響け!オーボエカップル   作:てこの原理こそ最強

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お久しぶりでございます。

続きがまだなんですけど先にアンサンブルコンテストを書いてしまったのでよろしくお願いします。


アンサンブルコンテスト 1

 

 

〜side 久美子〜

 

こんにちは。黄前久美子です。優子先輩達3年生が引退されて新部長を任されてしまいました

 

正直、とても不安です。でも任された以上は一生懸命頑張ります!

 

〜side 久美子〜 終了

 

「久美子〜」

 

「あれ?葉月ちゃんどうしたの?」

 

「どうしたのって。もう始まるよ〜」

 

「え...えっ!?もうこんな時間!?」

 

部活のミーティング前に心を落ち着かせる意味も含めて少し楽器を吹いていた久美子は葉月に呼ばれてもうミーティングの時間が迫ってることにようやく気がつき急いで荷物を持って教室を飛び出した

 

「なにしてたの?」

 

「ちょっと吹いてた」

 

「しっかりしてよ。()()()

 

「すみません...」

 

音楽室前で待っていた麗奈に小言を言われすぐさま謝る久美子。教室にはすでに部員全員が集まっていた

 

「はいちゅーもく」

 

前に出た久美子が呼びかけると話し声がぴたりと止み全員が正面を向いて久美子に注目する

 

「えー...」

 

部員全員の視線が一気に久美子に集まる。新部長になったとは言えまだこの状況に慣れなていない久美子は次の言葉が出るまで少し詰まってしまう

 

「久美子?」

 

「あ、うん。では部内ミーティングを始めます」

 

麗奈に声をかけられようやく次に始めることができた久美子は前部員を見渡す

 

「まずは前に配ったプリントを見てください。今日の議題は“アンコン”についてです」

 

アンコン。正式名称<アンサンブルコンテスト>。全国吹奏楽コンクールと同様各都道府県から代表の座を競い合う競技会である

 

「文化祭も終わったので今日はこのアンコンについて話しになります。じゃあまずはドラムメジャーから」

 

久美子はドラムメジャーを継いだ麗奈とアインタクトを取りそれを受け取った麗奈が久美子の隣に歩み寄って全員に向かって説明を始める

 

「今回私達が参加するアンサンブルコンテストは吹奏楽コンクールと同じく中学、高校、大学、一般の部があります。府大会から全国へと勝ち進むシステムも一緒です」

 

麗奈の説明に合わせて副部長の任を任された秀一が黒板に書き出す

 

「ただ、明確に違う点は"少人数制"というところにあります。人数は3〜8人、そして五分以内の演奏と決まっています。そして開催は12月末となります。さらに出場できるのは1校につき一編成までです」

 

アンコンの説明を終えた麗奈は1歩下がり久美子と交代した

 

「通常は各学校推薦された人達が代表となり出場しますが、滝先生と相談したところ全員が関わった方がいい、という話になりました」

 

「全員が関わる?」

 

「それってどういうことですか?」

 

久美子の説明に疑問の声が上がる

 

「各自規定に沿って部内で編成を自由に組んでもらい12月初旬に演奏会兼オーディションを行います!そして!」

 

上がった疑問に答えた久美子は力強く黒板を叩いた

 

「府大会に出場する代表を決めることとします!」

 

『えー!!!』

 

音楽室に驚きの声が上がった

 

「パクリかよ...」

 

久美子の振る舞いにボソッとこぼす秀一。まだ部の代表として慣れない久美子は先代部長を真似てみたもののやはりしっくりこない

 

 

 

「あ〜から回った〜」

 

「形から入ろうとするからでしょ」

 

「う〜ん、ていうか緊張した」

 

「まだミーティングの度に緊張してんのかよ」

 

「ん〜話してる間は普通なんだけどね。でも終わった途端どっと疲れが...」

 

ミーディングを終え部長、副部長、ドラムメジャーの3人は職員室へ向かっていた

 

「ま、慣れるしかないな」

 

「なんか偉そう」

 

「ホント。副部長に言われなくてもわかってるし」

 

「へいへい」

 

慰めたつもりが返って責められる形になってしまった秀一だったがいつものことだと軽く受け流す

 

「でもアンコン、結構タイトだよな」

 

「そうなんだよね〜」

 

「で?久美子は誰かと組む予定?」

 

「いやまだ全然。でも私は多分あぶれた子のフォローに入る感じかな〜」

 

「...。そう」

 

「麗奈は?」

 

「特には」

 

「そっか」

 

いつにも増してそっけない麗奈に久美子は慣れっこなのかうまく合わせている

 

「ただ」

 

「ん?」

 

「なあなあで済ますような子はいや」

 

「おー、さすが」

 

「らしいな」

 

いつもながら麗奈の演奏に対する本気度が久美子と秀一はひしひしと感じた

 

「でも先輩達参加しないのはラッキーだったよな」

 

「どういう意味?」

 

「いやだってよ。こんなん絶対春樹先輩と鎧塚先輩の圧勝だろ」

 

「あー」

 

「...」

 

秀一の発言にすぐ納得してしまう久美子と特にリアクションがなかった麗奈

 

「あの2人絶対一緒だろ?」

 

「だろうね」

 

「あのペアに勝つなんて想像できないわ」

 

「確かに...」

 

「負けないし...」

 

「え...?」

 

「春樹先輩にも鎧塚先輩にも絶対負けない...」

 

久美子は知っていた。麗奈は普段おとなしくてクールな感じが出ているがその中身は人一倍負けず嫌いだったということを

 

「失礼します。滝先生」

 

「あ、黄前さん。高坂さんに塚本くんも、呼び出してすみません」

 

「ッ!」

 

職員室に入り顧問である滝先生を尋ねるとその寝癖で跳ねているだらしのない髪型を見て麗奈が密かにトキめいた

 

「先生いつもと雰囲気が...」

 

「ああ、もしかしたら寝坊したからかもしれませんね。最近寒いのでつい」

 

「ですよね〜。私も全然布団から出れなくて。あははは...」

 

「黄前さんもですか」

 

「はい」

 

「...」

 

(見るな見るな見るな見るな見るな...)

 

滝先生と笑い合う久美子を穴が空くかのごとく凝視している麗奈。話しながらもそんな麗奈に気づいた久美子は制服の下で冷や汗が止まらなかった

 

「そ、それでお話というのは」

 

「はい。校内オーディションについて相談がありまして」

 

「相談?」

 

「はい。今回は私や松本先生ではなくみなさんの投票で決めたいと思いまして」

 

「え、そうなんですか...?」

 

「はい」

 

いつものコンクールメンバー選考のように先生方が評価しないと口にする滝先生に対して静かに驚く麗奈

 

「客観的に他人(ひと)の演奏を評価するのもとても大事なことなのでいい機会だと思っています。ただその際に3年生にも投票してもらうかどうか迷ってまして」

 

「3年生ですか。まあ演奏会でもあるし、見に来る先輩はいるだろうし。なら俺はしてもらっていいと思います。当事者じゃない分客観的に見られると思いますし」

 

「私は反対です」

 

「ほう」

 

滝先生の提案に賛成する秀一に対して麗奈は反対の意を示す

 

「演奏メンバーだけの投票にした方が結果に納得できると思います」

 

「なるほど。副部長とドラムメジャーはこう考えているようですが、部長はどう思いますか?」

 

「うぇっ!?あ、え、う〜ん...」

 

秀一と麗奈が対立の形になってしまい頭を悩ましていた久美子は滝先生の質問に素早く反応することができず頭をフル回転させて答えを考え出す

 

「じゃあえっと、投票を2つに分けるといいんじゃないですかね。現役生だけの投票と3年生を含めたお客さんで来てくれた人の一般投票とか」

 

「ふむ」

 

「いいかもな」

 

「え...」

 

「そうですね」

 

自信なんてこれっぽっちもなかった口から出ただけの回答がなにやら納得されてしまい逆に困惑する久美子

 

「しかしそうなると結果割れの可能性がありますね」

 

「ですよね...」

 

「その時は高坂の言う通り現役生の投票結果を優先すればいいと思います」

 

「なるほど。高坂さんはどうですか?」

 

「私もそれなら構いません。ですが...」

 

「まだ何か?」

 

最終決定権は現役生の投票と言うなら先ほど麗奈が言ったような後腐れはないように思えるが麗奈は答えを言い淀んだ

 

「さっきは現役生が自分達で決めたことなら納得ができると言いましたが」

 

「はい」

 

「その、春樹先輩と鎧塚先輩、音大に行かれるお2人の判断なら誰からも文句は出ないのかなって思いました...」

 

「確かに。一理あるかもしれませんね」

 

「麗奈...」

 

さっきまではあの2人には負けないぞ宣言をしていたのにここで2人に審査を任せるほど麗奈は春樹とみぞれの実力を買っているのだと思った久美子

 

「俺もそれには同意です。春樹先輩も鎧塚先輩もぶっちゃけ俺らとは格が違います。そんな人達に評価してもらえるなら納得できるし、選ばれた人達は自信になると思います」

 

「塚本くんの言う通りあの2人は顧問の私から見ても技術レベルは頭1つも2つも抜きん出ています」

 

「...」

 

滝先生が春樹とみぞれを褒めるよな言葉を出すと麗奈は悔しいのか拳を握りしめる

 

「ただ彼らの存在は部の中でも大きい。おそらくですが彼らを慕う生徒も多いでしょう」

 

「それはもちろん。多分全員が尊敬しています」

 

「だからこそ彼らを目の前に緊張で本来の力を発揮できずに演奏を終えてしまう子は、そこから立ち直るのも大変でしょう」

 

「それは...」

 

「ま、全国を経験した今のみなさんにそんなことはないと思いますが」

 

滝先生は笑顔で、しかし真っ直ぐと久美子を見つめた。それを久美子は言葉通り優しくは受け取れなかった。むしろそんなことで緊張して力が出せない生徒なんていませんよね、そう言われているような気がした

 

「わかりました。とりあえずは部内と一般、それぞれ分けて投票する方向で進めましょう。堺くんと鎧塚さんに関しては今回は他の3年生と同じように一般の投票に参加してもらいましょう」

 

「えっ!こんな簡単に決めちゃっていいんですか!?」

 

「はい。少なくとも私はよいと感じましたよ。多くの部員に配慮した優れた案だと思います」

 

「わ、わかりました...」

 

まさか自分の出した提案がそのまま通ってしまうとはついぞ思っていなかった久美子。驚き呆然としたまま職員室を出て自分の教室まで戻った間の会話の記憶がなかった

 

 

 

 

「決まってしまった...」

 

パート練の教室に戻った久美子は改めて滝先生との会話を思い出しながらも決まってしまったことはしょうがないと次に起こりうる問題に手をつけようとしていた

 

「やっぱり不満は出るよね〜...しっかり前もって説明をすれば...」

 

「なにが出るんですか?」

 

久美子がどうしたもんかと悩んでいるところへ奏が声をかけた

 

「ううん、なんでもないよ」

 

「そうですか」

 

「部長〜いますか〜?」

 

そこへ1年生でありながら春樹やみぞれから今後を託されたオーボエ担当の梨々花が久美子を訪ねてきた

 

「あ、メンバーの報告に来ました〜」

 

「えっ、もう決まったの!?」

 

「はい。これお願いします」

 

「うわ〜派手だね」

 

梨々花から受け取ったのは派手派手にデコレーションされた一枚の紙。そこには梨々花が集めたアンコンで一緒に参加するメンバーの名前が書かれていた

 

「あれ?奏ちゃんとは組まなかったの?」

 

「私は組みたかったんですよ〜?でも奏が金管やひたひって(やりたいって)...」

 

「騙されてはいけませんからね。この子が木管五重奏やるって言ったんですからね」

 

「え〜奏が先だって」

 

お互いにお互いの頬を指で突き合って自分のせいではないと主張する

 

「それじゃあ奏ちゃんは?」

 

「ホルンをこの子に取られて」

 

「あ〜」

 

「だって木管五重奏にはホルンが必要なんだもん。可愛い私で申し訳ない」

 

「無視してくださいね」

 

「もう、強がっちゃって〜」

 

「というか可愛さ関係ありませんし」

 

奏は梨々花に狙っていたホルンの子を取られたからなのかそうでないのか梨々花を無視する。しかしそんなこといつものこととでも言うように梨々花も笑って受け入れている

 

「はあ〜...みんなどんどん決まってくな〜」

 

「楽器に限りがありますからやりたいものがあったら急いだ方がいいですよ」

 

梨々花の報告を遠目に聞いていた葉月が1人でぼやくと美玲が軽く注意を呼びかける

 

「そうだよね。みっちゃんは誰かに誘われたりしたの?」

 

「ノーコメントで」

 

「それってイエスだよね...」

 

「え〜っ!?みっちゃん私とバリチュー四重奏やるって言ったのに!」

 

「誘われてないけど...」

 

「以心伝心!」

 

「いや無理でしょ!」

 

何気なく聞いた葉月の質問へ返答した美玲にさつきが物申す

 

「部長」

 

「はーい」

 

「これお願いします」

 

「あ、はいはーい」

 

「続々と」

 

また新たにメンバー報告をしに久美子の元へホルン担当の1年生、屋敷さなえがやってきた

 

「ホルン三重奏か」

 

「えっ!?」

 

「はい。ライヒャの"6つのトリオ"をやろうと思って」

 

「なるほど」

 

梨々花の時と同じようにただ報告を受ける久美子であっったが隣で聞いていた奏にしてみればメンバーに入れたいホルンの枠がまた減ってしまったことに肩を落としそうになっていた

 

「部長はやっぱり高坂先輩とですか?」

 

「え?いや、まだ決まってないけど...どうして?」

 

「え、あ、そうなんですね...さっき高坂先輩がうちのパートリーダー誘ってたのでてっきり...」

 

「へぇ〜そうなんだ」

 

「えっと...すみません、それじゃあ失礼します!」

 

自分の言った発言で少し気まずくなったと思ったさなえは耐えきれず急いでその場を去った

 

「先輩、もしかしてちょっと寂しかったりします?」

 

「麗奈だっていろいろあるでしょ」

 

「ふ〜ん」

 

「なにー?」

 

「別に〜なんでもないですよ〜」

 

奏のなんとも含みのある生返事に久美子は疑問が募った

 


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