ロクでなし魔術講師と無限の剣製   作:雪希絵

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にゃー!結構ギリギリ!

すみません!今日一日でかけてたんですぅぅぅぅ!

まあ、でかけてようがでかけてなかろうが、基本的に投稿は夜になるんですけども……

だいたい夜の21時以降が常ですかね?

今までのものを見る限りは

それでは、どうぞ!


グレン覚醒

「おい、白猫」

 

次の日の予鈴前。

 

窓の外を眺めていたシスティーナは、頭上から降ってきたぶっきらぼうな言葉に、現実に引き戻された。

 

隣では、ルミアがルイスに質問しながら、熱心に予習をしていた。

 

いつの間にか自分のかたわらに立っていたのは、昨日盛大に喧嘩したグレンだ。

 

「おい、聞いてんのか、白猫。返事しろ」

「し、白猫?白猫って私のこと……?な、何よ、それ!?」

 

がたん、とシスティーナは肩を怒らせて席を立ち、グレンをにらみつけた。

 

「人を動物扱いしないでください!?私にはシスティーナっていう名前が────」

「うるさい、話を聞け。昨日のことでお前に一言、言いたいことがある」

「な、何よ!?昨日の続き!?」

 

システィーナは身構え、敵意に満ちた視線をグレンに送った。

 

「そこまでして私を論破したいの!?魔術が下らないものだって決めつけたいの!?だったら私は───」

 

弁舌はグレンの方が上手だ。

 

口論になればシスティーナはおろか、長年付き合ったルイスでも勝てない。

 

だが、それでもシスティーナは引けなかった。

 

自分は祖父の夢を背負っているのだ。

 

昨日ルイスが言ったように、この男が祖父のことを馬鹿にしているわけではないとしても、魔術を馬鹿にすることは、システィーナにとってはそれと同義である。

 

無様をさらすことになろうとも、徹底抗戦の決意を固めて────

 

「……昨日は、すまんかった」

「え?」

 

そして、最も予想だにしてなかった言葉に、システィーナは硬直した。

 

「まぁ、その、なんだ……大事な物は人それぞれ……だよな?俺は魔術が大嫌いだが……その、お前のことをどうこう言うのは、筋が違うっつーか、やり過ぎっつーか、大人げねぇっつーか、その……まぁ、ええと、結局、なんだ、あれだ。……悪かった」

 

グレンは気まずそうなしかめっ面で、目をそらしながら、しどろもどろと謝罪のような言葉をつぶやき、ほんのわずかな角度だけ、頭を下げた。

 

にわかには信じ難いが、これがひねくれまくったグレンの精一杯の謝罪だった。

 

「…………………はぁ?」

 

真意を測りかねたシスティーナは、ルイスの方を見る。

 

すると、ルイスは肩を竦め、口パクで

 

『許してやれ』

 

と言って、髪を掻いた。

 

一方、グレンは戸惑うシスティーナを差し置き、話はこれで終わりだと言わんばかりに踵を返し、教壇に向かう。

 

そもそも、グレンは何しにここにやってきたのだろうか。

 

まだ授業開始時間前だ。

 

グレンが遅刻せずに教室にやってくるなんて……何かおかしい。

 

「なんだよ……?何が起きてるんだよ……?」

「なぁ、カイ?ありゃ一体、どういう風の吹き回しなんだ?」

「お、俺が知るかよ……」

 

それはクラスの生徒達も同様で、あのグレンが授業開始前に教室に姿を現したことに困惑を隠せないようだった。

 

腕を組み、視線に完全無視を決め込むグレン。

 

そんなグレンを眺め、ルイスは一人納得したように顎に手を当てる。

 

(なるほど。これはグレンにも、昨日なんかあったな)

 

これから面白くなる、と一人だけ楽しそうに笑った。

 

やがて予鈴がなる。

 

どうせ時間通りに来ても寝てるんだろうという大方の予想を裏切り、グレンは目を開いて信じられないことを言った。

 

「じゃ、授業を始める」

 

どよめきが起こる。

 

目の前にいる男は本当にグレンなのかと言わんばかりに、顔を見合わせる。

 

「さて……と。これが呪文学の教科書……だったっけ?」

 

ぱらぱらとページをめくり、そのたびにグレンの顔が苦いものになる。

 

やがて、ため息をつきながら教科書を閉じ、

 

「そぉい!」

 

窓の外へ投げ捨てた。

 

ああ、やっぱりいつものグレンだ。

 

もはや見慣れた奇行に、生徒達は各々自習の準備を始めた。

 

だが。

 

「さて、授業を始める前にお前らに一言言っておくことがある」

 

そこでグレンは一呼吸置き───

 

「お前らって本当に馬鹿だよな」

 

なんかとんでもない暴言を吐いた。

 

「昨日までの十一日間、お前らの授業態度見てて分かったよ。お前らって魔術のこと、なぁ〜んにもわかっちゃねーんだな。わかってなら呪文の共通語訳を教えろなんて間抜けな質問出てくるわけないし、魔術の勉強と称して魔術式の書き取りやるなんていうアホな真似するわけないもんな」

 

今、まさに羽ペンを手に教科書を開き、書き取りをしようとした生徒達が硬直する。

 

「【ショック・ボルト】程度の一節詠唱もできない三流魔術師に言われたくないね」

 

誰が言ったか。

 

しん、と教室が静まり返る。

 

そして、あちこちからクスクスと押し殺すような侮蔑の笑いが上がった。

 

「たしかに、正直それを言われると耳が痛い」

 

しかし、当の本人はふて腐れたようにそっぽを向きながら、小指で耳をほじる。

 

「残念ながら、俺は男に生まれたわりには、魔力操作の感覚と、あと、略式詠唱のセンスが致命的なまでになくてね。学生時代は大分苦労したぜ。だがな……誰か知らんが今、【ショック・ボルト】『程度』とか言った奴。残念ながらお前やっぱ馬鹿だわ。ははっ、自分で証明してやんの」

 

教室中に、あっという間に苛立ちが蔓延していく。

 

「まぁ、いい。じゃ、今日はその件の【ショック・ボルト】について話そうか。お前のレベルなら、これでちょうどいいだろ」

「今さら、【ショック・ボルト】なんて初等呪文を説明されても……」

「やれやれ、僕達は【ショック・ボルト】なんてとっくの昔に究めているんですが?」

「はいはーい、これが、黒魔【ショック・ボルト】の呪文書でーす。ご覧下さい、なんか思春期の恥ずかしい詩みたいな文章や、数式や幾何学図形がルーン語でみっしり書いてありますねー、これ魔術式って言います」

 

生徒達の不平不満を完全無視し、グレンは本を掲げて話し始めた。

 

「お前ら、コイツの一節詠唱ができるくらいだから、基礎的な魔力操作や発生術、呼吸法、マナ・バイオリズム調節に精神防御、記憶術……魔術の基本技能は一通りできると前提するぞ?魔力容量(キャパシティ)意識容量(メモリ)も魔術師として問題ない水準にあると仮定する。てなわけで、この術式を完璧に暗記して、そして設定された呪文を唱えれば、あら不思議。魔術が発動しちゃいまーす。これが、あれです。俗に言う『呪文を覚えた』っていう奴でーす」

 

そして、グレンは壁を向いて左手を突き出し、呪文を唱える。

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」

 

左手から紫電が迸り、壁を叩いた。

 

その後、グレンは黒板に自分が唱えた呪文をルーン語で黒板に書いていく。

 

「さて、これが【ショック・ボルト】の基本的な詠唱呪文だ。魔力を操るセンスに長けた奴なら、《雷精の紫電よ》の一節でも詠唱可能なのは……まぁ、ご存知の通り。じゃ、問題な」

 

グレンはチョークで、黒板の呪文の説を切った。

 

《雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》

 

「さて、これを唱えると何が起こる?」

 

沈黙。

 

結果など分かりきっているのに、なぜそんなことを聞くのかという沈黙だ。

 

「詠唱条件は……そうだな。速度二十四、音程三階半、テンション五十、初期マナ・バイオリズムはニュートラル状態……まぁ、最も基本的な唱え方で勘弁してやるか。さ、誰かわかるやつは?」

 

今だ、沈黙。

 

優等生で知られるシスティーナも、額に脂汗を浮かべて悔しそうに押し黙る。

 

「これは酷い。まさか全滅か?」

「そんなこと言ったって、そんな所で節を区切った呪文なんかあるはずありませんわ!」

 

クラスの一人、茶髪にツインテールの少女───ウェンディがたまらず声を張り上げ、机を叩きながら立ち上がる。

 

「ぎゃーはははははッ!?ちょ、お前マジで言ってんのかはははははっ!」

「その呪文はマトモに起動しませんよ。必ず、なんらかの形で失敗しますね」

 

嘲笑が腹立たしかったのか、システィーナに次ぐ優等生であるギイブルが、眼鏡を押し上げながら負けじと応戦する。

 

「必ずなんらかの形で失敗します、だってよ!?ぷぎゃーははははははっ!」

「な─────」

「あのなぁ、あえて完成された呪文を違えてんだから失敗するのは当たり前だろ!?俺が聞いてんのは、その失敗がどういう形で現れるのかって話だよ?」

「何が起きるかなんてわかるわけありませんわ!結果はランダムです!」

 

ウェンディがギイブルに続き、吠え立てるが────

 

「ラ ン ダ ム!?お、お前、このクソ簡単な術式捕まえて、ここまで詳細な条件を与えられておいて、ランダム!?お前ら、この術究めたんじゃないの!?俺の腹の皮をよじり殺す気かぎゃはははははははははっ!やめて苦しい助けてママ!」

 

ひたすら笑い続けるグレンに、クラスの苛立ちは最高潮。

 

「もういい。答えは右に曲がる、だ」

 

ひとしきり笑い倒したグレンは、ふと冷静な顔になり、呪文を詠唱する。

 

「《雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》」

 

グレンの宣言通り、狙った場所に直進するはずの雷は、大きく弧を描くように曲がり、壁に直撃した。

 

「さらにだな……」

 

《雷・精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》

 

さらにチョークで節を切り、グレンは生徒達の、正しくは最前列のルイスの方を見る。

 

そして、

 

「ルイス、答えてみろ」

 

急にそんなことを言った。

 

驚く生徒達。

 

近くの席のシスティーナとルミアは、これでもかとばかりに目を開き、ルイスを見る。

 

「射程が三分の一くらいになる」

 

しかし、生徒達の予想に反し、ルイスはさも当然のように答える。

 

そして、結果は正解。

 

本来の射程の、三分の一ほどの距離しか飛ばなかった。

 

「で、こんなことをすると……」

 

《雷精よ・紫電 以て・撃ち倒せ》

 

今度は節を戻し、呪文の一部を消す。

 

「ルイス」

「出力がかなり落ちる」

 

グレンはいきなり生徒に向けて呪文を撃った。

 

だが、撃たれた生徒は、目を白黒させるだけだ。

 

「さすがだな、ルイス。ま、究めたっつーなら、これくらいはできねーとな?」

 

指先でチョークをくるくる回転させ、見事なまでのドヤ顔のグレンと、いきなり話振りやがってと不満気なルイス。

 

グレンは腹立たしいことこの上ないが、誰も何も言えない。

 

このグレンという三流魔術師と、同年齢のクラスメイトであるはずのルイスには、術式や呪文について、自分達には見えていない何が見えているからだ。

 

「そもそもさ。お前ら、なんでこんな意味不明な本を覚えて、変な言葉を口にしただけで不思議な現象が起こるかわかってんの?だって、常識で考えておかしいだろ?」

「そ、それは、術式が世界の法則に干渉して────」

 

ほぼ脊髄反射で出たギイブルの発言を、グレンは即座に拾う。

 

「とか言うんだろ?わかってる。じゃ、魔術式ってなんだ?式ってのら人が理解できる、人が作った言葉や数式の羅列なんだぜ?魔術式が仮に世界の法則に干渉するとして、なんでそんなもの、が世界の法則に干渉できるんだ?おまけになんでそれを覚えなきゃいけないんだ?で、魔術式みたいな一見なんの関係もない呪文を唱えただけで魔術が起動するのはなんでだ?おかしいと思ったことはねーのか?ま、ねーんだろうな。それがこの世界の当たり前だからな」

 

まさに、グレンの指摘通り。

 

魔術式を覚えれば、魔術が発動する。

 

これがこの世界の当たり前であり、その理屈については誰も考えたことなどなかった。

 

だからこそ、生徒達は今まで魔術式を覚えるのに必死で、根本的な部分については二の次だったのだ。

 

「つーわけで、今日、俺はお前らに、【ショック・ボルト】の呪文を教材にした術式構造と呪文のド基礎を教えてやるよ。ま、興味ないやつは寝てな」

 

しかし、まだ見ぬ知識を目の前に、欠片でも眠気を抱く者は、一人もいなかった。




うー、疲れました……

今回は専門用語が多かったので、打つの大変でした

あともう一話くらいで戦闘シーンに入れるので、自分でも楽しみです

やっぱり、日常会話を書くのも好きですけど、戦闘シーンはそれとは違う面白さがありますからね

では、次回もよろしくお願い致します!

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