響け!オーボエカップル   作:てこの原理こそ最強

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第24話

 昇さんから副部長がこのまま部活に参加できなかったら全国大会には夏紀に出てもらうという報告を受けた帰り道、オレもみぞれも平然としているが2人とも内心不安になっていた

 

「どうなっちゃうのかな…」

 

「さぁな、副部長次第だろ。相手が親じゃ時間かかるかもしれないけど」

 

「滝先生の判断は正しいと思う?」

 

「う〜ん…確かに全国目指してるのにこんな浮ついた状態じゃいけないとは思うけど、副部長と全国で演奏したいって気持ちがないわけじゃないしな」

 

「難しいね」

 

「そだな」

 

 オレもみぞれも視線は変えず前を向いて歩いている。考えないようにしていてもどうしても副部長のことが気になってしまう

 

 

 

 

 

 

 ー翌日ー

 

「ではもう一度」

 

 今日の部活には新山先生が来てくれている

 

「3、4…」

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

 副部長は今日も部活には来ず、夏紀の譜面には副部長からのたくさんのアドバイスが書かれてるそうだ。これはホントにもう来ないことを意味しているのか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー放課後ー

 

「えっ、“あすか先輩取り戻すぞ”大作戦…?」

 

「そ!」

 

「なんですか?その作戦…」

 

「あっ、言っとくけど作戦名決めたの香織先輩だから」

 

「す、素敵な作戦名ですね…」

 

 黄前さんわかりやすすぎ。中世古先輩はネーミングセンスないんですよ…

 

「話は夏紀から聞いてる。来週副部長の家に勉強教えてもらいに行くらしいじゃん」

 

「無理です!」

 

「まだ何も言ってねぇよ」

 

「そこでお母さん説得して来いって言うんですよね!」

 

「…まぁ、ね」

 

「無理ですよ!無茶言わないでください…」

 

 そう言って勢いよく立ち上がる黄前さんの肩にポンッと手を置く夏紀

 

「大丈夫、香織先輩からいいもの貰ってるから」

 

 夏紀はスカートのポケットからなんか可愛い手紙を出して黄前さんに見せる

 

「駅前幸富堂の栗饅頭がオススメだよ、なんですかこれ…?」

 

「あすか先輩のお母さんの好物なんだって。これさえ持っていけば全てオーケー」

 

 んなわけあるか!

 

「私の目を見て言ってください」

 

「オーケー…」

 

 目をそらすな!

 

「はぁ…」

 

「苦労をかけるね」

 

「なら春希先輩言ってくださいよ〜」

 

「オレはみぞれ以外の女性の家に上がるのは忍びない」

 

「何ですかそれ…」

 

「とにかく本当にここまでうまくやって来たよ。高坂さんのときもみぞれのときも」

 

「私は何も…それを言うなら春希先輩の方が…」

 

「そんなことないぞ、黄前さん」

 

「そうだよ、どうしてあすか先輩が黄前ちゃんを呼んだと思う?」

 

「…わかりません」

 

「私は黄前ちゃんなら何とかしてくれるって期待してるからだと思う」

 

「そんなことないです!それにそれでもしあすか先輩が戻ってきたら、夏紀先輩吹けなくなります」

 

「おバカ、夏紀がそんなこと考えてこんな話すると思うか?」

 

 黄前さんは黙って俯く

 

「私はいいの。来年もあるし…今この部にとって一番いいのはあすか先輩が吹くことなんだから」

 

「それは、夏紀先輩の本心ですか…?」

 

「…黄前ちゃんらしいね。うん、本心だよ」

 

「夏紀!春希!終わった?」

 

 夏紀がそう言うと後すぐに、のぞみとみぞれがやって来た

 

「ありゃ、来たんだ」

 

「もう!こっちから行くって言ってたのに!」

 

「のぞみ先輩、鎧塚先輩…」

 

 のぞみとみぞれは黄前さんの前まで来て告げる

 

「伝えて欲しい、あすか先輩に。待ってますって」

 

 みぞれの言葉に黄前さんは固まる。いや、いろいろ考えてくれているんだろう。俺にはそう感じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー帰り道ー

 

「そんなことを…」

 

 さっきオレが言ったことを夏紀がみぞれとのぞみに話した

 

「そういえば春希、前に私の家に来たことあったよね」

 

(ギクッ!)

 

「あぁ、うちにも来なかったっけ?」

 

(ギクッ!!)

 

「ハル…」

 

 表情を変えないでみぞれがこっちを見て来た

 

「ち、違うんだみぞれ!のぞみのときはみぞれにどう告白するか相談に乗ってもらってただけで!夏紀に至ってはこいつが休んだときにプリントを届けに行ったら夏紀のお母さんが上がってけって言うから!!断じて浮気とかじゃないから!!!!」

 

「…ふふっ、ハル慌てすぎ」

 

 オレが必死に弁解しようとしてる姿が面白かったのか、みぞれは笑い出した

 

「別に大丈夫だよ。私はハルのことを信じてるから」

 

「みぞれ…」

 

「へぇへぇ、今日もお熱いことで…」

 

「じゃあみぞれ、春希が私にどんな相談してきたか聞きたい?♪」

 

「え!?ちょっ!おい!!」

 

「…聞く」

 

 おいおいみぞれ!のぞみも何言い出してんだよ!!

 

「ならオレは先に帰る!!」

 

 オレは恥ずかしくなって逃げるように走る

 

「ハル」

 

 でもオレの後をみぞれが走って帰ってきているが、追いつけるわけがない。オレは止まってみぞれを受け止める

 

「…ど、どうした?」

 

 オレは昔のことを思い出して恥ずかしくってみぞれの顔を見れなかった

 

「冗談だから。一緒に帰ろ…?」

 

「…あぁ」

 

 その後からのぞみと夏紀も追いついてきた。そして2人からも軽く謝られて一緒に帰っていった

 

 

 

 

 

 

 

 ーテスト勉強週間ー

 

 今日からテスト前期間となり部活も早めに終わるようになった。それと同時になぜか親が出張で1週間ぐらい家を空けるみたいだ。つまりこの1週間家には1人きりだ。別に寂しくはない、逆に静かで集中できるな

 

 学校も終わり家に帰って家事やら何やらを済ませるともう既に時計の短針は8を指していた

 

「うわっ、もうこんな時間か。なんで人間てテスト前とかテスト期間中に部屋の模様替えしたくなるんだろう…」

 

 女子か!と自分にツッコミを入れて夕食の買い物に出ようとしたとき…

 

 ピンポーン

 家のチャイムが鳴った

 

「はーい(こんな時間に宅配か?)」

 

 ガチャ

 玄関のドアを開けるとそこには見知った顔の人が立っていた

 

「…みぞれ?」

 

「えっと、こんばんわ」

 

「お、おう。まぁ立ち話もなんだからどうぞ…」

 

「うん、お邪魔します」

 

 オレはなぜみぞれがここにいるのかと困惑している中、みぞれを中に入れる。そしてリビングに案内しイスに座らせとりあえずお茶をコップに注いでみぞれの前に出す

 

「ほれ」

 

「ありがと」

 

「それで、どうしたよ」

 

 オレはみぞれの向かい側に座りどうしてこんな時間に来たのか聞いてみた

 

「ハルが今日から1週間1人だって言ってたから」

 

「言ったな」

 

「だから…泊まってもいい?」

 

「…」

 

 オレは一瞬固まった

 

「はい?」

 

「…ダメ?」

 

「いや、ダメとかじゃなくて…」

 

「大丈夫、お母さんには許可もらってきた」

 

「だからそんな大きい荷物持って来たのか?」

 

「うん」

 

 最初からみぞれの大荷物に気になっていたがこれで解決した

 

「はぁ…まぁもう来ちゃったし、追い返すわけにもいかないからな」

 

「じゃあ…」

 

「あぁ、いいよ。でもなんでだ?」

 

「ハルとも勉強会したかったから」

 

 そういうことね。それで異性の家に泊まりに来るとか、みぞれってたまに積極的だな

 

「…迷惑だった?」

 

「そんなわけあるか。嬉しいよ」

 

「よかった」

 

 これまで少し不安げな顔をしていたみぞれに笑顔が見れる

 

「後でみぞれのお母さんに連絡するとして、みぞれはもう夕飯食べたか?」

 

「まだ」

 

「じゃあ買い物行こうぜ。正直この家の冷蔵庫にはほとんど何も入ってない…」

 

「わかった」

 

 オレはこうしてみぞれのいきなりのお泊まり発言にビックリしつつも内心みぞれと一緒に入れて嬉しい感情のまま、みぞれと一緒に夕飯の買い物に出かけた

 

「何食べたい?」

 

「ハルの作るのならなんでもいい」

 

「そっか。今日はあんま時間ないからオムライスかな」

 

「うん」

 

「あと風呂上がりのこれかな?」

 

 オレはそう言ってラムネを手にとってみぞれに見せる

 

「っ!」

 

 みぞれは相当嬉しいのか目を見開いて力強く頷く。みぞれ炭酸系好きだもんなぁ

 

 

 

 

 

 

 買い物を終えたオレ達は家に帰ってオレが料理をしている最中にみぞれは荷物の整理をし、夕飯を食べ、みぞれが風呂に入っている間にみぞれのお母さんに連絡をした。なぜか「これで将来は安泰だわ♪」とか言ってたけど、冗談だよね?冗談であってほしい…まぁそれは一旦置いといて、みぞれの後にオレも風呂に入り、今はオレの部屋で一緒に勉強をしている

 

「夏休み明けてからのだから範囲が狭いな」

 

「うん」

 

「みぞれは何か不安なものとかあるのか?」

 

「化学かな」

 

「あぁ、オレも嫌いだ」

 

 オレは根っからの文系なんだ

 

 その後11時半くらいまで勉強してオレは部屋から出て行く。オレの部屋をみぞれに貸すからだ。部屋を出ようと立ち上がるとみぞれと目が合ってなんで出て行くの?みたいな顔されたから一応聞いてみた

 

「どうした?」

 

「ここで寝ないの?」

 

「さすがに思春期の男女が1つの部屋で寝るのはマズいだろ。オレのベッド使っていいからみぞれはここで寝な」

 

 そう言って部屋のドアを開けようとすると服の裾を掴まれた

 

「ん?」

 

「…一緒に寝よ?」

 

 振り返るとみぞれが上目使いでオレにお願いしてきた。それはズルい…

 

「…寝相悪いかもよ?」

 

「大丈夫」

 

「…」

 

「…ダメ?」

 

「…のぞみとかに言うなよ?」

 

「うん」

 

 オレは観念して一緒に布団に入る。みぞれの上目使いでお願いされたら断るの不可能…

 

「じゃあ消すぞ」

 

「うん」

 

 電気を消して暗くなると余計にみぞれを意識してしまう

 

「おやすみ、ハル」

 

「あぁ、おやすみ」

 

 オレ、寝れるかな…

 




そして、次の曲が始まる

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