響け!オーボエカップル   作:てこの原理こそ最強

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第26話

 

「皆さんも既に聞いていると思いますが、無事田中さんがコンクールに出場できることになりました」

 

「結局みんなに迷惑かける形になってしまって本当にすみませんでした。これから本番まで必死に練習していい演奏したいと思います。よろしくお願いします」

 

 \パチパチパチパチ/

 

 副部長はそう言って頭を下げる。まぁ戻れてよかったですね

 

「なんか随分真面目な挨拶だな〜。性格変わった?」

 

「そうですね、ちょっぴり大人になったのかも♪」

 

 副部長は橋本先生の質問にそう答えて黄前さん、次にオレの方を向く

 

「確実に良くなってきたように思いますが、慢心はいけません。決して思い上がらず最後まで向上心に持って練習に励んでください」

 

「ラストスパートかけるぞ!」

 

『はい!!』

 

 橋本先生の鼓舞に大きく返事するみんな。ここからは1つ1つの練習がすごく重要になってくるな

 

 

 

 

 

 

 

 ーパート練ー

 

 全体練習が終わってそれぞれのパート練に入る前に確信はないが麗奈が少し元気がないように思えた

 

「高坂さんが?」

 

「うん、なんとなくだけどな」

 

「何かあったのかね」

 

「オレ達パートも違うし、みぞれに関してはあんま接点ないからな」

 

「うん」

 

「黄前さんにでも聞いてみるか…とりあえず今は練習に集中だな」

 

「うん」

 

 考えるのは後にして今はパート練に集中する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー帰りー

 

 今日の部活が終わりオレはさっき思ってたことを確認するために黄前さんを訪ねようと思う

 

「みぞれは先帰っててもいいぞ?」

 

「一緒に行く」

 

「わかった」

 

 オレは別に1人でもよかったんだがみぞれが来るって言うから一緒に行くことにした

 

 

 

 ー低音パート教室ー

 

 いつも低音パートのユーフォやチューバ、コンバスが練習している教室に行ってみたが、もう誰もいなかった

 

「もう帰ったかな …」

 

「なら明日の朝でいいんじゃない?」

 

「それしかなさそうだな…じゃあ帰るか」

 

 黄前さんがいないんじゃ仕方ないから、オレは諦めて帰路につこうと学校を出て校門を抜けようとすると

 

「あれ、黄前さん」

 

「あ、春希先輩に鎧塚先輩」

 

「お疲れ様です」

 

「どうもです」

 

「加藤さんに川島さんまで」

 

「こんなところで何してるの?」

 

「えっと、あはは…」

 

「まぁいいや、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

「え、私にですか?」

 

「麗奈に何かあったか知らない?」

 

「春希先輩も気づいたんですか」

 

「も?」

 

「私も麗奈になんか避けられてる感じがするんです…」

 

「原因は?」

 

「それが全く見当がつかなくて…」

 

「そっか」

 

 黄前さんがわからないとなるともう直接本人に聞くしかないな

 

「それで3人はなぜここに?」

 

「麗奈に事情を聞こうかなって待ってるとこです」

 

「あぁ、そういうことね」

 

 するとそこへ

 

「来ました」

 

「あ、麗奈今帰り?よかったら一緒に帰ろ…」

 

「悪いけどこの後用事あるから」

 

 キッパリと断られてしまった。しかもオレとみぞれにあいさつもせずに

 

「フラれたね〜」

 

「久美子ちゃん!追いかけて!」

 

「いや、でも…」

 

 その後黄前さんは麗奈を追いかけることなくオレ達はみんな駅に向かうということなので5人一緒に帰宅中だ

 

「確かにちょっと変な感じだったね。なんか嫌なことでもあったのかな」

 

「わかりません…でも麗奈ちゃんが何の理由もなしにあんな態度取るとは思えません」

 

「そうかな…」

 

「えっ?」

 

「麗奈って結構めんどくさいとこあるからなぁ。些細なことに拘るというか」

 

「そういえば昔からそういうやつだったなぁ」

 

「あっ!私は悪くないなんて言ってないですよ!?」

 

「誰もそんなこと言ってない」

 

「ただ…」

 

 そこで気づいた。信号渡りそびれた…

 

 

 

 オレはその後の帰りはずっと麗奈のことを考えていた

 

「…ハル」

 

「…あっ!わりー、どうした?」

 

「隣に彼女がいるのに他の女のこと考えてる」

 

「ブッ!!お前そんなこと言うキャラだっけ…?」

 

「言ってみたくなった」

 

「勘弁してくれ、心臓に悪い…」

 

「ふふっ、気になるなら聞いてみれば?」

 

「それが聞いてもいいことなのかわからないから困ってるんだよ」

 

「あすか先輩にはあんなにズカズカと言ったのに?」

 

「…なぜみぞれが知ってる……?」

 

「今日あすか先輩から言われた。ハルにコテンパンに言われたって」

 

 あの人は!なんでみぞれに言うかなぁ…

 

「でもありがたかったって」

 

「…そっか」

 

「だからハルなら大丈夫」

 

「どこから来るんだよその根拠。でも、ありがとな」

 

 オレはそう言ってみぞれの頭を撫でる

 

 

 

 

 

 

 

 オレは家に帰って頃合いを見て麗奈に連絡してみることにした

 

『もしもし』

 

「麗奈か?オレだ、春希だ」

 

『わかってますよ。何か用ですか?』

 

「いや、お前に何かあったのかなぁって」

 

『…なんでもないです』

 

「なんでもないわけないだろ」

 

『…』

 

 返答がない

 

「いったいどうしたんだよ」

 

『…先輩は、滝先生の以前からのお知り合いでいたよね?』

 

「ん?まぁな」

 

『じゃあ、滝先生の“奥さん”のこと…知ってましたか……?』

 

「…あぁ」

 

「私、滝先生のこと好きなんです」

 

「…」

 

 マジか…薄々気づいてはいたけどホントだったのか……

 

『そのことは久美子も知ってるんですけど…久美子、滝先生に奥さんがいることを私に黙ってたんです……私は言ってほしかったのに…』

 

「そのことを黄前さんとは…?」

 

「話してません…」

 

「それはダメじゃないのか?黄前さんにだって言わなかった理由があるかもしれない」

 

『…』

 

「だから今すぐにでも会って話せ。黄前さんなら来てくれる」

 

『…はい、ありがとうございました』

 

「おう」

 

 オレはそこで電話を切った。後は黄前さんに任せるしかないな…この頃黄前さんに任せてばっかで、ダメな先輩だなオレ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー翌日ー

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

 パンパン

「弱い…弱いです。全然弱い」

 

「すみません…」

 

 今日は麗奈が絶不調だ

 

「集中できていませんね。やる気はあるんですか?」

 

「…あります」

 

「では、すぐに立て直してください」

 

「はい…」

 

「では、Hからもう一度」

 

 大丈夫かねぇ…確かにオレも今みぞれにフラれたりなんかしたらあんな感じになりそうだなぁ

 

 

 

 

 

 

 全体練習を終えパート練になったが、オレは気になったので一旦抜けて麗奈のところに行ってみた。しかし既にそこには

 

「なんだ、いい音出てるじゃない」

 

「優子先輩…」

 

「ここんとこ、ずっと集中切れてるでしょ?」

 

「…」

 

「…香織先輩も心配してたから、何かあるなら話してよ。私じゃ話しにくいかもしれないけど」

 

 あいつが麗奈の心配!?何があった…

 

「…ありがとうございます。すいません、立て直します」

 

 ♪〜

 麗奈はリボンに感謝の言葉だけ言って再びトランペットを吹き始める

 

 戻って来たリボンにオレは

 

「いい先輩じゃん」

 

「うっさい」

 

 あいつもコンクールのことを考えていろいろ気を回してるんだな

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーまた翌日ー

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

 あれから麗奈は表情が変わることなく音も一切乱れなくなった。むしろ音が以前よりも力強くなった気がする。

 

「各自早め早めの行動を心がけてください。では各係ごとに集まって当日の行動の確認を行ってください」

 

 部長からの指示でみんなが移動する中、オレも移動しようとすると麗奈がやってきた

 

「春希先輩」

 

「どうした?」

 

「これが終わった後少し時間いいですか?」

 

「ん?まぁ少しなら」

 

「ありがとうございます。では後で」

 

 オレは何かなと考えているとみぞれが覗き込んできた

 

「…告白?」

 

「んなわけねぇだろ」

 

「わからない」

 

「…安心しろ。オレにはみぞれだけだ」

 

「…うん///」

 

 なぜかそんなことを考えて不安そうになるみぞれをオレは優しく撫でる。みぞれは頰を赤くしているが嬉しそうだ

 

 

 

 

 ー玄関口ー

 

「先輩、ありがとうございました」

 

 麗奈はいきなり頭をさげてきた

 

「いや、それを言うなら黄前さんにだろ」

 

「久美子にもちゃんと言います。でも先輩には久美子と話すきっかけをいただきました。なので…」

 

「わかったから頭を上げろ」

 

 オレの言葉を聞き麗奈は頭を上げる

 

「その様子じゃ滝先生の奥さんのこと聞いたみたいだな」

 

「はい。あと“春希先輩に助けられた”とも言ってました」

 

「うわ〜、その話したのか昇さん」

 

 昇さんは奥さんが亡くなって吹奏楽から離れていった時期があった。それは仕方ないことだとオレも思ったが、昇さんの奥さんに亡くなる前に昇さんがいないところで言っていたことがあった。「あの人に私の夢を叶えて欲しい」と…オレは奥さんの最後の願いを叶えてあげたいと思い、そのとき楽器すら見ようとしなかった昇さんを殴ってでも戻ってこさせた

 

「やめてくださいって言ったはずなんだけどなぁ…」

 

「でも感謝してましたよ」

 

「はぁ、まぁいいけど。もう大丈夫なのか?」

 

「…完全に大丈夫とは言い切れませんが、覚悟はできました」

 

「オッケーだ。絶対全国で金獲るぞ」

 

「はい!」

 

 オレ達はそこで解散…とはならず、今日みぞれはのぞみ達と帰ったので麗奈と駅まで一緒した

 




そして、次の曲が始まる

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