響け!オーボエカップル   作:てこの原理こそ最強

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第9話

 オーディションが終わった。オーディションである以上上級生が落ちて下級生が残るなんてことはよくある話だ。だからと言って全員がその結果に満足しているかというとそんなことはない。妬み、恨み、こういう感情は少なからず出るものだ。だが今のこの吹部なら妬みによる嫌がらせのような頭の悪い行動をする者はいないだろ

 

 ー音楽室ー

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

「3分25秒です」

 

 時間を計ってくれている1年生が演奏が終わった瞬間そう告げる

 

 オーディションが終わり大会に出るメンバーが決まったことでいよいよ本番に向けた練習が始まった。オレらが出場するA部門では課題曲と自由曲を合わせて12分の間に終わらせなければならない。今は課題曲の方の時間を計っていた

 

「課題曲は今のペースがいいでしょう。コンクールの演奏時間は12分。もちろんその時間をオーバーしてはいけませんが焦って曲を台無しにしてしまうのはもっといけません。今のペースを忘れずに行きましょう。十分時間内に収まります」

 

『はい!』

 

「では本日はこれまでにします」

 

『ありがとうございました!』

 

 今日の練習も終わったなぁ。そして恒例、各パートもしくは個人での質問タイム…と思いきや

 

「あの先生、リストに書いてある毛布って…」

 

「毛布です」

 

 毛布?

 

「皆さん、家にある使ってない毛布を貸して欲しいんです」

 

『はい』

 

 こんな夏に我慢大会でもやるのかな…ないな

 

「うち毛布ちょー余ってます。でも毛布で何するんですか?」

 

 全く見当のついていない加藤さんが長瀬に聞いている

 

「それは当日のお楽しみかな」

 

「えーなんです?」

 

 まぁ音楽で毛布使うっていったらあれだろ

 

「みぞれは毛布持って来られるか?手伝おうか?」

 

「…じゃあお願いしようかな」

 

「わかった。明日お前ん家行くよ」

 

「…わかった」

 

 オレとみぞれがそんな話をしていると…

 

「…高坂ってラッパの?」

 

「はい、らら聞いちゃいました」

 

 ん?麗奈?

 なんか麗奈の名前を耳にした

 

 

 

 

 

 

 ー翌日ー

 

 オレはいつもの朝練に出ている時間よりも早く家を出た。一旦みぞれの家に寄るからだ

 みぞれの家に着くともうみぞれは家の外に出ている

 

「わりー、待たしたか?」

 

「ううん大丈夫」

 

「それか?」

 

「うん」

 

 そこには大きな毛布が2枚重なって置いてある。オレはそれを丸め両脇に抱えようとすると…

 

「ハル、これ」

 

「ん?おぉサンキュー!」

 

 みぞれがおにぎりをくれた

 

「作ってくれたのか?」

 

「…うん。今日のお礼に」

 

「そんな気にしなくてもいいのに。でもありがとな」

 

「…うん」

 

 オレはみぞれ特性おにぎりを食べて毛布を抱えみぞれと一緒に登校した

 

 

 

 

 

 

 ー音楽室ー

 

 みんなが持ち寄った毛布はどんどん音楽室の床に敷き詰められていった

 

「余ったものは壁に貼り付けてください」

 

 昇さんの指示がとぶ

 

「なんだ、みんなで泊まり込むわけじゃないんだ」

 

「したければしてもらっても構いませんよ?私は帰りますけどね」

 

 腕を組んで生徒がいうことに軽いジョークで答える昇さん

 

「先生終わりました」

 

「はい、ご苦労様です」

 

 やっぱりこれは…

 

「これでこの教室の音は毛布に吸収され響かなくなります。響かせるにはより大きな音を正確に吹くことが要求されます。実際の会場はこの音楽室の何十倍も大きい。会場いっぱいに響かせるために普段から意識しなくてはいけません」

 

『はい!』

 

「では皆さん、練習を始めましょう」

 

『はい!』

 

 やっぱりそういうことね

 

 そしてみんなが練習を始めようと椅子やらの準備を始めようとすると…

 

「先生!1つ質問があるんですけどいいですか?」

 

「なんでしょう?」

 

 リボン?

 

「…滝先生は以前から高坂 麗奈さんと知り合いだったっていうのは本当ですか?」

 

 は?

 

「…それを尋ねてどうするんですか?」

 

「優子ちゃんちょっと…」

 

「噂になってるんです!」

 

 中世古先輩が声をかけるも話を続けるリボン

 

「オーディションのとき、先生が贔屓したんじゃないかって!答えてください先生!」

 

「贔屓したことや誰かに特別な計らいをしたことは一切ありません。全員公平に審査しました」

 

「高坂さんと知り合いだったっていうのは…?」

 

 昇さんは一瞬困った表情になり答える

 

「事実です」

 

 その返答にまわりはざわめく

 

「父親同士が知り合いだったっていうのもあり、中学時代から彼女のことを知っています」

 

「なぜ黙ってたんですか?」

 

「言う必要を感じませんでした。それによって指導が変わることはありません」

 

 麗奈の方を見てみると窓の方を向きながら肩を震わせている

 

「だったら!」

 

「だったら何だって言うの!?」

 

 限界がきたのか、麗奈が振り向きリボンに発言する

 

「先生の侮辱をするのはやめてください。なぜ私が選ばれたかわかるでしょう?香織先輩より私の方が上手いからです!」

 

「っ!!あんたね!自惚れるのもいい加減にしなさいよ!!」

 

 …これ以上はマズいな

 

「優子ちゃんやめて…」

 

「香織先輩があんたにどれだけ気使ってたと思ってるのよ!!それを!」

 

「いい加減にしろ」

 

 おもむろにオレは声を発する

 

「お前らそこまでだ。麗奈も落ち着け」

 

「…はい」

 

「でも!」

 

「2人の言い分はわかった。まず麗奈は先生をバカにされて怒るのもわかるが先輩にあの言い草はダメだ」

 

「…はい」

 

「少し頭冷やしてこい」

 

「…失礼します」

 

 オレがそう言うと音楽室を出て行く

 

「黄前さん」

 

「は、はい!」

 

「麗奈についていてやってくれ。オレが見る限り一緒にいるのが多いのは君だ」

 

「わ、わかりました!」

 

 そう言って黄前さんも音楽室を出て行く

 

「さて優子、確かに中世古先輩は3年生で最後だ。だがそれも含めてのオーディションだ」

 

「…でも!」

 

「じゃあ聞くが、先生と知り合いだった麗奈が贔屓と見るならオレはどうなんだ?」

 

「っ!それは…」

 

「オレも先生とは以前からの知り合いだ。オレも贔屓されたと見るのはお前の勝手だがな、オレは練習を怠ったとは思ってない」

 

「…」

 

「それに言い方は悪いがお前が中世古先輩を押すのも贔屓じゃないのか?」

 

「っ!!」

 

 オレの言葉に優子は目を見開く

 

「春希くんそれは…」

 

「わかってますよ先輩、こいつにそんな気ないってことは。でもオレからはそう見える」

 

「…」

 

 優子は次第に涙を流す

 

「先輩を思うお前の気持ちもわかるがもう少し考えてくれ」

 

 こうしてその日は重い空気の中練習が続いた

 

 

 

 

 

 

 ー帰り道ー

 

「…」

 

「ごめんなみぞれ」

 

「…なんで謝るの?」

 

「だって怒ってるし」

 

「…怒ってない」

 

「なら、抓るの止めてもらえない…かな?」

 

「…」

 

 みぞれは1度こちらを向き、抓る強さが増す

 

「いてててててて!!マジでごめんて!」

 

「…そく」

 

「ん?」

 

「約束。もう1人で無理しないで」

 

「わ、わかったよ」

 

「…」

 

「いたたたたた!なんで!?」

 

 その日はずっとみぞれの機嫌は治らなかった

 

 




そして、次の曲が始まる

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