欠伸を噛み殺した常駐兵は宇宙から望める虹の裾野を視野に入れていた。
以前はゾル国の《バーゴイル》が担当していた部署はそっくりそのままC連邦政府に委託され、全ての権限がゾル国より奪われて久しい。
六年の隔たりはかつての隆盛を誇った国家より誇りを略奪するのに充分であった。もうゾル国の赤い《バーゴイル》が宇宙を飛び回る事はない。C連邦の政府高官がつい先日、そのような発言をして更迭処分に処せられたが、結局はその通りなのだ。
ゾル国において憧れの職業――スカーレット隊の伝説は消え失せ、「モリビト」の称号は機動兵器の名前に塗り替えられた。
歴史の教科書にもうすぐ掲載されるらしい、と伝え聞いた常駐兵は娘と妻の写真が入ったフォトケースを《スロウストウジャ弐式》のコックピットに置いていた。
無重力を漂う扁平なフォトケースには今までの思い出が詰まっている。
《スロウストウジャ弐式》と言ってもアンヘルのそれとはまるで武装が異なっていた。アンヘルのコミューン制圧用の武装は宙域ではほとんど使用されない。プレッシャーライフルでさえも過剰武装だとして旧ゾル国陣営が抗議してくるからだ。
「なぁ……宇宙って広いんだな」
そのような言葉を吐いたのは何も常駐任務が年中暇だからだけではない。見渡した惑星の広大さに自分達の国家間の隔たりなどほとんど無為だと思わされたからである。
『まぁな。スカーレット隊って言うのは花形だったらしいが、それもこうじゃ……結局どうだったのか問い質そうにも面々は死んだらしいからな』
「モリビトは? 英雄って言われたの……誰だったか?」
『確か……キリヤ……とか言ったか? もう覚えてないぜ?』
『誰も覚えちゃいないだろ。堕ちた英雄の名前なんて』
違いない、と通信網に笑い声が木霊する。宇宙の常闇の中、虹色の星が静かな面持ちを湛えていた。
「綺麗だよな……俺達の星」
『争い合うのなんて馬鹿馬鹿しく思えるくらいにはな』
『でもま、この駐在任務の一番いいところはそれだろ? 仕事なのにセラピー気分だ』
駐在任務につくのには五十時間以上の宇宙における訓練経験が必要であったが、トウジャが一般化してからは取得するのも難しくなくなった。
以前はナナツーで取ろうものならば命をかける心構えであったのに、技術の進歩は恐ろしい。
トウジャタイプの浸透によって新兵でも人機操縦で蹴躓かなくなった。それを嘆かわしいとするベテラン操主もいるのだが、彼らは時代に取りこぼされた存在だ。今さらトウジャだのナナツーだのにこだわっているだけ、前時代的な考え方だと言えよう。
『星が綺麗で、眠っていても邪魔されない。天国か、ここは』
「おい、マジに眠っているのか? さすがにどやされるぞ」
『誰もコックピットなんて覗かないっての。お前も寝とけ。この任務のうまい汁をすすれる間にな』
「……お前ら、さすがにいつか天罰が下るぞ」
その冗談に二人して声を上げて笑われた。
『天罰とは、そいつはいい! スパイスのジョークはたまに必要だな』
『宇宙でトウジャと打ち合うなんてテロリストでも思いつかないって。連中、《バーゴイル》だろ? 型落ち品の』
『大気圏に落ちるのが怖いからってんで、まともな塗装もされていない《バーゴイル》じゃ、燃え尽きちまうだろ。スカーレット装甲だよ』
呆れて物も言えない。自分達の駐在地は、そのスカーレット装甲によって守られているというのに。
「あんまり先人を悪く言うな。マジに祟られるぞ」
『この宇宙の闇にやられたか? ここまで来て亡霊もクソもねぇよ』
『軌道エレベーターを赤い装甲が守っているのだって、もうすぐ塗り替えって話だろ? 前時代的なんだよ、何もかもが』
C連邦に属している自分達からしてみれば、たとえ軌道エレベーターが赤になろうが青になろうがどうでもいい。ただ安全の保障さえしてもらえれば。
まったく、と息をついた途端、航行ルートを外れた一機のシャトルが目に入った。
よくあるルートミスだと注意勧告を送っておく。しかし、シャトルのルートは変更されない。
このままでは駐在地を僅かに掠める軌道だ。再びC連邦駐在軍の名前で送信するが、それでもシャトルの機動に変化はない。
まさか、とプレッシャーライフルを握らせた《スロウストウジャ弐式》を宙域へと出す。他の仲間が訝しげに声をかけた。
『どうした? シャトルの航行ルートミスなんて放っておけ。仕事熱心過ぎんだよ、お前』
「いや、しかし……。このルートでは掠める。シャトルが危ない」
『あっちのミスだろ? ログだって残ってる。まぁ、後々文句はあるかもしれないが、こっちに非はないだろ』
それもそうだが、と照準器から目線を離した直後、下部に積載したコンテナが開いていた。
内部より現れた人機の照合コードにハッと声を上げる。
「識別不能人機……? まさか……!」
つい数時間前のモリビト襲来のニュースが脳裏に呼び起こされたその時には、ピンク色の光軸が《スロウストウジャ弐式》を掠めていた。激震するコックピットで通信網が飛ぶ。
『シャトルより不明人機出現……! 照合結果、敵性人機はモリビトの可能性があり!』
『嘘だろ……、モリビトなんて……』
及び腰になりかけた仲間に声を絞り出す。
「怯むな! 敵はモリビトとは言え、六年前の機体のはず! 対人機において六年の開きがどれほどのものなのか……」
それを知らないほど平和ボケしているわけではない。すぐに散開機動に入った《スロウストウジャ弐式》編隊が敵人機へとプレッシャーライフルを照射する。
それぞれの機体とまともに打ち合う気はないようで大型のR兵装を手にするモリビトは小型の小銃で応戦していた。
「あのデカブツ兵器……連射は不可能と見た! 各員、じりじりと相手を追い詰める!」
了解の復誦が返る中、しかし何故だ、と思わざるを得なかった。シャトルのちょっとした誤差のルートを相手に気取らせないようにするだけならば、まだ楽なはず。
ここでわざわざモリビトを晒さなくともどれほどでも策はある。だというのに、相手はモリビトを出してきた。
この疑問の帰結する先は――と今度はシャトルの軌道上にあるルートを概算させる。
シャトルはこの先、デブリ帯を真っ直ぐに突っ切る針路を辿っている。デブリ帯……、と口中に呟いた男はまさか、と閃いた。
「連中、もしかして……」
デブリの合間にある間接カメラへと照合をかける。すると一つのデブリに熱源が関知された。
シャトルの接近に伴い、資源衛星にしか見えなかった何かが開いていく。
常闇に灯った誘導灯に確信の声音を吹き込んだ。
「待て! もしかすると、あのシャトル、とんだ食わせ者かもしれない」
『どういう意味だ? このモリビトをどうにかしなくっていいのか?』
「ともすれば……こちらのほうが重要かもな。シャトルの行き先でガイドビーコンが点灯している。ただの資源衛星のはずの場所で、だ。もしかして、相手がモリビトをわざわざ晒した意味は……」
『まさか、シャトルの水先案内人だって? そのためにモリビトなんて大げさな……』
大げさでないとすれば。それこそ、ブルブラッドキャリアの本懐はシャトルが行き着く事にあるとすれば。
自然と反転し、《スロウストウジャ弐式》にシャトルを追わせる。
『何やって……! モリビトを止めるほうが……!』
「いや、こっちのほうが多分……まずい」
何が、という主語を欠いたまま《スロウストウジャ弐式》がプレッシャーライフルを引き絞る。
光条がシャトルを貫かんとするが、相手は推進剤を焚いて回避した。
――やはり、モリビトは囮。
まさか、世界の敵であるモリビトでさえも囮にした作戦があるとは思いもしない。だが、何かが存在しているのだけは確かだ。
《スロウストウジャ弐式》の進行先をモリビトの放った極太の光線が阻んだ。
やはり相手はシャトルには指一本触れさせる気はないらしい。
それが疑念を確信に変える。
「……全機、シャトルを追うぞ。モリビトは囮だ。本当の目的はデブリ帯の中にある」
『嘘だろ、おい! 振り切れって言うのかよ! 目の前まで来てるんだぞ!』
「こっちで追う。もし無理そうなら適当にいなすほうが無難だ。そのモリビト、あまり長期戦には向いていないんだろう。だから先んじて出した」
そう考えれば辻褄も合う。残り二機はしかし、モリビト相手に苦戦を強いられていた。
『張り付いてくれば離れないんだよ……! 簡単に言ってくれる!』
最新鋭機であるはずの《スロウストウジャ弐式》に負けず劣らずの攻撃を見舞ってくるモリビトを完全に振り切るのは難しいだろう。
自分一人でも、と彼は《スロウストウジャ弐式》にシャトルを追跡させた。
『クロ……そっちに一機行ったわ。この二機はこっちで抑えられるけれど一機だけは難しいかも』
その通信を受け、鉄菜はシャトルを遠隔操作する操縦桿に力を入れた。
シャトルが推進剤を焚いて右へ左へとトウジャのR兵装を回避する。さしものブルブラッドキャリアでも貨物シャトル一機を偽装するだけで限界。
そのシャトルの耐久性や武装まで気が回らなかったのだろう。
あるいは気づいていても言わなかったか。鉄菜は今にも分解しそうなほどに軋んだシャトルに加速をかけさせた。
《スロウストウジャ弐式》はしかし、しつこく追いすがってくる。
単純な機動力で負けているのだ。シャトル程度の推進力で人機から逃れるなど敵うはずもない。
プレッシャーライフルの照準がこちらに据えられる。照準警告が響き渡る中、鉄菜は腹腔に深く呼吸した。
「一瞬、か。だが、ここまで来れば……!」
発射された光条がシャトルを射抜く。炎が上がる中、シャトルが燃え尽きかけた。瞬間、下部コンテナを突き破り、銀翼の機体が躍り出る。
機首のない面妖な形のバード形態はこの時、正常稼動した。
《シルヴァリンク》が滑空形態のまま宙域を駆け抜ける。《スロウストウジャ弐式》は突然に現れたもう一機のモリビトに面食らった様子であったが、すぐに持ち直して照準を向けてくる。
鉄菜は《シルヴァリンク》のコックピットの中で加速度を最大まで与えた。推進剤の尾を引いて《シルヴァリンク》が向かう先には誘導灯が照らし出すブルブラッドキャリアの資源衛星がある。
そこに至るまで、あと二分足らず。
《スロウストウジャ弐式》の照準が《シルヴァリンク》を完全に捉えていた。
一射されたR兵装が尾翼を焼き切る。それでもここで止まるわけにはいかない。
「……耐えてくれ。《シルヴァリンク》……」
さらにもう一段階の加速。敵人機が速射モードに切り替え、こちらを撃墜しようとしてくる。
先ほどまでより苛烈なR兵装の雨に鉄菜は奥歯を噛み締める。
銀翼が剥がれ落ち、照射された先から融解していく。
あと一分もない。しかし、このままでは辿り着く前に撃墜されるだろう。
「《シルヴァリンク》……最後の、足掻きだ。封印武装開放! 唸れ! 銀翼の――!」
機体が黄昏色のエネルギーフィールドに包まれていく。この六年間、出来るだけ使用を制限してきた封印武装が紡ぎ出され、宇宙の常闇を掻っ切った。
物理攻撃皮膜に包まれた《シルヴァリンク》へと敵人機が武装を開放した。
実体弾まで飛び出した火線が《シルヴァリンク》の機体装甲板を叩き砕いていく。
各所がレッドゾーンに染まる中、鉄菜は雄叫びを上げていた。
――届け。
その願いが形となり、最後の翼を羽ばたかせる。《スロウストウジャ弐式》のプレッシャーライフルの火線を抜け、《シルヴァリンク》は資源衛星へと雪崩れ込んでいた。
コックピットが激震し、機体の全方位から警告音が鳴り響く。赤色光に染まった機体中枢部が強制パージされ、球体のコックピットが空間に射出される。
鉄菜は《シルヴァリンク》の心臓部とも言えるコックピットから這い出ていた。
長年付き添った相棒の機体のコックピットを蹴りつけ、カタパルトにセットされた新たな機体を目にする。
「これが……《モリビトシン》……私の、新しいモリビト」
《インペルベイン》に似た三つ目のアイサイト。右肩にシールドが固定されており、肘先まで菱型の扁平なそれが伸びている。機体のカラーリングは赤と銀であり、コックピットは頚部にあった。
簡素な宇宙服に取り付けられていた推進剤を用いて姿勢を制御し、《モリビトシン》のコックピットへと入る。
桃から予め教わっていた通り、《モリビトシン》の機体制御系統は独特であった。
身体を包み込むかのような操縦基盤は血続専用のトレースシステムを用いているのだという。
ゆえに、「もう自分には乗りこなせない」と言っていた。
トレースシステムのアームレイカーに腕を通し、両足をフットペダルにかける。機体が遠隔起動し、血続の搭乗を認証した。
『鉄菜。その人機こそが我々の、最後の希望だ。《モリビトシン》にはトリニティブルブラッドシステム……《インペルベイン》と《ノエルカルテット》の血塊炉が機体の中枢血塊炉を補助するように出来ている』
タキザワの通信に鉄菜は首肯して、システムをチェックする。だがそのような余裕さえもない。
資源衛星に飛び込んだ自分を追って《スロウストウジャ弐式》がもうすぐ傍まで来ているはずだ。
「聞き及んでいる。起動臨界値には?」
『まだ足りていない。……やはり惑星産の血塊炉を用いても……駄目なのか』
「諦めるな。悲観するのにはまだ早い。私はここに来た。この人機と会うために。この人機を動かすために。ならば、答えは一つしかない」
起動シークエンスのステップをほとんど飛ばし、鉄菜は一気に稼動をかけようとする。
しかし《モリビトシン》は応えてくれない。ならば、と鉄菜はコンソールに存在するコードを打ち込んでいた。それを察知したタキザワが声を荒らげる。
『鉄菜! まさか君は――』
「エクステンドチャージ、起動」
惑星産の血塊炉ならば適応されているはず。黄金に染まっていく機体が稼動臨界点まで至ろうとするが、それでもコックピットの中は静かなままだ。
『エクステンドチャージでも……駄目か……』
直後、《モリビトシン》のコックピット内で警笛が鳴り響く。エラーが算出され、《モリビトシン》は鉄菜の制御下を離れ、暴走しようとしていた。
カタパルトに《モリビトシン》を止めるだけの拘束具はない。
赤く眼窩をぎらつかせた《モリビトシン》が軋みを上げる。
『鉄菜! 今すぐ脱出を! エクステンドチャージのせいで、《モリビトシン》の内蔵血塊炉がメルトダウンするぞ! 鉄菜!』
タキザワの呼ぶ声が今は遠く聞こえていた。鉄菜は耳を澄ます。
《モリビトシン》の内奥より呼びかける声に。
この人機の本当の言葉に。
何を望んでいるのか。何のためにここにいるのか。
自分という異物を投げ込まれた《モリビトシン》は猛り狂っていた。己の中にある異物を排除しようとしている。
鉄菜はアームレイカーの中の手を固く握り締めた。
――感じる。
鉄菜は薄く瞼を閉じ、《モリビトシン》の中にある言葉に耳を傾けた。
強い怨嗟。罪の重力。一つでもまかり間違えれば、この血塊炉の中で渦巻く魂に引っ張り込まれそうになる。
血塊炉の内側から渦巻くのは逃すまいとする執念であった。
罪の中で死ね。罪に抱かれて死ね。罪で全身を塗りたくられ、その重みに耐え切れず、罪人は自壊する。
この人機は数多の魂を吸ってきたのだろう。今までもきっと。
だが、それを断ち切る事が出来るのは自分だけだ。
自分しか、この因果を終わらせる事が出来ない。
ならば、と鉄菜はアームレイカーを握る。
「動いてくれ。《モリビトシン》。私は!」
面を上げる。見据えた先に《スロウストウジャ弐式》がカタパルトを覗き込んでいた。そのプレッシャーライフルの銃口がこちらを捉える。
『鉄菜! 脱出しろ!』
『クロ? お願い、逃げて――!』
「逃げる? 冗談じゃない。私は、お前を乗りこなすために来た。お前に呑まれるために来たんじゃない! 《モリビトシン》、ここにいるのは半端な操主じゃないぞ! 私の魂は《シルヴァリンク》の魂でもある。それを取り込もうというのなら、覚悟しろ! 私は――!」
地上で戦い抜いた《シルヴァリンク》の誇りと。彩芽の魂を受け継いだ《インペルベイン》と。桃の力を補助してきた《ノエルカルテット》の血塊炉と――。
「――ブルブラッドキャリアの執行者が、ここにいる!」
刹那、《モリビトシン》の内奥で何かが脈打った。
放たれたプレッシャーライフルの閃光を《モリビトシン》は咄嗟の行動で肩に装備された盾で防御する。
相手が息を呑んだのが伝わった。
黄金色に染まっていた《モリビトシン》の表層から、黄金の輝きが解け落ちていく。
赤く染まっていた眼光が緑色に変容した。
『この現象は……』
困惑したタキザワに鉄菜は覚悟の双眸を湛える。真っ直ぐに見据えた先にいる《スロウストウジャ弐式》を視界に入れていた。
「――《モリビトシン》、鉄菜・ノヴァリス。出る!」
カタパルトより射出された《モリビトシン》の機体がそのままの勢いを殺さずに《スロウストウジャ弐式》へと衝突していた。鋼鉄がぶつかり合う中、敵の接触回線が入る。
『モリビト……! まさか、新たなモリビトだと言うのか……!』
「そうだ。これが――!」
《モリビトシン》の大質量が《スロウストウジャ弐式》を組み伏せようとする。その馬力は並大抵ではない。三位一体の血塊炉が生み出す膂力は並の人機の装甲を砕くのに値する。
逃げおおせようとした敵人機のプレッシャーライフルの銃身を《モリビトシン》の腕が握り潰していた。
爆ぜた火花を物ともしない。
メイン武装を失った敵人機がこちらから出来るだけ距離を取ろうとする。
『距離さえ取ってしまえば、どうという事……』
接続された敵の回線に鉄菜は《モリビトシン》の武装をポップアップに呼び出す。全天候周モニターから最適な武装が編み出され、アームレイカーの先端部に接続されたキーを押す事によってそれが承認される。
《モリビトシン》が右肩のウイングスラスターを兼ねている扁平な盾へと手を翳す。
出現したのはグリップ部であった。掴むと、歯車型の基部を伴った盾そのものが引き出される。
『盾を……武器とするのか……』
相手が副兵装のミサイルの弾幕を張ろうとするのを、鉄菜は手にした新型武装で応戦していた。
左手を突き出すイメージだけで、《モリビトシン》が同期して動き、歯車型の基部を中心軸にして盾の先端部が半回転する。
盾の先端部には銃口が備え付けられており、コックピット内部に照準補正の赤いCGロックオンサイトが現れた。
鉄菜の目線の先で照準器が敵人機を捉える。
アームレイカーに標準装備された引き金を引くと、緑色のリバウンドエネルギーの弾丸が発射された。
完全に虚を突かれた形の相手人機へと命中し、肩口より延焼させる。
敵は一部装甲をパージして難を逃れたが、鉄菜はここで相手を葬るつもりであった。
矢継ぎ早に盾型の銃――リバウンドシェルライフルを発射する。うろたえ気味の相手が後退しながら腰に装備した炸裂弾頭を投擲した。
引火した炸裂弾頭より濃紺の防御煙幕が張られる。
『この視界の中ならば! トウジャが有利!』
プレッシャーソードが引き抜かれ、敵人機が無様に接近した《モリビトシン》を叩き割ろうとする。
鉄菜は手にしたリバウンドシェルライフルの基部を半回転させた。
元の場所に戻った盾の銃は変形し、扁平な部位が灼熱の域に達する。
それこそが盾の剣――リバウンドシェルソードであった。
盾の剣がプレッシャーソードと鍔迫り合いを繰り広げたのも一瞬。その攻撃力が、プレッシャーソードの粒子束を引き裂く。
「これが、私達の――モリビトだ!」
叫んだ鉄菜の呼気と共に一閃。《スロウストウジャ弐式》の胴体が生き別れとなり、血塊炉が焼かれて爆発の光が宇宙を照らす。
噴煙を引き裂いて現れた《モリビトシン》に相手は深追いをしなかった。
《ナインライヴス》を相手取っていた敵人機二体が離れていく。
通信回線が開き、桃が声にしていた。
『クロ……、それが《モリビトシン》の……』
「ああ。これが私の新しい……モリビトの力……」
振るった刃に《モリビトシン》が鋭い眼光を惑星へと注ぐ。
三つ目のアイサイトが睨むべき標的を見据えていた。