ちょっ、ブタくんに転生とか   作:留年生

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 後編です。


#09.蜘蛛×人形×怨念

 幻影旅団。強盗と殺人を生業とする危険度Aクラスの賞金首集団だ。

 全員が強力な念能力者で、熟練ハンターですら返り討ちに遭う可能性が高く、体の何処かに数字入りの12本脚の蜘蛛の刺青を施している事から“蜘蛛”とも呼称される。

 

 その一人が今、ミルキの目の前に――、

 

「……いつから、蜘蛛はマフィアンコミュニティの下請け業者になったんだ?」

 

 どうやらクルタ族を襲撃した主犯として登場した。

 

「いつから……か。私が入団する前からだろうね。うちの団長、以下団員の殆どは流星街の出身だから」

 

「……成程。(……あー、そうだった。くそっ、忘れてた……っ)」

 

 流星街。それはこの世の何を捨てても許される廃棄物の処分場となっている地域。

 文字通り何でも捨てることが許され、要らなくなった家電製品から果ては捨て子まで、本当に何でも捨てられる。

 また犯罪者や住居を失った民族も集まることで、多人種の坩堝と化している。

 

 政治的空白地域で公式には無人とされているが、実際は百万単位の人間が住んでいるらしい。

 そんな流星街の人間は、マフィアンコミュニティにとって都合のイイ人間でもある。

 

 この世界の全ての人間には国民総背番号があり、データベースに照会すればどんな人物でも個人情報が特定できるシステムになっている。

 しかし流星街で生まれた人間は社会的な情報を一切持っていない……所謂、存在しない人。

 どんな情報でも足がつかない流星街は、マフィアンコミュニティにとって貴重な人材発掘場。

 マフィアンコミュニティはゴミの投棄という名目で流星街の住人に武器や資金の提供を行う蜜月関係にある。

 

 マフィアンコミュニティの下請け……言えて妙だが、幻影旅団結成時の構成員は全員が流星街の出身者だった。……ということを知識として保有していたミルキは、小さく舌打ちした。

 

(蜘蛛によるクルタ族滅亡事件。……コイツ一人が実行犯ってことか?)

 

 ミルキは詳細まで覚えてはいないが、幻影旅団が実行犯ということは覚えていた。

 だが、原作に目の前の男は居ない。

 原作に行きつくまで、幾度かメンバーは変わった事は覚えているため、その一人だとミルキは推察。

 

(……もしくは、原作乖離の兆候か……。いずれにしても、得体の知れない危険狂人には違いない)

 

 ミルキは賊徒の位置を【凝】で全て確認。ついでに確認できる遠くまで見通したが、目の前の男程のオーラは最低でも300m圏内には無かった。

 だがミルキの実力以上の【絶】で隠れていた場合はこの限りではない。

 

(……もしや師匠、気付いて俺を送り出したのか……?)

 

 己が師は正に超越者。この盤上を隈なく見通していたに違いない。当然、この男の存在も認知し、ミルキが「下位」しか見つけられなかった事を反省するようにと送り出したのだと……。

 

「考え事をしているところ悪いが、こちらにも時間がないのでね。そろそろ君の目を貰うとしよう」

 

 思考というより感動していたミルキは、旅団員がゆったりとした一歩踏みと薄ら寒い気配を臭わせる一言に現実に引き戻される。

 戦場で敵を見失うなど……またシュウジに叱咤されるなと思いながら、ミルキは改めて旅団員を油断なく見据える。

 

「何故……俺の眼球を欲する?」

 

 クルタ族を襲うことは、幻影旅団から与えられた仕事……と見るべきだろう。

 だがそれを放棄する姿勢を示し、ターゲットをミルキに変えた。

 眼球のコレクターという可能性も無くはないが、ミルキは旅団員の揺らめく怪しいオーラが“もっと具体的な理由”を示唆しているように感じた。

 

「私はね、神の人形師なのさ。ああ、君が倒したコイツらもそう。愚作だが、私の作品だよ。適当に近くの村で狩った人間の、ね……」

 

「っ……!?」

 

 ミルキが目を見開く。先程まで確かに賊徒だった“それ”が、光となって消えていった。

 

「もう気付いただろう? 別に隠す事でも無いから言うけど、これが私の念能力。レアな特質系だ。見ての通り、作った人間の記憶や念までコピーできるんだが……」

 

「……制約で、眼球だけは無理……もしくは眼球の持ち主の能力とオーラを相乗できる、か?」

 

 旅団員の台詞を先回りしてミルキが口にする。ピクリと旅団員の眉が動いたのを見たミルキは、遠からずと判断。

 

「……近からず遠からずとだけ、言っておこう」

 

 無論、ミルキは旅団員の言葉を過信しない。

 己の念能力を語るのは自殺行為に等しい。旅団員が語った能力について素直に鵜呑みにするのは軽率ということ。真偽を図る術がない以上、参考程度に留めて置くのが一番だろう。

 しかし……もし本当だった場合、能力の概要を話すことで発動するような制約という可能性も考慮しなければならない。

 念能力者同士の戦闘は、通常戦闘以上に考察力を働かせなければ対応できないのだ。

 

(だが……そうか。アイツらを殴った時の嫌悪感は……)

 

 賊徒を殴った時に、ミルキはいずれも言い表せぬ違和感と嫌悪感を覚えた事を思い出す。

 はじめは賊徒を相手にしているから……と考えたミルキだが、どうやら旅団員の造った念人形を通して旅団員のオーラ質を感知したから……だったようだ。

 念のオーラは生命エネルギーであると同時に、その人の半生をも如実に示す。念能力が、先天的な資質と後天的な経験から成ると考えられる事からも、オーラにも為人が出るのは道理。

 この旅団員の為人は明らかに狂人。胸糞悪い嫌悪を覚える筈である。

 

「……さ。そろそろ、はじめようか?」

 

 旅団員から噴出するオーラの勢いが上がると、ミルキも止むを得ないと臨戦態勢を取った。

 だが、臨戦態勢を取ってはじめて自分の周囲の状況を把握する。

 

「っ! 何をしている! お前達、早く逃げないかっ!」

 

 クルタ族勢が未だに呆然と、ミルキと旅団員を傍観していた。

 バカなのかとミルキは怒鳴り叫ぶ。

 

 念能力者のオーラは、非念能力者に向けられただけでショック死する程に危険な物。

 クルタの大人達は問題無いだろう……が、子供は無力。敵が【堅】を使っているのに、呆然としているなど考えられない危機感の無さ。

 ミルキでなくとも怒鳴りたくなる気持ちは当然と言える。

 

「何を言ってるんだい? 逃がさないよ、緋の目を持ち帰るのは私の入団試験も兼ねているからね」

 

 すると旅団員のオーラの流れが変わった。

 

「ここで失敗するわけにもいかないし、私のコレクションの一部をお披露目しよう!」

 

 旅団員が両手を大きく広げると、その周囲に人型が次々に現れる。

 

「っ……!!」

 

 その内の一人を見たミルキは、目を大きく見開いた。

 

(シルバ……!?)

 

 間違えるハズもない。先日勘当されるまで嫌という程、顔を合わせていたシルバ=ゾルディックが現れた。

 

(……そうか。シルバは過去に蜘蛛の一人を暗殺依頼され、愚痴って帰ってきた事があるが……いや、待て?)

 

 シルバが愚痴を漏らしていたのは、2年前のこと。

 よくよく考えれば時系列が合わない。

 目の前の旅団員が、その後釜として入ったか否かはさておくとしても、欠番補充したのが最近なら人形を作ったタイミングはまた別ということになる。

 

(いや……そもそも、コイツがどうやって人形を作るのか俺は知らない。判るのは、作った人形に使われる眼球が“当人の物でなくてもイイ”ってことだが……)

 

 シルバの瞳は藤色に猫のような縦長の瞳孔。だが、眼前のシルバ人形の瞳は金色。

 昔が金色だったなんてことも無いため、別人の瞳である信憑性が高い。

 

「行け!」

 

(さすがに自我は無いか……!)

 

 先程の賊徒人形も人間味が薄かったが、どうやらそれが人形としての特徴らしい。

 人形達は無表情のまま、旅団員に従ってクルタ族に襲い掛かった。

 だが、一体一体を操作しているわけではなく、動作もコピーしているらしく、動きはかなり機敏で隙が無い。

 

 それに……。

 

(む……なんだ? なぜシルバとあの野獣っぽい奴を動かさない?)

 

 なぜか旅団員はシルバ人形ともう一体を動かさず傍らに置いたままだった。

 人形の中では、一番厄介だと思っていた人形が旅団員の傍に2体。どうやら護衛にあたらせるつもりのようだとミルキは考えた。

 裏を返せば、人形は高い戦闘力を有するが当人は然程大したことはないのだろうと推論できる。

 

 特質系の念能力者は、パワータイプの強化系とは対極の関係にある。

 もちろん身体能力や毒系武具などで簡単に優劣は変動する。ミルキの師など、そんな道理など破壊する勢いの強さを秘めていることからも異論は認めない。

 が、どうやら眼前の旅団員は典型的な特質系のようだった。

 

(兎にも角にも、これは後ろの事を気に掛ける余裕など無いな……)

 

 気に掛ける義理も無いけど……と、ミルキは目の前の2体の人形を警戒していた……その時だ。

 

「君は知っているか? こっちの人形は、今手元に在る一番の傑作! 伝説の暗殺一家、ゾルディックの当主だ!」

 

(知ってるよ)

 

 ミルキは内心ツッコミながら、しかし気分良さそうなのを邪魔するのも面倒だと黙って聞き流す。

 どうやらこの旅団員は自分の能力に大変な自信があるらしい事から、ミルキは旅団員を誘導して情報を聞き出すことにした。

 

「ゾル家の当主? おまえ程度の男が、ゾル家を目の前に人形を作る暇まで作ってもらったと、そういうことか? 馬鹿も休み休み言いやがれ、コラ」

 

 誘導には相手の怒りを買うのが最も手っ取り早い。

 現に軽く挑発を混ぜるミルキの台詞に、旅団員は眉を寄せて如実に不機嫌を露わにする。

 

「……さすがに私もそこまで命知らずじゃない。私の念は、対象者が強く思う者の人形を作り出す……というものだ」

 

 声は冷静そうに聞こえるが、目が明らかに違う。

 何このチョロイさん、本当に旅団員?……とか考えながら、続きを漏らさぬよう聞き耳を立てる。

 

「私が譲り受ける予定の欠番は、ゾルディックの当主に殺されていてね。その対象者というのは、この場合だとウチの団長を差す。その時の記憶を団長に強く思わせることで、この人形を作り上げたのさ」

 

 結論として、この旅団員(仮)は、ペラペラと要らない事まで喋る口の軽い男のようだ。

 だがこれはコチラ側にとっては有益な情報が聴けた。

 無論、それだけ強力な念だけに制約は大きいハズだと、ミルキはまた勝手に喋ってくれないかと期待している……と。

 

「そして! 私のもう1つの念能力ドールキャッチャー! 自身に人形を宿せば、その念能力が使えるのだ!」

 

「な……!」

 

 途端のこと。シルバ人形と野性男が旅団員へと同化……否、吸収されていった。

 ゴォ……と膨れ上がるオーラ。どうやら宿したオーラも自身に相乗できるらしい。

 人形に宿したオーラは元々自分の物と考えれば、何ら不思議ではない。

 

(って! このチョロイさん、チート野郎かよ!)

 

 念能力の集大成と言える【発】の創造には、個人の有する決まった容量の範囲でなさねばならない。

 だが容量は個人によって大きく変わる。また、過度な能力を使うには厳しい“制約”を利用するなりして容量に若干空きを作ることも可能。

 

 旅団員は同質の人形に関する念能力。

 念人形を作り出す事に容量の多くを用い、後は眼球を用いねば使用時間が大幅に減るか消滅する等の制約を設けているのだろうとミルキは推察した。

 

 それでも、やはり特質系。その性能は“特質”の一言に尽きるようだ。

 念能力を覚えて1年足らずのミルキには厳しい相手だった。

 

「ちなみに、もう一人は強化系の旅団員だ。念能力を使えるとは、当然その系統を100%自在に使えるってことでもあるんだよ!」

 

 高まる旅団員のオーラが、自身の証言の裏付けとなっていることはミルキも判る。

 シルバは変化系の念能力者。旅団員は2種類の念能力を100%扱えるということ。更には、六性図で隣り合う放出系や具現化系にも少なからず恩恵を受けているということに違いない。

 恐るべき異常能力。増大したオーラは、それだけで森を吹き飛ばす程の威力をミルキのオーラを削ぎ落としていく。

 

「そうか……」

 

「?」

 

 しかし、なぜだろう……ミルキは逆に冷静な心地を取り戻す。

 背中に刃を幾つも当てられているような、死が直ぐ後ろで自分を誘っている感覚に誰もが恐れ慄くだろう状況下で、ミルキのオーラは酷く静かになった。

 

(度を超した激痛は痛覚が働くなるが……恐怖も、そうなのかもな……)

 

 痛覚云々に関しては、地獄の6年間で嫌というほど開発させられたが……恐怖に関しては、ミルキはおそらく初めから麻痺していたに違いない。

 それは決して己が死なないという確信があった等の理由ではなく、一度死んで云々という理由でもない。

 

「血の為す業か……厭なものだ」

 

 脈々と受け継がれた暗殺者の系譜が、理性と本能を図太くしているに違いない。

 何よりミルキは、ミルキとして転生してから戦闘に対し、忌避感に勝る昂揚感を抱いていることも相俟って。

 

(それに……コイツ倒せば、曲りなりにもあの糞野郎をブチのめした事にもなる)

 

 シルバへの積年の私怨、改めて己の過去と決別するには絶好の機会だと前向きに考えたミルキの強かな精神がオーラへと伝達される。

 

「行くぞ……!」

 

 ミルキは真正面から、旅団員に飛び込む。

 

(人形を作り出す念能力が主軸には間違いない。当然、一度に纏えるオーラにも限界があるだろう)

 

 シルバのオーラは言うに及ばず。野性男のオーラは、シルバ以上と見えた。

 人形を作る際に、当人のオーラ量までコピーするよう注がねばならないのか? と疑問に思う。

 

(何より……薄ら寒さは覚えるが、……それだけだ)

 

 ミルキは、初めての念能力者との戦闘だが緊張も不安も抱いていなかった。

 それが幻影旅団員の候補……明らかに高い念能力者であることが分かっていても、だ。

 

(師匠に比べれば……!)

 

 構えを取らず、隙らだけ。ワザと隙だらけに見せているのではなく、次動へと活かせない本当の隙だらけ。それは旅団員がミルキを格下の相手と侮っている証拠。

 オーラは決壊したダムのようで威圧力の欠片も無いと一目で分かる。

 

 だが、オーラの量は驚異。ここは油断している内に決め手を打ち込むのが一番。

 

(様子見は必要ない。……時間も無いからな。一瞬で決める。……気配透過)

 

 ミルキは縮地を用うと同時に【絶】を行い、音を殺し、意を止め、姿を消した。

 

「む!……円!!」

 

 ミルキが消えた途端、旅団員のオーラが周囲に膨れ上がる。

 索敵に用いる【纏】と【練】の応用技【円】だ。

 体の周囲を覆っているオーラを自分を中心に半径2m以上広げる技術で、その内側にある物の位置や形状を感知できる高等技法でミルキを見つけ、待ち構えようと言うのだ。どうやら機敏ではあるらしい。

 

(どこに消えた……? 小僧の念能力? それとも【絶】か?……まぁいい。いずれにしても、この【円】で捕らえられない敵はいない。次に現れた時、BBインパクトを発射するインパクトバスターを喰らわせてやる! だが、顔は傷つけないから安心しな、ククク……)

 

 ミルキが消失した位置は約3m地点。一瞬でそこまで【円】を広げた旅団員は、残りオーラの余裕を【堅】で手に集中させ、いつでも撃ち放てるようミルキの接近に待機する。

 ミルキの戦闘スタイルは、接近戦一辺倒。旅団員は愚作人形からの情報で知っていた。

 だからこそ【円】の範囲内に入った所に逃げようの無い膨大なオーラをブツける。それだけで勝利は確定する、と信じて疑わなかった。

 

 ……だが、旅団員は見誤っていた。

 

「正拳ッ!」

 

「ぐ……!?」

 

 己の脇腹に、突き刺さる激痛が奔るまでは……。

 それこそミルキの目論見通りに。

 

「肘打ちぃっ!」

 

「あ、っ!……がはっ!?」

 

 ミルキの正拳に続く肘打ちが、旅団員の脇腹に直撃した。

 2度の激痛に旅団員のオーラが乱れたことで【円】と【堅】が解け、“く”の字に曲がった体が木の葉のように宙を翔け、

 

「がぷばっ!」

 

 ……叩きつけられた。

 

「が、がはっ! ば、バカなっ! いったいどうやって俺の【円】の内に……!?)

 

 脇腹から内臓に浸透する激痛に膝をつく旅団員は吐血しながら混乱の渦中で思考を巡らせる。

 

(念能力に対抗するには、やはり念能力! 姿と同時に気配を消したということは【絶】に類する技に違いない! だがそんな状態で【円】の中に入るなど火炎に身を焼く行為に等しいとまさか知らないはずはない! だが事実、奴は“オーラを纏っていなかった”じゃないか! いったいどういう―――!)

 

 だが戦闘中、どれだけ早く思考を重ねようと、

 

「シャイニング……!」

 

 そんな些細な隙を見逃すミルキではない。

 

「……っ!」

 

 ミルキの声が聞こえ、慄いた旅団員は直ぐに逃げようとするが激痛で体が動かない。

 どれだけ膨大なオーラを持っていようと、それを扱うには高い集中力を要する。

 特に【硬】を使うのに激痛で立てない今では、到底無理。

 

「こっ、このぉぉぉっ!」

 

 破れかぶれと言わんばかりに旅団員はオーラを四方八方に噴射し出した。

 まるで恐怖から逃げようと木の枝を振り回すような、あまりに幼稚な攻撃。

 第一、オーラを放つにもやはり激痛が邪魔。さらにオーラが大き過ぎて普段と制御の用法が違い過ぎてまるで話しにならない。

 

(これが……幻影旅団に入団しようと言う者の実力か? これが……っ、シルバの力を蓄えた者の実力かっ!)

 

 沸々と憤怒が湧き上がる。身の程を弁えない者ほど、キニクワナイものはない。

 

(だが、これは決して忘れてはならない末路!)

 

 しかし、ミルキはそんな稚拙な憤怒に呑まれるような生易しい道を生きてきたわけではない。

 何より念という膨大な力に呑まれたバカは、いつか未来の自分なのかもしれないのだ。

 忘れてはならない。そして倒さねばならない。

 ミルキは覚悟と決意を、己にブツけるように――、

 

「フィンガァァ!!」

 

「ぐ……がぶぅあっ!?」

 

 オーラを纏った三指が旅団男の脳を突き、顔面を地面に叩き付けた。

 

(――感謝してやる。お前のようなバカと出遭えたことを)

 

 シャイニングフィンガーは、脳を突く箇所によって効果が異なる。

 今ミルキが突いた箇所は、例えるなら灼熱のナイフを隙間なく全身に突き刺されたと錯覚するような痛覚神経。

 旅団員は、悶絶しながら地面に転がった。

 

「ぐ、が……な、なん……から、だ……!」

 

「……お前はもう動けない。脳の神経系を麻痺させた」

 

 旅団員のオーラが解かれる。脳の麻痺は【纏】すら満足に行えないということ。当然、クルタ族勢を襲っていた人形達も光となって消えた。

 

「ばか、な……! 神の人形師である、この私が、おまえ程度のオーラに……!」

 

「神、ねェ?」

 

 旅団員は心底解せないといった様子。

 だがミルキはその理由もしっかり把握しているため、失笑する。

 

(外氣も見えない奴が、神を名乗るなんて……馬鹿馬鹿しい)

 

 外氣とは天然自然の力。この世全ての物質に宿る生命の証。

 だが、人間は外氣を見ることができない。

 ミルキの気配透過も外氣の特性と人類の性質を利用した念能力なのだ……と、つい先日考察を口にした。

 

 だが全知全能を名乗るなら、外氣が見えないまでも感知できない時点で終わってる。

 そう思えてならないミルキは、コイツは旅団員になれないと思い見下ろして……、

 

「そう……兄さんは神の人形師なんかじゃない」

 

「……」

 

 また、唐突に直ぐ傍から声が聞こえた。

 だが今度は距離を取ることは無かった。

 おそらく旅団員の関係者だろうが、敵意も薄ら寒さも覚えないからだ。

 ミルキはゆっくりと視線をそちらに向ける。

 

「……人形、か?」

 

 そこに居たのは、青い帽子を被りオーバーオールを穿いた少女……の、人形だった。

 

「分かるんだ。そうだよ。私はオモカゲ兄さんの初めての作品。この人の妹、レツ」

 

 オモカゲ……というのは旅団員の名前だろうとミルキは頷いて、レツに先を促した。

 

「他の人形と違ってね、私は生前のレツの残した念のおかげで、兄さんの能力に関係なく存在できるんだ」

 

「……そうなのか」

 

「うん」

 

 死念。死んで残った未練が、レツの人形に宿っている。そんな摩訶不思議を何の抵抗もなく受け入れた自分にミルキは小さく苦笑する。

 

「……ありがとうね。兄さんを止めてくれて。……兄さんが人形を作って、目を集めるようになったのは……私のためでもあるの」

 

「……そうか」

 

 深く事情を訊くつもりはなかったミルキは淡白に答え、レツに背を向ける。

 

「……俺はもう行こう。……後は、お前が始末をつけるんだろう?」

 

「……うん」

 

 肯定したレツを見て、ならばもう留まる意味も無いだろうとミルキはそれ以上言う事もないと駆け出した。

 

「……ありがとう。貴方のおかげで、私は本当を生きられる」

 

 小声だが、ハッキリと聞こえた少女の言葉は感謝と受け取っていいのだろう。

 レツの穏やかな声を耳に、ミルキはクルタの集落を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、幻影旅団員(仮)オモカゲがどうなったのか、ミルキは知らない。

 

 

 

 

 

 ただ……一つだけ、分かることがある。

 

 

 

 

 

 オモカゲは、どうやら妹レツによって殺されたらしい――ということだ。

 

 

 

 

 

 その証拠に――――

 

 

 

 

 

「……随分な土産げだな、ミルキ?」

 

「……申し訳ありません、師匠」

 

 シュウジは、オモカゲと一戦を終えて戻って来たミルキを見て小さく溜息を漏らした。

 ミルキも「しかたない」と思いつつ、申し訳なさそうにシュウジに謝罪。

 なぜなら、その後ろには……。

 

「ヴヴヴ……!」

 

「ヴガァァ!!」

 

 理性を無くした人間……に見える人形が50体程、ミルキを追って来たらしい。

 

「怨念か。この世界は厄介な理がある」

 

 念能力には様々な形態がある。そして、念は死ねば消えるとは限らない。逆に、死んで強まる念もある。

 ミルキを追って現れた、50体の人形もまさにそれ。

 オモカゲが「ミルキの目を欲する」という執着の情が死んで尚、怨念となってミルキを追って来たらしい。

 

「已むを得ん! ミルキ、アレを遣るぞ!」

 

「っ! はい!」

 

 シュウジが言う「アレ」が何であるのか、ミルキはハッキリと理解した。

 流派東方不敗には、一対多を処理する場合の技が幾つか存在するが、ミルキが伝授された技は未だ1つのみ。

 

「ハァァァ……! 超級!」

 

「覇王!!」

 

「電影弾ッッッ!!!」

 

 体内に溜めた外氣を【円】の用法で球状に広げ、頭部以外に纏う。

 纏う外氣を内氣で留めると同時に回転力を与え、己を砲弾とする突貫型の流派東方不敗の奥義『超級覇王電影弾』である。

 単体でも可能な『超級覇王電影弾』だが、体得者2人による合体技にもなるが、その場合は1人が砲弾、もう1人が砲台となる。

 

「ぐ、ぎぎ……っ!」

 

 シュウジが飲み込みの早いミルキに教えた最初の奥義。

 秘かに特訓していたミルキだが、やはり未完成は否めそうにない。

 

「ぐ……師匠ッ! お願いします!」

 

「おおぉッッ!! 征けぇぇぇぇぇいッッ!!」

 

 ドン!

 砲弾となったミルキが、シュウジの手によって撃ち出される。その勢いは正に閃光。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」

 

 咆哮を轟かせたミルキを中心に、回転する外氣エネルギーの渦に巻き込まれるように吸い込まれた人形達が次々にミルキにぶつかり、破壊され……。

 

「ばぁくはつッ!!」

 

 50体も居た人形が何する事も出来ず、外氣エネルギーに耐え切れなくなった人形が弾け飛んで、霧散した。

 

「奥義の一……精進は必要だが、見事習得したようだな」

 

 満足げに称賛の言葉を繋げるシュウジ。

 ……しかし、当のミルキと言えば……。

 

「あ、ぁう~……も、もう……動け、ない……」

 

 過度の修行に加え、奥義に必要な外氣を取り入れたミルキはいよいよ限界を通り越して気絶したらしい。

 シュウジは、やれやれと思いながらも、しかしミルキの成長速度に舌を巻くばかり。

 

(素晴らしかなミルキの才。資質も然ることながら、疑念を抱かぬからこそ揺らぎも歪みも無く育ってゆく、か……)

 

 天賦の才能を努力で補強し、不動不屈の精神が絶対の物へと昇華させている。

 それが他でも無い東方不敗マスターアジア……己の事に絶対の信頼を置くことで成しているのだから……さすがに気恥ずかしさを覚える。

 

「……見たいのぅ。お前の完成を……」

 

 だからこそ、師としての責務を果たすことを背負ったミルキの重みにシュウジは改めて誓うのだ。

 

 




 えー、仮にも幻影旅団員……倒しちゃいました。

 オモカゲ事情的な意味でも、時系列云々おかしいなー?……とか思う方々も少なくないと思います。
 なので、まず言わせていただきたいのは、私って[HUNTER×HUNTER~緋色の幻影~]を見に行ってないんですよねー。
 なので今作で出没した[オモカゲ][レツ]は、Webサイトを漁って情報(セリフネタ等)掻き集めた結果の[オモカゲ&レツ(という名を借りたオリキャラ)]と考えてください。
 ミルキでも倒せると判断した理由は……まぁ実物見てないからという理由もあります。オモカゲがあまりにも漠然としたチートキャラで、2つ3つ以上の念系統を十全に制御できるとは思えず――、

「あれ? これって踏み台(テンセーシャ)っぽくね?」

 ――という機体性能に頼りすぎている感じのキチガイよろしく、つけ入る隙があるように見えたので、隙を与えず瞬殺コースをプレゼントしました。

 なので、実物とどれほど違うのか、緋色の幻影を見に行った方々のご意見聞いてみたいです。
 よろしければ意見感想、よろしくお願いします。

 それと一応、プロットをH×Hの0巻に合わせてみたつもりです。
 ⇒「~何も奪うな」は、同胞(仮)を殺された報復? 先に手を出したの旅団ですが、その意味合いもあった……と仮定。
 ⇒「発見者した~旅の女性」は、レツの残滓が教えた……的な設定にしようと思いましたが、色々と合わないので却下。Dハンターを見せた女性の再来というのが王道的でしょうか?

 因みに、超級覇王電影弾は独自設定です。Gガン設定無理なので、悪しからず。
 ……あ、コレ↑遣りたかったから、オモカゲ怨念人形軍団『デスアーミー』を利用したとか……そうです、そのとおりです。キタコレとか考えてました。

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