ジンキ・エクステンドSins   作:オンドゥル大使

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♯176 運命の鎖

 

 お飾りですか、と叫んだこちらに上官が頭を振る。

 

「いけない。今行けば、大事な戦力を失う事になる」

 

「自分だけが戦力じゃありません! 他の《バーゴイル》乗りだって充分な戦力です!」

 

「分かってくれ、シーア中尉。今、不死鳥戦線を失うわけにはいかないんだ」

 

 それは理解しているつもりだった。他の《バーゴイル》とこの中央艦隊に収められている新型機――《フェネクス》は別物だと。

 

 しかし、だからと言って他の《バーゴイル》乗りがモリビトの牙にかかっていい理由にはならないはずだ。

 

「《フェネクス》全機を出せないなら、自分だけでも――」

 

「驕るな、中尉! 君だけではどうしようもない!」

 

 それは恐らく事実だろう。新型と思しきモリビト相手に、たとえ《フェネクス》に乗った自分が全力を出してもどうにもならない。

 

 だが、だからと言って艦隊を切り捨てて見過ごすだけなど耐えられるはずもない。

 

「……多くを生かし、少数を切り捨てる。軍としての在り方は分かります。ですが! それでも目の前で死んでいくゾル国の軍人に、敬意も払えないのは違うでしょう!」

 

「シーア中尉! 言葉を慎め! 我々は最小限の犠牲で生き延びるしかないのだ。そうでなければ! ゾル国の再起など誰が望めよう!」

 

 拳を固く握り締める。大義はここにある。ゾル国の再興。そのためには《フェネクス》だけではない。

 

 もっと大きなものを見据える必要がある。眼前の敵にのみ注力していてはいつまで経っても成し遂げられないであろう。

 

「……しかし、死んでいるのは兵士です」

 

「犠牲の上にこそ、大儀は成り立つ。君の命はここに預かっている。それを無碍に散らせる事、それこそが君をここまで成長させた推薦人の意に反する事だと私は思っている」

 

 推薦人。自分をここまで押し上げてくれた恩人の名に、この場では苦味を飲み込むしかないと判ずる。

 

 そうでなければ何のため。誰がために救われた命か。

 

 何のためにここにあるというのか。

 

 納得の上に成り立たせようとする自分と、今すぐに飛び出してモリビトを駆逐せねばとする自分がせめぎ合う。

 

 己の中の葛藤に彼は一言で決着をつけた。

 

「……大義は、こちらにある」

 

「その通りだ。モリビトも、C連邦も、先が読めているとは到底思えない。我々にこそ、栄光は輝く」

 

 今はその言葉に満足するしかない。ここでむざむざ出て撃たれるよりかは現実的だと。

 

「モリビト……、いずれ仇は返す……絶対にだ」

 

 左胸に輝く不死鳥の紋章に、今は確かに誓うのみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《シルヴァリンク》をコンテナに収め、《ナインライヴス》が地を駆け抜ける。

 

 その反射速度、膂力はかつての《ノエルカルテット》に相当するだろう。それほどの新型人機が、血塊炉たった一つで動いている、という説明に、即席の座席に収まった鉄菜は瞠目していた。

 

「《ノエルカルテット》のような、複合式の人機じゃないのか、これは……」

 

「宇宙で産出された新しいエネルギーを使っているのよ。宇宙産の血塊炉ね。コスモブルブラッドエンジンって上は呼んでいるけれど、結局は資源衛星にあった《アサルトハシャ》だとか動かすのの延長。はい、クロ」

 

 差し出された携行食糧に鉄菜は謝辞を述べて受け取った。そういえば久しくまともな食事を取っていない。

 

「感謝する。桃」

 

「……なーんか、他人行儀よね」

 

「仕方ないだろう。私は、六年も誰にも頼らずに生きてきたんだ。喋り方も忘れてしまっている」

 

 それに桃は成長していた。一つ結びの髪に、背丈も自分を追い越してしまった。大人びた表情にはこれまでの過酷な日々が窺える。ピンク色のRスーツを纏っている変化だけでも充分だろう。

 

「クロは……やっぱり成長しないんだよね」

 

「聞いていたのか」

 

「ちょっとだけ、ね。可能性の話らしかったけれど、目の前にすると……」

 

 どうして桃のほうが参っているのだろう。自分の身体の変化は自分が一番よく分かっている。

 

「人造血続は、設定された年齢より先には老化しない。だが、それは死に向かわないというわけではない。着実に遺伝子は消えているだろう」

 

 それでも淡々と話せる事には自分でも少しだけ驚いていた。携行食糧を頬張る。チーズ味、と書かれたラベルを読み取った。

 

 口の中に広がった久方振りの汚染されていない食料の味。オアシスの一滴のように乾いた身体に染み渡る。自分はこの汚染された大地で常に戦いを練り歩いてきた。だからこそ、久方振りに心を休ませられる相手との遭遇に戸惑っている部分もある。

 

「クロ……、あまり気を張り詰めないでね。そりゃ、モモ達は不利っていう事実は変えられないけれど、でも相手方も兵装の面ではまだ対処出来ないはずよ」

 

「アンチブルブラッド兵装か。まさか実用化されていたとはな」

 

 青い弾頭のブルブラッド兵装は幾度か目にした事はあるが、それは人間側が使うものであった。人機のメイン武装として据えるのにはいくつかの弊害が存在する。

 

「それも、宇宙産の血塊炉の恩恵ね。惑星産の血塊炉はこのアンチブルブラッド兵器に過剰に反応するけれど、コスモブルブラッドエンジンはこの兵装の問題点からは逃れられるのよ。だから、この点でのみモモ達は優位を取れる」

 

「だが、その点でのみ、だ。見た限り、《スロウストウジャ弐式》編隊と対等以上に渡り合うのには出力値が足りていない。敵は六年前のモリビトと同等、いやそれ以上と思ったほうがいい」

 

 こちらの声音に桃は嘆息を挟んだ。

 

「悔しいけれど事実、ね。第二世代のモリビトとはいえ、完全にトウジャを超える事は出来ない。スペック上の話だけではなく、禁断の人機が野に放たれるというのはそういう事なの。百五十年前の禁忌が意味を成してきたわけね。地上はトウジャタイプの楽園になった」

 

「汚染された焦土を血で塗りたくる虐殺天使……。私達は、桃、教えてくれ。これが私達の目指した世界の形なのか? 私達はこんな世界にするために、六年前に戦ったというのか?」

 

「モモも、まだ答えは出せていない。でも、抵抗したいって思えるのは確か。だから《ナインライヴス》に乗っている」

 

 桃が操縦桿を引いて《ナインライヴス》を立ち止まらせる。四つ足のビースト形態の《ナインライヴス》が周囲に視線を振った。

 

 獣の眼窩に、額の逆三角のアイサイトが周囲へと注意を配る。

 

「どうした?」

 

「どこに罠があるか分かったもんじゃないから。地上はトウジャの動きやすいようになっている。クロだって分かるでしょ」

 

「……天使の檻か」

 

「正解。その地雷原の真っ只中ね、この近辺」

 

 天使の檻、と呼ばれているのはアンヘルが独自に開発した機雷の事を指す。人機の血塊炉反応に呼応し発動、対象人機が連邦の参照データにない場合、相手を一時間もの間拘束し、血塊炉付近へと重大なダメージを与える。鉄菜も渡り歩く際、警戒していたものだ。

 

「私は《シルヴァリンク》をブルーガーデン製のコンテナに収容していた。それは天使の檻の発動条件を掻い潜るためだ」

 

「ブルーガーデン製は光波、熱光学、何もかもを通さない鉄の棺だものね。まさか滅びた国の遺産がこういう形で役立っているなんて」

 

「私くらいだ、ブルーガーデン製をこぞって使うなんて。他の者達は使っているのさえ見た事がない」

 

「クロが賢いのか、それとも他の連中が臆病なだけなのか。どっちにせよ、《ナインライヴス》でこの先を通るのには少しばかり手間取るわ」

 

「どうするんだ? 宇宙に出るためにはどこかでシャトルでも手配しなければならない。地上警戒が解かれるとは思えないが」

 

「その点に関しては当てがあるのよ。ゴロウ、聞こえる?」

 

『何だ、桃・リップバーン』

 

 通信ウィンドウの先に現れた姿に鉄菜は絶句する。

 

「ジロウ……?」

 

『六年もの間会っていなければ誤認するか。久しいな、鉄菜・ノヴァリス』

 

 その言葉振りにさすがの鉄菜でも対象があのジロウではない事を認識した。

 

「……元老院」

 

『そう気を張るな。我々と君達はもう共同戦線を張って随分と経つ。我々も地上から追われた、罪人なのだ』

 

「だが、私達に擦り寄って何がしたい?」

 

『何が? 鉄菜・ノヴァリス。君達に我々は感謝する事はあっても害を成す事はない。事ここに至って、我々の生存圏に関し、君達のほうが上手だからな。それに、地上は楽園を追われた事さえも気づいていないアダムとイヴの饗宴となっているだろう』

 

 信じられるのか、と桃に目配せする。彼女はそっと頷いた。

 

「ゴロウ、って呼んでいる。さすがに元老院コンピュータのままじゃ、ね。不自由だし」

 

『その名前で通っている』

 

「……何が出来る。地上を追われた罪人風情が」

 

『そっくりそのまま返したいが、今はその時間さえも惜しいのだろう? 桃・リップバーン』

 

「察しがいい事ね。シャトルの手配を頼むわ。ここから片道二時間あれば中型コミューンに辿り着く」

 

「まさか……、こいつらに頼むというのか」

 

 信じられない、という声音に桃は手を振る。

 

「案外、地上との交流手段を取るのにゴロウは便利なのよ? まだ元老院の支配の爪痕は残っている。地上に残されたバベルの断片を彼らは有効利用出来る」

 

「……手前勝手にジャミングくらいは、という事か」

 

『そういう意味だとも。弱小コミューンは未だにバベルの支配から抜け出せてはいないものも多い。如何にアンヘルとは言え、一つ一つのシステムの抜けを確認するほど暇ではないのだろう。システムの抜けを使って我々は地上と行き来する』

 

「だが、問題があるはずだ。地上からシャトルが出れば、宇宙の駐在部隊が気づく」

 

「そこから先は、出たとこ勝負ね。宇宙に上がるまでは何とかなるけれど、上がってからは追われるのも込みで考えるしかない」

 

「……勝手なものだ」

 

 呆れ返った鉄菜に桃はウインクする。

 

「でも、悪くないでしょ?」

 

 いつの間にかより強かになった桃に鉄菜は嘆息をつく。

 

「で、ゴロウ。お前は何が出来る?」

 

『バベルの断片を使い、シャトルの貨物偽装くらいはわけない。まぁ、宇宙に上がれば必然的に駐在部隊の監査を受ける。宇宙の監視網は厳しい。ゆえに、君達には偽装ルートを辿ってもらう』

 

「偽装ルート?」

 

 問いかけた鉄菜に桃は投射画面を立ち上げる。宇宙に上がった際のルートが刻み込まれており、デブリ帯を矢印が突っ切っている。

 

「このルートを辿る事で本隊を探らせないようにする。六年前、ブルブラッドキャリアの本隊がほとんど知られてしまった。その偽装のための資源衛星をモモ達はいくつも持っている。そのうちの一つ」

 

「そこに、私のモリビトがあるのか」

 

『《モリビトシン》、全てのモリビトの原初であり、最初の罪だ。……だが、言っていなかったのか、桃・リップバーン。《モリビトシン》には問題点があると言う事を』

 

「問題点?」

 

 これから自分が搭乗する予定のモリビトに何か問題があるというのか。桃は明らかに嫌悪の表情を浮かべる。

 

「ゴロウ……あんたのそういうところ、嫌い」

 

『好かれるために動いているわけではないのでね。……何だ、言っていなかったのか』

 

「どういう意味だ? 桃」

 

「……天使の檻を越えてから話しましょう。一分でも時間がずれれば貨物に紛れ込ませられない」

 

『それは同意だ。通信を切ろう。……鉄菜・ノヴァリス』

 

 名を呼ばれ、鉄菜は向き直る。

 

「何だ」

 

『……無事に帰還を願っている。これは……何もかもを失った機械であるはずの我々が唯一考え得る人間的思考だ。どうしてだか……六年前に君が信じてくれたからかもしれないが、我々の中に正体不明の何かが宿ったのは間違いない』

 

 鉄菜は通信越しのゴロウを睨み据え、言ってやる。

 

「教えてやろう。それが心だ」

 

 かつて自分も教えられた身。この胸の中にある名状しがたい何か。それを「心」と呼ぶのだと。

 

 ゴロウは感じ入ったように沈黙していたが、やがて声にした。

 

『そう、か。これが心、か。勉強になるよ、鉄菜・ノヴァリス。帰還を願っているのは、てらいない真実だ。《モリビトシン》の問題点を、君ならば克服出来る。根拠はないが、そのような気がする』

 

「切るわよ、ゴロウ」

 

 通話が途切れ、桃の《ナインライヴス》が周辺に注いでいた警戒網を一点に見定めた。

 

《ナインライヴス》が獣の姿から人機へと可変する。前足がそのまま脚部になり、後ろ足が腕と化す。背部に担いでいた高出力Rランチャーをその腕が掴み、地平線を照準した。

 

「人機の熱源に反応するって言うんなら……、地の果てまで、飛んでいっちゃえーっ!」

 

 Rランチャーの砲口にピンク色のエネルギー波が充填される。直後、放たれた地を裂く稲光が地平線へと真っ直ぐに発射された。

 

 地面が捲り上がり、熱源を追って天使の檻が発動する。無数の刃節を持った檻が熱源を狙う形で中空を捕縛した。

 

 ここいら一帯にある罠が全て発動し、地面に奇形のモニュメントを屹立させる。

 

「……さ、ってと。これであらかた片付いたでしょ」

 

 鉄菜は《ナインライヴス》の性能に呆然と口を開いていた。かつての桃の乗機、《ノエルカルテット》よりも遥かに上のR兵装を積んでいる。

 

 出力面では惑星産に劣ると言っていたが、それでもこれほどの威力は想定外であった。汚染された地面を焼き切り、青い濃霧を引き裂いている。

 

「……コスモブルブラッドエンジンは、惑星のものに遥か劣るのでは……」

 

「計算上の話よ。確かに長期戦に持ち込まれれば、《ナインライヴス》は不利。でも、短期決戦なら、多分トウジャにだって負けないわ」

 

 自信たっぷりの桃に鉄菜はどこか安心していた。彼女にも変わらない部分はある。

 

「そうか……。安心した」

 

「安心? クロってたまに変な事言うよね。その辺、変わってない。モモも安心した」

 

 二人で笑みを交し合う。六年の月日の隔たりはもっと深刻かと思っていたが自分が思っていたほどではないらしい。

 

《ナインライヴス》がビースト形態へと変形し、大地を蹴りつける。

 

 一定間隔の振動がコックピットを揺さぶる中、鉄菜は尋ねていた。

 

「……《モリビトシン》の、問題点というのは」

 

 聞かなくとも、桃を信用している。そのつもりであったが、ゴロウの思わせぶりな態度から鑑みて、それなりのリスクだと判断すべきだろう。

 

 桃は、小さく口火を切った。

 

「一度も……起動に成功した事のない人機なの」

 

 その言葉に鉄菜は硬直する。まさか一度も、という部分の沈黙に桃はため息をつく。

 

「そうよね。……そういう反応になるか」

 

「一度もまともに起動した事のないモリビトに、私を乗せようとしていたのか」

 

「誤解しないで、クロ。別にあんたに心中して欲しくって乗せるわけじゃない。それに、《モリビトシン》にはまだ試していない機構があるの」

 

「……先に説明されたな。トリニティブルブラッドシステム。二つのブルブラッドエンジンを、中央に位置する巨大なメイン血塊炉の補助のために用いる、と……。機構としては《ノエルカルテット》が近いが」

 

「だから、最初は桃がその操主のはずだった。クロ、黙っていたってしょうがないから言うけれど、六年前の時点で、《モリビトシン》の操主にモモは据えられていたの。あんたとアヤ姉が失敗してもいいように」

 

 意外であったが、組織ならばそのような行いはしていても何らおかしくはない。むしろ保険は打っておくべきだ。

 

「そう、か。私のモリビトというわけではないんだな」

 

「でも、《モリビトシン》は何度も他のコスモブルブラッドエンジンとの組み合わせを試みたけれど失敗。掛け合わせの問題だと思われていたけれど、もっと深刻なものがあるのかもしれない。……まだ掛け合わせていない組み合わせは、《ノエルカルテット》のメイン血塊炉と、《インペルベイン》の血塊炉を副炉心に据え、《モリビトシン》の血塊炉を安定させる、というもの。これならば七割以上の成功率が見込めるとされている」

 

「ならば何故、それをしない? まさか失敗の可能性が高いのか?」

 

 桃は頭を振って、額に手をやる。

 

「逆よ。……それで失敗すれば後がないから。《モリビトシン》のプロジェクトはお取り潰しになり、《モリビトシン》に与えられていたパーツは全て新規のモリビトの開発に充てられるでしょう。そうなると困る誰かさんのエゴなのよ」

 

 組織内部で《モリビトシン》の計画を進めるためならば、成功率の高い組み合わせは最後に持ってくる、というわけか。未だにブルブラッドキャリアの中でも軋轢があるのが窺える。

 

「……だが、そのような瑣末事にこだわっている間にも地上は激変する。この六年……たったの六年で技術がどれほど進歩したか。トウジャタイプはC連邦のスタンダードになり、ナナツー、《バーゴイル》は一気に型落ちと化した。私はそれを戦場で常に見てきた。トウジャは放っておいても脅威になり得る。私達がいがみ合っている間にも、地上は介入不可能な場所に成り果てるだろう」

 

「クロがそう言ってくれれば、上も少しは見てくれるかもね。それでも、怪しいのが現状のブルブラッドキャリア……。身内の恥みたいでなかなか気が引けるわ」

 

「だが、《ナインライヴス》を送って来たのは正しい。私は、お前に助けられなければ死ぬところだった。ありがとう、桃」

 

 桃がいなければアンヘルの精鋭を前に返り討ちに遭っていた事だろう。感謝の言葉を述べると、桃は瞠目した。

 

「クロ……本当に変わったのね。六年前にはそんな事、言わなかったのに」

 

「戦場を渡り歩いていると、一回の謝辞でも述べておくべきだったと思う事もある。それがたまたま染み付いていただけだ」

 

「……何か、嫌な感じね」

 

《ナインライヴス》が大地を四つ足で強く踏み締める。まだ見ぬ《モリビトシン》への思いに、鉄菜は空を仰いだ。

 

 紺碧の濃霧。靄がかかったように煙る太陽。

 

 地上がどれほど荒廃し切っても、ある種自分達は変わらぬ営みを貫いている。人類の強かさそのものが罪ならば、人はどこに行けばいいのだろう。

 

 どこで終わりにすればいい。

 

 その是非を問うためには力を得るしかない。力の証明がなければ、その問いかけに対して何も応じる口はないからだ。

 

 ――少なくとも自分は選択した。ならば、その答えは戦いの先にこそある。

 

 見据えた地表は青く錆ついている。

 

 待ち行く運命に鉄菜はただただ唾を飲み下すのみであった。

 

 


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