今日も彼女は縁側で叫ぶのだ。
「巫女飽きた!!」
「……ま、魔法使いになるか?」
「なる!!」
とある春の日。
博麗神社の縁側、味の薄いお茶を飲みながら博麗霊夢と友人の霧雨魔理沙は会話をしていた。
突然変な事を言い始めた霊夢に、魔理沙は若干呆れつつ尋ねる。
「本当に良いのか?巫女の仕事サボってたらダメだぞ?」
「何よ、人の家に来るだけ来て何もしないのに。良いのよ、どこぞの仙人も最近は来ないしね。さ、魔法使いにはどうやってなるの?」
「30過ぎまで……いかんいかん、人里の変な本に影響されちまったぜ。方法はだな」
しかし魔理沙という人間は基本的に面倒見が良く、優しい。
霊夢に懇切丁寧に解説をした魔理沙は自身の道具を幾つか貸して、魔法の基礎を教え込む。普段はやる気を見せない霊夢だが、この時ばかりは集中して話を聞いていた。
博麗の巫女。彼女はこの任を負うだけの実力が備わっている。
……魔理沙は一回も博麗の巫女に勝てていない。霊夢は天才で、何をせずとも上手く出来たのだ。
しかし、魔法使いは霧雨魔理沙の専売特許。パチュリーやアリス等はパワーじゃねえ、なら私が最強だぜと言うのは些か暴論ではあるが。
さて、博麗神社の境内では良く二人が戦っている。その光景は日常だ。
魔法を教えた魔理沙と、紅白の魔女服(魔理沙のお手製)を着た霊夢は向き合い、お互いに武器を構えた。
お決まりの八卦炉vsその辺で拾った木の棒。
「さて、行くぜ。魔法使いの意地を見せてやるよ」
「ふふん、私に勝てるかしらね?」
二人の視線が交錯し、火花を散らす。どちらからともなく魔法を起動。魔力が、境内を埋め尽くす。
吹き荒れるエネルギーの風が二人の頬を撫でる。戦闘の独特な緊張感が殺気を滾らせ、魔理沙は箒に飛び乗り飛翔。天高くから、八卦炉を霊夢に構えた。
「小手調べだ!!」
威勢よく叫び、スペルカードは使わずに魔力を放射。
放たれた魔力を霊夢は睨み、木の棒を向けた。キイイン……と魔力が集中し、それはまるでレーザーの構え。
パワーの魔理沙に比べて、霊夢はどちらかというと技を主軸に置く。無論、夢想封印や夢想天生等の全てを網羅する技があるが。
(やばい……あれは、私の魔力砲の隙をつく、鋭いレーザー!)
焦る魔理沙。
(撃たれる。いや、迎え撃て!!)
そして、八卦炉を再度構えなおす。霊夢も準備が終わったらしく、木の棒から魔力が射出された。
――――そして、発射10cmの所で魔力が消失。
「「はっ?」」
二人の声がシンクロする。
直後、魔理沙の撃った魔力が無慈悲に霊夢を叩いた。それはもう見事に、霊夢は吹き飛んだ。
☆★☆
「……えっと、スペルカード、測定[スカウター]によると……霊夢の魔力は5。ゴミだぜ」
「何でよー!」
縁側。
泥まみれの体を洗ってきた霊夢と魔理沙は、会話していた。
「つまりはあれだ、お前の魔力は常人レベル。上限は999だからな。魔法使いは諦めろ」
「……ふん!そんな事言う魔理沙はどうなのよ!」
「999だが?」
「……巫女で良いわ私……巫女サイコー!でもおっぱい大きい早苗は萎めー!」
(うん、やっぱ霊夢は巫女が良いぜ)
魔理沙は密かに思う。
パチュリーやアリスは魔力が999だが、それは[スカウター]の上限が999なだけであって彼女たちはその数値を遥かに超えているだろう。
そう、[スカウター]の上限突破には、少なくとも999の十倍は欲しい。それでやっと、1000に届くだろう。
(しっかしまあ……こいつ、凄まじいわ)
魔理沙は密かに思う。
(どうしてこいつ、霊力が[10000000000000]もあるんだよ………おい……)
少し泣きかける魔理沙であった。
今日もまた、幻想郷は平和である。