効率よく進めようとした。でも、あんたの介入で台無し。このままじゃクロに斬られそうになるのはお互い様」

 

『この状況じゃ、鉄菜も敵を見失うでしょうね』

 

 肩を竦めた操主に桃は睨みつける。

 

「あんたが言いたいのは、モモを……三号機を味方につける、という口実。《シルヴァリンク》とクロだけじゃ不安なんでしょ」

 

『その通りね。鉄菜は義理堅いけれど危なっかしい。あの子一人に任せたんじゃ計画は破綻する』

 

「それには同意だけれど、こんな危うい綱渡りをする必要があったの? まかり間違えればあんたも《インペルベイン》も撃墜されていた」

 

『わたくしに、その可能性はあり得ない』

 

 鉄菜もそうだが、モリビトの操主はどこか自分本位に出来ているらしい。自分が負けるなどまず考えないのだ。

 

「……分かった。約束しましょう。モモはクロの約束をあくまで違えない。その方向性でいいのよね?」

 

 理解の早い相手は与し易いのだろう。相手操主は首肯した。

 

『鉄菜ならこの結論に至るまで一悶着ありそうだけれど貴女は潔いのね』

 

「だって三号機が共通の敵になるなんて笑えないわ。どれほど強力な性能を有していてもいがみあっているのだったらそれは発揮されない。そうでしょ?」

 

『それは分かるわ。わたくしと貴女はでは、共闘関係とうまくいけるのかしら?』

 

「共闘、というよりも一時休戦ってところね。クロがいなかったら撃っている」

 

 本音のつもりであった。しかし相手はそれを本気とは受け取らなかったようだ。笑いながらうんうんと頷く。

 

『そうね。鉄菜がいなかったら確かに手加減してないわね』

 

 どうやら腹の探り合いをしているのは両者変わりない様子だ。その時、《ノエルカルテット》の策敵レーザーが遥か海上を行く《シルヴァリンク》を関知した。

 

「クロが来る。モモは、これまで通り、表舞台には出ないようにしておくわ。そっちのほうがいいでしょ。あんたのやり方的にも」

 

『そうね。わたくしはじゃあ、今まで通り、鉄菜とツーマンセルで』

 

 表面上のチームプレイが結ばれたわけだ。桃は失笑する。このような形でモリビト三機の共闘が約束されるなど。

 

 皮肉にも程があったのはその気が全くない鉄菜が一番の足がかりになっている事だ。彼女がいなければぶつかり合っているであろう二機は、徐々に距離を離していった。

 

「クロに感謝するのね。あんた、モリビトを失わずに済んだ」

 

『それは感謝してもし切れないかもね』

 

 冗談交じりの声音に桃は《ノエルカルテット》を飛翔させる。限界高度まで行けば《シルヴァリンク》に関知される事はないだろう。

 

『桃、あのモリビトの娘、相当に狡猾だよ。気を引き締めておきな』

 

 グランマの忠言が痛み入る。自分を慮ってくれるのはいつもグランマと《ノエルカルテット》だけだ。

 

「分かっている。それにしたって、中距離決戦型だと思っていたあの機体の乗り手、結構厄介ね。ファントムを会得していたなんて」

 

 記録上、惑星内でファントムが披露されたのは実に百五十年ぶりだ。禁断の人機でようやく発揮可能な人機操縦の極みである。

 

『ファントムもそうだが、あの娘は鉄菜・ノヴァリスを利用する術を心得ている。それが厄介な種だよ』

 

 鉄菜は一歩でも間違えれば容易に敵になる。勝てるか勝てないかでいえば勝敗は明らかであったが、恐らく大きな痛み分けとなるだろう。

 

 出来うる事ならば戦いには持ち込みたくない。

 

「クロはそこまで馬鹿じゃないよ。ただ、あの相手操主。どこまで本気なんだか読めない」

 

 結局名前すら明らかではないのだ。名乗った分だけ不利に転がっていると見て間違いない。

 

『二号機の弱点は常に探っておこう。ロプロスならばそれが出来る』

 

 オプションパーツとして接続出来る自分のモリビトの強みは相手の人機を掌握可能である事。

 

 援護の形で相手の人機の中身を知り尽くす事が可能だ。この先、援護を求められる事があるはず。その時こそ、牙を剥く好機である。

 

「悔しいけれど、第二フェイズの優位点は、あの操主に譲るわ。三号機だけの一強は崩れた、と言ってもいいでしょうね。にしても、クロのぼやかし損ねただけの位置情報だけで、よく《ノエルカルテット》を特定出来たものだわ。何か他にも仕掛けているのかな?」

 

 そう思わなければ対空性能で勝る《ノエルカルテット》が感知された理由にならない。

 

 グランマがシステムを走らせ、様々な要因を掲げようとする。

 

『あらゆる可能性が鑑みられるが、一番に頭に置くべきは』

 

「分かっている。クロの失策でしょ? クロを味方に引き入れた事、グランマはやっぱり反対姿勢のままなんだ?」

 

 グランマは短く唸り、答えを保留にする。

 

『操主は桃だよ。だから、桃の意思決定は尊重する』

 

 しかし決定権を持つのはあくまでグランマだ。自分はグランマの下し損ねる最悪の想定を決定し得るファクターでしかあり得ない。

 

「大丈夫よ、グランマ。クロが悪い人間なら、どうして二機で来ないの? そっちのほうが確実じゃない。モリビト同士、潰し合いは今のところない、と思っていいはずよ」

 

 今のところは、であるが。含めた物言いの桃に、グランマはそれ以上言葉を追及しなかった。

 

 


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