やはり俺の受けた祝福はまちがっている   作: サキラ

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そして彼はようやく始まりに立つ

 

それから俺達は更に幾つかの店舗で魔道具を補充し、冒険者ギルドでちょっと遅めの昼食を取っていた。

最初に運ばれてきたネロイドのシャワシャワを受け取るとゆんゆんが小さく咳払いをして。

 

 

「そ、それでは私達のパーティー結成のお祝いと今後の活躍を祈って……か、かんぱー……ってなんでもう飲んでるんですか!?」

 

 

えっ?これってそういうモンだったの?

 

 

「いやだって聞いてねえし」

 

「うぅ……。夢だったのに……。パーティー結成のお祝い会とか憧れてたのに……」

 

「あー……なんかその、スマン」

 

 

具体的に何が悪いかはよく分からんのだが、健気なぼっち少女の夢を一つ壊してしまった事を考えると、先に生きるぼっちとして謝っておくべきなんだろう。

 

 

「……やり直させてもらっていいですか?」

 

 

乾杯の挨拶をか?

まぁそれくらいなら全然いいけど。

 

俺がグラスを持ち上げると、ゆんゆんはパァッと嬉しそうに顔を綻ばせグラスを手に取り、

 

 

「そ、それでは気を取り直しましてパーティー結成と」

「……乾杯」

 

 

ゆんゆんが言い終わる前にカコンとグラスを当ててやる。

 

 

「な、なんで先にやっちゃうんですか!?私まだ喋ってましたよね!?」

 

「いやだって一度聞いたし。なんか恥ずいし」

 

「~~~っ!わ、私だって恥ずかしかったのに!」

 

 

顔を赤くしながら涙目で訴えてくるゆんゆん。

いや、恥ずかしいならわざわざそんな慣れないことせんでいいのに。

 

 

「別に二人だけなんだし前置きとかいらんでしょ。ほら、乾杯」

 

「うぅ……。それもそうですけどせっかく仲間になったのに」

 

 

言いつつゆんゆんもカコンとグラスを合わせる。

そしてそのままシャワシャワを口に運び一口飲んで「はわぁ~」と顔を綻ばせた。

 

仲間、ね……。

 

思えばパーティー結成自体が成り行きなんだよな。

元々関わろうとしなかったのに、こうやってペアになってるあたりが実にぼっち同士らしい。

社会科見学の班分けで余り物同士が組まされている状況と似たようなものだろう。一緒に行動してるとはいえ、終わってしまえば自然と消えてしまうものなのだ。

だからこそ俺達は歪で噛み合わずどこまでも、偽物だ。

 

 

「あ、あの……えーと……その」

 

 

ふとゆんゆんがオロオロとしながらチラチラとこちらに視線を向けているのに気づく。

えっと、……なに?

 

 

「きょ、今日はいい天気でしたね……?」

 

「……おう」

 

 

……身構えるだけ無駄だった。

 

おそらく退屈させまいと、話題を探したものの見つけられなかったんだろう。

俺の反応を見て話のチョイスを間違えたと悟ったのか、ゆんゆんは再びオロオロとうろたえ出した。

 

 

「……別に何か話題探そうとかしないでいいぞ?」

 

「えっ!?で、でも『こいつほんとつまらねえ奴だな。一発芸の一つでもやれねぇのかよ』なんて思ったりしませんか?ハッ!?私、一発芸しますねっ!」

 

「いやしなくていいから。あとそんな事も思わねえし」

 

 

唐突に指芸を披露しようとしたゆんゆんを止める。

この子、ぼっち拗らせて変な方向に突っ走ろうとする節があるから気をつけとかないと。

 

 

「でも退屈させないような話をしなきゃならないって本に……」

 

 

……悲しい努力をしているようだった。

というかいきなり話題を振れだなんて、ぼっちに無理な事を進めている本とか捨ててしまいなさい。

 

 

「俺は別に沈黙とか苦にならないぞ。むしろ得意なまである」

 

「えっ?ほ、ほんとうですか?」

 

「というか盛り上げたりする方がぼっちの身としては苦手だな。ウェイ勢のノリとかほんと無理」

 

 

ほんとアイツらなんであんなに煩いのかしら。

しかし、ウェイウェイと同じ言葉を繰り返しながらコミュニケーションを取ってるのを見ると、そのコミュ力は相当高いのだろう。

きっと53万とかあって高まるにつれ変身とかしてくのだ。そして最終形態は肌が黒光りしている金髪のゴールデンパリピとかだ。

……地獄絵図じゃねえか。ぼっちでよかった。

 

 

ふと前に座るゆんゆんを見ると、彼女はポカンとした顔でこちらを見ていた。

 

 

「……なに、どした?」

 

「あっ。いえ、その……」

 

 

言いづらそうにしどろもどろになるゆんゆん。

えっ。なんなの?逆に気になってきちゃうんだけど。

 

 

「別に言いたくないことなら言わんでいいけど。遠慮されると俺も接しづらいし」

 

「えっと、じゃあ……ハチマンさんってぼっちだったんですか?」

 

 

うぐっ!

……いや実際その通りなんだけどね?

遠慮するなと言った手前でなんだが、歳下の女の子にそうハッキリ言われてしまうと流石に応える。

 

 

「……まぁアレだな。はっきり友達と呼べる奴は居なかったのかもな」

 

 

奉仕部しかり他に関わってた奴らしかり。

はっきりと友達だなんて言った人間なんて居なかった気がする。

……思えばあの関係はなんて言えば良かったのだろう?

飾り気もなく、不安定で、壊れやすくて。

 

それでも居心地の良いものだと感じていたあの場所は……。

 

 

「……まぁそういう訳だから。お互いぼっちなんだし、ゆんゆんも変に気を使って盛り上げようとしなくていいぞ」

 

「わ、私は別にぼっちなんかじゃ…」

 

「おいおい、ぼっち舐めるなよ?人生の勝ち組だからな?」

 

 

へ?とゆんゆんが目を丸くする。

某英雄王や騎士王さんも王とは孤高と言ってたんだ。

つまり同じく孤高なぼっちも王になる資質を秘めているとさえ言える。

さて、王の話をするとしよう。

 

 

「時は金なりっていうだろ?つまり時間はお金と同等と言っていいまでの価値があるわけだ。そしてぼっちはその貴重な時間を他人に割かずほぼ全て自分の為だけに使える。つまりぼっちは勝ち組だ」

 

「……なんだろう。めちゃくちゃなのにちょっと納得してしまう自分がいます」

 

「それに、ぼっちでいいと思うようになると人間関係に悩まなくて良くなるしな。すれ違いも諍いも対立も起きない平和な日々だ」

 

 

畳みかけるように口から出た言葉は誰に向けようとしたのだろう。

誤解を与えてすれ違うことも、勝手に期待し失望することも、理解を押し付け裏切られることも。

……一人で居た頃には経験せずにすんだのだ。

 

 

「……けどやっぱり、一人ぼっちは…………寂しいです」

 

「────。」

 

 

ポツリとゆんゆんの口から言葉が洩れる。

聞き逃してもおかしくない程に、か細く消え入りそうな声量だったが、何故だかはっきりと聞き取ることが出来てしまった。

 

それはぼっちなら誰しもが感じたことのある感情なんだろう。

何度だって経験した。誰かと一緒にいたくて、見つけようとした温もりは紛い物で、心無い行動に傷ついて、いつしか本物なんてありもしないと思うようになっていた。

強がって、捻くれて、認めないようにしようとしていた。

 

けれど、それでも探しているんだ。

 

分かりたい。知って理解し安心したい。そうでないと不安で仕方がない。誰からも理解されることのない孤独は不安で恐ろしいものだから。

 

それを俺はゆんゆんより先に痛いほど知っている。

それなら、俺と彼女は──。

 

 

「……なぁ、ゆんゆん。俺とコンビ組まねえか?」

 

「……えっ?」

 

「いや、なんか始まりはなりゆきみたいな感じだったろ?だからまた改めて。きちんと始めようか……なんて思ってな」

 

 

────かつて彼女は言った。

 

始まりが間違っているなら終わらせてまた始めればいい。

誤解は解けない。その時点で既に解が出てると言った時に、それなら改めて問い直せばいいと芯の通った声で答えてくれた。

 

……だったら、もう一度やり直すっていうのも間違った選択ではないのかもしれない。

 

 

「……まぁ、ゆんゆんがそれでよければの話だけど」

 

「は、はいっ。勿論ですっ!」

 

「……あぁ、今後ともよろしく」

 

 

頼んでおいて口にしていなかったネロイドのシャワシャワを一口飲む。

炭酸とも言えない独特な感触が口の中に心地よく広がった。

 

その嬉しそうな笑顔を覚えていよう。どこまでも残念で色々と間違っているこの世界で。

───それでも俺が間違えてしまわないように。

 

 




感想評価ありがとうございました。
あんまりシリアスな話はこのすばの良さを消すと思い控えたかったんですが今後の展開で八幡を動かす上では仕方ないかなと思い挟みました。ですが心理描写難しいですね。うまく書けてる自信ないです。

感想評価お待ちしてます。

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