響け!オーボエカップル   作:てこの原理こそ最強

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『響けユーフォニアム』劇場版新作おめでとうございます!
ということで続きを考えてみました。

最後の投稿からだいぶ間が空いてしまっています。
書き方など変化している部分があるかもしれませんがご容赦いただけると幸いです。


誓いのフィナーレ5

 

「みなさん。お疲れ様でした」

 

全国への切符を手にした北宇治高校吹奏楽部は会場外に集まって滝先生の話を聞いていた

 

「素晴らしい演奏でした。残念ながら最高とまではいきませんでしたが」

 

「一言多いですよ先生」

 

「では今日の演奏で満足した方は挙手を」

 

当然だれも上げるわけがない

 

「よかった。これで満足されていてはどうしようかと思いました」

 

間違いなく明日からの練習が一段と辛くなるのだろう

 

「しかし裏を返せばまだまだ伸びしろがあるということです。せっかく全国に行ってもいいと認めていただいたんです。明日からの練習も頑張りましょう」

 

『はい!!』

 

「では部長からなにかありますか?」

 

「はい」

 

滝先生に呼ばれて優子が前に出た

 

「みんなお疲れさま。おかげで第二関門を突破できた。先生の言う通り明日からの練習も頑張りましょう!」

 

『はい!』

 

「副部長は?なにかないの?」

 

「私はいいよ」

 

「じゃあオレから一言だけ」

 

優子の指名に夏紀は遠慮し春樹が前に出て優子の隣に立った

 

「今日の演奏で悔いが残ったやつはたくさんいると思う。オレもその一人だし」

 

春樹の言葉に俯く者もいれば強いまなざしで見つめてくる者もいる

 

「でも今だけは単純にこのメンバーでまだ演奏できることがなにより嬉しい」

 

今度の言葉でさっき俯いた者含めて全員が再度こっちを見た

 

「全国で金を獲る。このメンバーで。みんなもうひと踏ん張り頑張ろう!」

 

『はい!!』

 

春樹は全員の返事を聞いて元の位置に戻った

 

「はい。それでは明日の練習について...と言いたいところですが」

 

『?』

 

滝先生が珍しく歯切れが悪かったため全員が疑問に思った

 

「明日は完全休みとする!」

 

『えー!!?』

 

「みなさん意気込んでいたところ申し訳ないのですがこれはコンクール前から決めていたことでした」

 

「今日の移動もあって全員自覚はないかもしれないが疲労が溜まっているはずだ。明日はゆっくりと休養を取り万全な状態で明後日からの練習に取り組むように!」

 

松本先生がいつものようにはっきりと物を言っている

 

「異論は認めん。明日私は学校にいるがもしお前らの内一人でも校内で見かけたときは覚悟するように」

 

『はい』

 

「では全員バスに乗り込め」

 

松本先生の号令でバスに乗り始めた

 

「休みか~。まぁ確かに疲れてるか」

 

「そうかも」

 

「演奏のときは気分が高まっててわからなかったな」

 

「うん」

 

「先輩」

 

春樹もみぞれと一緒にバスに乗り込もうとすると久石奏に呼び止められた

 

「どうした久石」

 

「ちょっといいですか」

 

「なんだ告白か?すまんがオレには愛する人が」

 

「違います。先輩タイプじゃありませんし」

 

「あーそうかい」

 

確かに誰にでもいい顔をする久石だが春樹の前だけ目つきが悪かった

 

「はぁ。この前はすみませんでした」

 

「どの件だ。求をからかったやつか?それとも合宿で久美子のカレーにタバスコ混ぜてたやつか?」

 

「ち、違います!っていうかなんで知って...」

 

「上級生をなめるなよ?あとは夏紀のシャーシンを全部抜いた...」

 

「だー!もういいです!真面目な話なんで聞いて下さい!」

 

「なら、オーディション前のやつか」

 

「っ!はい...」

 

おちゃらけた感じから一変真面目モードとなったことに久石は驚いている

 

「ハル?」

 

「みぞれには話してなかったな。オーディション前に久石と一悶着あったんだよ」

 

「...」

 

「奏ちゃーん。あ、春樹先輩と鎧塚先輩」

 

「久美子か」

 

空気が変わって黙り込んでしまった久石。そこへ久石を探しに来たのか久美子がやってきた

 

「ど、どういう状況ですか...?」

 

「久石からの謝罪を聞いているところだ」

 

「謝罪?」

 

「オーディション前のやつ」

 

「え...」

 

「...」

 

「一旦顔を上げろ久石」

 

当事者でもある久美子が来たからなのか久石はスカートをぎゅっと握りしめて俯いたままになってしまった

 

「許す」

 

「っ!?」

 

春樹が一言そう言うと久石は驚いたように顔を上げた

 

「なん、で...」

 

「あの後どうなったかは夏紀から聞いた。それに練習中でも明らかにお前の目つきや打ち込み具合が変わったのがわかったしな」

 

「でも...」

 

「久石は謝罪しに来たんだろ?なら許すか許さないか。んで同じ副部長の夏紀からの報告と実際にあの後の久石の感じを鑑みて許した。それで終わりだろ?」

 

「でも...」

 

「奏ちゃん」

 

すんなりと許しを得た久石は納得ができないのか引き下がらないところに久美子から声がかかった

 

「もう大丈夫なんだよ」

 

「黄前先輩...」

 

「わかってる。春樹先輩が許してくれても自分自身が許せないんだよね。私もその経験があるから。でもさ、ずっとそのままだと先に進めないんだよ」

 

「そうだぞ。それに許すとは言ったが今回のことを完全に忘れることは許さないからな。これを糧にして今後の勤しみと先輩への敬いを忘れないことだ」

 

「あの、春樹先輩。最後のはいらないんじゃ...」

 

「なにを言うか久美子教官!先輩への敬意は大切だぞ。あ、部長への敬意は少しランク落としていいからな」

 

「聞こえたわよ!」

 

「やべっ...」

 

いつの間にか優子に背後を取られていた

 

「いつまで経っても来ないから探しに来てみれば...!」

 

「せ、先輩として後輩のお悩み相談をな...」

 

「黙れバカ!」

 

「おいおい、お前より成績いいぞ」

 

「そういうことじゃない!!」

 

「ハル、火に油」

 

「というか焼却炉にガソリンだなこりゃ。逃げるぞお前、ら...」

 

振り向いたその先に久美子と久石の姿はすでになかった

 

「先に逃げやがったあんにゃろ!!」

 

「はーるーきー!!」

 

「あははは...行くぞみぞれ!」

 

「ちょっ!待ちなさいよ!!」

 

春樹はみぞれの手を引いてバスに向かって逃走した。優子の戻る場所も同じだと言うのに...

 

バスに戻ると案の定久石と久美子は戻っていた

 

「こら後輩。先輩を差し置いて先に戻るとは何事か」

 

「え、えっと~」

 

「だって巻き添え食らいたくなかったんですもん」

 

「馬鹿者。それならみぞれを連れていけ」

 

「そうでした...鎧塚先輩すみません」

 

「別に」

 

「今度からは春樹先輩を見捨てても鎧塚先輩を連れて戻りますね」

 

「ちょっ、奏ちゃん」

 

「久石お前...」

 

「は、春樹先輩。これは...」

 

「よくわかってるじゃないか」

 

「「へっ?」」

 

「この世のすべてに対して優先されるのはみぞれだ。これからもよく覚えておくように」

 

「ちょっとハル」

 

「鎧塚先輩のことになると一気にアホになるんですね」

 

「ん?」

 

「いえ別に。ほら、そろそろ出発するみたいですよ」

 

「おう」

 

春樹とみぞれは隣通しで席に座った

 

「遅かったじゃん」

 

「ちょっとなー」

 

「あんまりみぞれのこと振り回しちゃダメだよ?」

 

「そうだな。ごめんなみぞれ」

 

「大丈夫」

 

「みぞれもたまにはガツンと言ってやらなきゃ」

 

「大丈夫だから」

 

「ウチのみぞれは寛大なんだよ」

 

「確かにそうかもね」

 

「そして天使だ」

 

「それはわかる」

 

「ちょっ...」

 

春樹は通路を挟んだ隣にいる友恵と硬い握手を交わした

 

「そうだ。明日急遽休みになったからさ、3年みんなでどっか行こっかって話になってるんだけど」

 

「すまんな。明日はゆっくりするわ」

 

「えー。みぞれは?」

 

「私は、行きたい」

 

「よーしどこにする?遊園地?それとも水族館?」

 

「豹変しすぎでしょ。これがみぞれパワーってわけね」

 

言うまでもない。みぞれが行きたいなら春樹も必ず行くに決まってる

 

「みぞれはどこか行きたいとこある?」

 

「ハルとならどこでも楽しいと思う」

 

「それはオレも思うよ。みぞれとだったらその辺の川辺でも楽しいさ」

 

「うん」

 

「あーちょいちょい。二人きりの空間になるのはもうちょい待ってね~」

 

「えー」

 

春樹とみぞれの空間に入ってくるとは。友恵はなかなかの猛者である

 

「なー梨子ー。卓也とデートに行こうとしてる候補場所とかないのー?」

 

「ちょっと春樹くん。なんてこと聞いてくるの...」

 

春樹は行く場所の候補を探すべく後ろに座っているチューバカップルに声をかけた

 

「なー卓也ー」

 

「うるさいぞ春樹。お前だって鎧塚さんと行きたいところあるだろ」

 

「え、オレらが決めていいの」

 

「それは絶対ダメ」

 

「ほらー。こうやって友恵の姉御が止めてくるんだもんよ」

 

「姉御って言うな。それはともかくどっか行きたい場所ない?」

 

「ん~そうだな~。私はどちらかというと静かなところがいいかな」

 

「後藤は?」

 

「俺もどちらかと言えば静かなとこの方が」

 

「おー気が合うね。さすが」

 

「はい茶化さないの。ちょっとみんなに聞いてみるね」

 

「ごめんね友恵ちゃん」

 

「いいのいいの。あ、優子お疲れ」

 

「本当に疲れたわ。誰かさんのおかげでね」

 

「いやーそんなに言われると照れるな」

 

「褒めてないわよ!」

 

「まぁまぁ優子。滝先生も戻ってきたし座んなよ」

 

友恵の言う通り滝先生が戻ってきてようやく出発するようだ

 

「ねぇハル」

 

「ん?」

 

「今日、泊まっていい?」

 

「急にまたどうした。全然いいけど。ちょっと親に連絡するわ」

 

「うん。ありがと」

 

「ねぇみぞれ。よくそいつの家泊まってるわけ?」

 

「うん。たまにだけど」

 

「そうなんだ。あんたみぞれに変なことしてないでしょうね」

 

「変なことってなんだよ。オレがみぞれの嫌なことするわけがなかろう。それにお互いの親公認だし」

 

「いいなー。なんか憧れちゃう」

 

「友恵ならすぐ彼氏の一人や二人できるでしょ。面倒見いいし」

 

「二人いちゃダメでしょ。でもありがと」

 

「みぞれさん...痛い痛い」

 

「...」

 

「大丈夫だって」

 

友恵を褒めたことに嫉妬したのかみぞれが太ももをつねる。その春樹は安心させるためにみぞれの頭を撫でてやるともっと撫でてほしいとでもいうようにもたれかかってきた

 

(可愛すぎて鼻血出そう...)

 

「ねぇ友恵。ブラックコーヒー持ってない...?」

 

「ごめん優子。さっき私が飲んじゃった」

 

「部長。これどうぞ」

 

「あらありがとう」

 

気分でも悪くなったリボンにチョコのようなものを渡したのは春樹達の前の席に座っているえるだった

 

「助かるわ。よく持ってたね」

 

「慣れてますので」

 

「「あー...」」

 

チラッと見えたのだがえるが渡したチョコはカカオ70%と書かれていた。

 

バスが出発して数分で大方の者は疲れで寝てしまった。そんな中春樹はというと超絶ラブリー彼女が春樹の肩にもたれかかったまま眠っているためそんな彼女の寝顔を写真に収めている

 

「ねぇ春樹」

 

「どした?」

 

「絶対、金獲ろうね」

 

「もちろんだ」

 

まだ起きていた優子と改めて誓いをたてた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校に着いて楽器などの運搬と片付けを全員で行った

 

「みぞれお疲れー」

 

「のぞみ」

 

「春樹もお疲れ。搬入とかありがと」

 

「調こそお疲れ。女子だと大変だからな。それに搬入した後の整理とかは調達がやってくれたじゃん」

 

「そうだけどさ」

 

「それよりも、あれをどうにかしてくれ。なんかムカムカしてくる」

 

春樹はみぞれに抱き着いている希美を指さす

 

「あれぐらいで妬かないの。別に他の男子にされてるわけじゃないんだし」

 

「それでもなー。でもみぞれも満更でもないみたいだから言いづらい...」

 

「へー。偉いじゃん」

 

「だろー」

 

「めっちゃドヤ顔するじゃん」

 

「調ちゃーん。春樹くーん」

 

「どうしたのよりえ。みるもいるじゃん」

 

「おつおつ~。明日のこと聞いちゃってさ」

 

「どこ行くの!?みんでなんてすっごい楽しみだよ!」

 

自分の片付けが終わったりえとみるがやってきた

 

「今友恵が探してくれてる。行きたいところあったら友恵に言ってくれ」

 

「海行きたい!」

 

「行くの明日だぞ。準備とか間に合わないだろ」

 

「そっか~」

 

「ちょっと加部っちと話してくるよ」

 

「私も行くよ!」

 

「いってらっしゃい」

 

りえとみるはすぐに友恵の元に行ってしまった

 

「みんなでおでかけなんてどこでも楽しそうだよね」

 

「だな」

 

「春樹はみぞれと二人っきりじゃなくて寂しい?」

 

「んー。確かにみぞれと二人っきりも楽しいけど、今のこのメンバーでわいわいやってるのも好きだからなー」

 

「それは同意。残ってよかったよ」

 

「調が残ってくれてホントに助かった。じゃなきゃあのじゃじゃ馬誰も扱えないって」

 

「私も戻ってくるって聞いたときは驚いたけどね」

 

「そりゃな」

 

未だにみぞれといちゃついているのぞみを見ながら調の表情は少し曇った気がした

 

「最初はちょっと思うところがあったけどね」

 

「調だけじゃない。多分オレの方がヤバかった」

 

「それはそうでしょ。私は思っただけで言葉にしたりしてないし」

 

「まぁ若気の至りってことで」

 

「ついこの間じゃん」

 

春樹のギャグが効いたのか調はまた笑い出した

 

「ハル」

 

「みぞれ。もういいのか?」

 

「うん。のぞみも加部さんのとこに行っちゃったから」

 

「オレ達も行くか?」

 

「ううん、大丈夫」

 

「そっか」

 

みぞれがすっと春樹の隣に近づく。でもいつもより近い気がする

 

「みぞれ?」

 

「...」

 

返事はない。もう春樹の腕とみぞれの肩がぶつかるほど近い

 

「あ、ごめんみぞれ。そんなつもりじゃ」

 

「別に...」

 

「どういうこと?」

 

「あんた...もしみぞれが他の男子と仲良く話してるのを遠目に見つけたらどう思う?」

 

「あー」

 

「そういうことよ」

 

「...」

 

理解した。考えるだけでも心臓爆発しそうな春樹

 

「ごめんみぞれ」

 

「大丈夫」

 

終わった後めいっぱい甘えさせてあげようと春樹は決意する。うん。決して春樹自身が抱きしめたいからではない。断じてない。と思う...

 

「先生!搬入全部終わりました!」

 

「楽器の点検と整理も終了です!」

 

「わかりました。ではみなさん、次の練習は明後日の放課後になります。ゆっくり休んでください」

 

『はい!』

 

こうしてオレ達の全国をかけた一日が終わりを迎えた

 


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