もう寒さはほとんど感じず逆に暖かさを存分に感じる今日この頃。頭上には桜が咲き乱れ風に花びらを乗せている。天候は晴れ。絶好の登校日より
オレは
学校に着くと前までの学校とは少し違うことに気づいた。朝の学校から楽器の音色が聞こえる
「どうなってんだ?」
そう思いながら耳を澄まして聴いてみる
「あ?これは…」
オレは聴き覚えのある音色を発見する。そしてその音色に笑みを浮かべその音源へ向かう
その音のするのは校舎の2階、オレも馴染みのある部屋の前だ。階段を登り柱の陰からそっと顔の半分だけを出しその音を出している人物を見つけ出す。そこには青がかった髪のロングヘアーで前髪をぱっつんにしていて、楽器を吹いているのに無表情。全然変わってない。だがそれが逆に嬉しい
オレは演奏がひと段落ついたところでその人物に声をかける
「綺麗な音だな」
その一言で向こうはオレが誰だかわかったのか、こちらを向くや否や持っている楽器を椅子に置いてこちらへ駆け出してきた。そしてオレに抱きついて顔をオレの胸に埋めてきた。オレはそこにある頭をそっと撫でる
「おかえりハル!」
「あぁ、ただいまみぞれ」
鎧塚みぞれー同じ学年で同じ吹奏楽部員で…オレの彼女である
「もう大丈夫なの?」
「おう、心配かけたな」
「じゃあまた一緒に吹けるの?」
「あぁ、またよろしくな」
オレから顔を離しオレを見上げるみぞれの顔には笑みが見て取れる。いつもはあまり感情を顔に出さないみぞれがときたまこうやって笑ったりするとめちゃくちゃ可愛い
「そういえば学校、いや"吹奏楽部"なんか変わった?」
「うん。放課後来るんでしょ?」
「皆さんに挨拶しなきゃだしな」
「じゃあそのときにわかるよ」
「そっか。じゃあオレ職員室行かなきゃだからまた後でな」
「うん」
オレは少しさびしそうな表情をするみぞれの頭を撫でそう言う
ー職員室ー
コンコン
「失礼しまーす」
「おぅ堺、ようやく復帰か」
「はい、それでオレのクラスって」
「◯組だ」
「了解です。ありがとうございました」
そう言って職員室から出ようとするとある先生が目に入った
「あれ
「おや、もしかして堺くんですか?」
オレが名前を呼ぶとその見るからに穏やかそうな人が返す
「はい、お久しぶりです!どうしてここに?」
「ここの生徒だったんですね。ここに赴任したからですよ」
「なるほど。昇さんがいるならそりゃあ変わりますよね」
「おや、もう聴かれましたか」
「いえちゃんとは。でも今まで朝吹いてるやつなんて何人かしかいなかったんで」
「そうですか。堺くんは吹奏楽部に?」
「はい。戻ろうと思っています」
「それは心強い」
「光栄ですが贔屓とかやめてくださいよ?」
オレはそうは言いつつ心ではこの人はそんなこと絶対しないと知っている
「もちろんです」
「ではまた放課後に」
「はい。あ、最後に校内では先生をつけてくださいね」
「了解しました、滝先生」
「失礼しました」
懐かしの人に挨拶もしてこれからの高校生活にワクワクが止まらないオレは職員室を後にした
ークラスー
朝のホームルームの時間に先生に呼ばれ教室に入る。転校生かよ…
「堺 春希です。初めての人は初めまして、久しぶりのやつは久しぶり。1週間遅れたけどオレもこのクラスだからよろしく」
パチパチパチパチ
「先生オレの席は?」
「ん?お前の席用意するの忘れたから後ろならどこでもいいぞ」
「おいおい、適当か」
まったくこの先生は1年のときもこんなんだったな
オレは席を決めるため教室の後ろの方を見回すと、こっちを見ながらこっちにおいでと手で招いている子がいる。可愛いかよ
「一緒のクラスだったんだな。また一緒に居られるなみぞれ」
「うん。嬉しい」
「オレもだ」
その子の正体はみぞれだった。なんという運命。楽しくなるのは部活だけじゃないみたいだな
ー放課後ー
今日のところの勉強はついていけた。オレ天才じゃね?まぁそんなことはおいといて…
「みぞれも音楽室だろ?」
「うん」
「じゃあ一緒に行くか?」
「…うん」
そのうんは1回目のうんよりも力強いのがわかった。他のやつじゃ絶対わかんないだろ
「じゃあ行くか」
「うん」
たかが教室から音楽室までの道のり。それだけの距離だがこれまで会えなかった期間があったからものすごく嬉しい
そんなことを考えているとオレの右手が何かに握られた。それはみぞれの手だった。まぁわかってたけど…
「みぞれ?」
「…ダメ?」
「んなわけねぇだろ?」
「…よかった」
そして俯くみぞれ
「…照れてる?」
「…///」
覗き込むと少し頰が赤い
「…可愛いな」
「…バカ///」
オレはそう言って手の握りを強くするみぞれをもっと可愛いと思いながら音楽室を目指す
そして、次の曲が始まる