響け!オーボエカップル   作:てこの原理こそ最強

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第6話

 ー翌日の放課後ー

 

 今日も全体練習は続いていた。合奏しては昇さんが止め指摘。これを何回も何回も繰り返す

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

 パンパン

 

「今のところサックスだけでもう一度。オーボエソロ前まで」

 

『はい』

 

 昇さんの指示によるサックスだけの演奏にみんなが耳を傾ける

 

「1、2、3…」

 

 ♪〜

 

 パンパン

 少し演奏したところでまた止められる

 

「粒が荒いです。もっと滑らかに音を繋げられませんか?そして穏やかにオーボエを迎え入れてください」

 

『はい』

 

 さすが昇さん。オレもそこは気になってた

 

「テナーサックス出だしがブレてます。1人ずつ、斎藤さん…」

 

「はい」

 

 3年生でテナーサックスの斎藤 葵(さいとう あおい)先輩。あまり話したことないが大人しいイメージの人だ。この頃元気がないように思えたが大丈夫かな…

 

 ♪〜

 

「もう一度」

 

「…」

 

「どうしました?」

 

 昇さんからの指示に反応しない先輩

 

「わかりました。斎藤 葵さん」

 

「はい」

 

「今のところいつまでにできるようになりますか?」

 

「…」

 

 また沈黙

 

「残念ながらコンクールは待ってはくれません。いつまでにと目標を決めて課題をクリアして行く。そうやってレベルを高めていかないといい演奏はできません。わかりますか?」

 

「はい…」

 

「ここは美しいハーモニーで戦慄を出さなければいけません。今テナーサックスのあなただけがこぼしています。受験勉強が忙しいのはわかります…が同時にあなたはコンクールを控えた吹奏楽部員でもあります」

 

「…」

 

「もう一度聞きます。いつまでにできるようになりますか?」

 

「…」

 

 みんなが心配そうな視線を送る中、先輩は言い出す

 

「先生」

 

「何ですか?」

 

「…私、部活辞めます」

 

 全員に衝撃が走る。音楽室内がざわめく

 

「…理由はありますか?」

 

「今のまま部活を続けたら志望校には行けないと思うからです。前から考えてはいたんですが…これからもっと練習が長くなることを考えると続けるのは無理です」

 

 なるほどね

 

「そうですか…わかりました…後で職員室に来てください」

 

「はい」

 

 先輩は立ち上がる

 

「斎藤先輩、辞めないでください!」

 

「葵、待ちなよ!」

 

 同級生や後輩の声にも答えずに自分の荷物を持ち音楽室を出て行った

 

 ガタン

 

「ん?」(黄前さん?)

 

 1年生でユーフォニアムの黄前 久美子(おおまえ くみこ)さんが後を追って教室から出て行った。その後に部長も続いた

 まぁ3年生だし受験勉強なら仕方ないよ。でもここまで来て止める人が出るって、やっぱ悔しいよな…

 

「ん?みぞれ?」

 

 オレが心で悔やんでいるとみぞれがオレの肩に寄っかかってきた

 

「…」

 

「…」

 

 言葉はなかったがみぞれもオレと同じ気持ちだとすぐわかり頭に手をやる

 

 その後全体練習は途中で終わりパート練に入った。その時間に会話はほとんどなく重い雰囲気となっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー翌日ー

 

 昨日のこともありみんなの中に笑顔の者はいなかったそれに部長が欠席していた

 

 ♪〜

 

 最初のチューニングでもいつもより音が張っていないのがわかった

 

「はい、ユーフォ今吹いてた?」

 

「はい」

 

「あ!すいません…」

 

 今日は副部長が前に立っているからユーフォは2人になっている

 

 今のチューニング中、2年生でユーフォニアムの中川 夏紀(なかがわ なつき)はちゃんと吹いていたが黄前さんはぼーっとしていたため吹いていなかったようだ

 

「なんで?チューニングは必要ないの?」

 

「いえ」

 

「じゃあちゃんと吹いて」

 

「はい…」

 

 無理もねぇ…昨日のことを考えると黄前さんは以前から斎藤先輩と面識あったっぽいし

 

 そして昇さんがきて全体練習が始まった

 

 

 

 

 

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

 パンパン

 

「204章節目から低音パートだけでもう一度」

 

『はい』

 

「3…」

 

 ♪〜

 

 ありゃ、ちょっとズレたな

 

 パンパン

 

「黄前さん」

 

「あっ」

 

「何かもたついてませんか?さっきからずっと音を取りこぼしています。ちゃんと集中してください」

 

「はい…」

 

「では今日はこれまでにします」

 

『ありがとうございました!』

 

 どうしたもんかね…ここはいっちょ先輩風吹かしますか!

 

「みぞれ」

 

「なに?」

 

「悪いんだけど今日先帰ってて」

 

「…どうして?」

 

「うーん、後輩のアフターケア?」

 

「...わかった」

 

「ごめんな」

 

「…プリン」

 

「へ?」

 

「ハルの作ったプリン食べたい」

 

「お、おう。明日持ってくるよ」

 

「約束」

 

「約束だ!」

 

 みぞれはオレが作るものなら何でも食べてくれるが、中でもスイーツ系はめっちゃ喜んでくれる

 

 

 

 オレは黄前さん達が入って行った教室のドアを叩いて呼びかける

 

 コンコン

「黄前さん、ちょっといいかな?」

 

「あ、春希先輩」

 

「お疲れ様です」

 

「どうもです」

 

 黄前さんと一緒にいる1年生で初心者で入って今はチューバの加藤 葉月(かとう はづき)さんと同じく1年生で吹部で唯一のコントラバスの川島 緑輝(かわしま サファイア)さんもあいさつしてきた。緑輝って名前には最初驚いたなぁ

 ついでに1年の中に1人堺って名字の子がいたからオレは後輩の春希先輩で通っている

 

「お疲れさん」

 

「何か用ですか!」

 

「黄前さんにね」

 

「私に?」

 

「斎藤先輩のことだろ?」

 

「っ!」

 

 ビンゴ!まぁみんなわかってると思うけどね

 

「あんま気にすることないぞ?受験勉強なら仕方ないし」

 

「はぁ…」

 

「やっぱり気になっててたんですか?」

 

「幼馴染だもんね」

 

「…」

 

 それでも黄前さんは俯いてしまう

 

「あれ?春希?」

 

「堺くん?」

 

「ん?おぉ、夏紀と長瀬」

 

 オレに声をかけながら入ってきたのは中川 夏紀とオレらと同じく2年生でチューバの長瀬 梨子(ながせ りこ)

 

「こんなところにどうしたの?珍しいね」

 

「後輩のアフターケア」

 

「あんたが?」

 

「おう!いい先輩だろ?」

 

「はいはい」

 

「あの!先輩!」

 

 オレらがバカな会話をしていると黄前さんが話しかけてきた

 

「…去年、何かあったんですか?」

 

「あー」

 

 オレらは楽器を片付けるため用具室に向かう。長瀬は帰ったが

 

「まだ話してなかったのか?」

 

「まぁね」

 

「2年生が少ないことは気づいてました。結構な人数が辞めてしまったことも…」

 

「先輩方はどうして部に残ったんですか?」

 

「オレはみぞれがいたからだ」

 

「あたしはやる気がなかったからかな…でも、そのときはそれがいいと思ってたんだよ」

 

「思ってたんですか?」

 

 夏紀の言葉に驚く川島さん

 

「吹奏楽ってサッカーみたいに点数で勝ち負けがはっきり決まらないじゃん?コンクールも決めるのはあくまでも審査委員だし」

 

「はぁ…」

 

「そんなはっきりしない評価で振り回されるのって、本来の音楽とは違うんじゃないってやる気のない先輩達が言っててさ。あたしもそう思ってたわけ」

 

「でもそれはキツい練習したくない先輩の言い訳だったんだよ」

 

 オレの言葉に夏紀は一旦俯く

 

「そうなんですか」

 

「今の2年の中に真面目に練習するやつもいてさ。オレも含めてな。そいつらが先輩に練習しようって言いに行ったときがあるんだ」

 

「…そのときね、無視したんだよ。まるでその子達がいないみたいに振舞って。いなくなるまでずっと続けて…」

 

「っ!!」

 

「ひどい!ひどすぎます!」

 

 3人はそんな先輩いるのかみたいな顔でビックリしている

 

「でもそれに意見できる人はいなかったんだよ。ここにいる春希を除いてはね…」

 

「春希先輩は…」

 

「だがオレも全部のパートを見れたわけじゃねぇんだ」

 

「それでも先輩達の中でも香織先輩や葵先輩は頑張ってた。無視には加担しないでそれぜれの話を聞いて間を取り持とうとして…」

 

「でも、辞めてしまったんですね…」

 

 3人は一気に暗い表情となった

 

「うん。晴香先輩も葵先輩も香織先輩も多分思ってるよ。あの子達辞めるの止められていたら今頃…って」

 

 そうだろうな…

 

「思っていないのはあすか先輩ぐらいじゃない?」

 

「あすか先輩が?」

 

「あぁ、あの人どっちにも加担してなかったな」

 

「うん。どこまでも中立。今と全く変わらず…」

 

 どんよりムードは続く

 

「まぁそれぐらい去年と今年の空気は違うってこと!」

 

「あれだけやる気のなかったお前が少しやる気を出してるしな」

 

「うっさい!」

 

 ドガッ!

 いたっ!!蹴られた

 

「まぁなんだ。困ったことや相談があったらいつでもオレのところに来たまえ!」

 

「え、あ、はい…」

 

 さて、後は部長か…

 

 




そして、次の曲が始まる

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