ロクでなし魔術講師と無限の剣製   作:雪希絵

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どうも皆様

絶賛風邪引き中の雪希絵です

おかげ様で時間が出来て更新できますけども

突然ですが、この作品の更新日についてお知らせがございます

やっぱり期間を決めた方がいいだろうと思いまして、この作品の場合は『毎週水曜日』に更新することにしたいと思います

作者の都合でズレることもあるかと思いますが、極力そういうことはないように気をつけます

よろしくお願い致します


決闘とその後

翌日も、グレンは態度を改めなかった。

 

だんだんと自習の文字すら書かなくなり、授業中は常に寝ている。

 

生徒もそれが分かっているため、仕方なくそれぞれ自習をする。

 

寝ているグレンをルイスが叩き起したりもしたが、それでも寝る。

 

そして、そんなグレンに、とうとうシスティーナの堪忍袋の緒が切れた。

 

「シ、システィ!だめ!早く先生に謝って、手袋を拾って!」

 

ルミアの切羽詰まった声で、ルイスの意識の集中は途切れた。

 

普通のクラスメイトなら舌打ちしたくなるが、ルミアなので許すこととし、そちらを見る。

 

ルミアの隣に立つシスティーナの前に、グレンが立っている。

 

その足元には、システィーナの身につけていた手袋が転がっていた。

 

(……やばいな。やらかした)

 

正直、ルイスはいつこうなるかと警戒していたのだ。

 

しかし、ルイスが別のことに集中しているうちに、システィーナは行動を起こしてしまった。

 

(いざとなったら止めに入ろうと思ってたのに……)

 

こうなっては恐らく止まらない。

 

魔術師が左手につけた手袋を相手に投げつけるのは、宣戦布告の証。

 

魔術師とは世界の法則を究めた強大な力を持つ者達だ。

 

学園の生徒ならまだマシだが、それこそ帝国最強の魔術師集団『帝国宮廷魔導師団』クラスになると、ただの私闘で国が滅ぶ。

 

そのため、魔術師が互いの軋轢を解決するために、争い方に一つの規律を敷いた。

 

心臓に近く、魔術を扱うことに適した左手につけた手袋を投げつけ、相手がそれを拾えば決闘成立。

 

拾わない場合は決闘は成立しない。

 

決闘のルールは受けた側が決め、勝った方が相手に自分の要求を通す。

 

こうすることで、天と地ほどの差がない限りは誰もが決闘を申し込むことをためらうようになった。

 

だが、これはあくまでも古来よりの話で、法整備が行われた現代では形骸化されている。

 

わざわざ決闘なんて申し込むくらいなら、弁護士を雇って法廷で戦った方がいい。

 

しかし、それでも古き伝統を愛し守る生粋の魔術師達の間では、未だに決闘は行われ続けている。

 

例えば────魔術の名門フィーベル家の令嬢、システィーナのように。

 

ルミアの必死の叫びもあっけなく無視され、システィーナは烈火のような視線でグレンを見続ける。

 

「……お前、何が望みだ?」

 

その視線を受け、グレンが静かに問う。

 

「その野放図な態度を改め、真面目に授業を行ってください」

「……辞表を書け、じゃないのか?」

「もし、貴方が本当に講師を辞めたいなら、そんな要求に意味はありません」

「あっそ、そりゃ残念。だが、お前が俺に要求する以上、俺だってお前になんでも要求していいってこと、失念してねーか?」

「承知の上です」

 

途端に、グレンが苦虫を噛み潰したような、呆れたような表情になる。

 

「……お前、馬鹿だろ。嫁入り前の生娘が何言ってんだ?親御さんが泣くぞ?」

「それでも、私は魔術の名門フィーベル家の次期当主として、貴方のような魔術おとしめる輩を看過することはできません!」

「あ、熱い……熱過ぎるよ、お前……だめだ……溶ける」

 

グレンはうんざりしたように頭を押さえてよろめいた。

 

そして、手袋を一瞥し、

 

「やーれやれ。こんなカビの生えた古臭い儀礼を吹っかけてくる骨董品がいまだに生き残ってるなんてな……いいぜ?」

 

言いながら手袋を拾い上げ、それを頭上へと放り投げる。

 

「その決闘、受けてやるよ」

 

そして、眼前に落ちてくる手袋を恰好良くつかみ取ろうとして─────失敗。

 

というか、ルイスが投擲で思いっきり軌道を逸らした。

 

「オイィィ!!ルイス、てめぇ!」

「すまん、つい魔が差した」

「それで許されると思ってんの!?ふざけんなクッソ……」

 

グレンは舌打ちし、気まずそうに手袋を拾い直した。

 

「ただし、流石にお前みたいなガキに怪我させんのは気が引けるんでね。この決闘は【ショック・ボルト】の呪文のみで決着をつけるものとする。それ以外の手段は全面禁止だ。いいな?」

「決闘のルールを決めるのは、受理側に優先権があります。是非もありません」

「で、だ。俺がお前に勝ったら……そうだな?」

 

グレンはシスティーナを頭の天辺からつま先まで、舐め回すように見つめる。

 

そして、顔を近づけ、にやりと口の端を釣り上げて粗野な笑みを見せた。

 

「よく見たら、お前、かなりの上玉だな、よーし、俺が勝ったらお前、俺の女になれ」

「───っ!」

 

その一瞬。

 

ほんの一瞬だけ、システィーナが慄いた。

 

直後、

 

「ぶっ───!?」

 

グレンの顔に教科書が直撃した。

 

生徒はやれやれという呆れ顔で、グレンは痛みによる涙目で犯人の方を見……戦慄した。

 

「────オイコラ、グレン。冗談でも言っていいことと悪いことがあるよなぁ……?」

 

そこに居たのは、一人の修羅。

 

顔こそ普段と変化はないが、纏っているオーラがあまりにも違う。

 

それこそ、気が弱い者なら見ただけで気絶しそうな恐ろしい形相だった。

 

「ひ、ひぃ!?す、すんませんした!!撤回します、撤回!!」

 

年下の少年に平謝りするという情けない様を披露したところで、ルイスの機嫌が治り、全員がほっと息をつく。

 

仕切り直すように咳払いをし、グレンがシスティーナに向き直る。

 

「ガキにゃ興味ねーよ。だから俺の要求は、俺に対する説教禁止、だ。安心したろ?」

「ば……馬鹿にして!?」

 

一方、からかわれたシスティーナの方は穏やかな心情ではいられない。

 

「ほら、さっさと中庭に行くぞ?」

 

しかし、グレンは適当にいなし、教室を出ていく。

 

「ま、待ちなさいよッ!もう貴方だけは絶対許さないんだから!」

 

 

─────────────────────

 

結果から述べるとしよう。

 

グレンの惨敗である。

 

それもそのはず、グレンには『一節詠唱』ができない。

 

『雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ』。

 

ショック・ボルトの呪文だが、略式詠唱のセンスに長けた者なら、『雷精の紫電よ』の一節で使うことができる。

 

だが、一般的に男性は略式詠唱に、女性は魔力容量(キャパシティ)に優れるというが、グレンにはそれが致命的にない。

 

よって、彼には三節詠唱しか出来ないが、システィーナには一節詠唱ができる。

 

この段階で、勝負の結果は明確だ。

 

そして、決闘の後。

 

「はーい、授業始めまーす」

 

いつも通り、大幅に遅刻してきたグレン。

 

いつも通り、死んだ魚のような目で授業をするグレン。

 

ようは、何も変わらなかった。

 

だが、それで終わるだけならまだ良かった。

 

「魔術って……そんなに偉大で崇高なもんかね?」

 

グレンのその一言から、システィーナとグレンは大喧嘩。

 

システィーナはグレンの頬をビンタして、教室を出ていってしまった。

 

呆然とそれを見つめるグレンと生徒たち。

 

そんな中、まるで独り言のような大きさで、グレンがつぶやく。

 

「なぁ……ルイス」

「あ?」

「俺、ガキみたいだったか?」

「ああ、クソダサかったぞ。ガキみたいにな」

「だよな……。あー、だるいから今日は自習にするわ」

 

そう言い、グレンは教室を出た。

 

それ以降、グレンが授業に姿を表すことはなかった。

 

やがて、授業終了の時間になると、ルイスは席を立ち、ルミアの元へ。

 

「ルミア、ちょっと行ってくる」

「うん、いってらっしゃい」

 

全部分かってるよ、とでも言いたげに、ルミアは微笑む。

 

そんなルミアに頷くことで返し、ルイスは教室を出た。

 

学院内を走り、あたりを見回す。

 

数分後、目的の人物を見つけ、声をかける。

 

「システィ」

「!? ルイス……?」

「おう。探しに来たぜ」

 

空き教室の中、システィーナが体操座りで俯いていた。

 

「……で、平気か?」

「な、何よ、急に……」

「何よも何もねーよ」

 

髪をかきながら、ルイスがさも当然のように言う。

 

「よく知ってんだよ。なんならルミア以上にな。お前が魔術をどれだけ大事に思ってるか。おじいさんとの約束をどれだけ大事に思ってるか」

 

ルイスはルミアよりも、システィーナとの付き合いが長い。

 

もちろん、生きていた頃のシスティーナの祖父と会ったこともある。

 

「…………」

 

システィーナは黙って、ルイスを見つめる。

 

その空色の目は、システィーナの泣き顔を皮肉なほど綺麗に写していた。

 

「でも、わかった上であえて言うよ。俺が言うのもなんだが……あいつを許してやってくれ」

「えっ……?」

「あいつは別に、システィの夢や、システィのじいさんを貶めたかったわけじゃない。あいつは単純に、魔術の闇を見過ぎただけだ」

「えっ……?そ、それってどういう……」

 

苦々しそうな顔でそう言うルイスに、システィーナは問う。

 

「……今のは気にしなくていい。けど、グレンがシスティの夢のことまで馬鹿にしたわけじゃないのは、本当だ。だから、許してやってほしい」

 

そう言って、ルイスは頭を下げる。

 

当たりはキツイし、すぐに殴るが、ルイスは兄弟弟子であるグレンを誇りに思っているし、大切にも思っている。

 

だからこそ、こうしてシスティーナの元に来たのだ。

 

「……わかったわ。ルイスがそこまで言うなら、信じる」

「……システィ。ありがとな」

「べ、別にあいつを信じるって言ったんじゃなくて、あくまでもルイスの言う事を信じるってだけだからね!」

「はいはい」

 

顔を赤くして否定するシスティーナに、思わず頬を綻ばせるルイス。

 

「それじゃ、教室に戻ろう。ちょうど教えてほしいところがあるんだよ」

「はぁ、仕方ないわね。どこ?」

 

たわいもない話をしながら、二人は空き教室を出た。




アニメのOP、ようやく見れましたね

しかし、まさかあいつがいるとは……

ということは、アニメは5巻くらいまでやるんでしょうか

一クールじゃ絶対収まらないと思いますけどね……

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