いや元々プロットは出来てたんですけどね。今回の話は一番最初から考えてた話だったんで割と出来上がりは早かったんです。
いつもこれくらい早く更新したいものです。
現在、俺とクリスは身を寄せ合って互いの手を握っていた。
紅潮した彼女の頬から一筋の汗が流れ、陶器のような首筋を伝っていき、握りかえす指の力が僅かに増すのを感じる。
「………怖いのか?」
静かに、緊張をほぐすように、出来るだけ優しく尋ねる。
「……うん。あたし、こういうの初めてだから。この後どうなっちゃうんだろうって」
答えた言葉は僅かに震えていた。
しかし、こういう時に掛ける言葉を俺は知らない。
逡巡しながらも、本心を語るのが一番誠実だと思い口を開いた。
「……初めてなのは俺だって同じだ。だからまぁ、なるようになるだろ」
「なにも安心できないんだけどそれ」
可笑しそうに困り顔を浮かべるクリス。
多少の緊張はほぐれた様だが、安心させるには至らなかった様だ。
だからせめて、握りかえす手に力を込める。
高なっている鼓動が、繋いだ手から伝わってしまうのではないかと心配になってくる。
「ありがと。やっぱり君は捻デレだね?」
照れ臭そうにクリスが言う。
薄い微笑みを浮かべた彼女は一度、深呼吸をして意を決したように口を開いた。
「さあ、いってみよう!」
▼▼▼
ドゴン!!
前方の草原から爆発音が響いてくる。
見ると、ダクネスとゆんゆんが対峙している大きな影から硝煙が上っていた。
その様子を、少し離れた位置で俺とクリスは身をかがめながら伺っている。
「まずは手筈通りだな」
「ぬいぐるみに爆発物仕込むなんて発想は、最低だと思うけどね」
なんでだよ。漫画とかじゃ常套手段じゃねえか。
それにせっかく誘き出す用にゆんゆんが買っていた黒猫ぬいぐるみなのだ。最後まで利用させてもらおう。昨日、最後に行った魔道具店に爆発するポーションが置かれてて助かったな。
「やってくれるじゃねーかァァァアアア!!」
怒声が響くのと同時に、硝煙の中から飛び出してきたのは紛れもなく悪魔といった風体のモンスターだった。
金属のような光沢を持った漆黒の巨大な体躯。一枚だけにはなってるが、蝙蝠に似た大きな羽。そして禍々しさを感じさせる角と牙。
えっ、うそ……あんなんと戦えっての?カエルにとどめをさした事しかない俺があんな階層ボスみたいなのと?
「……めっちゃ怒ってんじゃん、俺もう帰りたいんですけど」
「怒らせようって言ってたの君だよね!?今更何言ってんの?」
そりゃそうだけどさ。あそこまで激昂しちゃうとは思わなかったんだよ。
まぁクリスの言うとおり、怒らせて冷静さを失くすって作戦は一応成功してる。
これでこっちに気づかないといいんだけど。
物凄い勢いで飛び出して来た上位悪魔は、ぬいぐるみを投げ渡したゆんゆんに迫っていき、熊のような腕を振り上げる。
ガギンッ!!
降ろされた腕はゆんゆんに当たることはなく、咄嗟に間に入ったダクネスの剣の腹で受け止められていた。
顔をしかめた上位悪魔がさらに攻撃を繰り出すが、その全てをダクネスが確実に受け止めていく。
「すげぇ、マジで耐えてんな」
「ダクネスは本当に硬いからね。スキルも全部防御系に注ぎ込んでるし、耐久だけなら高レベル冒険者にも負けないと思うよ」
「その代わり攻撃はからっきしなんだってな?」
「あはは……そうだね。かなり不器用だし止まってる敵にも外しちゃう事あるんだよね」
「……まぁそれでいいんじゃねえの?」
「えっ!?いいの!?」
いや、さすがに止まってる敵に外しちゃうのはどうかと思うけど。
ここで言ってるのは長所を伸ばしてるという所だ。
「変に攻撃に行って隙を作っちゃうくらいなら、盾役に徹してぴったり張り付かれてた方が、相手からしてみればやりずらいだろ。現に今回は攻撃をしないで、ぴったりゆんゆんに張り付いて守ってやってくれって伝えてるしな」
「あぁだから自分から斬りかかりに行かないんだね」
だいぶ葛藤してたけどな。物理で殴るだけが戦いじゃないって言って説明したら納得してくれた。
耐え続けるダクネスに嫌気がさしたのか、上位悪魔は舌打ちして後ろに跳び距離を置く。
その瞬間、後ろに控えていたゆんゆんが中級魔法を放った。
「『ライトニング』!!」
突然放たれた中級魔法に反応が遅れた悪魔は、咄嗟に腕を出しなんとか直撃を防ぐ。
しかし相当な威力があるのか、防いだ腕からはプスプスと黒い煙が上がっていた。
「いっっってえなァ!!これだから紅魔族の相手はしたくねえんだ!」
ガードの上からであっても、ゆんゆんの魔法は確実にダメージを与えてるらしい。
いい具合だ。出来るだけ消耗させてもらいたい。
「クルセイダーは馬鹿みたいに硬ぇし埒あかねえ、接近戦はダメだな。『ファイアーボール』!」
「『ファイアーボール』!」
悪魔が放った魔法にゆんゆんが同じ魔法をぶつけて相殺する。
相手は上位悪魔と言えどさすが紅魔族。
どうやら威力負けもしていないらしい。
「よし、今のうちにもうちょっと近づくよ」
「……マジで?この辺でよくない?」
「ダメダメ。もっと確実に殺れる距離まで行かなきゃ」
発言がおっかない気がするが、大まかクリスの言う通りでもある。
今のところ上手くいってるとはいえ、即席パーティーの連携だしいつ穴が空いてもおかしくない。それに見えなくする屈折魔法の効果時間だってある。
近づいておくに越したことはないのだが……。
……手を繋がなきゃならないんだよなぁ。
潜伏スキルは触れていないと周囲の人間には効果がない。
万が一のことも考えて匍匐前進で近づきたいが、互いの手を握り合ったまま進まないと潜伏の効果が切れてしまうのだ。
女子と手を握るなんてトラウマしかないからな。エアオクラホマミキサーとか……。
いやアレは手なんて繋いでいませんでしたね。それ以前の問題でしたよね……。
「ほら、早く」
「…………」
観念してクリスの手を握る。
上位悪魔とゆんゆんの魔法の撃ち合いがどんどん近くに迫ってくる。
ふぇぇ……怖いよぉ。手が汗ばんじゃうし心臓もバクバクだよぅ。
「あークソ、魔法も通じねぇのか。本当にめんどくせぇ奴らだな」
一通り魔法が相殺されたのを見て、悪魔は悪態をつきながら大きく息を吐いた。
やる気をなくしたのだろうか?それに越した事はないんだけど……。
「こっちはウォルバク様を渡せば手出しはしねえつってるのによぉ……そんなにやり合いてぇならやってやろうじゃねぇか!!」
途端に悪魔から放たれる圧が増す。
やる気をなくすどころか本気になっちゃったようだ。
魔力が高まっていると言えばいいのか、周囲の空気が重くなるのを感じる。
悪魔は大きく両手を振り上げ、
「くたばりやがれ!『インフェルノ』!!」
叫ぶと同時に振り下ろした!
すかさずゆんゆんがポーチからスクロールを取り出し一気に広げる。
「『マジックキャンセラ』ー!!」
前に突き出されたスクロールは、ゆんゆんの声に呼応して光を放った。
封じられていた魔法が発動したのだろう。
悪魔の振り下ろした手からは魔法は発動せず、代わりにゆんゆんの持っていたスクロールがボロボロと崩れていく。
ゆんゆんが使ったのは先日買っておいた妨害魔法のスクロールだろう。
相手の魔法に込めた魔力と同じだけの魔力を消費し、どんな魔法でも打ち消すことのできる魔法。
魔力量の低い俺からしてみれば、そんなもん使うくらいなら相性のいい魔法で相殺狙うわって感じなのだが、紅魔族の様に魔力容量の多い人間には確かに有効な魔法なんだろう。
しかしそれでも魔力の消費は多かったのか、ゆんゆんはポーチからマナタイトを取り出した。
「……なるほど、上級魔法は使えねぇようだな。それに魔力の残りもそう多くないらしい」
ニヤリ。と上位悪魔の口角が吊り上がる。
……マズい、妨害魔法のスクロールは一つしか買えてない。
次に今の魔法を撃たれたらもう防ぐ手立てがない。
「……クリス」
「分かってるよ」
用意していた聖水とマジックポーションを飲む。これで少しは魔法の威力も上がるだろう。
俺達が奇襲を掛けるタイミングは二つだ。
一つは上位悪魔に大きな隙が出来た時、
「それじゃあ二発目はどうする?『イン「『バインド』!!」なにぃっ!!?」
悪魔が再び両腕を広げようとしたその時、鉄製のワイヤーが悪魔の身体に巻き付き、あっという間に縛り上げた。
突然身体を縛り上げたワイヤーを見て上位悪魔は驚愕の声を上げる。
奇襲を掛けるもう一つの条件。それは、先に戦ってる二人が危機的状況になった時……!
「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』ッ!!」
俺の右手から放たれた破魔魔法は、ワイヤーに縛られて無防備な上位悪魔へと直撃し、青白い魔法陣から破魔の光が天高く打ち上げられた。
感想ありがとうございました!色々思いながら読んでくださってる方々がいて返信書くのも楽しいです。
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