まだ日が完全に登っていないうえ新聞屋さんが朝刊を配り始めるぐらいの時間、オレはみぞれの家の前に立っている
今日はとうとうコンクール本番。10日なんてあっという間だった。だがその10日の間も充実した練習ができたと思う
そうこうしていると今日はコンクールのため正装、つまり冬用の制服を着ているみぞれが玄関から出てきた
「おはようみぞれ」
「おはようハル」
「暑そうだな」
「…今はそうでもないかも」
「んじゃあ行くか」
「うん」
朝の挨拶を軽くに済ませ学校へ向かう
ー学校ー
はっきり言って来るのが早すぎた。今何時と腕時計を見るとまだ6時になっていなかった
「…早すぎたな」
「…そだね」
「少し吹くか」
「うん」
オレとみぞれはいつも朝練をしている教室へ向かう
「準備いいか?」
「大丈夫」
「…」
「…」
「なぁみぞれ」
「…なに?」
「いよいよだな」
「うん」
「約束する。今日は今までで一番いい音聴かせてやる!」
「…うん。楽しみにしてる」
「じゃあやるか」
「うん」
♪〜♪〜
朝の光が強くなって青く見えてきた空に向かってオレ達の音は響いていく
ー音楽室ー
みんなが集まり出してそれぞれが楽器の用意をしていく。一番大変なのはパーカスだろう…持って行くものたくさんあるだろうし
そして準備がひと段落ついたところで
「はーい。みんな聞いてー。各パートリーダーは自分のメンバーがいるか確認してください」
これは点呼のようなものだ
ここで人がいないなんてことになったら騒ぎになることじゃすまないぞ…
「トランペット」
「全員います」
「パーカス問題なし」
「フルート全員います」
「クラ揃ってます」
「ファンゴット、オーボエ大丈夫で〜す」
「トロンボーン揃ってま〜す」
「低音オールオーケー」
「えっとサックスも大丈夫」
「はい、わかりました」
全員いるみたいだな
「えっと、7時過ぎぐらいにトラックが到着するみたいです。楽器運搬係の指示に従って速やかに楽器を移動させてください」
『はい!』
「楽譜係」
「はい。今から譜面隠しを配ります」
「受け取ったら各自無くさないようにね」
楽譜隠しないと譜面にメモしてるのがバレバレなんだよなぁ。特に女子は楽譜に応援メッセージと書くよな
「ほれみぞれ」
「ありがと」
譜面隠しをみぞれに渡し、オレは楽器運搬の手伝いに行く
ー校門ー
楽器の積み込みも終わり、今は松本先生からありがた〜いお言葉を頂いているところだ
「全員気持ちで負けたら承知しないからな!いいな!」
『はい!』
「はぁ…はぁ…すいません!お待たせしました」
相変わらず時間に緩いな…
「全員揃ってますか?」
「えぇ」
「そうですか」
「先生!ちょっといいですか?」
「どうぞ」
「森田さん」
ん?
「はい!中川」
「うん」
夏紀?
「えぇ、私達サブメンバーのチームモナカが皆さんへのお守りを作りました。今から配りますからどうぞ受け取ってください」
「イニシャル入りです」
『おぉ!』
すげぇな。こりゃあ一層頑張んないとな!
「ほれ春希。みぞれも」
「お、サンキュー」
「…ありがとう」
「2人のはお揃いだから」
「わかってんじゃん」
「…どうも」
オレとみぞれには夏紀がくれた。夏紀の言った通りオレとみぞれのお守りの模様は一緒でイニシャルが違うだけだった
「みんなもらった?」
『はい』
「毎日遅くまで練習する中全員分用意するのはすごく大変だったと思います。ありがとう、拍手」
\パチパチパチパチ/
「それではそろそろ出発します」
「小笠原さん」
「はい?」
「部長から皆さんへ何か一言」
「えっ!私ですか!?」
「よっ!待ってました部長様!」
「茶化さないの!」
いきなりふられて驚く部長とそれを茶化す副部長
「えっと、今日の本番を迎えるまでいろんなことがありました。でも今日は、今日できることはいままでの頑張りを、思いを全て演奏にぶつけることだけです。それでは皆さんご唱和ください。北宇治ファイトー!」
『おー!』
「さぁ!会場に私達の三日月が舞うよ!」
『おー!!!』
部長の一言、そして副部長の喝によりみんなのボルテージは最高まで達した
「はしゃぎ過ぎだ!」
と思ったら今度は松本先生から喝をもらった。厳しいでしょ!
ー会場ー
「はーい。各パートリーダーは人数がいるか再度確認。終わったら各自楽器の準備をしてください」
『はい!』
会場はこの前のホールより大きかった。そして当たり前だが他校もいる。強豪とかそういうのがわからないがみんなこの日のために練習を頑張ってきたのだろう
「そろそろ移動しまーす」
ー多目的ホールー
「ではこのドアを閉めたら音出しオーケーです」
案内の係の人に連れてこられたのは音の調整用のホールみたいだ。ドアが閉まったと同時にみんなはそれぞれチューニングを始める
♪〜
「音合ってない…」
「大丈夫大丈夫」
「よく聴いて」
♪〜
「ちょっと高いかも」
パートごとだったり自分でだったり各々がそれぞれのチューニングをしていく
♪〜
「…大丈夫だな」
「うん」
オレとみぞれのチューニングもOKだ
そして全体のチューニング
♪〜
うん、みんな大丈夫だ
「よろしいですか?」
『はい』
「えっと〜、実はここでいろいろ話そうと考えてきたんですが…あまり私から話すことはありません」
ですよね〜なんとなくわかってた
「春、あなた達は全国大会を目指すと決めました。向上心を持ち、努力し、音楽を奏でてきたのは全て皆さんです。誇ってください。私達は“北宇治高校吹奏楽部”です」
話すんかい!まぁそのおかげでみんなに笑顔が戻ったな
「そろそろ本番です。皆さん、会場をあっと言わせる準備はできましたか?」
『…』
沈黙
「初めに戻ってしまいましたか?私は聞いているんですよ?会場をあっと言わせる準備はできましたか?」
『はい!!!』
「では皆さん、行きましょう」
昇さんは会場へのドアを開け
「全国に」
ー待合室ー
あるところでは
「緊張する…」
「大丈夫。うまく行く」
「…うん!」
またあるところでは
「普段通りに行こう」
「うん」
みんな緊張しないわけがない
そして…
\パチパチパチパチ/
会場から拍手が起こる。前の学校が終わったみたいだ
オレはみぞれの頭の後ろに手をやり額同士をくっつける
「やるぞみぞれ」
「…うん」
「楽しもうな」
「…うん」
そして額を離し
「オレはみぞれのために」
「私はハルのために」
「今日は最高の音奏でようぜ!」
「うん!」
最後に恒例のやつをやって準備は万端。気のせいかみぞれの頰は赤く見えたが問題ないだろう
そして…
「北宇治の皆さんどうぞ」
いよいよだ
いい緊張感の中指定の席に座り楽譜を広げる
明かり点灯
『プログラム5番、北宇治高等学校吹奏楽部。課題曲4番に続きまして自由曲堀川奈美恵作曲“三日月の舞”。指揮は滝 昇です』
アナウンスによって課題曲と自由曲、そして昇さんの説明がなされた
\パチパチパチパチ/
一礼して振り向いた昇さんはオレ達を一回り見て腕を挙げる。そしてみんなは楽器を構える
♪〜♪〜♪〜
オレ達北宇治高校吹奏楽部の演奏が、今、始まった
3分25秒
練習のときと同じタイムで課題曲が終了し続いて自由曲へ
一旦降ろされた昇さんの腕が挙がり、再び全員が構える
♪〜♪〜♪〜
出だし好調!みんなが完全に1つとなって合奏している
そしてオーボエのソロ。今回はみぞれ。ソロに入る前にみぞれと目が合い、オレはその音にの虜になる
♪〜
あぁ、やっぱいいな
そしてその後も順調に進みトランペットのソロに…
♪〜
うん、いい音奏でてる
そしてオレ達の演奏が終了した
\パチパチパチパチ/
鳴り止まぬ拍手を前にオレの心には“満足”の言葉が大きく映し出されていた
ー審査発表ー
「うぅ、めちゃくちゃ緊張する」
「ヤバいよこの緊張感」
仕方ない。みんなそうだ
オレは隣のみぞれと手を握り合っている
「きた!」
舞台の2階から審査結果の用紙が垂らされる。そこには…
金:北宇治高等学校
この文字が堂々と印されている
『やったー!!!』
あるものは隣のやつと抱き合い、あるものは顔を手で覆って肩を震わせる
「…ハル」
「みぞれ」
みぞれは目に涙を浮かべオレに抱きついてくる
だが結果発表はまだ終わっていない
「えぇ、この中で関西大会に出場する学校は…」
その学校名を出した瞬間、会場は湧いた
そして、次の曲が始まる