響け!オーボエカップル   作:てこの原理こそ最強

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第28話

「私達3年はこれで引退です。最後になりますが、今日までこんな不甲斐ない部長についてきてくれてありがとう。この1年は嫌なことも…いっぱいあったけど……不安なことばっかで辛かったけど…それ以上にみんなとの演奏が楽しくて……」

 

 もう言ってる最中に泣いちゃったよ

 

 \パチパチパチパチ/

 

「では、泣き虫部長に変わって一言。正直、今日の演奏で言いたいことは何もありません。北宇治の音は全国に響いた!私達は全力を出し切った。本当にみんなお疲れ様。そして3年生はこれで引退、あとは2年生の天下です。もう不安しかありません」

 

 \あはははは/

 

「え〜、私はみんなが知っての通り回りくどい話ができないのではっきり言います。今回の結果、私はめちゃくちゃ悔しい…でも3年に雪辱の機会はもうない。こんな思いは私達だけでたくさん…だから来年は必ず、金賞を獲って。これは最後の副部長命令です!わかった?」

 

『はい!』

 

 こんなときにだけ副部長とか言われてもなぁ…

 

「よーし!その返事忘れないよ?あと、春希は何か失礼なこと考えなかった?」

 

「ソ、ソンナコトナイデスヨ」

 

「ちょーカタコトだけど、まぁいっか。卒業しても毎日見にくるからね」

 

「先輩、それ最悪です…」

 

「違いねぇ…」

 

「え〜なんでよ〜」

 

 \ははははは/

 

 夏紀の言葉にオレも同意し、それに異議を唱える副部長。すると…

 

「お姉ちゃん!」

 

「えっ、ちょっ!」

 

「久美子?」

 

 黄前さん?

 

 黄前さんがお姉ちゃんと叫び、走って行ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー翌日ー

 

 3年生が引退して、新たな役員が選出される

 

「部長に指名された吉川 優子です。何か反対意見はありますか?」

 

「いんじゃない?」

 

「賛成」

 

「ありがとうございます。では…」

 

「春希はやらないの?」

 

「オレか?オレは辞退した。それに、オレよりリボンの方が適任だろ」

 

 実際はオレも部長に推薦されたが、丁重にお断りさせていただいた

 

「リボン言うな!んっ!では改めて信任されたものとみなします。続いて副部長の選出です」

 

 はぁ、めんどくさいなぁ…でもそういう条件だし、仕方ない…

 オレはそう思いながら嫌々立ち上がる

 

「えぇ、副部長に“強制的に”指名された堺 春希と」

 

「中川 夏紀です。私は強制とかじゃないですけど…反対意見ありますでしょうか」

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ!あんた達が副部長!?聞いてないんだけど!」

 

「そりゃぁ言ってねぇしな」

 

「本気なの!?先輩達何考えてるのよ…」

 

「知らないよ。私だってあんたが部長って聞いたときははぁ?ってなったし」

 

 やっぱりこうなったか…ホントにあの先輩達は何を考えているのでしょうねぇ。後藤も頭を抱えていた

 

「あすか先輩たっての希望だし」

 

「あの人完全に面白がってるな」

 

 後藤よ、オレも同感だ

 オレと夏紀はとりあえず前に出る

 

「というわけで…」

 

「全く気は進まないけど、先輩の頼みなんで」

 

「こいつをサポートしていきたいと思います」

 

「「よろしく」」

 

 2人で同時に軽く頭を下げる

 

「人のこと指ささないで欲しいんですけど」

 

「はぁ、失礼しました部長」

 

 夏紀はリボンに対してお嬢様風にスカートを掴んで言う

 

「もうー!バカにしてー!!!」

 

 ホントこいつはからかい甲斐があるな

 

 こうして北宇治高校吹奏楽部が新たな道をスタートする中、オレはこれからどうなるんだろうという不安とまたみぞれと演奏できるという喜びに溢れていた

 

 

 

 

 

 

 ーまた翌日ー

 

 今日からもう新体制での練習となり、今まで部長…小笠原先輩が立っていた場所には新部長のリボンが立って音の調整をしている

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

 しかし、そこでのみんなの音は非常に“薄かった”。3年生がいなくなたことを痛く痛感する瞬間でもあった。3年生がいない分人数が少なくなる。そうなれば必然的に音の大きさは小さくなるわけで…新入生が来るまでは仕方ないか……

 

 

 

 

 ー帰り道ー

 

「3年生ホントに引退したんだよな」

 

「うん」

 

 みぞれと一緒に帰っているときにふと心の声が出てしまった

 

「今日の練習でわかったよ…3年生がどれだけ偉大だったか」

 

「そうだね」

 

「でも、みぞれは今日もいい音だったぞ」

 

「ありがと。ハルも綺麗な音だった」

 

「オーボエはオレらだけだから変わらないけど、来南先輩と美貴乃先輩いないとやっぱ寂しいよな…」

 

「うん…」

 

 オーボエを吹くのはオレらだけだとしてもパート練の人数が減ってしまったのはホントに寂しい…みぞれもおんなじ気持ちのようだ

 

「来年は金、獲りたいな」

 

「…大丈夫」

 

「ん?」

 

「私とハルが一緒にいれば、絶対に獲れる」

 

「っ!そだな」

 

 みぞれの言葉にはなんの根拠もないが、しかしその言葉だけで、いや、それをみぞれから聞いただけでオレのやる気はマックスになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーはたまた翌日の朝ー

 

 ♪〜

 

 今日はみぞれと一緒に歩いていたら途中でのぞみに会ったので一緒に登校した。するとある教室からすごく上手い、それでいたとても聴き慣れたような音が聴こえてきた。その場所へ行ってみると

 

「あれ、黄前さん?」

 

「あ、はい!」

 

「あすか先輩かと思った」

 

「え?」

 

「うん、すごく似てた」

 

 そこにはオレ達が想像したあすか先輩ではなく、黄前さんがいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー数日後ー

 

 今日は3年生の卒部会。今日が来て欲しくないと思ったやつも多いであろう。そう思いながらもこの日を楽しんでもらいたい、この部でよかったって思ってもらいたいとみんなはせっせと自分の役割をこなした

 

 オレはというと卒部会で催す企画を考える係だった。最初はありきたりなものでいいかなって思ったんだけど、それじゃあ面白くないからみんなからいろんな案をもらいつつ最高の会にするため一生懸命考えました

 

 

 

「それでは!卒業生の皆さんの入場で〜す!」

 

 \パチパチパチパチ/

 

 司会進行役の加藤さんの言葉で入場してくる先輩達。何週間か会ってないだけなのにすげぇ久しぶりな気がする

 

「香織せんぱ〜い!!」

 

「はやっ!」

 

 リボンはもう泣いてるのかよ

 

 

 

 それから何個か出し物をして司会をオレに変わった

 

「皆さん楽しんでもらえているでしょうか?」

 

『はーい』

 

「それはよかったです。ではここで“先輩ならわかって当然!楽器を演奏しているのは誰でしょう?ゲーム!!”」

 

 \パチパチパチパチ/

 

 これがオレの考えた企画だ

 

「ルールを説明します。これから各パート毎に現役生の中の誰かが楽器を演奏します。先輩達には目隠しをしてもらってそれが誰なのかを当てていただきます。正解された方には景品が、間違ってしまった方には罰ゲームもありま〜す」

 

 オレが説明を終えると3年生のみんなはビックリしたり面白そうな顔をしたりと様々だった

 

「では第1問目トランペットです」

 

 その言葉を聞いて1年生が先輩に目隠しをする

 

 演奏者が楽器を持って前に出てオレ達がサンフェスで演奏したあの曲の一部を演奏する

 

 ♪〜

 

「はい、ありがとうございました。では3年生のみなさんは目隠しを取っていただいて、テーブルにある紙に今演奏した人の名前を書いてください」

 

 3年生が書いた紙を集めてそれぞれ解答を確認する

 

「え〜、では正解の人はこの人です!」

 

 ♪〜

 

 さっきと同じように演奏が響く

 

「正解は赤松 麻紀(あかまつ まき)さんでした。残念ながら間違えた先輩がいらっしゃいました。ヒデリ先輩…」

 

「うぐっ!」

 

 オレの指名に室内にいる全員の視線が集まる

 

「オレは悲しいですよ」

 

「…悪かったよ」

 

「では罰ゲームの特製青汁を飲んでいただきましょう!」

 

 説明しよう!特製青汁とはオレが半日かけて作ったいろんな青汁を混ぜて完成したものだ

 

 ヒデリ先輩は紙コップ半分ぐらいの青汁を一気に飲み干すしたが、顔がさっきとは別人のように悪くなっている

 

「ではどんどんいきましょう!次は…」

 

 その後もどんどん続けていった。罰ゲームを受けた先輩はヒデリ先輩同様、無残な姿になってしまった

 

「では最後にオーボエですが、これは先輩だけではなくみなさんにやってもらいましょうかねぇ。もちろん先生方もです」

 

「我々もですか」

 

「はい。せっかくですから」

 

 オレがいきなり言い出したことに一瞬戸惑いを見せた昇さんだったが心地よく引き受けてくれた

 

「あ、1、2年もな」

 

「そうなの!?」

 

 今度はリボンが驚いた声を上げる

 

「みぞれがその方が面白いって」

 

「うん」

 

 既にオレの隣に来ていたみぞれが同意する

 

「ではみなさん目隠しをしてください」

 

 みんなが目隠ししたのを合図に演奏が始まった

 

 ♪〜

 

「はい。ではみなさん取って大丈夫ですよ。こっちかなって思った方を紙に書いてください。当然ですが先輩方やみぞれが大好きなのぞみは間違えたりしませんよね〜」

 

 オレはプレッシャーをかけるつもりでニヤニヤしながらそう言った

 

 みんなから集めた紙を確認してその結果を発表する

 

「では発表します。いや〜、来南先輩と美貴乃先輩はさすがっすね」

 

「当然!どんだけあんた達の聴いてたと思ってるのよ」

 

「でも他の人には難しいかもね」

 

 長い間同じパートで一緒だった先輩にわかってもらえたのは嬉しいな

 

「それと滝先生もお見事です」

 

「ありがとうございます。最後まで悩みましたけどね」

 

 昇さんも見事正解していた

 

「では改めて、まぁ気づいた人もいるかもしれませんがこの流れからして他の方々は全員不正解でした。難しかったかね?」

 

 オレはまたニヤニヤしながらみぞれに聞いてみる

 

「そうかもね」

 

 みぞれも笑顔でオレに答えてくれた

 

「そういうのいいから早く正解を教えろ!」

 

 しびれを切らしたナックル先輩に急かされる

 

「わかりましたよ。正解はこれです」

 

 そしてさっきの演奏を再びする

 

 ♪〜

 

「わかりましたか?」

 

『…』

 

 正解した3人以外の人はポカーンとしてて言葉が返ってこない

 

「みなさん大丈夫ですか?今見たように正解は“2人同時”でした〜。大成功だな、みぞれ」

 

「うん」

 

 つまりオレかみぞれかではなく、オレ達は2人で演奏していたのだ。みんなが呆然としているのをオレとみぞれはこの結果になることを予想していたかのように笑い合う

 

 その後も数分みんなはそのままの状態が続いた。みんなが正気を取り戻したところで会も次に進みこれまでの出来事の映像を見たりした

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

 そして今は3年生による演奏を聴いている。これまでは一緒に演奏することはあっても外から見ることはなかったからなんか新鮮だ

 

 そして次はオレ達の番。その前に

 

「先輩達と過ごした時間は私達に取ってかけがえのないものですそれを後輩にも伝え北宇治吹奏楽部を作っていきたいと思います!そして全国で金を必じゅ…」

 

『ぷふっ!』

 

 噛んじゃったよ

 

「大事なところで…」

 

「うるさい!!!えっと、では私達から決意を込めて卒業生のみなさんにこの曲を送ります!」

 

 オレ達は自分の席に行き、のぞみが変わって前に出る。今日の指揮者だからだ。オレ達が贈るのはオレ達に取って忘れることのできない“三日月の舞”だ

 

「みぞれ、いい音奏でような」

 

「うん」

 

 いつものやつも終え、のぞみの腕が上がった

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

 オッケー

 そして、トランペットのソロ

 

 ♪〜

 

 いつも通り

 

 そしてオーボエのソロ。今日は“2人”でやる

 

 ♪〜

 ♪〜

 

 オレとみぞれの音がガッチリ重なる。ばっちり!!

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

 \パチパチパチパチ/

 

「ありがと〜…」

 

 演奏が終わると先輩からありがたい拍手を受け取ることができた。ちなみに小笠原先輩は大泣きだ

 

 そして、卒部会は幕を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 ー卒業式ー

 

 今日は3年生がホントに最後の日だ。生憎の天気だが式をやるのには支障はない

 

 式が終わる頃には雨は弱い雪に変わっていた。オレは先輩方一人一人に挨拶して回った。田中先輩は見つけることができなかったけど…

 

「来南先輩、美貴乃先輩、今までありがとうございました!」

 

「こっちこそ…」

 

「ありがとうね…鎧塚さんも」

 

 先輩2人は目尻に涙を浮かべみぞれを含めて3人で抱き合っている

 

「これからも頑張ってよ?」

 

「公演とか見に行くからね」

 

「…はい」

 

「期待しててくださいよ!」

 

 一番お世話になった先輩方に挨拶を済ませると、みぞれがオレの手を握り走り出し校舎に入って行く。

 

「どうした!?いきなり!」

 

「先輩達を私達の音で送り出したい!」

 

 走りながらみぞれはそう言ってきた。オレはその言葉を聞いて引っ張られる側から引っ張る側になって音楽準備室に向かい自分の楽器を持って3階の廊下に行き窓を全開にする

 

 ♪〜

 

「どうだ?」

 

「大丈夫」

 

「よし」

 

 2人ともチューニングを終えてお互い向き合う。オレはいつものようにみぞれの額に自分の額をくっつける

 

「先輩を送り出すからってオレの気持ちは変わらねぇぞ?」

 

「私も」

 

「オレはみぞれのために」

 

「私はハルのために」

 

「いい音奏でようぜ!そんで最高の気分で送り出してあげよう!」

 

「うん」

 

 ♪〜♪〜

 

 オレ達の音はどこまでもどこまでも響いて行く

 






“響け!オーボエカップル”はこれで完結となります

これまで読んでいただきありがとうございました!!!




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