やはり俺の受けた祝福はまちがっている   作: サキラ

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やはり比企谷八幡はぼっちである

 

 

「ここがギルドだよな?」

 

 

警察署でもらった地図と目の前の施設を何度も見返す。

 

ここで間違いないはずなのだが、ここから俺の冒険者ライフが始まると考えると妙に気恥ずかしいというか……間違えてたらどうしようって気にもなる。

 

 

意を決して中に入ると、そこには鎧を着こみ剣を背負ってる人や、逆に身軽な服装で腰にナイフを差した人、魔法使いのような大きな杖を持った人がそこそこ見受けられ、食事なり世間話なりをしていた。

 

なんというかまさにザ・冒険者ギルドといった感じだ。

 

 

「いらっしゃいませ。お食事でしたら席にお仕事案内を希望されるのでしたらカウンターへどうぞ」

 

「あ、えっと……冒険者登録ってのをしたいんですけど」

 

 

愛想よく声をかけてくれたギルド職員のお姉さんに若干緊張しながら答える。

 

 

「それなら奥のカウンタ―ですね。こちらへどうぞ」

 

 

お姉さんに案内されるがまま大人しくついていく。

それにしてもそこかしこから視線を感じる。やっぱ新参者は目立っちゃうのね。

ふぇぇ……視線が痛いよぅ。

 

 

「えー、冒険者登録には手数料が千エリスほど発生しますがよろしいでしょうか?」

 

 

……今、なんと?

 

 

「えっと、田舎から出てきたばかりで一文無しなんです。……なんとかツケとかにできませんかね?」

 

 

「すいません。特例を許すわけには……」

 

 

ですよね、ははは……。

 

乾いた笑いがこぼれると職員のお姉さんも困ったような笑みを返してくれた。

 

 

「何か日当の出る仕事とかは……」

 

「すいません。規定により冒険者カードの発行されてない方にはお仕事紹介が出来ないんですよ」

 

 

……これ詰んでね?

 

 

「……えーと、街へ出られたらどうでしょう?もしかしたらなにかお手伝いのような事で稼げるかもしれませんが」

 

 

現状それにすがるしかないよな……。

見ず知らずの男に金を貸してくれる人間がいるとも思えんし。

 

 

お姉さんに礼を言いギルドを後にする。

 

 

それにしても、当面の問題を解決しようとしたら、さらに問題が深刻化するとは思わなかった。

お先真っ暗じゃないか。これは2日連続で警察のお世話になっちゃうかもだぞ。

 

 

「とりあえずなんとか金を工面しないとな」

 

 

とは言うものの、やれる事など思い浮かばないのだが。

都合よく困っている人など現れるはずもないし、変に徘徊でもすると通報される。

いっそ大道芸みたいな事でも出来りゃおひねりとかも期待できたのだろうが、そんな無駄スキルを身に着けてる訳もないしな。

 

溜息をついてダメもとで指をパチンと鳴らす。

するとカコンと頭に軽い衝撃が走った。

 

 

「痛っ!……なんだこれ?」

 

 

目の前には安っぽい茶碗が転がっていた。

たぶんこれが俺の頭に当たったのだろう。

 

 

……試しにもう一度指を鳴らしてみる。

 

 

すると今度は茶碗の中に指人形が転がった。

 

 

「おお……マジで出てきたぞ。これってあの女神が持ってたもんだよな?」

 

 

そういえば転生する時にアクアの投げたガラクタがそこら中に転がっていたのだった。

おそらくそのガラクタも一緒に送られてきて、女神の祝福の芸達者になれる性能にあいまって出て来たんだろう。

 

今度は手を叩いてみると、思惑通り茶碗と指人形は目の前から消えてくれた。

 

 

イケる!

 

 

こんなもの冒険の役に立つかどうかは不明だが、最終手段で大道芸まがいのことを行いお金を稼げる。

後は俺が恥とプライドを投げ捨てればいいだけなのだが……。

 

正直ぼっちにそれはハードルが高い。

 

 

「ほら、あの目絶対アンデッドだよ!」

 

「え、でも今昼間ですし……」

 

 

背に腹は代えられないのでやってみるかどうかを悩んでいたら、なにやら前方から失礼な会話が耳に入ってきた。

言ってろ、言ってろ。今はそんなのいちいち構ってられない。

アレだ。修学旅行前のクラスの雰囲気みたいなのと思えばなんてことない。

 

あん時は戸部るが超流行ってたなぁ……

 

 

「それなら尚更アンデッドは弱ってるじゃん!いいから、とりあえず浄化魔法うってみて!」

 

「えーと、わかりました。ターンアンデッド!」

 

 

えっ!?ちょっ!待っ……!!

 

反論する間もなく、俺の周りに魔方陣が浮き上がり眩い光に包まれる。

 

まじか、こいつら初対面の人間に魔法うってきやがったぞ!

 

 

「えっ!?効いてない!」

 

「そんな!?私、見ず知らずの人に魔法うちこんじゃいましたよ!」

 

「いや、効いてるからね?少なくとも心は深く傷ついた」

 

 

俺の一言に通り魔二人が固まる。

 

 

「「どうもすみませんでした!!」」

 

 

そして仲良く頭を下げてきた。

まぁ素直に謝ってきたぶん根は悪い人たちじゃないかもしれない。

 

俺に浄化魔法を打ち込んできた彼女は見たところ聖職者のような恰好をしているので、恐らくプリーストか何かなんだろう。

もう一人の方はなんというか身軽な少年のような恰好で銀髪と幼さが残るような顔の……

 

 

「戸塚ぁ!!」

 

「え!?うぇぇ!?」

 

 

そう戸塚だった!

まさしく戸塚だった!え?なんでここに戸塚がいるの!?まあいいや今日から神信じちゃう!!

これが祝福と言わずなんと言えようか!!

ようやくあの女神からの祝福に感謝するイベントが起きた!

 

 

「ちょっと落ち着いて!あたしはそのトツカって人と違うから!」

 

「……マジ?」

 

 

戸塚似の人をよくよく見れば、その頬に小さな刀傷が付いており瞳の色も違っていた。

 

本当だ……。戸塚じゃない……。この世界はどこまでも残酷だ……。

 

 

「あははは。よっぽどそっくりだったんだろうねー。それでそろそろ手を放してくれると嬉しいんだけど」

 

 

視線を下に向けると、どうやら気づかぬうちにしっかりと手を握っていたらしい。

冷や汗が背中を伝っていく。

 

 

「マジですみませんでした」

 

 

慌てて手を放し今度は俺の方が深々と頭を下げるハメになった。

 

 

▼▼▼

 

 

「えーと、とりあえずあたしはクリス。職業は盗賊だよ。そしてこっちの娘はこの町のエリス教会のプリーストの娘だね」

 

「どうも。あの先ほどは本当にすみませんでした」

 

 

クリスから紹介されてもう一人の少女がぺこりと頭を下げる。

 

「あーいや、俺も見苦しいところ見せちまったし互いに忘れる方向で行ってもらえると助かるんだが……」

 

「あははは……そう言ってもらえると助かるよ。けしかけたのはあたしなんだし。お仕事中連れ出してごめんね?後はあたしがなんとかしとくから」

 

 

クリスがそう言うと、エリス教のプリーストはもう一度こちらに頭を下げそのまま町の奥へと姿を消した。

 

 

「さてと。ところでキミどこの誰なんだい?珍しい恰好してるしここらじゃ見かけない顔だけど」

 

「あー……ハチマンだ。冒険者になりにこの町に来たばっかりでな」

 

「ハチマン?変わった名前だね?あ!もしかしてキミ、近縁者に紅魔族とかいない?それだったらなんか色々納得だけど」

 

「悪い。よく分からねえや。俺かなり遠くの国からやってきたから」

 

 

とりあえず分からないことがあれば遠くの国から来たのだと答えとく。

これで多少世間知らずな事を言っても問題ないだろう。

 

 

「ふーん、そうなんだ。それじゃあ早速、冒険者登録しにいかないの?ギルドはすぐそこだよ?」

 

「いや、さっき行ったけど手数料取られるとは思わなくてだな……」

 

「あっ。キミ文無しなんだ」

 

 

うぐっ!痛いことを容赦なく言ってくれる。

まあ実際その通りなんだけど……。

 

 

「それじゃあ、あたしが登録料くらい出そっか?」

 

「断る。俺は養われるのはいいが施しは受けない主義だ」

 

「うわっ。文無しの癖にプライドだけはいっちょまえだ……」

 

 

割とあっけらかんと心に刺さること言われてしまったが、たとえ異世界だろうと俺の信条は曲げられない。

 

 

「それじゃさっきの間違えて魔法打っちゃったお詫びってことで。これならどう?」

 

「……それなら、まぁお言葉に甘えて」

 

「ねえ、キミって捻くれてるってよく言われない?」

 

「うるせえ。ほっとけ」

 

俺の反応を楽しむように、にんまりと笑みを浮かべるクリスを置いてさっさとギルドに足を運ぶ。

 

なんにせよ、ようやくこれで俺も冒険者デビューだ。

 

 

▼▼▼

 

「はい。ではこちらのカードに触れてください。するとステータスが表示されるのでそれに応じてなりたい職業を選択してください」

 

 

クリスに手数料を出してもらい書類に身体情報などを書き終わると、受付のお姉さんが1枚のカードを差し出してきた。

 

そういやあの女神はレア職業になれるだとか言ってたな。

貰った祝福の効果を期待しつつカードに触れる。

 

 

「はい、ヒキガヤハチマンさんですね。えっと器用度と知力が非常に高いですよ?逆に幸運は低めですね。けど冒険者に幸運はあんまり必要ない数値なので気にしなくてもいいかと思います。他の数値は平均より少し高いくらいですかね」

 

 

……まあ、日本の学生なんだ。

正直肩透かしを食らった気分だが、大体こんなもんなんだろう。

 

 

「この数値だとオススメはウィザードかクリエイターですかね。……ってあれ?このステータスじゃ普通なれないんですが、何故かアークプリーストの適性もありますね?……どういうことでしょうか?」

 

「アークプリーストだって!?」

 

 

突然、今まで黙って見守っていたクリスが異様なまでの食いつきをみせ冒険者カードを覗き込んできた。

その声にギルド内にもざわめきが広がってゆく。

レア職だとは聞いていたがこれほどまでとは。

 

 

「……うわホントだ。ほんとにアークプリーストの適性がある。普通のプリーストが何年かかってもなれるか分からない上級職なのに……キミ何者?」

 

 

マジで?そんなに珍しいの?

それだと特典チートなのがちょっと申し訳ないな。

 

 

「なんにせよこれなら職業はアークプリースト一択ですよ!あらゆる支援魔法を扱え前線に出ても問題ない強さを誇る上級職ですよ!」

 

「お、おう。ならそれで」

 

 

興奮気味の二人と周囲の反応を見てアークプリーストを選択する。

最初こそ先行き不安な冒険者ライフだったが、何やら幸先が良くなってきた。

 

 

「はい、それでは登録しておきます。初期のスキルポイントはありませんがスキルはいくつか覚えてるみたいですね。初期能力から回復魔法が扱えるなんて凄いですよ!回復魔法は覚え手が少ないのでパーティーにも引っ張りだこですし!あとよく分かりませんが『花鳥風月』というのも扱えるみたいです」

 

 

そういやアクアも回復魔法が扱えると言ってたな。

もう片方の方も大層な名前をしているし期待しても大丈夫だろう。

 

 

「うわーホントだ。これならすぐ冒険に出ても大丈夫だよ。ゾンビみたいなアンデッド系のモンスターになら回復魔法は反転して有効だし。あたしの知り合いのエリス教会の人紹介してあげよっか?」

 

 

マジか、どうすっかなぁ……。

正直、申し出はありがたいのだが経験則からして、うまく馴染める気がしない。

それでも文無しな今の状況から脱するためにはお言葉に甘えるべきなのだが……。

 

 

「あっ……えっと、クリスさん。その、言いづらいのですが……やめておいたほうがいいと思います」

 

 

俺が悩んでいると受付のお姉さんが何かに気づいたのか、すごく曖昧な表情で口を挟んできた。

 

 

「……この方、アクシズ教徒です……」

 

 

その一言でギルド内が静まり返った。

不思議に思い周囲を見渡すも、聞き耳立てていた他の冒険者達は目が合おうとした途端にサッと顔を背けて目を合わせないようにされた。

 

ギルド内は先ほどまでの期待と興奮はなく、重苦しい沈黙が漂うだけとなった。

 

えっと……どういうこと?

 

…………なにかよく分からないが、俺の冒険者ライフがぼっちスタートとなった瞬間だった。

 

 




【アイテム紹介】
・安物っぽい茶碗、指人形、ビー玉
転生の際、八幡の周囲に散らばっていたガラクタの数々。八幡が転生する際に巻き込まれて付いてきた言わばサブ特典。
元は水の女神が芸を披露する際の小道具だった。
一応、天界の物で神器にはなるのだが絶大な効果などなく宴会芸くらいにしか使い道がないガラクタである。
唯一茶碗だけが液体を聖水に変化させる効果を持っているが一週間ほどかかり茶碗1杯分しか製造できない為やっぱりこっちもガラクタなのである。

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