ジンキ・エクステンドSins   作:オンドゥル大使

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♯185 交錯の一瞬

『完全に離脱した、か』

 

 声にした上層部は今回のニナイを含む数十名の離反者リストを参照していた。

 

 同期された情報網が彼女らを追い詰めるのは時間の問題に思われたが、今のブルブラッドキャリア全体から鑑みて、逃げた連中を追うのは得策ではない。

 

『なに、従順な駒はまだ揃っている。《アサルトハシャ》も完全に駆逐されたわけではない。むしろ、彼らは我々に必要な泥を被ってくれたと思うべきだ』

 

『《ゴフェル》……あのような艦を建造していたのは読めなかったな。あちら側にあるバベルの断片……元老院のパーツのせいか。意図的に情報が秘匿されていた』

 

『それでも、我々側に落ち度はない。こちらに関しての弱みも。そうであろう?』

 

 上層部の視線を一身に受けるのは漆黒のRスーツに身を包んだ少女であった。傅く少女が面を上げる。

 

 その相貌は離反した鉄菜と全く同じであった。

 

『人造血続計画は次の段階へと移行しつつある。彼奴らは旧式の血続をわざわざ骨董品の人機に搭載しているだけ。我々は違う。最新型の血続がここにいる』

 

『完全に離反者共に一杯食わされたわけでもない。こちらにはリードマン担当官の手記を含め、担当官全員のデータベースが閲覧可能だ。これを基にして最強の血続を造ればいいだけの事』

 

『代わりはいくらでも利く。その点、連中は失策だな。旧型血続と、純正血塊炉三基、それにいつ暴走するかもしれない骨董品人機。分が悪いのはどちらか』

 

『いずれにせよ、決定は決定だ。こちらは静観を貫く。どうせ惑星の者達に区別はつくまい。矢面に立つというのならば立ってもらおう。それこそ有効的にね』

 

『457号血続。君の意見を聞こう。鉄菜・ノヴァリスとの戦闘はどうであったか』

 

 型番で呼ばれた血続の少女は淀みなく感想を告げる。

 

「機体性能だと思われます。あとは、純粋に出力かと。それ以外では負ける気はしません」

 

『結構。ならば次は勝て。言っておくが組織は二度も三度も汚名返上のチャンスを与えるほどに甘くはない。使えないのならば次の血続への繋ぎ手になってもらう』

 

 その言葉振りに少女は恭しく頭を垂れる。

 

「御意に」

 

 その双眸に迷いどころか、何一つ感情は存在していなかった。

 

『足取りだけでも掴んでおく必要はあるだろう。彼らが向かうのは』

 

『惑星のC連邦の末端地……これは……面白い事をやるものだ。因縁の地、オラクルか』

 

 オラクル国土に関するデータが同期され、上層部は皮肉を述べる。

 

『再生人間共の巣窟か。既にC連邦の手が入っていると聞くが』

 

『破壊工作をするのにも旨味はないと思われている。どういう考えなのかは分かろうとも思わないがね』

 

『いずれにせよ、《ゴフェル》の継続監視は怠らず、我々は静観のスタンスだ。こちらに矛が向けば《アサルトハシャ》部隊と《モリビトセプテムライン》で迎撃』

 

『それに、我々には既存のモリビトタイプだけではない』

 

 上層部が中心地に新たなる人機の設計図を呼び出す。新型のフレームは今までのどの人機とも異なっていた。

 

『勝利すべきは我々ブルブラッドキャリアだ。その最終決定のみ覆されなければそれでよい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 骸に乗った死神が青い霧の向こうからやってくる。

 

 そのような迷信が飛び交うのは、やはりどこか前時代的な建築物の佇まいも影響しているのだろう。

 

 海域警護に当たっているのは旧式機の謗りを受ける《ナナツー参式》編隊である。それでも、現状の《バーゴイル》よりかは整備も行き届いており、トウジャタイプを運用するよりもコストは割安。

 

《ナナツー参式》はC連邦政府にとっては安価で兵士を人機に乗せて送り出せる理想の兵器だ。タチバナ博士のお墨付きもあり、C連邦の《ナナツー参式》はベージュの機体色の装甲にごてごてとした長距離武装を運用していた。

 

『なぁ、こんな警戒任務、意味あるのかなぁ』

 

 誰かのぼやきに通信警戒中だぞ、とお手本のような声が返ってくる。

 

『通信警戒って……、海域監視だろ? 何が来るって言うんだよ』

 

『さぁな。噂通り、死神かも』

 

 その言葉にはさすがに笑いが漏れていた。

 

『あのさぁ……、そういう怪談にだけは事欠かないよな、この紺碧の大地でも』

 

『海を渡ってくる人機なんているわけないだろ。それだけの出力を維持しようと思えばそれこそトウジャか、あるいは《バーゴイル》だが、旧ゾル国の人機なんてどれだけ撃墜訓練を積んだか。……目ぇ閉じていても墜とせるぜ?』

 

 海域を飛翔するだけの性能を持つのは最早《バーゴイル》のみ。トウジャならば友軍機であるし、かつてのロンドはほとんど見る影もなく衰退した。

 

 ロンド系列を使用しているのはそれこそジリ貧のコミューンのみだ。《バーゴイル》を買い付けるほどの財力もなく、ナナツーだけでは賄えない戦場にロンドは投入される。

 

 ロンド同士が食い合うかのように潰し合っている戦場を何度か目にした事がある。まさしく弱小同士、ただの喰らい合い。

 

 生産性のない戦闘行為が今も惑星の裏側では行われている事だろう。

 

『参式の眼はいいほうだろ? 警戒海域に入れば、それこそすぐに警報が鳴る』

 

『上から攻められればどうなる?』

 

『どうにもならないさ。内地の《スロウストウジャ弐式》とやらに任せるんだろ?』

 

 この場所の守りを司っている者達にトウジャタイプの搭乗経験はない。トウジャは一部のエリート層に配属される人機であり、未だに下仕官にはナナツーで充分だという認識である。

 

『トウジャかぁ……。なぁ、乗ってみたいか?』

 

『嫌だね。あんなのに乗れば戦場の真っ只中に押し込められる。そうなっちまえば、死ぬのが早いか狂うのが早いか』

 

『俺も同意。トウジャなんてアンヘルの連中が乗っていればいいのさ。人殺し大好き集団』

 

 茶化すと数名が同調して笑ったのが伝わる。

 

『海は今日も平和だねぇ』

 

 海鳴りを聞きつつ、倒したシートに寝そべっていた操主は、不意に劈くように響いた警報に叩き起こされた。

 

『何だ?』

 

『誤認だろ?』

 

『いや、海域を見ろ! あれは……ゾル国の巡洋艦?』

 

 煙る景色の中、こちらへと真っ直ぐに向かってくるのはゾル国巡洋艦のマーカーが施された艦であったが、異質な事にその艦には生命反応がなかった。

 

 シグナルも消失しており、ゾル国巡洋艦で「あった」という識別信号のみが存在している。

 

『おいおい、幽霊船か?』

 

 長距離砲を保持した《ナナツー参式》編隊が目標を狙い澄ます。さすがに内地に侵攻されればこちらの立つ瀬もない。

 

 射線に入ったところで迎撃。何度も諳んじたその行動に、割って入ったのは識別不能人機の反応であった。

 

『不明人機……? あの艦に……?』

 

 一人の操主が長距離狙撃用のバイザーを覗き込む。

 

 朽ちた巡洋艦の上に一機の人機が佇んでいた。背面に亀の甲羅のような意匠を身につけ、灰色と緑のカラーリングに彩られている。

 

 その人機が不意にこちらを見据えた。オレンジ色の眼光に、ひっ、と短く悲鳴を漏らしたのも一瞬。

 

 不明人機は骸の艦を蹴りつけた。

 

 直後、滑空砲の一撃が巡洋艦に突き刺さる。《ナナツー参式》の長距離砲を受けてゾル国の艦が轟沈していった。しかし先ほどの人機が見当たらない。

 

 どこへ、と首を巡らせた操主達へと青白い尾を引くミサイルが地面に突き刺さった。

 

 着弾したミサイルから霧が放射される。それに併せて《ナナツー参式》の動きが鈍くなった。システムが次々にダウンし、センサー類が点滅を繰り返す。

 

『これは……! まさか、アンチブルブラッド兵装? 人機がどうして……!』

 

 その疑問に応じる前に、発振された緑色のリバウンド刃が《ナナツー参式》の胴体を叩き割った。

 

 滑り込むかのように懐に入った不明人機がキャノピー型のコックピットを的確に潰していく。

 

 その背面に狙撃するも、甲羅型の背中が拡張し、砲弾を着弾時に跳ねさせた。

 

『まさか……その武装は!』

 

『リバウンド、フォール!』

 

 弾けた声音と共に砲弾が一斉に反射される。《ナナツー参式》編隊はほとんど全滅もいいところであった。

 

 数名のナナツー乗りが離脱しようとして、新たな接近警報に目を見開く。

 

『別働隊か? 何機いるんだ……?』

 

『確認出来るだけでも二機……、いや、このシグナルは奇妙だ!』

 

 叫んだ操主に問い返す前に参照データが呼び起こされた。

 

 その機体名称に兵士達が戦慄く。

 

『どうして……。だってこの二機は、確か……!』

 

 刹那、焼夷弾が投げ込まれた。煉獄の炎に抱かれた《ナナツー参式》へと長距離滑空砲が見舞われる。

 

 それを放った人機はたった二機。

 

 紫色のパーソナルカラーに彩られたナナツーと、濃紺のカラーリングのナナツーである。

 

 どちらも存在は知っている。C連邦兵からしてみれば伝説の代物だ。

 

『《ナナツーゼクウ》と、《ナナツー是式》……。まさか、先読みのサカグチの機体だと……!』

 

 紫色のナナツーが粉塵を踏み締めて腰に装備した実体剣を構える。おっとり刀でブレードに持ち替えた《ナナツー参式》はその剣と打ち合った。

 

 しかし明らかに相手の膂力、さらに言えば技量が上。

 

 押し返された《ナナツー参式》の胴体を《ナナツーゼクウ》が叩き砕く。

 

『……未熟』

 

 その通信網を震わせた声も、まさしくリックベイ・サカグチそのもの。

 

 C連邦兵は突如として現れた不明人機と二機の伝説のナナツーを結びつける事も出来ぬまま、一機ずつ撃墜されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 蜜柑。ナナツーなんて作戦の中にあったっけ?」

 

「いや、なかったと思う……。何でなんだろ。あの二機、C連邦のナナツーと戦ってるよ?」

 

 林檎は緑色の髪を掻いて不明な事柄から目を逸らした。

 

「まぁいいや。敵機が減ってこっちもラッキー」

 

「もうっ、林檎は楽観的過ぎだよ。あのナナツーが敵に回るかもしれないんだよ?」

 

「別にナナツーなんて《イドラオルガノン》の敵じゃないじゃん」

 

 口笛を吹いてみせる林檎に蜜柑はほとほと呆れたようであった。

 

「……目的の分からない人機の動きがあれば、少しでも慎重になったほうがいいね」

 

「どうせ上から応援が来るんでしょ? 待ってりゃいいのに」

 

「そうもいかないよ。実際、ブルブラッドキャリア本隊から逃れるのだって必死だろうし。……どれくらいの損耗なのかも分かんないし」

 

 思案を浮かべる蜜柑の後頭部を林檎は蹴りつけた。周辺警戒のバイザーを覗いていた蜜柑が涙を浮かべて抗議する。

 

「もうっ! 何するの! 林檎!」

 

「いや、難しい事ばっか考えているからさ。そんな必要ないんじゃない? ってほぐそうとしただけ」

 

「ほぐすのに頭蹴らないでっ! そんなだから林檎のオペレーションは不安なんだよ」

 

 妹の諫言に林檎はむすっとする。

 

「海岸沿いのナナツーはあらかた片づけたけれどね。……ボクの《イドラオルガノン》が」

 

「ミィ達の、でしょ。一人じゃ何も出来ないくせに」

 

「ガンナーがいなくたって、ナナツーくらい」

 

「どうだか。照準補正も出来ない林檎じゃ、最初の長距離砲も避けられていたか」

 

 蜜柑との言い合いを続けていても始まらない。林檎は戦場を俯瞰した。

 

「……これ、どう見る?」

 

「ナナツー同士が戦っている。どっちに味方すればいいのかはよく分かんない」

 

「じゃあ、ここは喧嘩両成敗といく?」

 

「簡単に言わないで。《イドラオルガノン》単騎じゃあのナナツーの……特に紫色のブレードアンテナの奴、墜とせないよ」

 

 確信に満ちた声音に林檎は尋ね返す。

 

「そのこころは?」

 

「近接格闘においてずば抜けている。あんなの、中距離向けのD装備のままの《イドラオルガノン》じゃ押し負けちゃう。近接支援型の武装に切り替えれば、もしかしたらだけれど」

 

「それでも勝てる確率は?」

 

「五分五分……かな。あのナナツー、とんでもないよ。随伴しているもう一機もそう。あの動き、ナナツーじゃないみたい……」

 

 蜜柑がそれほどまでに脅威に上げているとなれば下手な手出しは出来ない。林檎は両手を上げて叫んでいた。

 

「あーっ! つまんない、つまんないーっ! ゾル国の巡洋艦を攻め落としてここまで海路を行ったのに、足止め? そんなのってないよ」

 

「喚かないで、林檎。ミィだって辛いもん」

 

「じゃあさ。当初の目的通り、施設を攻め落とすのは? それもダメなの?」

 

「今は……様子見かな。桃お姉ちゃんが降りてくればまだ動けるけれど」

 

「桃姉遅いーっ! 早く降りてきてよーっ!」

 

 足をばたつかせた途端、照準警告が幾重にも鳴り響く。いつの間にか敵の第二陣がこちらを射線に入れていたらしい。

 

 慌てて操縦桿を握った林檎は近場の地面に着弾した長距離砲に動きを遮られる形となった。

 

「……蜜柑が警戒を怠るから」

 

「ミィが? 林檎がうるさいからでしょ!」

 

 喧嘩をする前に敵の長距離砲は確実に《イドラオルガノン》を照準している。二人はお互いに目線を交わして、何度か深呼吸した。

 

「落ち着いて……喧嘩している場合じゃ」

 

「ない。林檎、ここから逃げ出すのには少しばかり手間取る。近接格闘と敵の弾道予測を任せるから、後は」

 

「こっちの領域だ!」

 

 アームレイカーを引いた林檎の動きに同期して《イドラオルガノン》が跳躍する。亀甲型の背部コンテナが開き、内側からアンチブルブラッドミサイルを掃射した。

 

 着地点にいるナナツーに林檎は声を張り上げる。

 

「退けェッ!」

 

 振り上げたRトマホークの一閃がナナツーを両断した。しかし矢継ぎ早に照準警告がコックピットの中を劈く。

 

 舌打ちした林檎が次の獲物を狩ろうした瞬間、ピンク色の光軸が空より放たれた。

 

 ナナツーが塵芥に還っていく。その攻撃の主を、自分達は知っている。

 

「降りてきてくれた! 桃姉が!」

 

 こちらへと真っ直ぐに降下してくる《ナインライヴス》と、もう一機。両肩に盾を装備したモリビトタイプを二人は確認していた。

 

「あれが……暴走していた例の……」

 

「《モリビトシン》、か」

 

《モリビトシン》が肩口から盾型の武装を取り出す。歯車の基部を中心に回転した武装が銃器となり、地上のナナツー部隊へとリバウンドの弾丸を浴びせた。

 

 牽制の銃撃にナナツー部隊が火線を張る。その中を果敢に進み、放射されたミサイルの弾幕に《モリビトシン》の姿が掻き消える。

 

「まさか、早速撃墜?」

 

 否、そう見えただけだ。

 

 噴煙を引き裂き、《モリビトシン》が武装を振り翳す。銃器に見えた扁平な武装にリバウンドの灼熱が宿り、降り立った瞬間、ナナツーを叩き割った。

 

 後ろに回り込んだナナツーへとまるで目があるかのように滑るように接近し、下段から剣閃を浴びせかける。

 

 よろめいたナナツーに《モリビトシン》は武装を変形させて銃弾を見舞いつつ、後退。近場のナナツーが必死に機銃で応戦するのを、《モリビトシン》は剣の盾で弾丸を弾きつつ、そのまま打突でキャノピーのコックピットを貫いた。

 

 その在り様、戦闘の研鑽は紛れもなく、強者の佇まい。

 

 桃から聞いていた以上であった。《モリビトシン》の操主――鉄菜・ノヴァリスは数秒と経たずナナツー三機を撃墜する。

 

「すごい……」

 

 感嘆の息を蜜柑が漏らす。林檎は歯噛みしていた。悔しいが、近接戦は遥かに鉄菜のほうが上手を行っている。

 

 あれが六年間……ブルブラッドキャリアの支援なしで戦ってきた猛者だというのか。

 

『林檎、蜜柑? 二人とも無事?』

 

 桃が通信ウィンドウに現れ、茫然自失だった二人は慌てて声を吹き込む。

 

「う、うんっ! 何とか」

 

「桃姉、そいつが……」

 

 桃は首肯する。

 

『ええ。クロ、施設に強襲をかけるわ』

 

『了解した。しかし、もう施設警護のナナツーは出撃しているようだが』

 

 冷たい声音であった。まるで冷水を浴びせかけられたかのように。

 

『まだトウジャが出てくる。それに……何か妙ね。既に戦端が開かれているなんて』

 

 降り立った《ナインライヴス》がRランチャーを構え周辺を警戒する。《イドラオルガノン》を駆け抜けさせて合流しようとした、その時であった。

 

《モリビトシン》がこちらに向けて疾走する。何が、と思う前に剣がこちらに敵意と共に向いた。

 

 まさか、と林檎は瞠目する。敵味方識別も出来ないのか、とRトマホークを掲げかけたその瞬間、《モリビトシン》の剣筋が閃き、《イドラオルガノン》の背後に迫っていた《スロウストウジャ弐式》を突き飛ばした。

 

 無様に転がった《スロウストウジャ弐式》であったが、すぐに体勢を立て直してプレッシャーソードを所持する。

 

 その腕を《モリビトシン》の二の太刀が引き裂き、宙に舞った腕が落下する前に、もう片方の盾から顕現させた剣が敵人機を袈裟切りにする。

 

 交差した刃に相手の人機はよろめきつつ、その場に突っ伏した。

 

『警戒を怠るな。トウジャタイプが出てきている』

 

 今の一瞬、林檎は撃たれるかと思っていた。どっと湧いた汗に動悸が早鐘を打つ。

 

 了解、の声を吹き込むと、《モリビトシン》は施設の強襲任務へと入っていた。

 

 あれが――鉄菜・ノヴァリス。

 

 自分達より前の世代の血続。

 

 林檎は味方でありながら恐れるべきものを目にしたような心地でアームレイカーを握り締めていた。

 

「……あんなの、抜き身の刀だ」

 

 言い捨てた林檎は操縦桿を引き、《イドラオルガノン》を跳躍させる。

 

 これから先、あの操主と共に戦わなければならない、という事実に忌避の念が黒々と胸の中に染み渡っていった。

 

 


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