響け!オーボエカップル   作:てこの原理こそ最強

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第27話

 ー大会前日ー

 

 ついにその日が明日に迫っていた。これまでの日々は長かったようで短かった。昇さんが北宇治に来てからの部活は大変だったり少し混乱したこともあったけど、以前よりは比べ物にならないくらい充実していたと思う。明日はその集大成だ。コンクールに出るやつはもちろんコンクールメンバーではない連中も気合が入っていることだろう

 

 全国大会の会場は名古屋で開かれ、オレ達は現地で一泊するため前日のうちに名古屋に入る。バス内ではみんな緊張やら集中やらで会話は少なかった。オレの隣に座ったのはもちろんみぞれで、今日はさすがのみぞれでも緊張しているらしくオレはバス移動中の大半の時間、みぞれの頭を撫でていた。これは決してオレからではなくみぞれにお願いされたからだ

 

 

 

 

 ー会場ー

 

 会場に着いて楽器を運び、今はみんな音の調整をしている。本番前に最後の練習をするのだ

 

 

 ♪〜

 

「どうだ?」

 

「大丈夫」

 

「みぞれもいつも通りだ」

 

「うん」

 

 自分の耳だけでなくみぞれにも自分の音が変ではないか入念にチェックする

 

「では始めましょうか」

 

『よろしくお願いします』

 

「いよいよ明日が本番になりますが、焦らず落ち着いていつも通り音を重ねていきましょう」

 

『はい』

 

「小笠原さん」

 

「はい、ではチューニングbで」

 

 ♪〜

 

 ♪〜♪〜

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

 全体のチューニングをして最後の練習が始まった

 

 

 

 

 

 

 

 ー旅館ー

 

 練習を終え、オレ達は泊まるホテルにやってきた。夕食を食べ風呂にも入りそろそろ消灯の時間だ。それまでオレはナックル先輩達にオレとみぞれのことをずっと聞かれていた。まぁこういう話で気を紛らわしたいのかなと思って嫌々付き合っていたが...

 

 消灯時間を過ぎて少しした頃、オレの携帯に一本のメールが届いた。みぞれからだ。そこには『眠れない』と書かれていた。『オレも』と返信すると『ロビーで待ってる』と返ってきた。オレは1枚上に羽織ってロビーに向かった。途中自販機であったかい飲み物を買おうとしたら、そこに黄前さんと塚本くんがいた。どうやら2人も眠れなかったらしい

 

「みぞれ」

 

「ハル」

 

「ほい」

 

「ありがと。あったかい」

 

「あったかいの買ったからな」

 

 ロビーにあるソファーに座っているみぞれに買ってきた飲み物を渡すとそんな感想が返ってきた

 

「明日だな」

 

「うん」

 

「不安か?」

 

「…少し」

 

「そうだよな、オレもだ」

 

「ハルも?」

 

「あぁ…でもな隣にはみぞれがいる。そう考えると自然と不安が消えるんだ」

 

「…」

 

 オレがそう言うとみぞれは目を瞑る。少しして目を開けた

 

「ホントだ。私もハルが隣にいるって考えると大丈夫になった」

 

「だろ?」

 

「うん」

 

「確かに不安や緊張はあるけど、橋本先生も言ってたろ?まずは楽しむことだって」

 

「そだね」

 

 やっぱり、あのことがあってからみぞれは変わったな

 

「もう大丈夫そうだな」

 

「うん、ありがと」

 

「おう!じゃあ戻るか」

 

「…うん」

 

 明らかに残念がるみぞれ。でもそろそろ寝ないと明日に響いたら大変だし…仕方ない

 

「その前に、みぞれ」

 

「なに…っ!」

 

 オレを見上げてきたみぞれにそっとキスをする

 

「今日はこれで我慢してくれ。オレももう少し一緒にいたいけど、寝ないとヤバいから…」

 

「…うん///わかった///」

 

「お利口だ」

 

 俯いていて顔は見えないが耳を赤くしているみぞれの頭にポンっと手を乗せる

 

「送ってくか?」

 

「大丈夫、おやすみ」

 

「あぁ、おやすみ」

 

 オレはみぞれが階段を登って行くのを確認してから自分の部屋に戻り寝た

 

 

 

 

 

 

 

 ー本番当日ー

 

「はーいみんなー、ちゃんとリボンつけてる?」

 

 部長の声かけにオレは左肩を確認する。出場者はみんな赤いリボンを左肩につけなければならないらしい

 

 会場に入る前に親から連絡があって、みぞれの両親と一緒に見にきてるそうだ。仲いいな

 

 

 

 

 

 

 ♪〜

 

 みんながそれぞれ音の確認をする

 

「はい。これからいよいよ本番です。私達は春に全国大会出場という目標を掲げ、ここまでやってきました。結果を気にするなとは言いません。ですがここまで来たらまず大切なのは悔いのない演奏をすることです。特に3年生…」

 

『はい!』

 

「今日が最後の本番です。この晴れ舞台で悔いのない演奏をしてください」

 

『はい!』

 

 先輩方…ホントに今日が最後なんだな……

 

「先生、一言いいですか?」

 

「もちろんです、どうぞ」

 

 部長が立ち上がる

 

「ついに本番だよ。私今日だけは絶対ネガティブなこと言わない。私ね今心の底からワクワクしてる。いい演奏をして、金獲って帰ろう!」

 

『はい!』

 

「じゃあ副部長のあすか」

 

 部活に呼ばれ立ち上がる副部長

 

「え〜っと、全国に関してみんなにいろいろ迷惑をかけてしまいました。こうやってここにいられるのは本当にみんなのおかげだね…ありがとう。今日はここにいるみんな北宇治全員で最高の音楽を作ろう!それで、笑って終われるようにしよう」

 

『はい!』

 

「…ご静聴ありがとうございました!晴香!」

 

「よーし、ではみなさんご唱和願います。北宇治ファイト〜!」

 

『おー!!!』

 

 部長、副部長、絶対金をプレゼントします!

 

 

 

 

 

 

 

 ー舞台裏ー

 

 今日は最初からみぞれと一緒にいるが、近くでは黄前さんが手に人を書いて食べていた。古いな!

 するとみぞれが自ら黄前さんに近づく

 

「鎧塚先輩、春希先輩」

 

「今日最高のリード」

 

「オレも万全だ」

 

「そうなんですか」

 

 するとみぞれは手をグーにして黄前さんに向ける

 

「えっ、えっとー」

 

 黄前さんは自分も同じように手をグーにしてみぞれのそれに合わせる。オレもそれに便乗して黄前さんのそれに合わせる。そしてみぞれは言葉なしにただ笑いかけ、オレの手を取って離れる

 

 

 

「みぞれも先輩になったな」

 

「そうかな?」

 

「そうだろ」

 

 すると

 

「北宇治、行くよ」

 

 部長から声がかけられる。オレはその声を聞き隣のみぞれに向き直る。みぞれもオレの方を向く。そしてみぞれの頭を引き寄せ額同士をくっつける

 

「みぞれ、ありがとう。これまでやってこれたのはみぞれのおかげだ」

 

「私もハルのおかげでここまでこれた」

 

「絶対金獲るぞ!」

 

「うん!」

 

「あと、ソロも頑張れ」

 

「任せて、最高の聴かせてあげる!」

 

「その粋だ!よし、オレはみぞれのために」

 

「私はハルのために」

 

「今日は今までで最高の音奏でようぜ!」

 

「うん!」

 

 そしてオレ達は舞台に出て行く

 

『プログラム3番、関西代表北宇治高等学校。指揮は…』

 

 おそらくアナウンスで北宇治の紹介がされていたんだろうが、そんなの聞こえないくらい集中していた

 

 

 

 昇さんが指揮台に上がり、始まる

 

 さぁ、全国のみなさん。これがオレ達、北宇治の音だ!とくとご覧あれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー結果発表ー

 

 \パチパチパチパチ/

 

『お待たせいたしました。それではこれより、高等学校後半の部の表彰式を行います』

 

 いよいよだ

 

『では初めに今回のコンクールに出場した指揮者の方に指揮者賞を贈呈します』

 

「指揮者賞?」

 

「各校に送られる賞です。私達はそのあとに…」

 

 へぇ〜、そんなのあるんだ

 

『せーの、山ちゃん大好きー』

 

 なんだ?

 他校がいきなり全員で声をあげたのでオレはビックリしてしまった

 

「しまった!これがあった!」

 

「どうする?何も決めてないよ!」

 

 これって絶対なのか!?

 

『続いて…』

 

『せーの、鈴木先生マジイケメ〜ン』

 

 こういうのもありなのか…オレらは?

 

「次だよ…」

 

「間に合いませんね…」

 

 オレら何もないじゃん!

 

『滝 昇』

 

 呼ばれちゃった。仕方ない…とオレが立とうとした瞬間、麗奈が立ち上がった

 

「先生、好きです!」

 

 おー!言った!いやいや、1人はさすがにダメじゃね?オレもすぐ立ち上がり

 

「先生、最高〜!!!」

 

 大声でそう言い放った。これ結構くるな…

 

「高坂!春希!ナイスファインプレー!」

 

「助かった」

 

 リボンと中世古先輩がオレ達にそう言ってくる。やめてくれ…余計恥ずかしい……

 

 その後指揮者全員に賞が渡されいよいよ…

 

『お待たせしました。高等学校後半の部の成績を発表します』

 

 みんながそれと同時に手を合わせ祈るように北宇治の番を待っている

 

『1番、ぎがん商業高等学校、銀賞』

 

 \パチパチパチパチ/

 

『表彰状、高等学校後半の部、ぎがん商業高等学校…』

 

「ねぇハル」

 

「ん?どした?」

 

 審査委員の人の言葉を聞いている中、みぞれが唐突に話しかけてきた

 

「高坂さんって先生のこと好きなの?」

 

「あぁ、オレの口からは何とも…」

 

「それ肯定してるのと同じだよ?」

 

「ヤベッ!いいから、今は集中しろ!」

 

 いきなり何の話かと思えば…

 

『2番、かたしき高等学校、ゴールド金賞』

 

『きゃー!!』

 

 呼ばれた学校のやつらの歓喜の声が上がる

 

 次か…

 

『3番、北宇治高等学校…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みぞれ」

 

「…?」

 

 みぞれはオレの方を向く

 

「来年、絶対金獲るぞ!」

 

「うん!」

 

 

 オレ達北宇治高校は“銅賞”に終わった

 




そして、次の曲が始まる

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