ジンキ・エクステンドSins   作:オンドゥル大使

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♯115 【バアル・ゼブル】

 第一次防衛線に到達した彩芽は《インペルベイン》の推進剤の推力を上げて遥か直上を目指した。

 

 頭上からのアルベリッヒレインで一掃すれば《バーゴイル》など怖くはない。十機編成では時間を食うだろうが、それもすぐに済むだろう。

 

「まだ銃座に手間取っている相手。熟練度は高くないと見た」

 

 デブリから放射される銃撃に相手は困惑を浮かべている。取るのならば今であった。

 

 照準器が《バーゴイル》を狙い澄ます。両手の武器腕を稼動させ、腹腔と肩口の連装ガトリングを稼動させようとした、その時であった。

 

 ふと、黒ばかりの《バーゴイル》の中に白亜の機体を見つける。

 

《バーゴイル》ではない。両腕が異常発達した肥満体の人機である。《バーゴイル》部隊の動きが悪いのは何も銃座に手間取っているだけではない。

 

 重装備のその機体を牽引しているのだ。

 

 何だ、と拡大ウィンドウにその機体の参照データを呼び出そうとして、不意にその機体が頭上を仰いだのを目にした。

 

 心臓が鷲掴みにされたような感覚。冷ややかな汗が伝い落ちる中、ワイヤーを引き千切り、巨躯の人機が推進剤を焚いてこちらへと肉迫してきた。

 

 引き金を絞り、ありったけの弾丸を叩き込む。

 

「アルベリッヒレイン!」

 

 裁きのような銃弾の雨に、その人機はまるでダメージを負った様子がなかった。堅牢な装甲がほとんどの銃弾を弾く。

 

 その一機に集中したせいで他の《バーゴイル》への照準が削がれた。

 

 狙いをつけ直す前に白い人機が《インペルベイン》に突撃を見舞う。激震するコックピットの中、彩芽は敵の操主の声を聞いていた。

 

『モリビト……ここでお前を倒せば、僕は!』

 

「何の因果か知らないけれど、倒されるほどやわじゃないっての!」

 

 蹴りつけた《インペルベイン》が敵の人機から距離を取ろうとする。両手の武器腕を反転させて溶断クローを構築し、敵の人機の背後へと回ろうとした。

 

 連装ガトリングによる牽制射撃が背筋を叩きのめしたかに思われたが、白亜の人機は背面装甲も分厚い重装備に守られている。

 

 装甲の塊、あるいは重装備のみを追及した意味を成さないただのデブリにさえ映る。

 

 彩芽はその機体をつぶさに観察する。両腕の先は顎のようになっており、牙が並び立っていた。

 

 全身に推進剤が埋め込まれており、通常ならば熱暴走を起こす推力を可能にしている。

 

 機体参照データがある一機の人機を呼び出していた。その名前に彩芽は目を見開く。

 

「まさか……あれが、トウジャだって言うの?」

 

 導き出されたのはトウジャタイプの共通識別コードである。しかし、眼前の敵はトウジャにしてはあまりにも巨体である。肥満を思わせるその機体が両腕を開き、寸胴じみたその身体を静止させる。

 

「……驚いたわね。トウジャだって? その機体」

 

『如何にも。《グラトニートウジャ》。カイル・シーザー。モリビトを殲滅する!』

 

 全身からスラスター推力が発生し、《インペルベイン》へと《グラトニートウジャ》が片腕を突き出す。

 

 だがあまりにも緩慢な動きだ。避けるのは難しくない。上に逃げた《インペルベイン》は両腕から銃撃を叩き込む。

 

 それでもほとんどダメージにはなっていないようだ。

 

 装甲の表層のみを叩く銃撃に彩芽は舌打ちする。

 

「実体弾じゃ埒が明かない」

 

 敵が牙のようになっている片腕を突き上げた。内側から引き出されたのは巨大な砲門である。

 

 発射されたのはそれそのものが人機一機分はあるであろう、黄色の光軸である。

 

 R兵装、と判じた《インペルベイン》に回避機動を取らせる。デブリが焼かれ、偽装衛星が爆発の光に抱かれていく。

 

 そんな最中、《バーゴイル》部隊が防衛網を抜けていった。いけない、と《インペルベイン》を走らせようとして、《グラトニートウジャ》が両肩の武装壁を開く。

 

 中からおびただしい数のミサイルが放射され、彩芽は進行先を遮られた形となった。

 

 連射してミサイルを叩き落したその時には、《グラトニートウジャ》がこちらへと接近している。

 

《インペルベイン》の装備では豆鉄砲のようなものだ。彩芽は溶断クローを展開し、《グラトニートウジャ》の腹腔を抉り込もうとする。

 

《グラトニートウジャ》の装甲が焼け爛れるもやはり一撃では血塊炉まで届かない。

 

 敵は片腕を開き、顎のような巨大マニピュレーターで《インペルベイン》の腕をくわえ込んだ。

 

 軋みを上げると同時に噛み付かれた箇所がレッドゾーンに達し、次の瞬間には、《インペルベイン》の片腕が粉砕されていた。

 

 溶断クローの根元から破砕されており、顎が武器腕を噛み締めている。

 

「……迂闊にも近付けない」

 

 接近戦は避けつつ、効率的に敵の動きを割くには方法論は少ない。彩芽は深呼吸し、《グラトニートウジャ》を見据えた。

 

 最早、容赦はしない。完全にここで駆逐する。

 

 そうと決めた彩芽の戦闘本能が封印武装の解除を促す。

 

 リバウンドブーツが稼動し、瞬時に《グラトニートウジャ》の直下へと潜り込んだ。

 

『ファントムか!』

 

「Rトリガーフィールド……照射開始」

 

 色相が反転し、宙域一帯を飲み込んだのはリバウンドフィールドの皮膜である。

 

 動きさえ阻害してしまえば、敵はただ装甲が堅いだけの人機。消耗戦ならば勝てる算段はある。

 

 白亜の人機は周囲を見渡し、自分がリバウンドの空間に放り込まれた事を理解した様子であった。

 

『そうか。前と同じ、リバウンドの自在空間の中』

 

「そう、この中じゃわたくしの《インペルベイン》が一方的に優位!」

 

 跳ね上がった《インペルベイン》がリバウンドフィールドを足場にして立体機動に入った。

 

 如何に防御が強くとも、《インペルベイン》の封印武装を前に生き残れるはずがない。

 

 残った片腕の武器腕が銃撃モードに入り、死角からのゼロ距離射撃を試みようとした、その時である。

 

『なら、これが有効だな。ハイアルファー起動。【バアル・ゼブル】、全てを飲み込め』

 

 トウジャ特有のX字の眼窩が赤く煌いた。刹那、《グラトニートウジャ》の装甲が段階的に開き、内部骨格を浮き上がらせる。

 

 彩芽はリバウンドの空間に歪みを察知した。

 

 本来ならば指定した時間内は絶対の優位を約束するはずのリバウンドフィールドが流動し、一点に向けて吸引されているのだ。

 

 その事実に彩芽はルイへと呼びかける。

 

「何よ、これ……。ルイ、この状況は……?」

 

『分からない。リバウンドフィールドが破壊されるでも、ましてや無効化されるでもない。これは……吸収されている』

 

 吸収。その事実に彩芽はステータスに浮かび上がるリバウンドフィールドの領域が狭まっているのを関知した。

 

 まさか、とその中心軸へと視線を投じる。

 

《グラトニートウジャ》がリバウンドの空間を吸収し、瞬く間にRトリガーフィールドの宙域が掻き消されていく。

 

 二十秒もしないうちにリバウンドフィールドは跡形もなくなっていた。

 

 目を戦慄かせる彩芽に《グラトニートウジャ》が装甲版を収納する。

 

「リバウンドのエネルギー波を、呑んだって言うの……」

 

『その通り。《グラトニートウジャ》のハイアルファー【バアル・ゼブル】は全てのR兵装を吸収し、その根源を無効化する。そして、吸い取ったR兵装はそのまま、《グラトニートウジャ》の武器となる。展開、リバウンドフィールド』

 

《グラトニートウジャ》を中心として周囲一帯に構築されたのは自分が先ほど展開したのと同じ、リバウンドの空間であった。

 

 違うのは自らの味方であったリバウンドの皮膜が完全に敵のものになっている事だ。

 

 出る事は叶わず、まして利用する事など出来るはずもない。

 

《グラトニートウジャ》が直上に向けて砲門を突き上げ、一射する。リバウンドの皮膜がその射線を偏向させた。

 

 位相を変えた《グラトニートウジャ》の砲撃が《インペルベイン》を狙いつける。まさか、と砲撃を回避しつつ、彩芽は震撼する。

 

「同じ、だって言うの……。《インペルベイン》のRトリガーフィールドと」

 

『ハイアルファー【バアル・ゼブル】は敵のR兵装の能力を瞬時に解析し、模倣し、発生させる。貴様はもう逃げ帰る事も、ましてやこの《グラトニートウジャ》を前に応戦する事も出来やしない。ここで潰えろ。モリビト』

 

《グラトニートウジャ》が全身の推進剤を焚いて《インペルベイン》へと肉迫する。彩芽は直上へと逃れようとしたが、あまりに利用出来る空間が狭い。

 

 リバウンドブーツで足場にしようとして、ブーツ裏面がイエローの注意勧告に染まった。

 

 このリバウンドフィールドは敵のものなのだ。こちらの優位には働かない。

 

 当然の事ながら足場になど出来るはずもない。

 

《グラトニートウジャ》が砲門を照準する。彩芽は舌打ち混じりにその砲撃から逃れようとするが、リバウンドフィールドを伝い、R兵装はどこまでも追ってくる。

 

 逃げ場などない。

 

 自分は籠の中に囚われたも同じなのだ。砲撃の威力が消えるまで推進剤を焚こうとしても、それはすぐに限界が生じる。

 

 黄色の光軸が背面から狙いをつけ、《インペルベイン》に襲い掛かった。紙一重で回避するも、R兵装は消えずにリバウンドフィールドの中へとまたしても潜り込む。

 

 無限だ。

 

 この空間に囚われている限り、敵の攻撃は無限に自分を追い詰める。

 

 額に汗が浮かぶ。焦燥に息が詰まりそうだった。《グラトニートウジャ》は積極的にこちらを狙うべく精密な砲撃などする必要はない。

 

 リバウンドフィールドが消えるまでの三分間。自由自在に自分を追い込む事が出来る。

 

『さて、懺悔の時だ。モリビト、それにブルブラッドキャリア。ここで潰える運命を知れ』

 

《グラトニートウジャ》の砲口が《インペルベイン》を狙う。彩芽は震え出した手を押し留めた。

 

 ――怯えている?

 

 今まで数多の敵を葬ってきた自分が。

 

《グラトニートウジャ》の放った砲撃がリバウンドの宙域を伝い、再び自分へと降り注ごうとする。

 

 加えて《グラトニートウジャ》本体の砲撃。

 

 打つ手がない。この状態から勝利する手段がまるで思い浮かばなかった。これまでいくつもの死線を越えてきたはずの戦闘神経が、この局面で応答しない。

 

 無駄だと告げている。

 

 どう策を弄しても、目の前の人機一体に勝利する手立てがない。恐怖が這い登り、彩芽はコックピットの中で吼えた。《インペルベイン》が《グラトニートウジャ》へと直進する。

 

 瞬間、黄色の光軸が放たれた。視界いっぱいにR兵装の光が染み渡る。

 

『マスター! 避けて!』

 

 ルイの声が弾け、彩芽は反射的にフットペダルを踏み込んで機体を逸らしていた。

 

《インペルベイン》の全身の駆動部へと敵のR兵装が突き刺さる。激震に彩芽は激しくコンソールへと額を打ち付けた。

 

 頭蓋が割れたのではないかと思えるほどの痛みが鋭く走り、彩芽は朦朧とする視野の中、《インペルベイン》がまだ稼動している事に驚く。

 

 だが、半身がレッドゾーンであった。

 

 ――身体半分、持っていかれたか。

 

 頭を打ったせいか、先ほどまでより冷静な思考回路が戦局を分析している。

 

『彩芽……大丈夫……?』

 

「ゴメン、ルイ。冷静じゃなかったわ。……もう大丈夫、とは言っても、遅いけれどね」

 

《グラトニートウジャ》の構築するリバウンドフィールド皮膜の構成時間は不明だが、自分の《インペルベイン》よりも長いという冗談はあるまい。

 

 持って三分弱。その間に出来るだけ消耗戦に持ち込み、この人機を本丸に近づかせないようにする。

 

 今の自分に、本当の意味で出来る事はそれくらいだ。

 

 彩芽は操縦桿を握り直す。今度は怖気もない。滴った鮮血に彩芽は目元を拭った。額を切ったらしい。派手に流れる血を他所に、敵人機の弱点を探ろうとする。

 

《グラトニートウジャ》は見た限りでは重装甲。弱点の存在しない堅牢な人機に思えるがそのようなわけがない。

 

 どのような人機であれヒトが造ったのならば弱点は存在する。

 

 彩芽は仔細に観察の目を注いだ。すると《グラトニートウジャ》が常に排熱を行っている事に気づく。

 

「……ルイ、敵人機の排熱量測定」

 

『何でそんな事……、今は逃げたほうが』

 

「いいえ。リバウンドフィールドはまだ持っている。あと二分半ほどは絶対にこのリングから逃れられないでしょう。でもその代わり、この人機を限りなく無力化まで追い込む事は出来るわ」

 

『追い込むって……分かっているの? 《インペルベイン》の半身が持っていかれているんだよ?』

 

「……分かっているからこそ、冷静にならなきゃならないんでしょうが」

 

 説得は無駄だと判断したのか、ルイは排熱を測定し始める。

 

 途端、その目が見開かれた。

 

『何、この数値……信じられない。乗っているだけでも奇跡よ。《グラトニートウジャ》の内部温度は、百度近くある。コックピットの中なんて灼熱地獄のはず……!』

 

 やはりか、と彩芽は確信する。《グラトニートウジャ》を攻略する手が見えた。

 

 倒す事は出来ない。だがここで勝ち負けを決せず、互いに痛み分けに持ち込むまでの試算は出来上がった。

 

「《グラトニートウジャ》は先ほどから高出力R兵装ばかり使っている。その理由は、内部の温度を逃がすため。あれは熱暴走を起こしているのよ。常に、ね。だから、高出力R兵装を撃たなければならない。出来るだけ、相手に圧力を感じさせつつ」

 

《グラトニートウジャ》が全身の推進剤を焚かせてこちらへと肉迫する。彩芽は《インペルベイン》の推力を確かめた。推進剤はまだ持つが、肝心の機体推力は五割を切っている。

 

 平時のような高機動をもって敵を翻弄するのは不可能だろう。

 

 だが逃げに徹するだけの推進剤は残っていた。彩芽は《グラトニートウジャ》の追撃から《インペルベイン》を逃がそうとする。

 

 その追いかけっこで分かった事がもう一つ。

 

「相手は鈍重、重力下では恐らく一歩も動けないほどの。だから全身に推進剤なんて付けている。装甲板が堅いから実体弾はほとんど通用しない。R兵装やエネルギー攻撃は吸収される。でも、これならどう?」

 

 身を翻して急旋回した《インペルベイン》が溶断クローを叩き込む。先ほどと同じならば、その装甲を前に無力だと思われたが、爪が狙い澄ましたのは人機の中で最も弱い部位であった。

 

 頭部を抉り込もうとした爪に《グラトニートウジャ》が急制動をかけ、その腕で受け止める。

 

 やはり、と彩芽は後退した。

 

「どれだけ堅牢に造り、どれほどまでに重装甲を極めたところで、人が入る場所はそれなりに通気性がよくないといけない。……宇宙空間で通気性なんてナンセンスかもしれないけれど、少なくとも他の部位よりかは涼しいんでしょう? その頭」

 

『……お喋りな操主だ』

 

「そちらこそ、随分とだみ声になっているわよ? うろたえているの?」

 

 その指摘に敵操主がハッと声を繰り返す。

 

『これは……僕の声が……?』

 

 自分でも心底不思議なように問い返す。今はしかし、一つの隙も命取りであった。

 

 距離を詰めてリバウンドブーツで蹴りつける。衝撃に《グラトニートウジャ》がよろめいた。即座に銃撃をコックピットに向けて見舞う。

 

 巨大な両腕が銃撃網を弾くも、明らかに気圧されているのが伝わった。

 

 彩芽はタイマーを見やる。あと一分弱。耐え切るのではない。出来るだけ敵の優位を削いでから、この戦場を離脱してもらう。

 

 彩芽は今にも分解しそうな《インペルベイン》に加速をかけさせた。半壊部位のレッドゾーンが広がり、《インペルベイン》が過負荷を訴えかける。

 

『死んじゃうよ! マスター!』

 

「……わたくしが簡単に死ぬわけないでしょう。何よりも! 簡単な死が待っているはずがないのよ! 何人も踏み越えてきたんだから!」

 

 リバウンドブーツによる渾身の飛び蹴りが《グラトニートウジャ》の装甲を歪ませる。やはりR兵装は有効。それを足がかりにして彩芽は銃口を《グラトニートウジャ》の装甲の継ぎ目に沿わせた。

 

 推進剤が見え隠れする部位は弱点同然。実体弾が内側から貫き、内部で跳ねる。あまりに堅いその鎧が仇となった。

 

 内側に潜り込んだ弾丸が逃げ場をなくして幾重もの傷痕を広げている。《グラトニートウジャ》の関節部から炎が迸った。

 

 その機体、限界が生じているのがありありと伝わる。彩芽は静かな心地で操縦桿を引く。

 

 最早、心に乱れはない。照準したのは《グラトニートウジャ》の頭部、X字の眼窩であった。

 

 引き金を絞る際、彩芽はフッと笑みを浮かべた。

 

「悪いわね。わたくしのほうが場数は上で」

 

 銃撃が連鎖し《グラトニートウジャ》のアイカメラを貫いた。瞬時に膨らんだのはエアバックだろう。

 

 頭部コックピットから気密が漏れて操主が死んだのでは話にならないからだ。即席の安全装置が働く中、周囲のリバウンドフィールドが透けていく。

 

「どうやら……この勝負は持ち越しみたいね」

 

 今の武装で《グラトニートウジャ》を追い詰める事は出来ない。何度もコックピットを狙わせてくれるほど相手も間抜けではないだろう。それに、と彩芽は接近しつつある《バーゴイル》の機影をレーザーに捉えていた。

 

「今は、こっちのほうが満身創痍って感じだし。撤退させてもらうわ」

 

『逃げるのかァッ! モリビト!』

 

 そのあまりの声質の変化に彩芽は振り向いていた。

 

「……この数分間で何が起こったのか知らないけれど、貴方、自分でも思った以上に大切なものを切り売りしたみたいね。ハイアルファー、それは諸刃の剣、か」

 

 身を翻した《インペルベイン》が最後の残滓を振り絞り、推進剤を焚かせる。

 

 対人機戦はもう不可能。本隊に合流して回収してもらうしかない。

 

「ザマないわね。息せき切って痛み分けってのも」

 

『彩芽はギリギリまで戦った。それは絶対に担当官に認めさせてやる』

 

「いいって。どうせこの《インペルベイン》の状態じゃ、他の戦場に割り込むのも無理でしょうし。……それにしたところであの《グラトニートウジャ》、危うい綱渡りだったわね」

 

『まさかRトリガーフィールドを打ち破る人機が存在するなんて』

 

 今はまだ使いこなせていないようだが、あの人機が常に出てくると想定すれば容易く一号機の封印武装は使えないだろう。

 

 アルベリッヒレインとRトリガーフィールド。両方を潰しかねない脅威に彩芽は改めて戦慄いた。

 

「油断ならないわ。鉄菜達に知らせないと」

 

 ゾル国も強くなっている。このままでは呑まれかねない。

 

 しかし急く気持ちとは裏腹に《インペルベイン》は静かに本隊へと戻っていくしかなかった。

 

 


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