響け!オーボエカップル   作:てこの原理こそ最強

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第17話

 ー合宿2日目ー

 

 この合宿では演奏だけではなく基礎の基礎までやるらしい。朝のミーティングでは呼吸と発声練習をする

 

「じゃあ呼吸から」

 

『ふ〜』

 

「大きく吸って吐いてー」

 

 その後パート練が入り、午後はひたすら合奏が続く

 

「では10回通しに入ります」

 

『はい!』

 

 10回通しというのは課題曲と自由曲を合わせて10回通しで練習するというものだ。2曲合わせて約12分、1回2分の休憩を入れて計120分以上はかかる。最後の方はみんながバテバテの状態になる

 

「では20分休憩にします」

 

「ふぇ〜」

 

「20分かー、ちょっと吹いてくるかな♪」

 

「えっ!」

 

「すげぇな」

 

 みんながバテている中まだ吹く余裕が残っている副部長

 

「ほれみぞれ」

 

「…ありがと」

 

 オレは自分が飲んでいた水をみぞれに渡す。でもすぐには飲まず口元を見ている。あぁ…

 

「もしかして昨日のこと思い出してんのか?」

 

「…」

 

 あ、黙った。図星か

 

 その後も演奏は続いた

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

「今の感じで良いですがこの曲は単純なbフラットメジャーが随所にある曲です。そこを綺麗に合わせるよう意識しましょう」

 

『はい!』

 

「あとスネアーが少し後ろに感じるよ!もっと前に」

 

「はい!」

 

「それとーティンパニー!」

 

「はい!」

 

「今のところワンテンポ早かったろ!」

 

「はい…」

 

「今そんなことやっててどうするのー。罰金ものだよ」

 

「はい!」

 

 橋本先生はホント指導のときとそうでないときですごい変わるなぁ

 

「ではもう一度頭から。チューバ!ゲスの音、広くとりすぎています。指は回ってますが口が間に合っていません。テンポを早めたらこの有り様ですか?」

 

 ♪〜♪〜♪〜

 

「はい、そこまで。ここは今の演奏を心がけてください。ユーフォ」

 

「「はい!」」

 

「関西大会は今のところを…“2人”で吹いてください」

 

「はい!」

 

「…!」

 

「黄前さん」

 

「ひゃい!?」

 

「返事は…」

 

「…はい!」

 

 黄前さんやったな!

 

「先生方は何かありますか」

 

「正直君達はどんどん上手くなってる。強豪校に引けをとらないぐらいにね。特にオーボエの2人!」

 

「へ?」

 

「…?」

 

 橋本先生がいきなり熱弁したと思いきやなんか褒められた?

 

「この2人は何と言っても表現力がうまい!しかし他のみんなはまだ足りない!それが強豪校との決定的な差だ!北宇治はどんな音楽を作りたいか、この合宿ではそこに取り組んでほしい!」

 

『はい!』

 

「橋本先生もたまにはいいこと言いますね」

 

「いやーたまには余計だろ?僕は歩く名言集だよ」

 

 あははは…なんか言ってるよあの人

 

「それにしてもオーボエの2人は息ピッタリすぎて逆に気持ち悪いよ」

 

「…それは褒めてるんですか?」

 

「もちろん!なに?恋人同士だったりする?」

 

「そうですよ。あ、手出さないでくださいよ?みぞれはオレのなんで」

 

 オレはそう言ってみぞれを抱き寄せる。今のセリフめっちゃクサいな…

 

「あはははは!」

 

「うぉ〜、かっくいい」

 

「副部長その顔やめてください」

 

 パンパン

「はい、そこまでです。橋本先生も生徒をからかうのはやめてください」

 

「いやー失敬失敬」

 

「では最初からいきます」

 

 みぞれの方を向くと少し恥ずかしがってるが顔は笑顔になってる。うん、可愛い!

 

 

 

 

 

 

 

 ー夜ー

 

 今日は夕飯後に花火をするそうだ

 ちなみに夕飯は麻婆豆腐だった

 

 オレが1人ポツンと座っているとみぞれが花火を持ってやって来た

 

「…やろ?」

 

「おう」

 

 みぞれが持って来たのは線香花火だった。オレはそれに火をつけて輝く線香の光を見ている

 

「なんか落ち着くな」

 

「…そうだね」

 

「今日褒められたな」

 

「…うん」

 

「やっぱりオレだけじゃなくてみぞれも一緒にってなるとより嬉しいよ」

 

「…私もハルと一緒で嬉しい」

 

「それじゃあ言葉足らずじゃね?」

 

「…?」

 

 首をかしげるのやめて。可愛いから

 

 それからしばらくして花火は終了した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんなが就寝する頃、オレは眠れなくて夜風に当たろうと外に出ていると…

 

「だから関係ないってば!」

 

 ん?リボン?

 角を曲がったところからリボンの声がした

 

「なんでのぞみが戻っちゃいけないのさ!」

 

「だから知らないってば!」

 

 …のぞみ

 

 オレは声の方に向かう

 

「夏紀…」

 

「っ!」

 

「春希…」

 

「…のぞみが戻ってくる?」

 

「春希…いつから」

 

「今さっき。それよりものぞみが戻るとか言ってたか…?」

 

「…うん」

 

 優子は完全に困惑した顔になっている。夏紀もオレの声のトーンでなのかすごく強張っている表情をしている

 

「…それマジありえないから」

 

「っ!なんで!?」

 

「はっ?逃げ出した奴が今更戻ってくるとか虫が良すぎる」

 

「…でも!」

 

「それに辞めないで頑張った奴に失礼だ。だからあいつの復帰はありえない」

 

 オレはそう言い残してその場から遠のく

 

 

 

 

 

 オレはその日一睡もできず、次の日の合宿最終日も大きなミスはなかったものの集中力にかけていた

 

「…ハル、どうしたの?」

 

 今日の演奏を聴いていつもと違うのを悟ったのか、みぞれが聞いてきた

 

「いや、大丈夫だ」

 

「…ホントに?」

 

 みぞれは心配そうな顔でオレを見上げる

 

「…じゃあ、ちょっといいか?」

 

「…っ!!」

 

 オレはみぞれの腕を掴み勢いよく引き寄せ抱きしめる

 

「…少しこのままでいさせてくれ」

 

「…うん」

 

 その後3分ぐらい抱きしめていただろうか

 

「ありがと、もう大丈夫だ!」

 

「…ホント?」

 

「あぁ、みぞれのおかげだ。ありがとな!」

 

「ならいいけど」

 

 そうだ、みぞれを悲しませることは絶対にやっちゃいけねぇんだ!

 




そして、次の曲が始まる

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