ジンキ・エクステンドSins   作:オンドゥル大使

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♯186 希望の指先

『トウジャタイプが出てきていますね……ヤッベェな……こりゃ』

 

 タカフミの報告にリックベイは久方振りの《ナナツーゼクウ》を走らせる。機動力こそトウジャに劣るものの、汎用性では他に比肩する者のないナナツーの実力は依然として有効。

 

 何年も振るっていなかった刃も、身に馴染むのは早い。実体剣が外周警護の《ナナツー参式》を切り裂く。これだけで重罪人。祖国に刃を向けたも同義。だが、それでも果たさなければならない大義がある。そのためならばここでは死ねなかった。

 

「アイザワ少尉。《ナナツー是式》の調子はどうか。まさか、久しぶりのナナツーで手足がうまく動かぬとは言うまいな」

 

『冗談、っしょ!』

 

 組み付いていた敵人機をタカフミの《ナナツー是式》がプレッシャーライフルで打ちのめしていく。相手の《ナナツー参式》とて型落ちとまでは言えないはずだ。整備は行き届いている相手に対してこちらは何年も乗っていなかった愛機同士。たった二機による反逆はしかし、この時思いのほかうまく事が進んでいた。

 

 それには恐らく、もう一つの理由があるに違いない、とリックベイは分析する。

 

「少尉。気づいているか?」

 

『ええ、新兵共が浮き足立っています。これ、何かでかいのが来ているって証拠ですよね』

 

 施設警護の《ナナツー参式》は機体状況こそ最新型だが、乗っている兵士の熟練度は低いはず。

 

 彼らが浮き足立つ理由を、自分達はそれほど多く知らない。

 

 加えてトウジャが先ほどから出撃しているにも関わらず、ナナツーである自分達には全く見向きもせず、海岸沿いへと戦力を注いでいるのは一つしか考えられない。

 

「ブルブラッドキャリア……まさかこのタイミングで、か」

 

『こっちに都合よく考えるなら、モリビトに気が削がれている間がチャンスでしょ』

 

 その通りであったが、《ナナツーゼクウ》では一秒も油断出来ない。《ナナツー参式》部隊がミサイルの放射を見舞い、こちらの足を潰しにかかってくる。生憎、トウジャのように飛翔も出来ない陸戦型の機体ではミサイルの誘導弾頭を無効化も敵わない。

 

 ただ無様に足を止め、タカフミがプレッシャーライフルで敵の注意を引いた時に自分は肉薄、その隙を断つのみであった。

 

 刃が下段より振るわれ、《ナナツー参式》の腕を吹き飛ばす。返す刀で血塊炉を切り裂いた。

 

 殺しはしない。だがそれは出来るだけ、というエゴそのもの。殺さずに相手を生かしたまま無効化するほどこちらはよく出来てはいない。それに武装を殺したところで、敵人機そのものは生きている。敵の戦力が完全に消えたわけではない。

 

 戦場において非殺しの誓いなど、一番に不合理的で、なおかつエゴの塊だ。

 

 自分達はエゴを背負ってここまで来た。裁かれるのを覚悟して来たのだ。ならば、綺麗事で飾り立てるつもりもなし。

 

 零式抜刀術が奔り、十機目の《ナナツー参式》を撃墜した。さすがに息が上がってくるのは久しく操主をやってこなかったからか。《ナナツーゼクウ》はトウジャとは違いマニュアルの部分が大きい。そのせいで余計に神経を使い潰してしまう。

 

 タカフミの《ナナツー是式》も似たようなものらしい。いつもならば機動力で翻弄出来る距離でも、《ナナツー是式》ではそれは死線に近い。出来るだけ相手との距離を取りつつ、隙が生じれば格闘戦術に切り替えるだけの頭があるだけマシだろう。

 

『瑞葉のいるブロックは……』

 

 事前に情報を仕入れてこなかったのは、この出撃そのものを止められてしまえば本末転倒である事もあるが、何よりも事前情報が当てになるとは思っていなかった。情報は統括されて久しい。こちらからアクセスすれば禍根の芽は早期に摘まれる事だろう。強襲も儘ならないのでは意味がない。

 

《ナナツーゼクウ》の進行方向に照準警告が入り、急制動用の推進剤を焚かせる。現れたのは《スロウストウジャ弐式》の三機編隊だ。

 

 ほとんどがモリビトの警戒に出ている以上、これが限界であるに違いない。

 

「アイザワ少尉。この三機さえ突破すれば恐らくは行けるはず。今一度気合いを入れ直せ」

 

『了解です。……あと少佐、おれ、大尉ですよっ、と!』

 

 タカフミの《ナナツー是式》がブレードに持ち替え、眼前の《ナナツー参式》を突き飛ばす。

 

 接近してきた《スロウストウジャ弐式》にリックベイはまず、機銃掃射で応戦した。

 

 しかし実体弾はほとんど弾かれてしまう。それは乗っていれば身に沁みて分かっている事だ。トウジャタイプの装甲は並大抵ではない。ならば破る手段は自ずと限られてくる。

 

 リックベイは弾切れになった機銃を捨て、実体剣のみを両手で構えた。正眼の構えから、《スロウストウジャ弐式》と相対する。

 

 プレッシャーライフルの一射が注がれ、地面が陥没した。加速用推進剤を用い、一時として同じ場所に留まらないように機動する。敵人機がプレッシャーソードを手に刃を打ち下ろそうとする。

 

 実体剣を掲げ、その太刀筋を受け止めた。干渉波のスパークが散る中、キャノピー型のコックピットに減殺フィルターがかかる。

 

 一撃は重い。

 

 トウジャタイプの攻撃力はナナツー四機以上に相当する。踏み締めた大地に少しずつ脚部が埋まっていくのを感じた。

 

 このまま地に縫い付けられるか、と予感したリックベイであったが、次手によってはこちらの優位に転がる。

 

 ――さて、どう出る、と銀狼の勝負勘が極まった。

 

 下唇を舐めたリックベイは敵人機が次の一撃の補強のために、一度刃を離したその隙を見逃さない。

 

 雄叫びと共に急加速をかけ、相手の懐に飛び込む。敵は当然の事ながら、こちらを引き裂こうとするだろう。

 

 しかし、トウジャの射線は自分にとっては読み切った代物。完全に懐に入ってしまえば、プレッシャーソードの刃は届かない。リックベイは《ナナツーゼクウ》の袖口から隠し剣を出現させる。

 

 袖から射出された刃が《スロウストウジャ弐式》の血塊炉を打ち砕いた。

 

 青い血を噴き出させながら敵人機がよろめいていく。その首筋に向けてリックベイは実体剣を軋らせた。

 

 満身から放つ殺意が刃となって顕現し、《スロウストウジャ弐式》の首を狩る。生き別れになった《スロウストウジャ弐式》の頭部から青い血が雨のように降り注いだ。

 

 剣筋を払い、《ナナツーゼクウ》は次の敵を睨む。

 

 しかし、そうするまでもなかった。

 

 もう一機はタカフミが応戦しており、プレッシャーライフルで五分五分の戦いを繰り広げている。

 

『トウジャがどれほど速かろうとよ! その動きのクセまでは失くせないはず!』

 

 空中機動の相手に対して、陸戦の《ナナツー是式》が優位に立ち回る。敵の銃撃は命中しないのにこちらの射撃は当たる事に相手は困惑している事だろう。その困惑の隙をタカフミは逃さない。肩口に装備した電撃ワイヤーが射出され、放たれた高圧電流に《スロウストウジャ弐式》が痙攣する。下降した相手へとタカフミは雄叫びを上げてブレードを奔らせた。相手人機の胴体が断ち割られ、血塊炉の血飛沫が舞う。

 

『これであと一機! どう来るよ!』

 

 空中から戦場を俯瞰していた最後の一機が身を翻した。敵前逃亡であってもその行動は納得出来る。型落ち品のナナツーでトウジャタイプを圧倒する相手など。

 

『あれ……? 追ってこないのか』

 

「アイザワ少尉。これで戦端は開けたはず。あとは雑兵を蹴散らしつつ、瑞葉君を助けに行くぞ」

 

『了解です、少佐! ……あ! またおれの事、少尉って!』

 

《ナナツーゼクウ》が施設に接近しようとする中、不意に《スロウストウジャ弐式》が前方へと割り込んできた。

 

 両肩に盾を持った新型のモリビトが剣筋で敵人機を追い詰める。相手はモリビトに圧されて施設まで後退してきたのだろう。

 

 厄介な、とリックベイは毒づく。

 

 モリビトとブルブラッドキャリアの目的も、この施設にあるというのか。

 

 新型機が敵人機を両断し、施設へと銃弾を見舞う。相手には施設のどこに人がいてどこに人がいないのか分かっているのか。それとも無差別か、と考えてリックベイはその射線に《ナナツーゼクウ》を挟み込ませた。

 

 実体剣を振り上げ、新型モリビトへと襲いかかる。相手のモリビトが奇異な形状の剣を下段より振り上げた。ぶつかり合った剣筋がスパークの火花を散らせ、お互いに剣閃を交わす。

 

「ここまで来たのだ……! 邪魔はさせんぞ、モリビト!」

 

 モリビトの三つの眼窩が煌き、もう一方の手より銃器に可変していた剣を打ち下ろそうとする。

 

 袖口に装備していた短剣で弾き返すと、モリビトは飛翔してこちらの返す刀を読み切っていた。

 

「この太刀筋……、どこかで……」

 

 既視感を覚えつつも、リックベイはここで優先すべき順番を間違えない事だ、と自分に言い聞かせる。

 

 ここで打ち間違えれば自分達の敗北へと容易に繋がってしまう。それだけは避けなければならないシナリオのはず。

 

 慎重に、と後ずさりかけて、巨大な砲門を持つモリビトが一条の光軸を放った。

 

 光の中に消えていく《スロウストウジャ弐式》の追撃部隊を目にし、両盾のモリビトが下がる。

 

 その腕が施設に押し込まれた。

 

 何かを掴んだモリビトが飛翔し、離脱機動に移ろうとする。これで目的を果たしたとでも言うように。

 

 まさか、とリックベイは慄いた。

 

「相手の目的も……瑞葉君であったというのか……」

 

 いや、その可能性もあり得る。瑞葉は強化兵。復活を目論むアンヘルやC連邦の出端を挫くのには抹殺も加味されているべき。

 

 自分達のほうが甘かった。この状況では歯噛みするしかない。

 

『少佐! あれ、瑞葉なんじゃ……』

 

「残念だが、相手も同じ目論見であった、と思うべきか。瑞葉君の奪還か、あるいは施設への強襲任務か。いずれにせよ、深追いは出来ない。我々はナナツーでしかないのだ」

 

『納得出来ませんよ! おれ、追います! 瑞葉があそこにいるんなら!』

 

《ナナツー是式》が無茶無謀を通り越してプレッシャーライフルとブレードのみでモリビトと打ち合おうとする。

 

 巨大な砲門を持つモリビトが立ち塞がり、その進路を妨げた。

 

『退けよっ! モリビトォ!』

 

 無論、相手とてそう容易く退くはずもなし。ここで間違ったのは自分達であったと認めるしかなかった。

 

「アイザワ少尉……、悔しいが退却を。施設の半壊を受けて、アンヘルの実行部隊がやってくる。連中相手ではナナツー程度ならば児戯にも等しいだろう」

 

『ここで退けって言うんですか! 瑞葉をあいつらにむざむざ渡して……退けって!』

 

「……これは決定事項だ。タカフミ・アイザワ大尉」

 

 重苦しい声音で返すとさすがにタカフミも納得したらしい。プレッシャーライフルを速射モードに設定して放射しつつ、敵人機から離れた。

 

 リックベイも撤退に入っている。自ずとその拳がコンソールを叩き据えた。

 

「ここまで来ておいて……、むざむざ、か。悔恨は滲むな」

 

 瑞葉を助けられなかった。それだけが二人の間に重く沈殿した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パッケージを入手した。私はいつでも撤退していい」

 

『了解、クロ。レーダーに一個小隊の反応がある。多分、アンヘルね』

 

「相手取っている場合ではない。一度、下がるべきだ」

 

『それには同意。林檎、蜜柑、あんた達もよ』

 

 言葉を振りかけられて《イドラオルガノン》に収まる操主二人は、バルカンを放射しつつ敵人機より離脱する。

 

《モリビトシン》が飛翔し、それに続いて《ナインライヴス》、《イドラオルガノン》がそれぞれの帰投コースを描いた。

 

《ナインライヴス》は陸路を、《イドラオルガノン》は海路を行く形だ。

 

「驚いた……水中戦特化なのか、あのモリビト」

 

 その事実もそうだが、《モリビトシン》の手の中にある一つの命もそうであった。

 

 手錠をはめられた一人の女性。灰色の髪に灰色の瞳が射る光を灯す。

 

 これが「ミズハ」。あの時、自分と共闘した相手か。

 

『何のつもりだ……、ブルブラッドキャリア……!』

 

 さすがに因縁が勝るのだろう。鉄菜は声を吹き込んだ。

 

「強攻策を取ってすまない。しかし、放ってはおけないと私が判断した」

 

『その声は……青いモリビトの……。まさかクロナ、か?』

 

 相手も覚えていたとは予想外だ。自分だけあの戦場を見ていたのだというのは早計だったのだろう。

 

 鉄菜は《モリビトシン》の頚部コックピットハッチを開き、自動操縦に設定した《モリビトシン》から這い出た。

 

 六年越しの双眸がお互いを見つめる。

 

 相手を実際には見た事もないはずだ。それでも、一度の交錯だけで何かを感じ合えたのは確かである。

 

「ミズハ。私はお前が捕まっているという情報を得てこの作戦における救出を提言した」

 

「クロナ……。生きていたとは。青いモリビトを含め、ブルブラッドキャリアは事実上、壊滅したとばかり……」

 

「生き意地が汚かっただけだ。コックピットに入れ。高高度を行く」

 

 それだけで承認が取れたのだろう。《モリビトシン》の手がコックピットハッチ付近まで上がり、鉄菜はその手を取っていた。

 

 六年前には憎しみ合い、殺し殺されの世界でしか生きていけなかったブルーガーデンの強化兵。それが巡り巡って自分と手を繋ぐなど思ってもみない。

 

 コックピットに入ったミズハは口火を切った。

 

「……敵兵をコックピットに招くなど」

 

「もう、敵でもないのだろう。アンヘルによって幽閉されたと聞いている」

 

「……お見通しか」

 

「上がるぞ。人機にしばらく乗っていないのならば高度で耳が一時的に聞こえなくなるかもしれない」

 

 鉄菜はアームレイカーを引いて《モリビトシン》を高高度飛翔機動に入らせる。

 

 ミズハは黙ってついていた。

 

「……不思議な心地だ。あれだけ憎み、倒す事のみを考えていたモリビトに、まさか救われるなんて」

 

「私も、だ。幾度となく《シルヴァリンク》と私に立ち塞がっていた操主をい、まさか助ける側になるとは」

 

 互いに数奇な運命の巡り合わせが生んだ奇跡であった。

 

《モリビトシン》がウイングスラスターを折り畳み、加速度をかける。《ゴフェル》との合流軌道を描いた《モリビトシン》は青く錆び付いた地上を俯瞰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『施設は半壊……、こちらの解析部隊はほぼ全滅、か』

 

 通信に吹き込んだ隊長の声に燐華は大破した友軍機を目にしていた。モリビトの仕業に違いないその有り様には目を背けるしかない。

 

「トウジャが……こんな風にやられるなんて……」

 

 ふつふつと怒りが湧いてくる。相手はどこまで行っても自分の怨敵。鉄菜を殺し、コミューンの人々を死に追いやった。

 

 今もまた世界を混乱のるつぼに陥れようというのか。

 

 許される罪ではない、と燐華は操縦桿を固く握り締める。

 

『新型のモリビトの話も出ている。解析班に任せるとしても、施設の復旧は不可能か。手痛い打撃だな』

 

「隊長、この施設は……」

 

『思想犯を閉じ込めておくため、だと前置かれているが、ここも研究施設だな。C連邦に紛れ込んでいたブルーガーデン兵の、その尋問に使われていたらしい』

 

「ブルーガーデン兵、って……例の強化人間の?」

 

 資料に書かれていた事実を思い返し、燐華は身震いする。あれは殺人しか知らない強化人間のはず。そのようなものが自分達のコミューンに紛れていたなど穏やかな心地ではない。

 

『殺人マシーンがいたっていうんですか? それを祖国はどうしようって……』

 

『そこまでは分からん。ただ、ブルーガーデン跡地からもたらされる血塊炉は年々増えている。そのための尋問であったのかもな。……ここまで壊されれば、もう同じ働きは無理だろうが』

 

『野郎……! どこまで俺達をコケにする……モリビト……!』

 

 ヘイルの忌々しげな声音に燐華は両断された《スロウストウジャ弐式》を視野に入れていた。頭から真っ二つ。そのような悪魔の所業、モリビトとブルブラッドキャリアでなければ出来まい。

 

 彼らはこの惑星に報復の剣を向けるべくして下りてきた凶星なのだ。そのような存在、理解したいとも思わなかった。

 

『復旧作業を手伝えれば手伝いたい。そちらに物資はあるか?』

 

 隊長が施設長に繋いだが、相手は憔悴し切った声音であった。

 

『トウジャ部隊が蹴散らされて……、本国の復旧を待つしかありません。せっかくのアンヘルのご厚意を……』

 

『いい。データがあれば乞う。敵兵の能力を知りたい』

 

 モリビトのデータがもたらされるのだと、当然の事ながら燐華は思っていた。しかし、送信されたのはナナツーの機体データである。

 

『……間違えたのか? これは……だって《ナナツーゼクウ》と《ナナツー是式》……。伝説の撃墜王のナナツーじゃないか』

 

 ヘイルの困惑も分かる。どうして本国の英雄的な操主を陥れるようなデータが送られてきたのだろう。

 

 隊長も送信ミスを疑ったようだ。

 

『……これに間違いはないのか?』

 

『ええ。我が方のトウジャ部隊を蹴散らしにかかったのは、ブルブラッドキャリアだけじゃありません。……この二機です』

 

 まさか、と燐華は隊長に繋ぐ。

 

「でも、隊長。この二機を操る操主は……」

 

『ああ、了承している。まさか、そうは考えたくはないな。C連合の銀狼、リックベイ・サカグチ少佐。彼が裏切り者など……』

 

 つい先日、会ったばかりの相手だ。雲の上の存在だと思っていただけに、再びその名前を聞くのが敵としてなど思いもしない。

 

「C連合の銀狼……、先読みのサカグチが……敵?」

 

『まだ決まったわけではないがな。連邦政府とアンヘルが視察を送る事だろう。我々兵士は、前線を張る事しか出来ん。それに、今回、ブルーガーデン兵の徴用など、こちらにも不明瞭な動きが多かった。……案外敵は近いのかもしれないな』

 

 それでも、内部に離反者を抱えているとなればC連邦内でも意見が飛び交う事だろう。

 

 敵は外側のみに非ず、と燐華は鉛を呑んだように押し黙るしかなかった。アンヘルの機体が空を舞うのに、施設の人々が手を振っている。

 

 自分達も誰かの希望になれるのだ。

 

 たとえ虐殺天使とあだ名されていても、どこかで希望が……。

 

 そうだと思わなければやっていけなかった。

 

 


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