人間の青年と、妖怪の少女が恋に落ちた。
2人は、心から互いを想い合い、無事に結ばれる。
…しかし、彼らの間には、種族という、どうしても超えられない壁があった。

これは、人間と妖怪の寿命の違いに正面から向き合い、悩みに悩み抜く姿を描いた純愛物語。

ヒロインは古明地さとり。 オリ主物です。

……を書きたいなと思って、プロローグだけ書いてみた結果、それだけで満足してしまった作品。
お蔵にするのも……なので、短編として投稿させていだだきました。

人として最後まで生き抜いた彼の墓に参るさとり。遺される者の寂しさを描いた短編となっております。

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残された彼女達は何を想っているのでしょう……









プロローグ
人として生き抜いた人達


 

 

 

 

 旧地獄と呼ばれる場所に存在する大きな館、地霊殿。

 そこの中庭の隅には、ひっそりとたたずむ石碑があった。

 

 その石碑の前に、一人、静かに黙祷を捧げる女性がいる。

 

 桃色の髪をしており、少女と言えるような外見をした彼女の名前は、古明地さとり。

 個性豊かな者達が集う旧地獄において、一際力を持つ、この地霊殿の主である。

 

「……今日も、来てたのね」

 

 そんな彼女に、そっと声をかける女性がいた。

 

 短めに揃えた金色の髪を持ち、細く尖った耳が特徴だ。

 

「……ええ。ここは、あの人が眠っている場所だから。

 ……パルスィは、何か用かしら?」

 

 パルスィと呼ばれたその女性は、その問いに小さく首を振る。

 

「……いいえ。たまたま通りかかったら、さとりがみえたので声をかけただけよ。

 それにしても、十年経った今でも、毎日毎日ここに来ているのね。まったく、妬ましい愛だわ」

 

 妬ましい。彼女はそう言ったが、これは、彼女の口癖のようなもの。

 実際、彼女の口元は笑っているし、さとりもまた、それを理解しているので追及をしない。

 

「当たり前よ。あの人のことを忘れられる筈が無いじゃない」

 

 そう言って、自らの右手で左手を包む。

 薬指に確かに存在する金属の輪を感じ、小さく笑みを浮かべるさとりの様子に、パルスィは小さく息をはいた。

 

「……まぁ、貴方達ほど、お互いを想い合い、深く愛し合っていた夫婦をみたことがないのは認めるわ。妬ましいものね」

 

 そう言って、彼女もまた、小さく笑みを浮かべる。

 

「……でも、本当に、他に道は無かったのかしら」

 

 笑みを消し、小さく呟くパルスィ。

 

 その指すものを察したさとりの顔からも、また笑みが消える。

 

「……あの人が、決めたことだから」

 

 小さく、しかしはっきりと。さとりは返す。

 

「ごめんなさい。彼の選択を悪く言ったつもりは無かったのよ。

 ……ただ、何か方法は無かったのかって、どうしても考えてしまって」

 

 気まずげに言うパルスィ。

 勿論、彼女だって、 『彼』が決断にあたってどれだけ悩んだのかは知っている。

 

 それでも、最終的に、愛する人を残して逝くという選択をしたことが、彼女には理解出来なかったのだ。

 

「……人間は、人間として生きることに誇りを持っている。

 だから、どんな望みがあろうとも、どんな力を持とうとも、人として生き、そして最後は人として死ぬ。

 そういうものに見えるわ 」

 

 諭すように、また、自分自身に言い聞かせるように、さとりが呟く。

 

 黙って耳を傾けるパルスィの様子を確認して、彼女は続ける。

 

「……1ヶ月ほど前だったかしら。博麗の巫女が亡くなったわ。」

 

 初耳だったのだろう。パルスィの眉がピクリと動いたのが見て取れた。

 

「……そして、あとを追うように、数日前。あの魔法使いも。」

 

 ショックが大きかったのか、呆然とした様子のパルスィ。

少しの間を置いてから、彼女が口を開く。

 

「……確かに、そんな年齢だったのかもしれないけど……博麗の巫女はまだしも、黒白の魔法使いなら、魔法を用いる手もあったんじゃ……」

 

 そう言って食い下がる彼女に、さとりは小さく首を振る。

 

「一週間前だったかしら。彼女が館を訪ねてきたのよ。

『私も、そろそろみたいだ。私は、寿命を伸ばすということはしないぜ。最後まで、人間として生き抜くんだ』

 そう言って笑う彼女の姿からは、確かな想いを感じたわ」

 

――まさか、これまでに持っていった本を本当に全て返すとは思わなかったけど。

 

 そう付け足して、クスリと笑うさとり。

 

「……最後まで、人として、生きる……」

 

 小さく呟くパルスィ。

 完全には納得できないながらも、自分なりに理解しようとしているのだろう。

 

 それを確認し、さとりはまた石碑に視線を戻す。

 

 暫くの静寂。

 

「……こうやって知ったふうに話しているけれど」

 

 不意に、さとりが語調を変えて呟く。

 

「残される身としては、やはり寂しいわ……」

 

 そう言って、石碑に触れるさとり。

 

 彼女が触れた石碑には、文字が刻まれている。

 

 

『最愛の人、ここに眠る』

 

 

「……百年経っても、千年経っても。私の命が尽きるその時まで、貴方を愛し続けているわ」

 

――だから、そこで待っていてね?

 

 

 ヒュウと、不意に風が吹き、さとりを包む。

 それは、まるで彼からの答えであるかのようであった。

 

 

 

 



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